遊戯王GX~精霊の抱擁~ 作:ノウレッジ@元にじファン勢遊戯王書き民
鋼鉄の魔導騎士-ギルティギア・フリード(融合・効果モンスター)
星8
光属性/戦士族
ATK 2700/DEF 1600
属性が異なる戦士族モンスター×2
(1):1ターンに1度、このカードを対象とする魔法・罠・モンスターの効果が発動した時に発動できる。
その効果を無効にし、フィールドのカード1枚を選んで破壊する。
(2):フィールドのモンスターのみを素材として融合召喚したこのカードは1度のバトルフェイズ中に2回攻撃できる。
(3):1ターンに1度、このカードが相手モンスターと戦闘を行うダメージ計算時に、自分の墓地から魔法カード1枚を除外して発動できる。
このカードの攻撃力はターン終了時まで、このカードの守備力の半分アップする。
桜「戦士族の融合モンスターだ、素材の縛りは緩いから相手モンスターを巻き込んで融合も出来るぞ」
ポーラ「……フィールドのモンスターを素材にすれば、2回攻撃できる。……可能なら積極的に狙いたい」
桜「魔法カードの除外コストは『融合』や『増援』で賄えるだろう。ちなみに参照するのは元々の守備力では無いから、増減の影響を受ける点には注意だ」
SIDE:無し
「バトル! 私の『デビル・ドーザー』で『炎霊神パイロレクス』を、ツァンの『紫炎』で『ラヴァルバル・チェイン』を攻撃! そして麗華の『連弾の魔術師』でダイレクトアタック!」
「ぐ、ぁあああああああああああああああああっ!」
雪乃:LP 2000
ツァン:LP 4000
麗華:LP 3500
黎:LP 0
昼のデュエルアカデミアの屋上。日当たりも良く、兎に角だだっ広い。出入り自由のくせに手摺りなどは無いが、そもそも利用する人物などサボるか昼寝のために来ている奴くらいなので、余り問題は無かったりする。
そしてそこで今、一つのデュエルに決着がついた。
雪乃・ツァン・麗華:WIN
黎:LOSE
デュエルをしていたのは黎と、腕利きのブルー女子3名。結果は黎の大敗で終わっていた。
「ぐ……っ! ライフを削る事すら叶わずかよ……!」
そう、黎はこのデュエルで3人のライフを1も削る事ができなかったのだ。雪乃のライフが減っているのは『デミス』の効果発動のために支払ったライフコスト、麗華は『火炎地獄』で自分から受けたダメージだ。
(くっそ……、何なんだ、“闇を見る”ってのは! 普通のデュエルで見えるものなのか? それとも何かの比喩的表現なのか!?)
精霊の世界で『ジョーカー』に敗北した後、黎は自分のデュエルを見失っていた。思うようにプレイングができなくなり、次の自分の一手に自信が持てない。伏せカードを警戒するべきか否か、このモンスターをここで召喚するべきか。全てが分からないのだ。
「黎の坊や、大丈夫? 何時もの貴方らしくないプレイングだったけど……」
「何か不調? 相談くらいなら乗れるよ? 流石に君がそんなんだと調子が狂うよ」
「いつも満点のデュエルをする黎さんらしく無いですよ、何かあったのですか?」
そんな心配に対し、黎は空元気と空笑いしか返せなかった。
「悪いな、ちょっと思うトコがあってな……」
顔洗って来る。そう言って黎は階段を下って行った。
彼が立ち去ると同時に物陰からゾロゾロと黎の仲間達が現れる。
「おいおい、あいつは一体どうしちまったんだ? 何時もの覇気が無いぞ」
「らしくも無いプレミばっかりだったッス」
最初に開口したのはいつの間にか彼と和解していたサンダーこと万丈目準。同じく心配するのは十代の弟分である翔だ。
他の皆も口を揃え、あの心優しい鬼の事を心配している。
「ねぇ、皆。実はね……」
そんな中、フィオが神妙な顔で、重い口をゆっくりと開いた。
「昨日、黎がデュエルして、それで……」
時と場所は変わってその日最後の授業、試験会場に使われる体育館兼デュエルフィールド。先日の交流試合を始めとして、大きな少人数デュエルをする時はデュエルリング。そして今回のようにそれ以外の大人数デュエルでは主にここが使われる。
その中で、数名のブルー同士でデュエルが行われていた。この日の最後の授業は、寮ごとに行われる実技の小テストだった。
さて、ブルーと言えば成績優秀者の集まりであり、かつ他の寮を見下している連中ばかりで有名。成績がブルーの全て、ブルーに所属しているが故にレッドやイエローを見下せるのだ。裏を返せば落第してしまえば面汚し扱いされ、村八分となって追放される。それこそがエリートがエリートであるが故に持つ特権にして規律。
もっとも、その風潮も暫く前のもの。今ではブルーもただ単に成績が良いというだけの括りになっており、他を蔑む事も少なくなり始めている。そしてそれを良しとしない者がいた。
「田中ぁ! テメェの命運もここで尽きたな!」
「高田……、キミは敗北フラグというのを知っているかい?」
そう、高田純二朗である。元々差別意識とエリートへの憧れが強い高田にとって、侮蔑の風習とは強い味方だった。この風習が有るからこそ彼はブルーの中でも相応の立ち位置が持てるわけで、無くなる事は彼がただの高慢なだけのいけ好かない男になる。そんなのは彼は御免だった。故にこの差別意識が無くなる事を拒み、抵抗している。
一方で差別意識が無くなる事を喜ぶ者もいた。それが高田とデュエルしている男、田中康彦である。中等部よりレッドから懸命になって実力でのし上がった彼は、高等部に上がると同時に漸く念願のブルーになれた。故に彼は蔑まれる事の悔しさや悲しさを知っていた。だからこそ、この忌むべき因習をどうにかしたいと思っていたのだ。
この相反する考え方を持った2人は中等部で初めて会った時から仲が悪かった。虫が好かないと言うべきか、遺伝子レベルで相性が悪い。
