なのは+『永遠の空』   作:黒影翼

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第八話・二人の後悔

 

 

 

第八話・二人の後悔

 

 

 

Side~フェイト=T=ハラオウン

 

 

 

母さんは凄い魔力を持つが研究職だ。

儀式魔法とかの性能や制度、魔法そのものの扱いはともかくとして、『空戦』がそこまで強いとは思えない。

それに、下手に長引いたらリミッターで扱える魔力に限りがある以上かえって不利になる。

 

だから…すぐに決める!

 

『ソニックムーブ。』

 

高速移動で一気に背後を取って、デバイスを振り上げる。

 

運動すらまともに出来ない体だった母さんが、近接戦に対応できるはずが無い。

そう考えての選択だったんだけど…

 

「ぐ…っ!?」

 

止まると同時、デバイスを振り上げた所で脇腹辺りに物凄い衝撃が走る。

何をされたのか、何を受けたのかは辛うじて分かった。

 

 

フォトンバレット。

 

 

初歩も初歩、魔力を多少扱えるなら能力の得意不得意に関わらず誰だって扱えるだろうただの魔力弾直射攻撃。

 

だからなのか、発生が早すぎて殆ど分からなかった。

 

おまけに、一応まだインパルスフォームだったというのにマントごとバリアジャケットが抜かれて、肌が外気に晒されている。

 

初歩の魔法なんて母さんにとっては息をするくらい簡単な筈だ。出所も分からない速射攻撃を前に近接戦なんて無謀すぎる。

 

再度高速移動を行い距離を取る。

中距離からの攻撃で撹乱してから…

 

「サンダーレイジ。」

「っ!」

『ディフェンサー。』

 

止まったと同時に降り注ぐ雷撃を、咄嗟に防御した。

防御自体は間に合ったものの、雷撃で防御が軋む。

 

 

何て威力…っ!抑えきれるか!?

 

 

防御に罅が入った所で、どうにか雷撃は収まってくれた。

 

「はぁ…はぁっ…」

 

 

 

強い。

 

 

 

感想はただそれだけだった。

 

思えば私はリニスに魔法を教えてもらって、事件の最後も母さんはジュエルシードの制御してただけだから、母さんが戦う所は初めて見るんだっけ。

 

欠片でこれだけ強いなら…本当の母さんはどれだけ強かったんだろうな。

 

「でも…負けない。」

 

地球でも騒ぎが起きている以上こっちに人は簡単には裂けない筈。

母さんは絶対に私が止めて見せる。

 

 

 

Side~プレシア=テスタロッサ

 

 

 

…忌々しい。

起きてすぐ見せられたものは、フェイトの成長した姿だった。

人形の成長などどうでもいいのに…見たくも無いというのに。

 

局で枷でもあるのか魔力値は以前よりおちているようだが、魔法の発動、制御が異常にスムーズで洗練されている。

魔導師としての才覚は、かなりの物だったと言う事なのだろう…

 

 

 

アリシアとは『違って』。

 

 

 

「邪魔…なのよ。」

 

 

 

フェイトの周りに幾つもの魔法陣を展開、魔法陣から雷撃を打ち出す。

次元跳躍で連撃を放つ事すら可能なのだ、距離程度は無いも同然で魔法を扱う事は出来る。

 

が…

 

フェイトは当然のように私の目の前に現れた。

 

此方から撃つと、狙わなくても先手を取り返せる程速さに特化しているという事のようね。

先同様、接近してきたフェイトに向かって腰の影からフォトンバレットを放つ。

 

が、二度目となれば見越していたのか、左手の手甲で簡単に防がれた。

しかも、斜めに受けて被弾経始効果を持たせて衝撃を分散させている。

 

地味だけれど効果的ね、味な真似を…

 

「はあっ!」

 

右片手で持ったデバイスを振るうフェイト。

回避が間に合うはずもなく、防御魔法で受け…

 

「っ…」

 

衝撃が重い。

片手で魔力まで封じられてる身で振るった一撃とは思えない。

 

私が防御したのをいい事に、デバイスを振りぬいたフェイトは今度は両手で持ち、サイズフォームへと切り替える。

 

