遊戯王GX~精霊の抱擁~ 作:ノウレッジ@元にじファン勢遊戯王書き民
復活の福音
【通常魔法】
(1):自分の墓地のレベル7・8のドラゴン族モンスター1体を対象として発動できる。
そのモンスターを特殊召喚する。
(2):自分フィールドのドラゴン族モンスターが戦闘・効果で破壊される場合、代わりに墓地のこのカードを除外できる。
都「ドラゴン族専用の蘇生カードだ! レベルが限定されてる以外に制約は無いよ!」
ポーラ「……破壊される時、1度だけ身代わりになる。……ただし種族変更には注意、種族変更された元ドラゴン族は守れないよ」
都「ドラゴン族の蘇生カードは何種類もあるから、デッキと相談して採用するかどうかよく考えて決めてね!」
SIDE:無し
──相当な築年数の経っている宿泊施設
「ぶるるるぁぁ……」
「あは、変な溜息」
童実野町のとある古い宿にて。
海馬コーポレーションの城下町とも称される童実野町だが、その実情は発展途上の治安の悪い町である。
現在は開発が進みオフィスビル等が増えているものの、安全な都市には未だ程遠い。
この古い宿もまたその1つ、十数年後か数十年後かには不良やギャング、家出をした子供が懇意にする安宿である。あからさまに治安が良くない場所にはなるが、一方で金が無くとも泊まれる事から親しみを込めて「ノーマネーの宿」と呼ばれるようになるらしい。
「お嬢さん」
「看板娘の
「では弥生ちゃん、ビールを一缶貰って良いかな?」
「どうぞー」
現在は寂れた宿ではあるものの客は経営できる程度には泊まりに来る、低空飛行を続ける宿。そんな宿泊施設に、かつてタイタンと名乗りデュエルアカデミアで闇討ちを行った大男が泊まっていた。
現在タイタンは闇のデュエリストから足を洗っている途中であり、生活費を催眠術の他に手品や大道芸で賄いながら旅を続けている。また旅路の途中ではかつてのコネや伝手を使い、悪質なデュエリストをデュエルで負かしては得意な催眠術で成敗していた。彼の知人曰く「催眠の内容にリアリティが増した」との事。
まさかそれが彼の実体験から得た産物とは誰も思うまい。
「ぶるぅぁぁ……、このキンキンに冷えた一缶のために生きているぅ……」
「ビールってそんなに美味しいんスか?」
「ん~、大人になれば分かる。尤も、ビールじゃない別の酒が好きになるかも知れないがねぇ」
「ふーん?」
ノーマネーの宿でタイタンは宿泊しつつ、他の宿泊客のためにマジックショーを開いていた。
結果は上々、お陰でビールをタダで提供して貰った。以前よりも収入は減ったが、それでもあの悍ましい死の恐怖をもたらす闇社会と絶縁できるのなら安いものである。
おまけに2階の見晴らしの良い部屋まで取れた、もう一泊しても良いかも知れない。
「良ければもう一缶いかがですか?」
「いやぁ、やめておこう。残りは風呂上がりだぁ」
「かしこまりました」
宿の看板娘がぺこりと頭を下げる。
年は十代半ばが精々だろうか、下手をすれば小学生かも知れない。いずれにせよ自分が闇討ちしようとした少年と年はそう変わらないだろう。
自分は依頼で将来有望な若者を、なんて殊勝な考えは持っていない。だが今後はこのくらいの年の子を見る度に思い出すのだろう、自分が足を洗うキッカケになった事件を。
そうしみじみと思いながら、巨漢は風呂に行く支度を始めた。
『闇の残り香がするな』
「!」
『今日は運が良い。だがまずは邪魔な蝿を駆除しておこう』
或いは、それに感謝する事があるとはタイタンは思わなかった。思う日が来るなんて有り得ないとすら考えていた。
しかし闇の世界に僅かながらも触れた事で、彼は肌で『それ』を察する事が出来た。故に、走る。
「伏せるんだァ!」
「きゃあっ!」
巨大な鉄塊が空を裂き、自分の服と宿の古い壁が抉られる。間一髪で弥生を庇ったタイタンの背中に木屑が降り注ぐも、大事には至らなかった。
「弥生ちゃん、無事かね?」
「う、うん」
無傷であると確認したタイタンは、安堵の息を吐く事無く襲撃者の姿を確認する。
オールバックの刈り込んだ髪、無駄な筋肉の無い鍛えられた細身の肉体、そして身の丈より巨大な斧。黒いスーツをまとった全身は、ビジネスマンよりも喪に服す葬列の参加者を連想させた。
さながら武人、それも殺人鬼に身を落とした軍人崩れ。それがタイタンの抱いた第一印象であった。
「何者だぁ、貴様……!」
「これから贄となる餌以下に名乗る必要があるのか?」
「おいおい冥途の土産くらい良いじゃないかぁ、減るものでも無し」
「ククカカカカハハッ! 実に浅慮な人間らしい発言だ! ならば教えてやろう! 我はラース! 貴様をカードに封じて大いなる我が君に捧げる憤怒だ!」
ゴウッ、と圧が増す。
明らかに格上だと巨漢は察した。
「弥生ちゃん、逃げるんだぁ。ここは私が時間を稼ごう」
「ほう、我相手に時間稼ぎができると?」
「今その腕にデュエルディスクが表れた、デュエルするんだろぉう? 1ターンが10秒であっても時間は掛かる、ならば1秒でも多く時間を稼ぐのが私の役目ェ! 急ぐんだぁ!」
「は、はいっ!」
死ぬのだろうか、とタイタンは恐怖で震えるのを自覚する。
これが因果か、あの時に救われた命が再び闇に食われるというのが。
しかし、それでも。
1人の少女を逃がせるのなら……、それは無意味じゃない。
「クククカハ! 無駄だ!」
「何ぃ?」