「ケッ、テメェのライフはたったの100! そんな吹けば飛ぶようなライフで何ができるってんだ!」
「100も残ってるんだ。そんな勝利宣言を決着前にかましてくれて、負けたら赤っ恥だぞ」
この授業、レッドやイエローも観戦している。
そんな中で負ければブルーの恥晒し。更に1年とは言え差別肯定と否定派の筆頭ともなれば、その派閥の存続にも関わって来るレベルだ。
康彦:LP 100
手札:2枚
フィールド
:モンスター無し
:魔法・罠無し
高田:LP 4000
手札:0枚
フィールド
:グリズリーマザー(ATK 5400)、共鳴虫(ATK 1200)、UFOタートル(ATK 1400)、シャインエンジェル(ATK 1400)、ジャイアントウィルス(DEF 100)
:スピリット・バリア(永続罠)、団結の力(装備魔法・『グリズリーマザー』に装備)
「さあ、俺のターンだ、ドロー!」
康彦がここまで追い詰められたが、まだ決着となってはいない。
まさか『ミラーフォース』でこちらのモンスターを残らず吹き飛ばされるとは思わなかった。だが辛うじて前のターンに伏せておいた『スケープ・ゴート』で攻撃を耐えきった、ここで逆転すれば人気も熱狂も康彦に向かうだろう。
「『強欲な壺』を発動、更に2枚ドロー! そして手札から『サイクロン』を発動! お前の『スピリット・バリア』を破壊する!」
「何ぃ!?」
吹き荒ぶ突風によって、高田の守りの要が消滅する。これでデュエル開始時からずっとライフを削れなかった防壁を除去できた。
「魔法カード『死者蘇生』! 蘇れ、『ゴブリン突撃部隊』!」
「今更そんなクソ雑魚モンスターに何ができる!」
「まだだ! 『E・HERO ブレイズマン』を召喚!」
「え、エレメンタルヒーローだと!?」
ゴブリン突撃部隊:ATK 2300
E・HERO ブレイズマン:ATK 1200
康彦のフィールドに、金棒を持った3人のゴブリン兵と燃える拳のヒーローが現れる。
前者はただのやられ役だが、後者はその炎のエナジーをプレイヤーのデッキに与え、カード1枚を光らせた。
「『ブレイズマン』は召喚した時、デッキから『融合』を手札に加える事ができる」
「テメェ……、ブルーのくせにE・HEROなんて使うのか! そいつぁレッドの反乱分子のカードだぞ! ブルーとしての誇りはネェのか!」
「ヒーローは彼の特権じゃない! そしてレッドやイエローからレアカードを巻き上げてる派閥の奴に言われたくもないな!」
「ナマ言いやがって……、エリートがクズをどうしようが自由だろうが!」
「ならお前もそのクズに仲間入りしてしまえ! 魔法カード『融合』発動! フィールドの地属性『ゴブリン突撃部隊』と炎属性『ブレイズマン』を融合! 現れろ、『鋼鉄の魔導騎士-ギルティギア・フリード』!」
『ハァァァァァ、トァアアッ!』
鋼鉄の魔導騎士-ギルティギア・フリード:ATK 2700
やられ役と炎の英雄が神秘の渦に呑まれ、新たな姿に変わる。
スラリとした頭身、紫色の外套と鎧、そして分厚い刃のハルバード。それらを備えた新たな戦士が、高田の前に降り立った。
「な、何だこのモンスターは……!」
「こいつは黎が俺に分けてくれた新たなモンスターだ。デッキのモンスターを戦士族に寄せて、『ブレイズマン』と『融合』を投入する事で使いやすくしたニューフェイスさ」
「テメェ……ッ! あのクソに、化物なんかに手助けされて人として恥ずかしくねぇのか!」
「お前らと同類になるよりマシだ! 俺は『ギルティギア・フリード』で『UFOタートル』を攻撃! この瞬間、モンスター効果発動! 『ギルティギア・フリード』はバトルの時、墓地の魔法カードを1枚除外して守備力の半分、攻撃力がアップする!」
鋼鉄の魔導騎士-ギルティギア・フリード:ATK 2700→3500
「攻撃力3500だと!?」
「行け、“ソウルブレード”!」
「ぐぉっ!」
高田:LP 4000→1900
墓地から『サイクロン』が除外され、鋭利なハルバートに魔力が宿って切れ味が増す。
そして鋼の騎士の鋭い斬撃により、UFOを背負った亀を両断された。その衝撃は後ろに控えているプレイヤーまで伝わり、ライフを大幅に削り取った。
「だが『UFOタートル』が破壊された時、デッキから攻撃力1500以下の炎属性モンスターを特殊召喚する! 来い、『UFOタートル』!」
UFOタートル:ATK 1400
高田も負けじと真っ二つになった亀をリニューアルして場に呼び戻す。
これで『グリズリーマザー』の攻撃力は5400をキープ、次のターンで確実にトドメを刺せる。それで終わりだ。
そう確信した。だが。
「『ギルティギア・フリード』はフィールドのモンスターだけを融合素材にした場合、2回攻撃できる!」
「なっ!?」
鋼鉄の魔導騎士-ギルティギア・フリード(融合・効果モンスター)
星8
光属性/戦士族
ATK 2700/DEF 1600
属性が異なる戦士族モンスター×2
(1):1ターンに1度、このカードを対象とする魔法・罠・モンスターの効果が発動した時に発動できる。
その効果を無効にし、フィールドのカード1枚を選んで破壊する。
(2):フィールドのモンスターのみを素材として融合召喚したこのカードは1度のバトルフェイズ中に2回攻撃できる。
(3):1ターンに1度、このカードが相手モンスターと戦闘を行うダメージ計算時に、自分の墓地から魔法カード1枚を除外して発動できる。
このカードの攻撃力はターン終了時まで、このカードの守備力の半分アップする。
攻撃を終えた筈の鋼の騎士は、再び武器に魔力を充填する。倒して次が現れる形で補充された未確認飛行物体から生えた亀を狙い、重厚なハルバートを再び振るのであった。