調子に乗る…

 

「はっ!」

「うぁっ!!」

 

私は鞭に変化させた杖を下から振り上げた。

両手持ちの武器による大振りより当然早く、長さも足りているそれはフェイトの右肩を強く叩いた。

 

距離を取ったフェイトに向かって魔法で追撃を行おうとして…

 

「ファイア!」

「ぐっ!」

 

すさまじい速度の魔力弾が、私の腕に直撃した。

攻撃まで速度重視なのね、厄介な。

 

再度高速移動を行ったのか、またフェイトの姿がぶれる。

ただ、今度は正面に現れず、背後に現れた。

 

高速移動魔法を使っておきながら二度正面に現れたのは、私が接近戦を得意としていない事もあるが、移動で死角を取らない事に慣れさせる為もあったのだろう。

 

 

 

狙いは『半分』正しかった。

 

 

 

正しかったのは、高速移動で背後を取るのを当然としなかった事。

間違えたのは、三度目で背後への警戒が薄いと判断した事。

 

「っ!?」

 

中空から現れた魔力糸が、フェイトの両腕を絡めとる。

すぐさま断ち切ろうと足掻くフェイトに向かって、電撃による麻痺効果を含めた鞭を振り下ろした。

 

「っあぁっ!」

 

フェイトの身体が痙攣するように震え、力なくうな垂れる。

これで力任せに引きちぎられる事はなくなっただろうけれど、どの道時間をかければ解除されかねない。

 

動けないうちに大技で完全に沈黙させようと距離を取って…

 

 

 

フェイトの両腕を絡め取っていた魔力糸が、金色の円刃によって二本とも断ち切られた。

 

フェイトと同じ、円刃射出魔法をこの精度で連射する腕の持ち主。

フェイト以外となると、一つだけ心当たりがあった。

 

 

 

 

「魔力制限を受けた身でプレシア相手に見事ですフェイト。貴女に魔法を教えた身として鼻が高いです。」

「え?」

 

 

 

夢の残骸である私がこうしてここにいる。…なら、私『以外』がいたとしてもまるで不思議は無い。

自身の背後から聞こえて来た声が信じられなかったのか、呆けたように声の方向に振り返るフェイト。

 

聞き覚えのある声と、見覚えのある姿。

 

出来るなら、会いたくは無かったのだけれど…

 

 

「でも、ここは私に譲ってください。私にとって、プレシアはたった一人の大切なマスターなので。」

 

 

少し憂いを帯びた笑みを浮かべて、口煩い山猫はそう言った。

 

一瞬ちらつく幻影。

アリシアとリニスが居た、綺麗で幸せな過去。

 

取り戻す物を新たに見直した気がして、私は身体に力が戻ってくるように感じた。

 

 

 

Side~リニス

 

 

アルフを抱いたまま消えかけた時には少し慌てたけれど、何となく消えない気がしていた。

そしてそれは当たっていたようで、いつの間にか私はゆっくりと覚めていく意識の中で、それを見ていた。

 

プレシア相手に圧倒的に不足している力を、洗練された魔法と研ぎ澄まされた反応で補って戦うフェイトの姿。

元々速さに特化していたけど、単なる移動だけじゃなくて魔法の扱いから動き方まで速く研ぎ澄まされている。

思考も絡めて戦っていて、制限をかけられているはずなのに以前より強くなっていた。

 

本来なら本当の全力を、フェイトの全てを見届けたい。

でも、それが許されるだけの時間も、そのために力を裂く余裕も無かった。

 

 

 

私がやらなきゃ行けない事、やりたかった事。

それは…プレシアを幸せにする事。

 

 

 

目覚めた時からずっと、何かにとり憑かれているようだったマスター。

その理由を知った時には、本当に悲しかった。

 

本当なら、マスターであるプレシアの願いを全力で叶えたい。そのために力の全てを使いたい。

けど、プレシアの願いは、教え子のフェイトを傷つけ、プレシア自身の身体を蝕み、法に触れ…

 

 

 

そこまでしても叶わない、叶える事を許されない願いだった。

 

 

 