「あいたっ!」
ごんっ、と鈍い音が鳴り響いた。
振り返れば、半透明の壁のようなものに頭を打ち付けた弥生の姿。無論、そんな壁は先程まではなかったのは言うまでもないだろう。
「いたたた……、な、何か見えない壁みたいなのがある!」
「……既に閉じ込められたという事か」
「そうだ、我は貴様を獲物と定めた故に逃がす術を潰したのだ。その小娘の死を餌により芳醇な怒りに滾った贄にしてやろうと思ったが、貴様の後に殺してもまぁ大差はあるまいて」
「おのれぇ……!」
これで自分と彼女は一蓮托生、逃げ場は無い。
更に恐らくだが、この宿にいる他の宿泊客もこの様子だと閉じ込められているだろう。その行く末は……、語るまでも無い。
「どうやら勝たねばならないようだぁ」
「人間の詐欺師如きが笑止」
「詐欺師はとっくに廃業している、今の私はただの旅芸人だぁ」
荷物からデュエルディスクを取り出し、装着。デッキもセットしてディスクのスイッチを入れる。
勝てるとは思っていない、それでも、0%であっても、戦わねばならない。デュエリストにはそういう時があるのだ。
「おじさん、アタイもやるよ!」
「弥生ちゃん、危険だ。こいつとのデュエルでは冗談抜きに死ぬぞぉ」
「分かってます、こいつは何か……、何かヤベェって事くらい。でもどうせ部屋からは逃げられないんだ、ならここで戦う! 死ぬならせめて戦って死ぬよ、アタイだってデュエリストなんだ!」
デュエリストである事を引き合いに出されては、タイタンとしては止める術が無い。
この不良やチンピラの多い宿で看板娘をしている以上は、こういった鉄火場も経験があるのだろう。なら今はそれに頼らせて貰うとしようか。
「カカハ、威勢だけは一人前だな。しかし小娘よ、それを蛮勇と呼ぶ事を死を以て知るが良い!」
「おじさん、アタイ頑張ります!」
「ああ!」
「「「デュエル!」」」
タイタン&弥生 VS ラース
LP 4000×2 VS LP 4000
☆
──謎の場所
暗闇の中を揺蕩う。
果たして自分は今、生きているのか、魂だけ抜け出ているのか。
(この程度で倒れるとはな)
己の貧弱さに、黎は顔を顰めた。
本当に顰めているかは分からないが。
(それだけこの世界に順応して来ているって事かね)
なお彼は『この程度』と言っているが、普通の人間なら1000人死んでなお余りある猛毒であった事を明記しておく。
撃たれても斬られても死なない黎が片鱗ですら逆流しただけで倒れる、それだけ邪神の力は凄まじく強いのだ。
元より邪神は護衛の時点で次元を超えて逃げられる上、本体に至ってはどこの次元でもない場所に潜んでいる。間違いなく神、それも『オシリスの天空竜』のような【人間の崇め奉る神】とは異なる、【現象・災害としての神】。それこそが黎と敵対している名も知らぬ邪悪なる神である。
故に黎の奮闘はいわば、武器を構えて嵐に挑もうとしているに等しい。普通ならば無意味にして無駄死にの未来しか無く、彼が人外であり、嵐に対抗できる武器を得られたが故に無謀ではなくなっただけの事。普通なら己が命惜しさに逃げて震えるもの、蛮勇を振るって立ち向かう黎の方がおかしい。
(……それが、どうした)
黎は
(元より俺は異端の命、人間の敵として生み出された存在。俺の存在理由は都にだけあった。今もそう)
大切なたった1人の家族のため、彼は生きて来た。今もそれを取り戻すために戦っている。
遊馬崎都のために立って戦う、そこに揺るぎはない。
ただ、そこにフィオや桜、フレイやポーラ、十代や翔、そして異なる次元で戦っている同じような同志達──即ち優や輝、ライや真奈達──も追加されただけの事。
それが黎にとって最も重要な事であり、自分の手で敵の命を奪う最大の理由である。
……言い換えれば、自分の命は勘定に含まれていないのだが。
(クソ邪神さえ討伐できれば、後は都の人生、都の命。俺が守ってやるような邪悪はいない。……多分)
言い切れないのが悲しい所である。
デュエルモンスターズの世界はオカルトの世界、彼の想像を裏切る脅威が現れる可能性は否定できない。
そしてそれに都が敗北する確率は、ゼロに非ずである。
だが都とて1人の人間、いつまでも自分に負んぶに抱っこではいけない。いつか義兄離れをする日が来なくてはならない。その時に自分の足で立てないようでは論外も良い所だ。
それまで守るのが義兄としての役割。その後は彼女の人生なのだから。
(まぁ、義妹離れしねぇといけねぇのは俺もか。そのためにも取り敢えず起きねぇとな)
意識を集中させ、肉体に神経を巡らせる。
黎の能力は所謂『メタモルフォーゼ』、自身の肉体であれば自由に操る事ができる。体内に金属を取り込む事で髪の毛を刃にしたり腕を剣にしたり、爆薬を食べる事で切り離した手を爆弾に変えたりと、意外と柔軟性が高い。
他人に化ける事とて可能だし、体内で薬や毒の調合とてお手の物。
故に化物。
故に人外。
光や炎を操ったりするヒーロー然としたものでなく、人間を襲う魔獣のような能力であるが故に、彼は化物なのだ。
(おらっ、とっとと起きろ俺の体。いつまで寝てるんだ)
起床も睡眠も意識1つ。裂けた肉も折れた骨も自力で修復できるのだ、片腕如きどうという事は無い。
(起きろって)
だが予想に反して肉体は全く動かない。産毛の1本ですら自意識で動かせるのに、だ。
(クソが、完全に落ちてやがるな?)