「もう1度『UFOタートル』を攻撃! “ソウルブレード・アゲイン”!」
「ば、バカな……、この俺様が、レッドやイエローの肩を持つ面汚しに負けるってのか……! ギャアアアアアアアアアア!」
高田:LP 1900→0
康彦:WIN
高田:LOSE
「そこまで! 勝者、シニョール田中ナノーネ!」
『キャー! 田中くーん!』
『カッコイー!』
『よくやったぞ、康彦ぉー!』
『ナイスデュエルだ!』
「ふぅ……。言ったろ、勝つ前にそんな事言うと恥掻くってな」
「ち、ちくしょおおおおおおおおおおおおおおおっ!」
派閥争い、勝負あり。反転して攻勢に転じるより早く、鋼の刃が再び斬撃を放って決着を付けたのであった。
激戦を何とか勝利した事で、康彦は歓声の中で一先ず安堵する。一方であれだけ大言壮語したにも関わらずに負けた高田には非難と侮蔑の視線と言葉が投げかけられた。
――あいつまーた負けたぞ。何度負ければ気が済むんだろうな。
――もうダメだな、高田は。
――散々田中の事を面汚しだ何だって言いながら、結局はあいつがそうだったんだな。
襲い掛かる罵倒と言う音の無いブーイング。労いの言葉は一つも無い。酷かも知れないが、これが高田の望んだ階級制度による差別社会だ。そこから生まれるデメリットは、他でも無い願った自分自身で背負わなくてはならないのである。
膝をついて敗北の悔しさを唇を噛んで堪えていると、そこに審判を務めたクロノス教諭が歩み寄って来た。
「クロノス、先生……」
同じ思想を持つ者同士、優しい言葉をかけてくれるのかと思いきや、返って来たのは非情な言葉だった。
「シニョール高田、貴方はこれまでの小テストや実技テストにおいて、ほぼ全てが赤点ナノーネ。もし次のテストもまた平均点以下の場合、成績不振としてイエロー寮に落第となってしまうか~ラ、気を付けるノーネ」
「な!?」
高田は勉強が極めて苦手だ(逆に康彦はできる。ここも折り合いの悪い原因の1つだろう)。
しかもここ最近の実技の小テストでは人数合わせなどの影響で対戦相手は全てレッド(実は十代)やイエロー(実は大地)、ブルー女子(実は明日香)とのデュエルであり、全てにおいて敗北している。
ブルーは成績優秀者の集まり。落第生を抱え込んではくれない。何より数合わせとは言え、ブルー同士でのデュエルで無い事が、彼の実力の低さを如実に物語っている。
同じ思想を持つクロノス教諭もまた、格下の寮生や落第には厳しい。これもまた、彼が望んだ学園生活によって生まれるデメリットだった。
――落第目前だってよ、ダッセェ。
――当然だな。この間、あいつテストの点数一桁だったぞ。
――マジかよ……。あれレッドの普段寝てる奴でも15点だったらしいぞ?
――ああ、遊城とかいう奴? うわ、情けねぇ。
――マジ面汚しだな。とっとと降格しちまえば良いのに。
自分に向けられる侮蔑の嵐は、止まる事を知らない。やがて耐えきれなくなり、気付けば彼は、大粒の涙を零していた。
繰り返すが、この彼の心を突き刺す蔑視は彼自身が望んだ世界の産物。彼がこれを避ける事は許されない。
そして小テストも終わりに近付いて来た。
「クズレッドめ……。あいつみたいなのがいるせいで、妙な風習がブルーにまで広がっちまったじゃねぇか……!」
観客席で目の周りを赤くしながら、高田が毒を吐く。レッド生の順番となった小テスト、そこでは黎が(クロノス先生の陰謀で)ブルー生とデュエルをしていた。この対戦相手のブルーもまた、高田同様に差別肯定派である。
黎:LP 300
手札:4枚
フィールド
:モンスター無し
:魔法・罠無し
ブルー生:LP 4000
手札:2枚
フィールド
:モザイク・マンティコア(ATK 2800)、デビルゾア(ATK 2600)、偉大魔獣ガーゼット(ATK 5200)
:レアゴールド・アーマー(装備魔法・『偉大魔獣ガーゼット』に装備)
このブルー生のデッキはシンプルなハイパワーモンスターの力押しタイプ。本来の黎ならば、戦略もへったくれも無いこの程度の相手など容易く倒せるものの、不調を患っている彼には十分な強敵となっていた。
ブルーは『デビルゾア』をリリースして『ガーゼット』を召喚。更に『死者蘇生』で『デビルゾア』が蘇り、『二重召喚』で前のターンからフィールドにいた『ゴブリン突撃部隊』と『ブラッド・ヴォルス』をリリースして『モザイク・マンティコア』を召喚される。
デビルゾア(通常モンスター)
星7
闇属性/悪魔族
ATK 2600/DEF 1900
真の力をメタル化によって発揮すると言われているモンスター。
偉大魔獣ガーゼット(効果モンスター)
星6
闇属性/悪魔族
ATK 0/DEF 0
このカードの攻撃力は、生け贄召喚時に生け贄に捧げたモンスター1体の元々の攻撃力を倍にした数値になる。
二重召喚
【通常魔法】
このターン自分は通常召喚を2回まで行う事ができる。
次のターンになれば、『モザイク・マンティコア』の効果でリリースされた2体が復活。しかも彼の手札には『ターレット・ウォリアー』と『フロストザウルス』がいる。このターンは『キラー・トマト』の効果で辛うじて凌ぎ切られたものの、次のターンが回って来ればブルー生には確実に黎を仕留められるだけの自信があった。
モザイク・マンティコア(効果モンスター)
星8
地属性/獣族
ATK 2800/DEF 2500
このカードが生け贄召喚に成功した場合、次の自分ターンのスタンバイフェイズ時に、このカードの生け贄召喚に使用した墓地に存在するモンスターを自分フィールド上に特殊召喚する。
この効果で特殊召喚されたモンスターは攻撃宣言をする事ができない。
