遊戯王GX~精霊の抱擁~   作:ノウレッジ@元にじファン勢遊戯王書き民

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ストーリーパートです
読み流しても大丈夫……の筈


STORY90:『虚構』

 

SIDE:黎

 

 

 目覚めるとそこは聖域の床だった。

 頭の後ろが柔らかい感じがするので誰かが枕でも置いてくれたのだろうか。

 

「……ん、目が覚めた?」

「ポーラか……?」

「……私の膝枕、寝心地が良かったみたいで幸い」

 

 はぁ、膝枕。そっか、それは有難いな。

 嬉しい筈なのに頭が動かない、ボーッとして上手く考えられない。

 肉体の頑丈さだけが取り柄なのに、情けないったら無いぜ。

 

「目が覚めたようだな、主殿」

「さく──」

「動くな」

 

 続けて聞こえた俺の相棒の声。顔を動かして声がした方を見ようとするが、それより早く彼女の刀の鞘が俺の額を押さえ、動きを止めた。

 

「己が何をしたのか覚えているか?」

「……ああ」

「結果、貴方は腕を切断せざるを得なくなった。主殿の事ならまた生えるとは思うが、それでも負担がゼロでは無かろう。今は安静にしていろ」

 

 言われてみれば確かに、右腕が無い。ほぼ肩口からバッサリと無くなっていて、代わりに多肉植物の葉が包帯のように巻かれている。

 桜がやってくれたのか。

 

「主殿がいつか致命傷を負うのは目に見えていた、故に事前に用意していたまでの事。自傷の結果使う事になる可能性も考慮していたが……、まさか本当にその可能性で使う未来になるとは思わなかったよ」

 

 むぅ、反論できねぇ。

 あの場で負けるワケにはいかなかったのは確かだが、命を賭けるべき場面だったかと言えばそれは違う。あの場で死んだらそれこそ本末転倒だ。

 

(腕や足が消えるなんてのは前世じゃあ日常茶飯事だったが、今世では初めてだな。必要経費ではあるが、ここで払うべきタイミングでも無かった、……かな)

 

 猛省。

 だが同時に、得られるものもあった。

 この場で邪神の力を受けねば、恐らく生涯知る事の無かったものだ。

 

(問題はその『得られたもの』を桜達に言うワケにはいかないって事か……)

 

 言えない理由は2つ。

 1つ目はそれが俺の感覚的な話だから。言えば信じて貰えるとは思うが、証拠が無い。またこの場で『ケイオス・フォース』を発動し倒れるなんて真似をするのは御免だ。ぶっちゃけあいつらが怒るし泣く。

 2つ目はそれを言えば桜達と敵対する可能性がある(・・・・・・・・・・・・・)からだ。これは絆とか信頼の問題じゃない、理屈と本能だ。最後にそうなるならまだ良い、だが今あいつらと戦うのは悪手でしかない。

 

「あれ、そういやフィオとフレイは?」

「……フィオはサーが寝てる間に出て来た敵と戦った、フレイはその治療中。……礼拝堂のベンチにいる」

「ちなみにその敵とは、主殿の腕を触媒に姿を得た邪神のエネルギーだ」

 

 うげ、知らない間にフィオを殺そうとしたって事か。

 

「悪い事、しちまったなぁ」

「反省する気があるのなら、回復してから謝れ」

「ああ。よっと」

「返事をしながら立ち上がるな馬鹿主(ばかあるじ)

「時間が無い」

「何?」

「歩きながら説明する、ジョーカーはどっちだ」

「……あっちの方、多分彼の私室。……この道を真っ直ぐ行った突き当たりだから迷う事は無い」

「サンキュー。っと……」

 

 一歩足を踏み出そうとして、僅かばかりバランスを崩した。

 立ち眩みではない事は明々白々。ざっと肉体を探ればあちこちに損傷が見受けられる。

 骨……、ああ右の肋が全部グチャグチャだな、歩き続けたらボロボロに割れていくだろうな。足や首の骨もヒビが入ってる。

 筋肉……、腰と腿がヤバいか。この程度なら問題は無い、重くて動かすのもしんどいがまだ回復できる範疇だ。

 神経系……、酷いな、末梢までズタズタだ。右腕と一緒に作り直すしかねぇや。

 浸食は右腕で粗方抑え込めたようだが、どうやら細い根のようなものを俺の体内に巡らせて寄生しようとしたらしい。肉体の根深い部分にまで入り込んでいるせいで、この聖域の清らかなエナジーでも浄化できていない。