意識1つで己の肉体にまつわる事は何でもできる黎だが、逆を言えば意識が無ければ何もできないという事でもある。
脳が機能停止をしてしまうと、彼は普通の人間と同様に無防備になってしまう。そこが化物の限界だった。
(しゃーねぇ、脳味噌吹っ飛ばすか)
如何に肉体を意志で操れるとはいえ何の躊躇いも無く頭を破壊する選択ができるのはどうなのだろうか。
とはいえ、彼が取れる選択肢の1つとしては現実にあるのだから仕方ない。破壊されず残った部分から頭を再生する手法は前世でもやった事がある、数秒だけ意識が混濁するがその後はしっかり覚醒できるのだから良いだろうと、彼は考えている。
自分の命なぞその程度。数多の命を奪った己の命が重くあってはならない。
それが彼の持論だ。
『やめておけ、無意味じゃ』
「!」
いきなり声をかけられた。
驚いた黎が後ろを振り向くと、そこには闇のように真っ黒なドラゴンの姿が。
その出で立ちは隆々とした筋骨によって強調されており、闇が噴き上がるが如き黒い鱗や翼が死の国を連想するような不吉さを醸し出している。短くも鋭い爪牙に敵を睨み殺すような輝く眼、全身に走るダークカラーの模様、ところどころにある青いクリスタル。それらを総合してより恐ろしさを表出させる巨竜。
即ち『冥王竜ヴァンダルギオン』がいた。
冥王竜ヴァンダルギオン(効果モンスター)
星8
闇属性/ドラゴン族
ATK 2800/DEF 2500
相手がコントロールするカードの発動をカウンター罠で無効にした場合、このカードを手札から特殊召喚する事ができる。
この方法で特殊召喚に成功した時、無効にしたカードの種類により以下の効果を発動する。
●魔法:相手ライフに1500ポイントダメージを与える。
●罠:相手フィールド上のカード1枚を選択して破壊する。
●効果モンスター:自分の墓地からモンスター1体を選択して自分フィールド上に特殊召喚する。
☆
──宿泊施設・闇のゲーム空間
タイタン:LP 900
手札:0枚
フィールド
:モンスター無し
:魔法・罠無し
弥生:LP 1100
手札:0枚
フィールド
:モンスター無し
:伏せカード1枚
ラース:LP 3000
手札:1枚
フィールド
:メテオ・ブラック・ドラゴン(ATK 4300)
:天威無崩の地(フィールド魔法)、一族の結束(永続魔法)
宿の一室に閉じ込められたタイタンと弥生は、ラースを相手に苦戦を強いられていた。
ラースのデッキは通常モンスター軸のドラゴン族、敢えて言うのなら【スキドレドラゴン】デッキ。通常モンスターをサポートするカードが多く、タイタンの【デーモン】と弥生の【アマゾネス】はそれぞれが苦戦を強いられていた。
前のターンに何とか『スキルドレイン』は除去できたが、代償は大きい。
再び回って来たタイタンの手番で何とか逆転できれば良いのだが。
「私のターン、ドロー! 魔法カード『天使の施し』を発動! デッキから3枚ドローしぃ、2枚捨てるっ! 私が捨てるのは『トリック・デーモン』と『ジェノサイドキングデーモン』!」
「ここで手札交換か。手札の無い貴様にはまさに天の助けだなぁ?」
「そしてこの瞬間、捨てられた『トリック・デーモン』の効果発動ぅ! デッキから『トリック・デーモン』以外の“デーモン”と名の付いたカードを手札に加える事ができぃる! 私はデッキからこのカード、『デーモン・アボキメラブル』を手札に加えるぅ!」
トリック・デーモン(効果モンスター)
星3
闇属性/悪魔族
ATK 1000/DEF 0
このカード名の効果は1ターンに1度しか使用できない。
(1):このカードが効果で墓地へ送られた場合、または戦闘で破壊され墓地へ送られた場合に発動できる。
デッキから「トリック・デーモン」以外の「デーモン」カード1枚を手札に加える。
ジェノサイドキングデーモン(効果モンスター)
星4
闇属性/悪魔族
ATK 2000/DEF 1500
自分フィールド上に「デーモン」という名のついたモンスターカードが存在しなければこのカードは召喚・反転召喚できない。
このカードのコントローラーは自分のスタンバイフェイズ毎に800ライフポイントを払う。
このカードが相手のコントロールするカードの効果の対象になり、その処理を行う時にサイコロを1回振る。
2・5が出た場合、その効果を無効にし破壊する。
このカードが戦闘で破壊した効果モンスターの効果は無効化される。
タイタンにとっては恐らくこれがラストターン。残りライフは僅かとなり、自分のフィールドにカードはもうない。
後はこの新しいカードに賭けるのみ。
「儀式魔法『億万伏魔の絶対儀式』! 墓地からレベル4の『ジェノサイドキングデーモン』と『デーモン・ソルジャー』を除外し、儀式召喚を行ぁう!」
床に怪しげに輝く魔法陣が展開され、2鬼の悪魔の魂が吸い込まれていく。
これこそタイタンの新たな切り札。『デーモン・マタドール』と悩んで投入した攻撃型のモンスター。
それが今ここで初のお披露目となる。
「出でよ魔獣の屍を混ぜ合わせて産まれた醜悪なる悪魔! 『デーモン・アボキメラブル』、儀式召喚ンンッ!」
『Vaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!』
デーモン・アボキメラブル:ATK 1000
悪鬼の魂が紫の炎に変わり、その炎を食うかのように地面から不細工な悪魔が出現した。
左右非対称であり、一見するとケンタウロスを思わせる4本脚。しかしよく見れば腐肉のようなものを集め、虫のような悪魔に上半身を接合しているキメラのような魔獣だと分かる。
頭部にある角は牛のように鋭く、しかし胴体にある眼には草食動物にはない殺意の炎が灯っていた。片腕は無意味に細長く、逆の腕は盾と見紛う程に太く短い。
まさに醜悪なる悪魔の名に相応しい魔獣であった。
「我のフィールドに効果を持たぬモンスターが存在し、貴様が効果モンスターを特殊召喚した事で、フィールド魔法『天威無崩の地』の効果発動。デッキから2枚ドローする」
「私は『アボキメラブル』の効果発動! 1ターンに1度、墓地から“デーモン”の魔法・罠カードを除外した枚数まで場の魔法・罠カードを破壊できる! 私は墓地の『