この方法で特殊召喚されたモンスターのモンスター効果は無効化される。
そして、シーンは黎の最後となるターンから始まる。
「俺のターン、ドロー……。俺は墓地から、光属性の『ライトロード・ハンター ライコウ』、闇属性の『キラー・トマト』2体を除外し、『混源龍レヴィオニア』を特殊召喚する……」
『ギィイイイイイイイイ!』
混源龍レヴィオニア:ATK 3000
「こ、攻撃力3000だと!?」
「効果発動、相手のカードを2枚まで破壊する。俺は……、『モザイク・マンティコア』と『デビルゾア』を……破壊する」
「くっ!」
混源龍レヴィオニア(特殊召喚・効果モンスター)
星8
闇属性/ドラゴン族
ATK 3000/DEF 0
このカードは通常召喚できない。
自分の墓地から光・闇属性モンスターを合計3体除外した場合に特殊召喚できる。
このカード名の効果は1ターンに1度しか使用できない。
(1):この方法でこのカードが特殊召喚に成功した時に発動できる。
その特殊召喚のために除外したモンスターの属性によって以下の効果を適用する。
このターン、このカードは攻撃できない。
●光のみ:自分の墓地からモンスター1体を選んで守備表示で特殊召喚する。
●闇のみ:相手の手札をランダムに1枚選んでデッキに戻す。
●光と闇:フィールドのカードを2枚まで選んで破壊する。
黎の場に影の塊が現れる。影はその姿を白い鱗の巨龍へと変じて行き、やがて緑のエネルギーパイプが走る悪魔にも神にも見えるドラゴンが降臨し、緑のエネルギー波でモンスターを2体吹き飛ばした。
「クソッ、だがまだこっちには『ガーゼット』がいる! 攻撃力は5200、テメェのモンスター如き足元にも及ばねぇ!」
「フィールドのカードが効果で破壊された時、『カオス・ネフティス』を特殊召喚……」
『キヒョオオ!』
カオス・ネフティス:ATK 2400
「たかが攻撃力2400で……!」
「そして『ガーゼット』と、墓地の『ゴブリン突撃部隊』、『デビルゾア』を除外する……」
「ンだと!?」
カオス・ネフティス(特殊召喚・効果モンスター)
星8
闇属性/鳥獣族
ATK 2400/DEF 1600
このカードは通常召喚できず、このカードの効果でのみ特殊召喚できる。
このカード名の(1)の効果は1ターンに1度しか使用できない。
(1):このカードが手札・墓地に存在し、フィールドのカードが効果で破壊された場合、自分の墓地から「カオス・ネフティス」以外の光属性と闇属性のモンスターを1体ずつ除外して発動できる。
このカードを特殊召喚する。
(2):このカードが特殊召喚に成功した場合、相手フィールドのカード1枚と相手の墓地のカード2枚を対象として発動できる。
そのカードを除外する。
続けて黎が繰り出したのは青とピンクの炎を金色の装甲でまとめて鳥型にした魔獣。墓地から『ワイバースター』と『コラプサーペント』が取り除かれると同時、青い炎が相手の場と墓地を焼き払い更にカードを取り払った。
「莫迦な、こんな事が……!」
「効果を使ったターン、『レヴィオニア』は攻撃できない」
「な、何だよ驚かせやがって……。なら次のターンで……」
「……『レヴィオニア』をリリースし、『ダウンビート』を発動。デッキからレベル7・闇属性・ドラゴン族モンスターを特殊召喚する。『パンデミック・ドラゴン』を選択」
『キュアアアアアン!』
パンデミック・ドラゴン:ATK 2500
「あ、あぁあぁぁああああっ!?」
「2体で……、ダイレクトアタック」
「ぐばぁぁぁぁぁあああああああああああああああああっ!」
灼熱の炎が怪鳥と巨竜から放たれ、ブルー生徒を直撃する。2色の火炎放射は大地に生きる全ての命を蹂躙し、ライフが無くなった事を告げるブザーが鳴るまで男子生徒を火達磨にし続ける。
ソリッドヴィジョンで良かったと、後に少年は恐怖を述懐するのであった。
ブルー生:LP 4000→1600→0
黎:WIN
ブルー生:LOSE
SIDE:フィオ
「今日の黎、かなり危なっかしいデュエルだったんだな」
「それだけ敗北が響いているのだろう。神山君の話では自信の根拠を否定されたらしいから、恐らくそれも原因かも知れんな」
授業が終わり、放課後。黎はレッド寮の崖下で打ち寄せる波をボーッと見ている。或いは物思いに耽っているのかも知れない。ただその周囲の岩肌には、彼の拳や蹴りによる破壊の痕跡が色濃く残っている。
頭上ではわたし達がそんな彼を見守っているのだが、それに気付くだけの余裕すら黎には無いみたいだ。
「これだけの人数が集まって見ているのに気付かないとは……。心の傷は相当な物のようじゃのう」
「うわぁ、しかもメッチャ荒れてるッス……」
「それだけ黎の精神状態が不安定という事なのでしょうね」
「風紀委員として、何より友として何とかしたいの山々ですが……」
「ん……? 見ろよ、あそこに着地した時の足跡がついてやがるぜ」
「普段の彼なら、考えられないですわ。もっと衝撃を分散させるように着地する方でしたのに」
「主殿……」
「……しかも破壊の仕方も粗雑。……あれじゃあ手足を痛める」
会話文は上から順番に隼人君、三沢君、ゆりっぺ、翔君、明日香、麗華、準ことサンダー君、ももえ、桜さん、ポーラ。
皆が皆、黎の事を心配している。だが彼には自分達では想像も及ばないような凄まじい過去がある。迂闊に踏み込んでしまえば逆効果になりかねない……。
「こういう状況になると、本当に何て声をかけたら良いのか分からない自分が不甲斐ねぇ……」
「しょうがないよ。悔しいけど、僕らじゃあできる事に限度があるわ」
『クリ~……。……クリ? クリリ~!』
「あん? どうした、相棒?」