 しゃーない、今は戦うための機能をオフにして回復に全振りだ。修復に注力すれば取り繕えるようになるまでそんなに時間は要らない。

 髪の毛も取り込むか。武器の意味もあるが、こういう非常時のために伸ばしておいた面もある。中に構築している蛋白質をフィードバックさせて緊急用のエネルギー源にする、気休めにもならないが無いよりマシだろ。

 後は悪いが桜のこの包帯代わりの葉も貰う。右肩を変質させて獣の顎のようにし、一気に食い漁るとそこそこの魔力と栄養が体内に取り込まれた。流石は桜、良い仕事をしたな。

 

「こら! それはオヤツじゃないんだぞ主殿!」

「悪い、本当に時間が無いんだ。ここからはタイムアタックになっちまうんだよ」

「だからと言ってだな……」

「……諦めよう、サーはこういう人。……目的のためなら善意も悪意も、自分自身だって食べちゃう怪物」

「それは分かっている、この男は死にたがりだとな」

「酷い評価だ。……その通りだけどな」

 

 はぁ……。光の宝玉、フィオ、フレイ、邪神……、やる事多すぎるだろ。

 何から手を付けるか決めたけど、本当に宝玉からで良いのか?

 

(フィオに謝罪とお礼……、いやジョーカーの方が先か。光の宝玉を手土産にしないと、あいつが体を張った甲斐を目に見える形で教えてやらないとな)

 

 あいつの性格からして、動けるまで回復できれば戻って来る筈。なら今は回復させてやるべきだ。

 フィオは人間……、かどうかは最早分からないけど、傷付けば倒れる命である事は間違いない。桜とポーラの反応から、死に瀕した重体でも無さそうだし、ほんの少しでもゆっくりして貰おう。

 

「して、主殿。説明をしてくれるのだろう?」

「……私も疑問。……どうしていきなり動き出したの、生き急ぐべきじゃないよ」

「その発言はババ臭いぜ、ポーラ」

「……蹴って良い?」

「やめて」

 

 あー、頭がぼーっとするよホント。

 無駄に強い肉体が取り柄の化物が情けない。

 

「説明するが……、フィオには言わないでくれるか」

「何故だ」

「あいつに心配かけたくない。俺と浅からぬ縁があるかも知れないけれど、これは俺の問題なんだ。俺と都と邪神の問題、あいつに要らない負担はかけたくない」

「……サーがそう望むなら」

「色々な意味で無用とは思うがな」

「それでもだ」

 

 

  ☆

 

 

 重い足を引きずる事、約5分。ポーラの案内で俺はとある扉の前まで来ていた。

 

「ここか?」

「……うん」

 

 見るからに荘厳な造り……、というワケでも無く質素な感じの木製のドア。模様が彫られているのでもなく、まるで既製品をそのまま取り付けたかのような場違い感すらある。

 余人が見れば戸惑うかも知れないが、ここがジョーカーの部屋で間違いない。その証拠に『Joker』と部屋のネームプレートに刻まれていた。

 

「ここからは俺1人で行く」

「承知した、我々は部屋の外で待っているぞ主殿」

「……ジョーカーの人柄は信頼できる、何も無いと信じてる」

 

 緊急で生やして右腕と傷付いた左腕で戸を押す。

 ゆっくりと開く扉の先で、ジョーカーは椅子に座って待っていた。あの特徴的な紫の鎧は装着しておらず、事務仕事のために軽装でペンを滑らせていた。

 

「漸く来たか」

「ああ、時間かけて悪かったな」

「だから言ったんだ、使うべきじゃないってな」

「悪ィ」

 

 ドアを閉めると同時、ジョーカーは片手で簡易的な魔法陣を展開しドアに魔法を施す。

 陣には『防音』と書かれていた。

 