「チッ!」
メテオ・ブラック・ドラゴン:ATK 4300→3500
天威無崩の地
【フィールド魔法】
(1):このカードがフィールドゾーンに存在する限り、効果モンスター以外のフィールドの表側表示モンスターは、モンスターの効果を受けない。
(2):1ターンに1度、自分フィールドに効果モンスター以外のモンスターが存在し、相手が効果モンスターを特殊召喚した場合に発動できる。
自分はデッキから2枚ドローする。
悪魔の技
【通常罠】
(1):自分フィールドに悪魔族モンスターが存在する場合、フィールドのカード1枚を対象として発動できる。
そのカードを破壊する。
その後、デッキから悪魔族モンスター1体を墓地へ送る事ができる。
血の刻印
【永続罠】
自分フィールド上に存在する「デーモン」という名のついたモンスター1体を選択して発動する。
選択したモンスターがスタンバイフェイズに払うライフポイントは相手プレイヤーも払う。
このカードがフィールド上から離れた時、選択したモンスターを破壊する。
選択したモンスターがフィールド上から離れた場合、このカードを破壊する。
「だが攻撃力はまだ3500、たかが1000程度で何ができる」
「バトル! 私は『デーモン・アボキメラブル』で『メテオ・ブラック・ドラゴン』を攻撃!」
「何!?」
「この瞬間モンスター効果発動! 墓地の『迅雷の魔王-スカル・デーモン』を除外し、その攻撃力の半分だけ『アボキメラブル』の攻撃力が上がぁる! そして貴様のモンスターの攻撃力は逆に下がるのだぁ!」
「『スカル・デーモン』の攻撃力は2500、って事は……!」
デーモン・アボキメラブル:ATK 1000→2250
メテオ・ブラック・ドラゴン:ATK 3500→2250
「攻撃力が並んだ!」
「喰らえぇぇぇ! 必殺、“
「チッ! “バーニング・ダーク・メテオ”!」
醜悪な悪魔と隕石の黒龍の攻撃が真正面からぶつかり合った。
血のような赤い濁流と燃える巨岩の衝突によって古い宿屋の一室を大きく揺るがすような大爆発が起こり、赤黒い爆煙が周囲を覆う。
煙が晴れた時、そこには黒龍の亡骸と。
『Jaaaa……』
悪魔の無事な姿があった。
「ほう、破壊耐性か」
「そぉの通り、『デーモン・アボキメラブル』は効果を使ったターン戦闘では破壊されない! 更に『アボキメラブル』の最後の効果により、除外されている『悪魔の技』と『ジェノサイドキングデーモン』をデッキに戻し、1枚ドローするっ!」
億万伏魔の絶対儀式(オリジナル)
【儀式魔法】
「デーモン・アボキメラブル」の降臨に必要。
(1):自分の手札・フィールドから、レベルの合計が8以上になるようモンスターをリリースし、手札から「デーモン・アボキメラブル」を儀式召喚する。
この時、自分の墓地からレベルの合計が8になるよう「デーモン」モンスターをゲームから除外する事もできる。
(2):このカードを墓地から除外して発動できる。
このターン相手によって破壊された、儀式モンスターを含む「デーモン」モンスターのレベルの合計より低いレベルの悪魔族モンスター1体をデッキから守備表示で特殊召喚する。
デーモン・アボキメラブル(儀式・効果モンスター)(オリジナル)
星8
闇属性/悪魔族
ATK 1000/DEF 0
「億万伏魔の絶対儀式」により降臨。
このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか発動できない。
(1):自分の墓地から「デーモン」魔法・罠カード、または「デーモン」モンスターが記された魔法・罠カードを任意の枚数除外して発動できる。
除外した枚数までフィールドの魔法・罠カードを破壊する。
(2):このカードがモンスターと戦闘を行うそのダメージ計算時に1度、自分の手札・墓地から「デーモン」モンスター1体を除外して発動できる。
ダメージ計算終了時までこのカードの攻撃力は除外したモンスターの攻撃力の半分アップし、戦闘を行う相手モンスターの攻撃力はダウンする。
この効果を使用したこのカードは、ターン終了時まで戦闘では破壊されない。
(3):このカードが戦闘によって相手モンスターを破壊した場合に発動できる。
除外されている「デーモン」カードを2枚選択してデッキに戻し、1枚ドローする。
タイタンの胸当て型ディスクにあるデッキに2枚のカードを差し込み、新しくカードが手札に加わる。
ダメージこそ与えられなかったが、これでラースのフィールドは更地になった。まだ悲観するには早い。
「私はリバースカードを1枚場にセット、これでターンエンドだぁ!」
タイタン:LP 900
手札:0枚
フィールド
:デーモン・アボキメラブル(ATK 1000)
:伏せカード1枚
「アタイのターン、ドロー! 手札から『強欲な壺』を発動、デッキから2枚ドロー!」
ターンが移り、次は弥生のターン。
ここで畳み掛けなければ恐らく次は無い。
「リバースカード、オープン! 永続罠『アマゾーン・カーニバル』! 手札を1枚捨てて効果発動! 墓地からレベル4の“アマゾネス”モンスターを3体特殊召喚する! さぁ蘇りなァ!」
アマゾネスペット
アマゾネスの聖戦士:DEF 300
アマゾネスの鎖使い:DEF 1300
墓地ポケットに『アマゾネスの急襲』が飲まれ、入れ替わりに2人と1匹が復活する。
蘇生されたモンスターの効果は無効となるが、次の一手を打つのには充分過ぎるリターンだ。
アマゾネスペット虎(効果モンスター)
星4
地属性/獣族
ATK 1100/DEF 1500
(1):「アマゾネスペット虎」は自分フィールドに1体しか表側表示で存在できない。
(2):このカードの攻撃力は、自分フィールドの「アマゾネス」モンスターの数×400アップする。
(3):このカードがモンスターゾーンに存在する限り、相手モンスターはこのカード以外の「アマゾネス」モンスターを攻撃できない。
アマゾネスの聖戦士(効果モンスター)
星4
地属性/戦士族
ATK 1700/DEF 300
自分フィールド上の「アマゾネス」という名のついたモンスターカード1枚につき、このカードの攻撃力は100ポイントアップする。