歯軋りしながら状況に悔しがる神楽坂君を慰めるツァン。そんな中、十代君が『ハネクリボー』が何かに気付いた事を知る。
その小さなフサフサな毛玉モンスターが指差す先には一人の青髪の女性が歩いていた。
『クリクリ~!』
「んー……? あれ、フレイか?」
「え、フレイ? さっきから姿が見えないと思ったら、何であんな所に!?」
そう、わたしの精霊、『勝利の導き手フレイヤ』ことフレイだ。
わたしが驚愕する中、フレイはスタスタと黎の真横に歩み寄った。
SIDE:無し
「黎さん」
「フレイか……」
堕ちたものだ、と黎は思った。普段なら誰かが近付けばすぐに気配で分かると言うのに、今は彼女が話しかけてくるまで分からなかった。一応、気配の正体は人体の発する微弱な静電気なので、精霊にそれが適応されるのかは疑問だが。
「波打ち際なんて見て、何か面白いものでも?」
「いや、特には……」
「でしたら、いつまでそうやって落ち込んでいるつもりなのです?」
その言葉は、黎の胸に深々と突き刺さった。
昨日の『ジョーカー』戦以来、自分の中に何かが欠落しているような気がしてならない。最初はあの城の力かと思ったが、体内に異物は感じられない。ならばこの感覚の正体は自分の中に元々あったもの、ずっと己が目を背けてきたものだ。
そして黎は、その感覚の正体に薄々勘付いていた。
「一度や二度の敗北、誰にだってある事です。わたくしだって生まれてこの方1万年程、無敗ではありません。それは実力をつけた後もまた同じです。ここから立ち上がって、もっと強くなりましょう――」
「なあ、フレイ。お前はさ……」
フレイのセリフをぶった切って、黎が問う。
「お前は、人を殺した事ってあるか?」
それは、黎の今もっとも彼女に聞きたかった質問だ。
自分より、否、現存するあらゆる生き物よりも長寿の彼女の人生経験の中に、この複雑な感情の解決方法があるのではないか、そう願っての事だった。
「…………ええ、ありますよ。ずっと昔に、数えるのも億劫なくらいに」
果たして、望み通りの答えが返って来た。
「ですが、それが何なのです? わたくしは戦争のあった時代を経験した身。黎さんとは勿論違う人生ですから、何か参考になるとも思えないのですが……」
「違う……。俺が聞きたいのは、殺しのスタンスとかじゃない。人にそれで憎まれた事があるかって事だ」
黎は、転生する前に人を大量に殺した経験があった。フレイの言葉を借りるのならば、『数えるのも億劫なくらいに』殺した。
目を閉じれば、前世の事で思い出すのは常に血だ。今でも時々、目の前に血溜まりがあるんじゃないかというくらいの血の臭いを錯覚しそうだった。手が血で真っ赤になってるんじゃないかと思いかけた。耳の奥には老若男女の悲鳴と断末魔が時折鳴り響き、液体を口に含めば血の味を感じた気がした。
「ちょっと、身の上話になっちまうが、聞いてくれるか? いや、聞かなくていい。一人で勝手に話すから聞き流してくれても構わない」
「…………」
「俺はな、最低で最悪の殺人鬼だったんだよ。都を守るために、何人も殺したし、何人も重い後遺症が残るレベルで傷付けた。悲鳴を聞きながら高笑いした事もあるし、不必要な残虐性を以て殺した事もある。拷問という名目で大の大人を痛めつけて涙目になるのを見て快感を覚えたし、命乞いをして手を伸ばした奴の腕を肩から蹴り砕いた事もあった。顎を引き千切った事も、正中線で真っ二つにした事も、生きてる人間の目を抉った事も、悲鳴を聞きながら生爪を剥がした事もあった。
仲間達に異世界で見せた俺の記憶なんて……本当に、俺の一部、それも比較的綺麗な部分だけ。俺達が被害者のシーンだけだったんだよ。だから皆は俺に協力してくれたんだ」
「……続けて下さい」
「俺が自分の事を化物って言うのは、何もこの体を指してだけの事じゃあ無いんだ……。俺の心には巣食っちまってるんだよ、人間を痛めつけて殺して泣かせて踏みにじって蹂躙する事に快楽を感じる、正真正銘の、救いようの無い化物が。
……汚いよな、俺って。歩やライにそれを見せたら、きっと悲鳴を上げて逃げたか俺の事を退治しに来ただろうよ。
エンヴィーと戦った時、あいつ言ってたんだ。“騙すか同情を誘って共同戦線を張ったんだろう”って。実際その通りさ。俺は皆を騙してた。
優、有栖、有里ちゃん、『シューティング・ブレイザー』、真奈ちゃん、テネブラエ、輝、歩、奈美ちゃん、ライ、アルフ、エルフィ、ラルフ、レオさん、メリオルさん、『ゴーズ』、『カイエン』、『ギアフレーム』、『ピースキーパー』、『ダーク・ヴァルキュリア』、『フレイヤ』、メイ……」
目を閉じれば、彼らの事を鮮明に思い出せる。
笑顔も、真剣な顔も。
だがそれは、いつの間にか黎自身に向けられているような錯覚がした。
「全員だ! 俺は都合の悪い事を伝えずに、あいつら全員を騙したんだ!」
「それから?」
「騙していたのはあいつらだけじゃない。このアカデミアにいる皆もだ……。卑怯だよな、俺って。でもさ、今更こんな事話したらどうなるよ? あいつら俺の事を嫌って遠ざけて行くに決まってる」
「そんな、決めつけなくても……」
「分かるんだよ、人の心の汚い部分ってのが。綺麗で清い部分ってのは人それぞれだけど、汚い部分ってのは本納や欲求に基づいてるから大体同じなんだ。異端を恐れ、排斥する。怖い物は排除し、人殺しは遠ざけ、極悪人は死を以て償わせる。それが有史以来から続く人のサガなんだ……。俺にもいずれ、そういう運命が『また』やって来る。殺した人の数だけ無残な死の罰を、それが人の世の有り方なんだよ」
だから、と黎は続けた。
「いずれ遠くない内に、俺はまた、そういった理由で絶対に死ぬ……。ポーラが言ってたのもそういう事だと思う。その時は……」
パァンッ!