「聞かれたくない話、持って来てるんだろ」

「……何で知ってるんだ」

「お前が『ヴァンダルギオン』の爺さんと会ったからだ。あの爺さんとは浅からぬ付き合いがあってな、精神だけだろうが近くに来れば分かる。爺さんは自身の領域から滅多に出て来ない、なのに接触したって事はそれだけ重要な何かがあるって話だろうよ。例えば……、お前の今後の進退とかな」

 

 そこまで察してるのか、参るね。

 まるで俺という今代の主人公を導く先代主人公じゃねぇか。

 或いは、互いに本当に何かの物語の主役だったりしてな。

 

「じゃあ単刀直入に訊くぞジョーカー。悪いニュースと超悪いニュース、どっちから聞きたい?」

「良いニュースはねぇのか」

「無い」

「ハッ、こいつはお笑い種だ。護衛を残り1人になるまで切り崩して良いニュースが無いとはな」

「違いない。で、聞くのか? 聞かないのか?」

「聞くよ、お前の好きな方から聞かせてくれ」

「なら悪いニュースからだ」

 

 笑い種、か。

 そうだな、確かにそう表現するのは的を得ている。

 20年以上生きた。社会の酸いも甘いも知る奴からすれば若造だろうけれど、それでも俺は無知じゃない。

 だからこそ、分かる。

 俺にとって■■こそが■■って事が、誰にとっても最悪なニュースだという事が。

 

「俺の命だが、もう残り少ない。『ヴァンダルギオン』曰く、強敵と後2回戦えるかどうか、だそうだ」

「1回はあるのか」

「ラースと戦って勝った後、邪神に喰らい付けるって意味で良いなら、その通りだ。ただもし奴らが1人でも敵を増やしていたら……、俺は邪神と戦う前に斃れる」

「難儀だなァ、お前の人生は」

「良いさ、返り血と殺し合いこそ俺の花道。それが俺の闇だからな、夜中にこそ咲く花は太陽の下では枯れるのが道理だろう?」

「ならば光は?」

「──未来が欲しい、明日が欲しい、そこで皆と笑っていたい。そんな程度のモノさ。都がそこで笑ってくれる世界が、できれば俺も一緒に笑って過ごせる世界が欲しい。安っぽいだろ」

「ハ、安くなんてねぇよ」

 

 クツクツとジョーカーは笑う。

 

「知ってるか? そういう有り触れたものを願うのは、この世で一番の強欲なんだぜ?」

「そういうものか?」

「当たり前は冷たいモンだ。素知らぬ顔をして傍らにいるクセしていつの間にかふっといなくなる、そしてオレ達は消えて初めて有難みをやっと教えられるんだ。故に、当たり前が欲しいと願う奴は、永遠の安寧という値段のつけられない宝を欲するのと同じなのさ」

「……」

「だが良い答えだ。良い子ちゃんみてぇな優等生ぶった回答でも無く、悪党に吹っ切って光を捨てた奴の回答でもない。化物であろうと人間として歩み、人間であっても化物である事を忘れなかったお前だけの答えだ。お前は今、無意識にお前の答えをオレに示した。合格だ」

 

 顔に模様を刻んだ騎士が笑みと共に掌を上に向け、白い光を生み出す。

 光は球状にまとまると内側から七色の光を生み出し、それは瞬く間に俺の中へと溶けて行った。

 

「お前から持って行った宝玉、そして新しい光の宝玉をここに。光は希望となり、だが光の輝きを以て全てを塗り潰す(あかしま)にもなる。闇と光は表裏一体、どちらかだけじゃあ誰も何も生きられねぇ事を忘れるな」

 

 光、か。

 そういや2年生編で敵対するのは破滅の光つってたか。

 俺みてぇな化物でもこれを受け取れるとは、光ってのは本当に人間を見てねぇんだな。必要なのは光の力を受け取り振るう事のできる器……、それだけか。

 とはいえこれで俺の中に精霊の力が戻った。炎、水、風、地、草、雷、そして新しい光。

 残すは、闇ただ1つ。

 

「上手く使えよ、救世主」

「救世主なんてガラじゃねぇよ」

「なら何と呼べば良い?」

「化物で充分だ」

 