アマゾネスの鎖使い(効果モンスター)
星4
地属性/戦士族
ATK 1500/DEF 1300
(1):このカードが戦闘で破壊され墓地へ送られた時、1500LPを払って発動できる。
相手の手札を確認し、その中からモンスター1体を選んで自分の手札に加える。
アマゾネスの急襲
【永続罠】
(1):1ターンに1度、自分・相手のバトルフェイズに発動できる。
手札から「アマゾネス」モンスター1体を特殊召喚する。
この効果で特殊召喚したモンスターの攻撃力はターン終了時まで500アップする。
(2):自分の「アマゾネス」モンスターが相手モンスターと戦闘を行ったダメージ計算後に発動できる。
その相手モンスターを除外する。
(3):フィールドのこのカードが破壊され墓地へ送られた場合、自分の墓地の「アマゾネス」モンスター1体を対象として発動できる。
そのモンスターを特殊召喚する。
「そして2体のモンスターをリリース! アドバンス召喚、これがアタイの切り札『アマゾネスの大剣豪』だぁあああ!」
『はぁぁぁぁぁ、タァッ!』
アマゾネスの大剣豪:ATK 2700
1人と1匹のアマゾネスの力が1本の巨大な剣に。果てに生まれたのはその剣を手に現れた、アマゾネスらしからぬ革鎧をまとった剣士。筋肉を隠すような見た目の女戦士という異質さが、逆説その存在を際立たせる。
「『大剣豪』の効果発動! 1ターンに1度、墓地から攻撃力1500以下の“アマゾネス”1体を特殊召喚する! 蘇れ、『アマゾネスの剣士』!」
『ハァッ!』
アマゾネスの剣士:ATK 1500
曲がった剣を持った女戦士が並び立った事で、攻撃力の合計が4300となった。
これでラースのライフを完全に削り取れる。
「バトル! まずは『アマゾネスの剣士』でダイレクトアタック!」
「我はこの瞬間、手札の『チェックサム・ドラゴン』を特殊召喚。そしてその守備力の半分、ライフを回復する」
「何だって!?」
チェックサム・ドラゴン:DEF 2400
ラース:LP 3000→4200
ガンッ! と金属音が響き、小麦色の肌の剣士の攻撃が止められる。
赤い金属性のプレートで攻撃を受け止めた機械チックなドラゴンは、攻撃を1ミリとて後退せず受け止めた。
「『アマゾネスの剣士』との戦闘で発生したダメージは相手が受ける!」
「小癪」
ラース:LP 4200→3300
「なら続けて『アマゾネスの大剣豪』でも攻撃! このカードがバトルする時、他のアマゾネスの数だけ攻撃力が500アップして、更に貫通ダメージを与える! アタイのフィールドに他にいるのは『アマゾネスの剣士』と『アマゾネスの聖戦士』! よって攻撃力は1000ポイントアップだ!」
アマゾネスの大剣豪:ATK 2700→3700
ラース:LP 3300→2000
「良し、『チェックサム・ドラゴン』撃破!」
「痒いな」
『チェックサム』は黎も使用したモンスターカード。これで両者の敗北をそれぞれ防いだという皮肉なモンスターとなってしまった。
アマゾーン・カーニバル(オリジナル)
【永続罠】
このカード名の(1)(2)の効果はデュエル中にそれぞれ1度しか発動できない。
(1):手札の「アマゾネス」魔法・罠カードを1枚捨てて発動する。
自分の墓地からレベル4以下の「アマゾネス」モンスターを3体選び、守備表示で特殊召喚する。
この効果で特殊召喚したモンスターの効果は無効となり、EXデッキからモンスターを特殊召喚するための素材にできない。
(2):このカードがフィールドを離れた時、フィールドの地属性モンスターを全て破壊する。
この効果で自分のモンスターが2体以上破壊された時、自分の墓地から(1)を発動するために捨てたカードをセットできる。
アマゾネスの大剣豪(オリジナル)
星8
地属性/戦士族
ATK 2700/DEF 1800
(1):このカードは魔法・罠の効果では破壊されない。
(2):1ターンに1度、自分の墓地からこのターンに墓地に送られていない攻撃力1500以下の「アマゾネス」モンスター1体を対象に発動できる。
そのカードを自分フィールドに特殊召喚する。
(3):このカードがアドバンス召喚されている場合、このカードが戦闘を行う攻撃宣言時に発動できる。
このカードの攻撃力は自分フィールドの他の「アマゾネス」モンスターの数×500アップし、守備表示モンスターと戦闘を行った場合、このカードの攻撃力が守備力を超えた分だけ相手に戦闘ダメージを与える。
アマゾネスの剣士(効果モンスター)
星4
地属性/戦士族
ATK 1500/DEF 1600
(1):このカードの戦闘で発生する自分への戦闘ダメージは代わりに相手が受ける。
「どうした? まだ我を倒せてはいないようだがぁ?」
「っ、ターンエンド……!」
弥生:LP 1100
手札:0枚
フィールド
:アマゾネスの大剣豪(ATK 2700)、アマゾネスの剣士(ATK 1500)、アマゾネスの聖戦士(DEF 300)
:アマゾーン・カーニバル(永続罠)
「我のターン、ドロー。手札から『
「ぬぅ、やっと倒した『F・G・D』がデッキに戻ったかぁ……!」
「おまけにあの厄介過ぎる『ワイアーム』まで……!」
ライフは差引1000の減少。2人がかりで、である。
タイタンも弥生も切り札を出したというのにこの状況、ラースの腕の高さを伺わせるというものだ。
邪慾な壺(オリジナル)
【速攻魔法】
このカードは既に自分がこのカード以外の魔法カードを発動しているターンには発動できない。
(1):自分の墓地、または除外状態の種族または属性が同じモンスターを4体まで選んで発動する(同名モンスターは1体まで)。
選んだモンスターを全てデッキに戻し、戻した枚数-1枚ドローする。
(2):自分のカードをドローする効果が相手によって無効になる場合、代わりに墓地のこのカードを除外できる。
「おじさん、ごめん。アタイが倒せていれば……!」
「まぁだ焦るのには早いぞ弥生ちゃん、このターンさえ何とかなればチャンスはある」
「クハ、このターンを凌ぐつもりか」
「勝負は時の運と、よく言うだろう?」
「笑止千万! ならその運すらも踏み砕く強さを魂に刻むが良い!