黎が己の心の内側を吐露しきる前に、周囲に乾いた音が響き渡った。
そこではフレイが平手を振り切っていて、黎の頬が赤く腫れていた。
「黎さん、本当の本気でそれを言ってるのですか!?」
「今更、何言ってやがる。俺がその手の冗談を好かない事ぐらい、知ってるだろ……」
「なら余計にタチ悪いですよ! 自分の命がどれだけの重さがあるのか知らないのですか!? 貴方が死んだら悲しむ人がどれだけいると思ってるんですか!」
黎の胸倉を掴み上げて怒鳴るフレイ。
力を失った鬼は、そんな天使の言葉に乾いた笑いを返した。
「都一人、だろうな……。俺の本性を知っちまえば、誰も俺に寄り付かなくなるさ。戦隊物の悪役が死んでも誰も泣かないのと同じ事だ。元々俺の命の重さは無いも同然なんだ……」
「…………っ、救いようが無いアホですね! それなら皆さんに直接聞きましょう!」
キッ! とフレイは眉間に皺を寄せて崖上を睨む。普段温厚な彼女からは想像もできない険しい視線に、皆は思わず体を竦ませた。
「皆さん、そこから降りて来て下さい! どうせ今の話聞いていたのでしょう!? この救いようの無いおバカさんをどうにかしてあげてなさいよ!」
有無を言わせない強制力。それだけの気迫が今の彼女にはあった。
そして、黎もその時になって漸くこちらを仲間達が覗いている事を知ったのだった。
崖下に降りて来る皆を、黎は無感動な瞳で見ていた。そんな彼に、フィオが話しかける。
「黎……、わたしは……」
「下手な慰めはいらない。本音を語ってくれ。…………今更だが、俺は化物だ。お前らが想像している俺は偶像、偽物だ。沢山の人を傷つけ殺し、それを喜ぶ魔獣、モンスターなんだよ。ハハ、プライドの言葉通りさ。“生まれてきてはいけなかった”。まさにその通りだ……」
「そ、そんな事無いよ! 君はこれまで何度も私達を色々な面で助けてくれたじゃないか! 勉強も、デュエルも! 君がいたから沢山の人が救われたんだよ!」
フィオの後ろで十代達がうんうんと頷いている。
実際そうだ。彼がいたから自分達の学園生活はこんなに充実していて、楽しい。彼がいなければこの格差社会染みた学園での楽しみは半減していたかも知れない。それは否定できない、ちゃんとした事実だ。しかし彼は首を横に振った。
「それは俺の偽善の心から生まれた副産物、いや、不純物だよ」
「不純物って……」
「言い間違いじゃない。俺の本性は破壊と殺戮。それでも僅かばかりの良心があって、殺した人達に何か償えないかと考えたもんさ」
「そうして思い至ったのが、わたし達の相談に乗ったり、デュエルや勉強でのサポートだって事? 君が以前話してくれた、誰かのための善行もそうだって言うの!?」
「そうだ。……誰かを救えば罪は軽くなる、なんて不純な心でやってたんだ。考えてみりゃあ、そんなのに報いがあるワケが無い」
何時もそうだった、と彼は呟く。
火災現場に単身突っ込んで人を助けたのも、空へ飛んでいった風船を取ったのも、強盗を現行犯で捕縛したのも、不良に絡まれた人を庇ったのも、全てそういう理由だ。
共に戦った転生者達を身を呈して守ったのも同じ。死なれれば、自分が殺したように思ってしまう。だから庇った。死なれると、困るから。
せせこましい助命歎願。害した人のためでなく、自己保身の延長。
「そう、まさに自分のためだったんだよ……」
そう言うと、彼は岩へ腰を下ろし、俯いた。
「もう良いだろ……。疲れたよ、俺は」
「黎……」
「何だよ、何だって言うんだよ……。何で俺や都にばっかりこういう事が起きるんだよ。何で他の誰でも無い俺なんだよ……。もう……、戦うのも嫌になる……。止めたいよ……」
それは、彼が生まれて初めて言う、泣き言だった。
伏せた表情からは、感情は読み取れない。それでも顔から滴が次々に零れていくは誰の目にも明らかだった。彼は今、絶望に負けて泣いているのだ。
「黎……、戦うのを止める気かい……? そんなの許されるわけ無いだろう! 君が戦う事を諦めたら誰が世界の人達を、何より都ちゃんを救うんだ!」
「分かってる!」
分かっては、いた。
それでも。
「俺はよ……、どうして『ジョーカー』に勝てなかったのか、どうして今もなお不調なのか。実はとっくの昔に見当ついてるんだよ……」
「……なら、それを改善すれば良いんじゃ」
「それができねぇから困ってるんだよ! 俺が勝てなかった理由はなあ、俺の戦う理由が“守りたい”だけじゃ無いからだ!」
憎いんだ、と黎は顔を上げて、立ち上がって呟いた。
「憎い?」
「全てが憎いんだ……。心の奥底にしまった恨みと憎しみと怨念でできた炎が、未だに消えずに、衰える事も無く燃え盛っているんだよ。こんな仕打ちを俺達にする世界が、俺達を化物と駆逐する人間が、こんな体に生まれた運命が、都を守れなかった俺自身が、この身が引き裂かれそうな程に許せないんだ! 憎いんだ! ああそうさ! 希望なんて溢れてねぇよ! 捻じて狂って曲がったネガな感情、怒りや恨みだってあるんだ!」
「そんなの誰にだって……っ!」
「なら、全員これを見ろや!」
そう言って黎は髪を何束にも分けて伸ばし、全員の頭を掴んだ。
「きゃっ!?」「わ!?」「何だコレ!?」「主殿!?」「……サー、何を!?」「黎、何する気だよ!?」
そこから流れる、電流。彼の記憶の中でも特に汚いと思えるシーンを送り込む。一つとして余さず、欠片も残さずに。
そして記憶が皆の頭に流れ始めた瞬間、それは起こった。
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
「な、何だこれ!?」
「こいつは……っ!?」
「ひ、酷い……」
「黎、お前は!?」
まるで自分の記憶のように脳内で再生されるムービー。そこに溢れる血、血、血、血、血……!
死山血河、阿鼻叫喚、地獄絵図。そんな狂気の中で狂喜する黎。それは今までに皆が見た事の無かった、まさしくモンスターとしての彼だった。
気の弱い者は胃の中身を吐瀉し、強い者でも足元がふらついて上手く立てない。隣同士で肩を支えなければ、全員座り込んでいただろう。
「これが……、俺なんだよ」
人は一生の間に3つの絶望を知るという。
愛してくれる者を失う絶望、愛する者を失う絶望、愛さえいらなくなった絶望。都を失った事で、黎はその3つを一度に経験したのだった。
そしてその時彼は知った。自分はどう頑張っても幸せを掴めない。ならばもうこの憎悪の煉獄を心の中に宿し続けようと。
「俺はそんな負の想念を喰って殺してきた、生きてきた! だから俺は上辺だけ光を受け入れて来たんだ! 奥に、中に、あるドス黒い炎を光に消されたら、もう俺は戦えないから、都を助けに行けないから! 受け入れちまっても、俺は光を糧にできない! 力を失うどころか、もう闇も手に入らない!
