メイプルは自分の切り札である「悪食」を温存するのためにリブラさんからアドバイスを貰ってきたことを嬉しそうに話している。あの人を信用していない訳じゃないけど、そんな簡単に切り札を教えても良いのだろうか?
そんなことを考えながらゴブリンの振るう短剣をずらし、がら空きのボディに強烈なパンチを叩き付けるメイプルを見詰める。ひょっとして、あの人もメイプルと同じタイプの人間なんじゃあ…。
リブラさん曰く「大盾使いと小柄ほど視界の半分を潰す」と言っていたそうだ。確かにメイプルの身長だと大盾を使えば前を見えなくなるし、私の攻撃や退路を塞いでしまう可能性がある。
それにリブラさんはメイプルと一緒に魚介類を美味しそうに食べていた。あの人はゲームの中で見付けた未知の味を楽しんでいるのか、それともモンスターを食べることでアブノーマルな欲求を抑えようとしているのか。
「シールドアタックっ!」
メイプルは両足を入れ換えてパンチを打ちやすい体勢からアッパーのように放ち、ゴブリンを洞窟の天井まで叩き上げている。
さっきの「シールドアタック」はSTR依存スキルだってことはメイプルに聞いてるけど、どれだけ盾のSTRを上げたら敵を叩き上げることが出来るようになるのよ。
「サリー、そっちに行ったよ~っ!」
「スラッシュ…!」
後ろ腰の差していた水底のダガーを振り上げ、ゴブリンを真っ二つに切り分ける。メイプルより真っ当なステータスを作ろうかと思ってたけど、このままだとメイプル色に染まりそうだなあ…。
いや、それは悪い意味じゃないけど。
うん、メイプルよりリブラさんは少しだけマトモなステータスだと思ってたけど、あの人もメイプルが言うには「毒竜」よりもスゴいスキルを持ってるみたいだし、敵対するのは得策とは言えないかな。
「サリー、あの空飛ぶタコってなにかな!」
そんなことを叫んでいるメイプルの指差す方角へ顔を向けると気の抜けそうな顔の紫色のタコが「飛ぶ」というより「跳んでいる」のが見えた。
「なにあれ、えっ、ボスなの?」
いろいろなモノを吹き飛ばしていたタコの触手が物凄い勢いで伸びてきたかと思えば雪山の付け根辺りで止まった。ちょうど飛び乗ることが出来そうな位置だけど、あれから敵対している反応はない。
この卵みたいに友好関係を築くことが出来るモンスターなのかと考えながらメイプルの意見を求めようと視線を動かすとタコの触手の上に乗ろうとしているメイプルが視界の端に映り込んだ。
「なにやってるのよおぉぉ!?」
なんとか「超加速」を使ってメイプルを捕まえたけど。タコの触手は目の前まで迫っている。
こんな巨大モンスターと戦うのは今のレベルじゃ無理なのは分かり切ってるのに、メイプルは楽しそうに「リブラさん、おっきくなりましたね!」と話している。
「ねえ、このタコってリブラさんなの?」
こんなモンスターみたいな見た目だったかな?等と考えながら吸盤に乗ったかと思えばタコの頭の上に降ろされ、雪山で見えた景色より綺麗な世界が広がっていた。ああ、ゲームだって分かってるのに感動してきた。
「リブラさん、そのまま前進してください!」
「いや、流石に乗り物みたいに扱うのは…」
「えっ、でも、海に向かってるよ?」
この人もメイプルと同じで難しいことを考えずにゲームを楽しんでるのは分かった。それでも降りる場所もないのに、どうやってメダルを集めれば良いんだろうか。
そんなことを思いながら綺麗な青空を眺めているとプレイヤーが弾き上げる触手が見えた。あんまり深く考えるのはやめよう。