魔法カード『復活の福音』を発動! 我の墓地からレベル7または8のドラゴン族モンスターを叩き起こす! もう1度働け、『メテオ・ブラック・ドラゴン』!」
『グォオオオオオオオオオ!』
「くっ、また復活しやがった!」
「まだだ! 我は墓地の通常モンスター『アレキサンドライドラゴン』と『メテオ・ドラゴン』を除外し、『星遺物の守護竜メロダーク』を特殊召喚!」
『ギガァアアアアアアアア!』
「そして2体目の『アレキサンドライドラゴン』を通常召喚!」
『キュウウウウウウウウウ!』
メテオ・ブラック・ドラゴン:ATK 3500
星遺物の守護竜メロダーク:ATK 2600
アレキサンドライドラゴン:ATK 2000
一瞬で並ぶハイパワーなドラゴンモンスター達。1体は蘇生、もう1体は召喚条件があるとはいえ、この終盤では非常に驚異的だ。
「『メロダーク』の効果発動、貴様らのモンスターの攻撃力・守備力は我のフィールドのドラゴン族の数×500ダウンする!」
「ぐっ、あのモンスター共は3体ともドラゴン族かっ!」
デーモン・アボキメラブル:ATK 1000→0
アマゾネスの大剣豪:ATK 2700→1200
アマゾネスの剣士:ATK 1500→0
アマゾネスの聖戦士:DEF 300→0
怪しい濃霧が赤い四ツ目の黒龍から漂い、2人のモンスターのステータスを下げる。
これでは生き残っても殆ど意味が無い。
「バトル! 我は『メロダーク』で『デーモン・アボキメラブル』を攻撃! 消えよ、下等種!」
神の血を引く龍の顎が開かれ、そこに青黒い炎が溜まっていく。
実質3100の攻撃力をまともに受ければ、その時点でアウトだ。
「そうはさせん! リバーストラップ、『聖なるバリア-ミラーフォース-』を発動! 相手の攻撃宣言時、攻撃表示の相手モンスターを全て破壊するぅ! これで逆転だぁ!」
「ヌルいわぁ! 墓地の『復活の福音』はドラゴン族モンスターが破壊される時に身代わりになる! これで破壊されぬぅ!」
「何ィ!?」
復活の福音
【通常魔法】
(1):自分の墓地のレベル7・8のドラゴン族モンスター1体を対象として発動できる。
そのモンスターを特殊召喚する。
(2):自分フィールドのドラゴン族モンスターが戦闘・効果で破壊される場合、代わりに墓地のこのカードを除外できる。
星遺物の守護竜メロダーク(効果モンスター)
星9
風属性/ドラゴン族
ATK 2600/DEF 3000
このカード名の(1)(3)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
(1):自分の手札・墓地から通常モンスター2体を除外して発動できる。
このカードを手札から特殊召喚する。
(2):このカードがモンスターゾーンに存在する限り、相手フィールドのモンスターの攻撃力・守備力は、自分フィールドのドラゴン族モンスターの数×500ダウンする。
(3):フィールドのこのカードが戦闘・効果で破壊された場合に発動できる。
このカードとは元々の種族・属性が異なるレベル9モンスター1体を自分の墓地から選んで手札に加える。
煌めくシールドを張って青い炎を跳ね返すタイタン。十代とのデュエルで自分のモンスターを破壊した時の事を思い出して投入してみたが、強力なカードとしてあれ以来何度も助けて貰っている。
しかし今回はラースも同じようにシールドを展開し青い炎を防いでしまった。これでは役目を果たせない。
「これで攻撃は止まらぬ! “灼熱のアマルトゥブレス”!」
「『デーモン・アボキメラブル』の効果発動! 墓地から『デーモンの召喚』を除外し、攻撃力を1250アップさせる! そしてこのターン戦闘では破壊されない!」
デーモン・アボキメラブル:ATK 0→750
星遺物の守護竜メロダーク:ATK 2600→1350
「攻撃力1250ではなく750だと!?」
「『デーモン・アボキメラブル』の攻撃力は0になっていたが、下がりきらなかった残り500が消えたワケでは無い。残った500ポイントのダウンはこのタイミングで再度計算され直したのだ!」
「ぬ、ぐぉおおおおおおおお!」
タイタン:LP 900→300
「これでトドメだ、『アレキサンドライドラゴン』で続けて攻撃! 例え破壊されなかろうと、攻撃力750程度では壁にもならぬわぁ!」
「ぬぁあああああああああああああああ!」
タイタン:LP 300→0
「残念だったなぁ? 再計算が無ければ2体の攻撃を受けても首の皮一枚ライフが残っていたものを」
「が、ぁ……」
「おじさんっ!」
「余所見をするな娘、まだ我の攻撃は終わっておらぬ! 『メテオ・ブラック・ドラゴン』で『アマゾネスの大剣豪』を攻撃ィ!」
「『大剣豪』の効果発動! 再び攻撃力が1000ポイントアップする!」
メテオ・ブラック・ドラゴン:ATK 3500
アマゾネスの大剣豪:ATK 1200→2200
「足りぬわぁ! 死ね、“バーニング・ダーク・メテオ”!」
「きゃああああああああああああああああああ!」
弥生:LP 1100→0
「ぐ……、おぁ……、すまない、弥生ちゃん……私が弱いばかり、に……!」
「弱いのは、アタイですよ……ゴホッ! おじさん、ホントに、ごめ、ん……!」
「敗者が戯言をほざくな! 遺言なぞ残さずさっさと生贄のためにカードになれ、このグズ共めが!」
タイタン、弥生:LOSE
ラース:WIN
☆
──謎の場所
「『ヴァンダルギオン』、無意味ってのはどういう意味だ?」
『文字通りだ、今のおんしに肉体を動かす力は無い』
「……!」