俺に光は使えない! 闇も手に入らない! そうなっちまったら、俺は何を力にして戦えば良いんだよぉ! 答えてみろよ、何とか言ってみろよぉっ!」
闇の炎が無くなれば、それはもう遊馬崎黎では無くなってしまう。これまで殺した人々に顔向けもできない。光の宝玉を手にできなかったのは、或いはそういう理由もあるのかも知れない。
黎はどこまで行っても、闇に生きる凶悪にて凶暴、邪悪な魔獣なのだ。
「俺は化物なんだよ……、光の中じゃあ生きられないんだ……!」
力尽きたように、再び黎は岩に体重を落とす。既に彼には、戦うだけの力は、残っていなかった。
「……そっとしておいて、あげましょう」
誰かがそう言った。それを皮切りに、皆がそこから離れて行く。黎にとっては都合が良かった。いつまでもこんな惨めな姿を晒し続けていたくは無かったからだ。
あんな酷い事をしたんだ、きっと仲間達は彼を見捨てただろう。それで良かった。元々黎は独りだから。誰かが居る事こそ異常だったのだから。
皆が彼を見離すように去る中、フレイだけは彼の後ろに、姿と気配を消して残り続けていた……。
「黎の奴……、あんなに苦しんでいたのか……」
『クリクリー……』
「水臭いなぁ、少しは相談してほしかったッス……」
「でも、人のデリケートな部分に踏み込むのも問題なんだな……」
皆は、黎の事を見捨てていなかった。
確かに黎が己の地獄のような過去を見せたのには驚いたが、それでも、彼を見捨てる事はできなかった。あの光景が真実ならば、それだけ黎はさっき苦しんでいたという事なのだから。そんな人を見捨てる事なんて、誰にもできなかったのだ。
「うぷ……、口の中が酸っぱい……」
「う、うさみん、大丈夫?」
「うん。だって、それだけ彼が悲しいって事だから……、これくらいで泣き言吐いちゃいけないよ」
「立派じゃのう、うさみんも、あの男も……。あれは自分を曝け出すという勇気ある行動か、それともただの自暴自棄か……。前者である事を祈ろうか」
「ジュンコ、ももえ、立って歩ける? 私はまだ足がガタガタ言ってるわ……」
「こっちは何とか……。ったく、あのバカ! 何で全部、自分で抱え込んじゃうのよ!」
「もしかしたら、あまり信頼されていないのかも知れません……。悲しいですわ」
「黎の経験を考えれば、有り得なくも無いでしょうね。誰も信じられなくなるっていうのは鍛え上げた軍人でも発症するらしいから……」
「主殿……。我々にできる事など、無いのだろうか……」
「……分からない。でも、こういう大きな壁に、人は必ずぶつかる」
「それも……、そうだな。うむ、私達で乗り越えるまで守ろう」
「……うん」
「悪いな、三沢。肩貸してもらっちまってよ……」
「俺もお前の肩を借りている、お互い様だ。部屋まで送るぞ、神楽坂」
「頼む……」
「坊やは、別の意味で坊やだったみたいね」
「何それどういう意味、雪乃?」
「他人を頼れない内はまだ子供って事よ。まあ、私に負ぶわれている貴女もかしらね、ツァン」
「しょうがないじゃん、腰抜けちゃったんだから! 張り倒すよ!?」
「フィオさん、彼は……」
「何も言わないで、麗華。黎だって機械の心を持ってるワケじゃないんだから、こういう事だってあるよ……」
「そう、ですね。そういった崩れるメンタルがあるんですから、彼もまた……」
「ん。…………黎、どれだけ化物だ何だって主張しても、君は、やっぱり人間なんだね」
皆それぞれ心配しつつ、今は『何かするために』、『何もしない』事をする。干渉し過ぎる事もまた逆効果だと悟ったからである。
しかしそんな中、フレイだけはその真逆の選択をしたのだった。
「黎さん、何時までそうやって不貞腐れているおつもりですか」
海岸に一人残ったフレイは、黎を、酷でも無理矢理立ち直らせようと荒治療する道を取る。或いはその差が普通の人間と長寿の精霊の彼女との違いなのかも知れない。
「フレイ……、ほっといてくれよ……。俺は別に勇者でも英雄でもねぇんだ……。無理だったんだよ、最初から」
「諦めたら、そこで試合終了です。ヒーローだろうとモンスターだろうと何だろうと、貴方には戦い続ける義務があります」
「何だよ義務って……。何の権利を俺は代わりに行使できるんだ」
「そんな事、わたくしは知りませんよ。兎に角、こんな所で止める事は認められません。立って下さい」
「もう好いじゃねぇか……。お前も知ってるだろ、俺の体はもうボロボロだって事ぐらい。もうそんな気力も無い、力も無い、未来も無い。結局俺は、どこ行ってもこれだ。希望も夢も無く、死んでいく定めなんだよ」
「そんな今から諦めて、マスターや義妹さんや十代さんはどうなるんです! 見殺しにするつもりですか!」
「ああ……。もう俺にはそんくらいしかできやしネェよ……」
「っ…………!」
流石のフレイも、ここまで戦いを拒否されるのは誤算だった。
黎にとっての都とは、前世において己の全てをかけて守った存在ではなかったのか。そんな彼女を亡き者にしようとしている邪神どもを、欠片も残さず滅しようとしていたのではなかったのか。
それがどうだ、この腑抜けようは。これがあの、時に寒気すら覚えさせる熱くも冷たい戦士だと言うのか。
「それが、貴方の答えですか……っ!」
「仕方無いだろ……、所詮、化物には世界は救えなかっただけの話なんだよ。きっとまた新しい、もっと『らしい』転生者とかが来て、何とかしてくれるさ……」
「黎さんなら……、また立ち上がってくれると信じてましたのに……!」
「……………………」
「本当に、貴方には失望しましたよ、“騎士”の魂っ!」
“騎士”の魂。フレイは今、黎の事を名前でなくそう呼んだ。それだけ彼女は彼に失望しているという事だ。
憤怒の表情を最早隠そうともしない青髪の天使は、腕にデュエルディスクを召喚した。
「構えなさい! その腑抜けて折れたヘタレ根性、このわたくしが叩き直してあげます!」
「…………」
「それとも何ですか、もうデュエルする事すら嫌になりましたか! ならばカードを今すぐ捨てて、このアカデミアから立ち去りなさい!」