 反射的に否定してしまったが、実際救世主呼ばわりは勘弁して欲しい。俺は聖人じゃないし、善人でもない。徹頭徹尾俺自身の望むように動くヒトデナシ、ただ困ってる奴を見捨てると気分が悪い。誰かに手を差し伸べるのは俺のためでしかねぇのさ。今夜の夢見を守るためとでも思っておいてくれ。

 だというのに、ジョーカーは笑みを崩さなかった。

 

「何だ知らねぇのか?」

「何が」

「誰かのために動けて、誰かのために助けられて、誰かのために傷付いてでも戦い、その見返りを物理的には求めない奴を何と表現するか」

「あぁ?」

 

 

 

 

 

「それこそヒーロー(救世主)って言うんだよ」

 

 

 

 

 

 ヒーロー、ね。

 それこそ、十代の専売特許だろ。

 俺みたいな殺戮マシンには似合わないってんだ。

 そう思った俺の顔は、恐らく過去一番に苦々しい表情をしていただろう。

 

「で、超悪いニュースってのは?」

 

 おっと、言い忘れる所だった。

 

「ああ。──だ」

 

 努めて何でも無いかのように言う。

 それを聞いたジョーカーは驚きで目を見開き、しかし1秒もせず見開いた目を戻して冷静さを取り戻した。

 

「マジか」

「マジだ」

「そうか……」

 

 斬られるかとも思ったが、しかしジョーカーは顔を伏せて考えるだけで動こうとしない。

 

「いや、その問題は置いておこう」

「良いのか?」

「質問に質問を返すようで悪いが、この場で解決できるのか?」

 

 ……無理だな。

 衝撃の真実ではあるが、暴露してどうこうなるものでは無い。

 だってそうだろう?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 邪神の存在が『虚構』だなんて。

 

 

  ☆

 

 

SIDE:無し

 

 

 黎がジョーカーから光の宝玉を受け取ったのと同時刻、聖域の上空にラースが到着した。

 彼が作り出した3人の新しい護衛は彼の中に収納されており、またラース自身も気配を殺して移動したため誰にも気取られていない。

 

「フン。精霊の宝玉の大半が“騎士”の魂の元に渡り、精霊界を攻撃する旨味は失せた。加えて攪乱のため護衛は全員異世界に転移し、精霊界を攻撃する手間が割に合わなくもなった。故にここまで放置していたが……、どうやら我の失策だったらしい」

 

 聖域の一ヶ所から強い力を感じる。

 燃えるような赤、流れるような青、吹きすさぶ黄、力強い茶、恵みをもたらす緑、全てを引き裂く紫、そして燦然と輝く白。火山で(まみ)えた時には無かった精霊の力が彼の元に戻っていた。

 だがそれ以上に恐ろしい事実が秘されていた事にラースは気付く。

 

「そうか、そういう事(・・・・・)だったのか。だからこそ奴は我々に勝てて来たのか。ただの人間でも無く、特殊な出自でも無く、それ(・・)が故に……。成程、邪神様と敵対できるのも頷ける」

 

 この予想が真実ならプライド達の敗北も納得だ。

 であれば自分も勝てないかも知れない。

 

「しかし、器は脆いようだな。まぁ当然だ、これまで多くの護衛と戦い傷を負って来た。生温い怪我では無い。一方で我らが主上は不死の肉体に宿っておられる、であれば最後の戦いの結末は明白。我の役目は、その明白な未来に必ず辿り着けるよう器のヒビをより深くする事だ」

 

 ククク、とラースは意味深に笑みを深める。

 これから死地に向かう男とは思えぬ、獰猛な狂信者の笑みだ。

 

「ヴァニティ達には死を強いるが……、我自身にもまた強いる道を取るか。我は死ぬ、だが暫しの時の後に貴様も死ぬのだ、“騎士”の魂よ」

 

 ぼうっ、と獲物の巨大な斧を手に取る最強の護衛。

 それを思い切り振り被ったかと思うと、一瞬で流星群のように数を増やして聖域に向けて投げる。

 激しい爆発が、巻き起こった。

 

 

to be continued

 

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