って事は、と黎は息を呑む。
己の肉体に限っては完全に自由自在に動かせる黎が、それが不可能であれば理由は1つしかない。
「ここは死後の世界って奴か」
黎とて己の死の全てを避ける事は不可能だ。
頭が吹っ飛んでも修復できるし、心臓を穿たれても塞ぐ事はできる。毒やバイオテロにも耐性があるし、銃弾の雨を浴びても死なない。包丁で刺されようと雷に打たれようと、ガソリンをぶっ掛けられて燃やされようとプレス機やダンプカーに潰されようとも生きていられる。
けれども、それにだって限度はあるのだ。
そうでなければ死んで『遊戯王GX』の世界に転生なんてしないのだから。
『半分正解じゃのう』
「……半分?」
『ここは此岸と彼岸の狭間、死にかけた者が現世に戻れる最後の場所……。分かりやすく言えば、三途の川の川岸よ』
「この良く分からない場所がか……」
黎が死ぬのはこれで2度目だ。
その時もよく分からない空間に漂っていたが、その時は周囲を観察する余裕なんて無く記憶にもほぼ残っていない。
故に改めて周囲を見回して「成程」と納得した。
この場所を『良く分からない空間』だと呼称するが、周囲はそうせざるを得ない場所であった。まず色がよく分からない。赤いのか青いのか、白いのか黒いのかも分からない。
次に明るさも分からない。暗いような明るいような、どちらでもあるような無いような。
そして浮いている感じはするのだが体幹そのものが無い。バランスを取る必要が無い、自分がボールになってしまったような錯覚すらある場所。
総じて『良く分からない空間』としか表現できない──或いは人間のボキャブラリーでは文字にできない場所なのだろう。
とある漫画には『ナンダカワカンナイノ』という見るからに何とも良く分からない生物がいたが、それに倣うのなら確かにここを『良く分からない空間』と呼ぶのは適切と言えた。
「俺は……、このまま死ぬのか?」
『いいや、おんしの仲間が必死に治療してくれておる。生き返るであろうよ』
「ならば何故、俺の目の前に現れた。俺をここで殺すためか?」
放っておいても生き返るのなら、黎に接触する必要は無い。
この冥王が顔を出したからには必ずそこに意味がある筈だ。
『侮るな、小僧』
静かに怒る事無く、しかし威厳を感じさせる声で黒い巨龍は宣った。
『ワシが貴様のような小僧一匹屠るために出て来たとでも思うてか』
「いいや、だが他に理由が思いつかなくてな」
『驕りは身を滅ぼすぞ』
「そんなつもりは無い。ただ……」
数秒、黎は黙り込んだ。そしてゆっくりと口を開く。
「──」
『おんし……!』
それを聞いた『ヴァンダルギオン』は驚愕で目を見開くと、顎に手を当てて暫く思案した。
『把握しておったのか』
「それを知ったのは体感的にはついさっきだけどな」
『ふむ』
顎から手を離した冥王竜は、ややあって黎を真正面から見据える。
品定めとも凝視ともまた異なる、まるで珍奇な生物を見るような眼差しだ。
『死を恐れぬか』
「怖いさ」
『ならば何故取り乱さぬ、命あるものならばそう思うのが当たり前であろう』
「……生きる意味の違いだ」
『生きる意味とな?』
「大抵の命は己のため、そして子孫を残すために生きる。だが俺は違う、俺は自分のために生きてるんじゃない。俺は都の、大切な義理の妹の未来を守るために生きる。だから俺は俺の死を恐れない、受け入れている」
『他人のためか』
「それに」
『うむ』
「数えきれない程の命を奪ったクズに、今更自分の命を惜しむ権利があると思うか?」
それは彼の嘘偽り無い本音。
前世で多くの命を奪って生き永らえた事実は、例え罪悪感を覚えてなくとも彼の心に刻まれている。
命の軽さ、命の重さ。
命の弱さ、命の強さ。
実体験として返り血として認識してきたそれらは、彼の命に対する価値観を明確にした。
即ち『人は死ぬ時は死ぬ』。
言葉にすれば当たり前の事だ。だがその『死』が唐突に訪れる悲しく虚しいものであるとも知った彼にとって、自分の命が終わる時に自分の未来を欲する欲深さは恥ですらあった。
ましてやそれを他人に押し付けて身、『自分さえ良ければ良い』という発想ができれば或いは良かったのかも知れないが、彼にそんな事はできなかったのである。
『死を受け入れる事は偉業では無いぞ』
「だろうな。だが、俺だけ死ぬのは嫌だなんて我儘を言えるような精神性は持ってないんだよ、俺は」
『然様か』
「……いい加減に本題に入ろう、互いに時間の不経済ができる暇人でも無いだろう」
『それも的を得ているか』
頷いた冥王竜は青年に問うた。
『おんしには精霊の宝玉を与えてあったな』
「ああ、ジョーカーが全部持っていってしまったがな」
『何を持っていたか、覚えておるか?』
「……炎、草、地、水、風、雷だ」
デュエルモンスターズが持つ6つの属性、そこに草と雷を足したものが彼の持っている宝玉だった。それを元に生み出した力で戦い、勝利を積み重ねてきたが……。
『光と闇は特別な宝玉でなァ、他の6つとは少々勝手が違う』
「……そういやポーラがそんな事を言っていたな」
『うむ。光と闇とは即ち概念、他の6つと異なり自然界は在ってもモノとしてはそこには無い。見える、しかし見えぬ、それが光と闇よ』
見えるけど見えないもの、って奴か。その概念をこんな場所で聞くとは。
だがしかし、確かにそうだ。
炎は炭素と酸素。
草は炭素。
地は珪素や鉄やアルミ等のミネラル。
水は水素と酸素。
風は空気に含まれる酸素や窒素といった気体。
雷は元素じゃなく電子。
物質としてはそれぞれ存在している。もし原子や電子を掴む事ができるのなら、これら6種類は文字通り手に取る事が可能だ。