フレイが叫ぶ。それは荒治療の一環か、はたまた彼女の怒りの本心か。
黎は、黙って立ち上がった。
「……カードは、捨てない。こいつらは……、俺と都が一緒の世界から来たっていう、唯一の証明なんだ。だから……、だから……!」
「ならばデュエルです! 貴方にまだデュエリストとしての魂が欠片でも残っているのなら、この申し出を受ける事です!」
フレイが吠える。眉間に寄った皺の深さが、彼女の内心を表明している。
デュエリストの魂が何なのか、それは黎には分からない。でもここで逃げるのは、何か嫌だった。
デッキをディスクに差し込み、スイッチを入れる。それを見てフレイも改めてディスクを構える。
「さあ、行きますよ!」
「ああ……」
「デュエル!」
「デュエル……」
黎 VS フレイ
LP 4000 VS LP 4000
「先攻はわたくしです! ドロー! わたくしは『ジェネクス・ウンディーネ』を攻撃表示で召喚!」
ジェネクス・ウンディーネ:ATK 1200
先手はフレイ。最初に召喚したのは水生生物を思わせる青い機械だ。
「このカードは通常召喚に成功した時、デッキから水属性モンスターを1体墓地に送り、デッキから『ジェネクス・コントローラー』を手札に加える事ができます。その効果で『黄泉ガエル』を墓地へ!」
ジェネクス・ウンディーネ(効果モンスター)
星3
水属性/水族
ATK 1200/DEF 600
このカードが召喚に成功した時、デッキから水属性モンスター1体を墓地へ送って発動できる。
デッキから「ジェネクス・コントローラー」1体を手札に加える。
「更にカードを1枚伏せてターンエンドです」
フレイ:LP 4000
手札:5枚(内1枚は『ジェネクス・コントローラー』)
フィールド
:ジェネクス・ウンディーネ(ATK 1200)
:伏せカード1枚
「俺のターン……」
力無くカードを引く黎。相手のフィールドを見ながら、黎はフレイのデッキの内容を推測できないでいた。
『黄泉ガエル』を墓地に送ったという事は十中八九あれを利用するつもりなのだろう。レベルは1だから恐らくシンクロ素材かリリース素材。だが魔法・罠が自分の場にあっては『黄泉ガエル』は自身の効果で特殊召喚できない。
果たして彼女は次のターン本当に『黄泉ガエル』を利用するつもりなのか。あのリバースカードは罠か、ブラフか。フリーチェーンで空けてくる可能性もある。そう思って突っ込んで来たこちらを迎撃するためかも知れない。
(駄目だ、思考が纏まらない……)
普段の自分ならどうしていただろうか、そんな事すら分からない。
悩み続ける黎に対し、フレイが見下したように鼻で嗤う。
「さあ、どうしました。戦う事を止めたくせに長考ですか」
「く……っ、俺は『アンノウン・シンクロン』を特殊召喚。このカードは相手フィールドにのみモンスターが存在する場合、1度だけ手札から特殊召喚できる……」
アンノウン・シンクロン:ATK 0
「更に『フェイク・ガードナー』を召喚……」
フェイク・ガードナー:DEF 2000
「レベル4の『ガード・マスター』に、レベル1の『アンノウン・シンクロン』をチューニング……。
リミッター解放、レベル5。レギュレーターオープン、スラスターウォームアップ、オーケー……。アップリンク、オールクリアー……。GO、シンクロ召喚」
☆1+☆4=☆5
「カモン、『TG ハイパー・ライブラリアン』……」
『ハァッ!』
TG ハイパー・ライブラリアン:ATK 2400
黎とて、いくら腑抜けていたとしても歴戦の戦士『だった』男。腕はまだある。シンクロ召喚で呼び出したのは白と黒の服を羽織った学者風の司書。左手に本を持ち、マントを翻して参上する。
アンノウン・シンクロン(チューナー・効果モンスター)
星1
闇属性/機械族
ATK 0/DEF 0
「アンノウン・シンクロン」の(1)の方法による特殊召喚はデュエル中に1度しかできない。
(1):相手フィールドにモンスターが存在し、自分フィールドにモンスターが存在しない場合、このカードは手札から特殊召喚できる。
TG ハイパー・ライブラリアン(シンクロ・効果モンスター)
星5
闇属性/魔法使い族
ATK 2400/DEF 1800
チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上
(1):このカードがフィールドに存在し、自分または相手が、このカード以外のSモンスターのS召喚に成功した場合に発動する。
このカードがフィールドに表側表示で存在する場合、自分はデッキから1枚ドローする。
「バトル、『ライブラリアン』で『ウンディーネ』を攻撃……。“ブラスト・スナップ”」
「無駄ですよ。速攻魔法『月の書』を発動! 『ハイパー・ライブラリアン』を裏側守備表示にします!」
TG ハイパー・ライブラリアン:ATK 2400 → セット(DEF 1800)
闇のエネルギーを右手に纏った司書が、青いロボットへと殴りかかる。しかしフレイのカードによって月の魔力を浴びせられ、その場でカードの姿になってしまった。
月の書
【速攻魔法】
フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を選択し、裏側守備表示にする。
「ぐ……!」
「『黄泉ガエル』が墓地にいるのなら、この伏せカードがフリーチェーンである事ぐらい推測できるでしょう。闇雲に突貫するのは愚策です」
「う……。俺はリバースカードを2枚出して、ターンエンド……」
黎:LP 4000
手札:2枚
フィールド
:セットモンスター1体(TG ハイパー・ライブラリアン:DEF 1800)
:伏せカード2枚
黎の額に嫌な汗が流れる。またつまらないミスをしてしまった。これではあの時と、『ジョーカー』と戦った時と同じだ。
あの時の事が頭をもたげ、惨敗を繰り返してしまうのではという恐怖が心を支配する中、ターンがフレイへと回った。
to be continued