だが闇は物質じゃないし原子や分子も無い、いわば『無』。
一方で光はいわゆる電磁波であり、エネルギーそのものだからこっちも元素が無い。
故にその2つは他の6つとは違うものだ。
『そも、光と闇とは何だとおんしは思う』
「光と闇が何か……? 先刻感じ取ったもの……じゃあ答えとしては相応しくないようだな」
『うむ、おんし自身の光と闇ならそれで良いが、ワシの求める答えとしては不適格よ』
目を閉じ、考える。
光とは。
闇とは。
希望と絶望だろうか。否。
善と悪だろうか。否。
昼と夜だろうか。否。
太陽と月だろうか。否。
どれも違う。それらは要素の1つに過ぎない。
「駄目だ、俺の……、俺の中にある
『死、だ』
「死? 光によって生き、闇によって死ぬ、と?」
『そうではない。闇とは、命である。
対し光とは、有無である。この世の始まりに一枚のカードがあり、そのカードの放つ輝きを以てこの世に光が産まれた。光が産まれた事により、相対的に闇が刻まれ、影という概念もまた刻まれたのだ』
世界が始まった時、そこには光は無かった。
太陽が無ければそこには色は無く、相手を目で認識する術も無い。
やがて燃えるような星が現れ、世界が照らされた。照らす光が生まれた事で、物には形があると認識された。
色や陰影によって神羅万象に形を与え、形に意味を与える。これが光の役割である。
では光の生まれる前には形に意味の無い、闇の世界だったのだろうか。
否。
光の無い世界に闇もまた存在しない。何故なら光と闇は一対の存在だからである。
太陽があってこそ月が輝くように。
絶望するからこそ希望に縋るように。
光によって“明るい”場所が生まれた事により、相対的に“暗い”場所が生まれた。これが闇だ。
即ち、光の無い世界では闇は存在しない。闇とは光あってこそ認識されるものなのだから。
故に原初に闇は無く、ただただ『何も見えない』『無』があった。『何かが見える』『有』あってこそ、闇も知覚できる。
そしてただ光が輝いているだけでは、そこは真っ黒だった世界が真っ白になるだけでしかない。
世界を白だけにするのではなく、光を遮ったり反射したりする事で色が、命の形が明確になる。それが闇の役割である。
『死を司るという事は、生を司るという事。生と死は表裏一体、別つ事適わぬ。ワシからすれば2つは1つ、そこに差は無い』
「ふっ、冥界の王者らしいセリフだ」
『無論である』
光無くして闇は無く、闇失くして光も無し。
それが真実。
『だからこそ、ワシはおんしに告げよう』
「ああ」
一拍。
『今のおんしに闇の宝玉を授ける事はできぬ』
「だろうな」
『ほう?』
「俺の命、長くないんだろ。“死”を闇が司ると言うのなら、迂闊に譲渡すれば俺はそこに引きずり込まれる、戦いの本番になる前に文字通り死ぬ」
『何と、そこも理解しておったか』
「まぁな」
特に驚く事も無く、「薄々察していた」と黎は小さく頷いた。
☆
──宿の庭
「分かっていた事、です……。どうせ私なんて……、どうせどうせ……」
「フン、五月蝿い女だ。エネルギーが無いよりマシ程度とは、貴様は余程ツイてない人生だったようだな」
タイタンと弥生を敗ったラースは、その後もその宿にてハンティングを行った。
宿泊客は他に6名、内デュエリストは3名。
「報告せよ」
「「ハッ!」」
デュエルを行わない者はカードに封印しても殆ど旨味は無いため、適当に殴って転がしておいた。
また他にいたデュエリストもチンピラが1名、孫に付き添って始めたばかりの老人が1名と大した収穫では無かった。という旨をグリーフとフィアーから報告されたラースは親指の爪を噛む。
「チッ、これだから人間は……! 我が仕留めた2匹以外は雑魚以下か!」
「ラース様!」
そんな彼の元に、別行動を取らせていたヴァニティが報告のために飛んで来た。
本来ならこの3人は会話もロクにできない程度なのだが、今回は状況を自分に知らせられるよう調整しておいたのである。
「何事だ」
「奴らが……、バランサーと“騎士”の魂が光の領域にて光の宝玉を入手する運びとなりましたであります!」
「……事実だな?」
「ハッ、光の領域の長たる『アルカナ ナイトジョーカー』に勝利したのをこの目で。今は倒れておりますが、起きれば光の宝玉を入手する事は確実であります! 始末すべきとは考えましたが、あの場ではそれも難しいと判断し急ぎ戻りましたであります!」
「ふむ」
面倒な、とラースは呟いた。
既に邪神の護衛は自分1人。倒れた6人の内4人は協力者ありきだったとはいえ黎の手で倒されており、これ以上パワーアップさせれば、その牙が自分に届く可能性は大いに有り得る。そうなれば邪神は無防備だ、邪神に勝てるワケが無くとも邪神に手を出されるのは護衛として避けねばならぬ事。
プライドの号令で4人の護衛が次元の違う場所に逃げたのがミスだとはラースは思っていない。しかし下手にアドリブで逃げた所為で、更に違う次元の敵も招き入れるとはラースも想定外だったのである。しかも全く違う次元に逃げたせいでこちらから連絡も取り辛くなっており、やっと探せた時には既に3人もやられていた。
これ以上人間の好きにさせるのは屈辱極まりない。そして汚名を雪ぐチャンスは今回を逃せば残っていないだろう。
「良かろう、我らも聖域に向かうぞ」
「サー・イエッサー!」
「かしこまりましたであります」
「押忍!」
「向こうでは我らの力は大きく制限される。そのためグリーフ、ヴァニティ、フィアー」
「「「ハッ!」」」
「
to be continued