フェイトを不幸にしながら、取り戻せない物の為に身を削るプレシアを見ている事が耐えられなかった。フェイトにはちゃんと力を託す事が出来たけれど、肝心のマスターであるプレシアの為に私は何一つ出来ていない。

 

 

フェイトとアルフには悪いけれど、私の本当の後悔は…きっとそれ。

 

 

「また会えて嬉しいです、プレシア。」

「…まさか夢の残骸になってまで貴女の顔を見る事になるとは思わなかったわ。」

「つれないですね。」

 

冷やかな視線、影しか見えない表情のまま、プレシアは私を見ていた。

本当に相変わらずだ。

役目を果たす以外のことも色々と考えたけれど、どれも煙たがられてばかりだった。

 

「どきなさい…私は貴女に用は無いの。」

「どきませんし、どけませんよ。私がここにいるのは、貴女を幸せにしてあげられなかったからなんですから。」

「貴女は本当に…いつもいつも余計な事ばかり…」

 

私が何かを告げるたびに苦い表情になっていくプレシア。

フェイトといられて、プレシアと一緒にいて、私は幸せだった。

 

けど…プレシアを幸せにしたいと思っても、何一つまともに出来ない事だけは、本当に悲しかった。

 

「あ、あの…」

「ごめんなさいフェイト。私の全部、プレシアの為に…マスターの為に使わせてください。」

 

声をかけて来たフェイトの頭をそっと撫でつつそう告げる。

フェイトは何か言いたそうにしていたけれど、小さく頷いて下がってくれた。

 

後は…プレシアだけ。

 

「眠ってくださいプレシア。辛い夢からも、悲しい夢からも、絶対守って見せますから。」

「必要ないわ…」

 

ゆっくり近付く私にむかって杖を構えるプレシア。

本当なら、いるだけで迷惑になりそうな『闇の欠片』として、マスターと一緒に眠れたらと思ったけれど、やっぱり素直に止まってくれそうにはない。

 

 

少し悲しかったけど、私はプレシアを止める為に杖を構えた。

 

 

 

Side~フェイト=T=ハラオウン

 

 

 

母さんと同じ闇の欠片のはずのリニスが、何故か母さんと戦い始めてしまった。

放置して置くわけにも行かない。行かないんだけど…

 

『でも、ここは私に譲ってください。私にとって、プレシアはたった一人の大切なマスターなので。』

『ごめんなさいフェイト。私の全部、プレシアの為に…マスターの為に使わせてください。』

 

リニスの笑顔が、私の頭を撫でたリニスの手が、偽者だと思わせてくれず、私は母さんに向かっていったリニスを見送るしか出来なかった。

 

「セイバースラッシュ!!」

 

母さんが放った雷の球体を、リニスは複数の円刃で切り裂いた。

私が使うハーケンセイバーよりも小型だけれど、その分旋回性能が良く出が速い。

 

「ジェット…スマッシャー!!」

 

殆ど間もなくリニスは砲撃魔法を放った。

なのはのものほどではないにしろ砲撃魔法。直撃を受ければただで済むはずが無い。

母さんはそれを六角形を基本とした奇妙な障壁で受け、間髪いれずに雷球を打ち返した。

 

飛来する雷球を円を描くような動きで交わしたリニスは、今度は接近戦を試みる。

近付いて来るリニスが丁度射程に入った所で、母さんは鞭を振るった。

 

鞭は速い上に威力がある。どうやって防ぐのかと思って見ていると、リニスは振るわれた鞭の先端を杖で叩いた。

 

鞭は威力もあるし速いけど、重さは無いから命中箇所にダメージが限定される。

だから武器で受けたんだって言えばそれまでだけど…

 

 

二人とも…本当に凄い。

 

 

そのまま近接戦に流れ込んだ二人は、本来どっちも直接相手を叩く武器じゃない。

どうするのかと思っていると、武器が届く位の近距離で誘導弾や魔力の刃を撃ち合い始めた。

 

なのはでもやらない。

受けたり捌いたりした後、拘束か距離を空ける手を取る。

 

使っているのは魔法だけれど、速人や恭也さんたちの斬り合いみたいに危ない距離と手数だ。

 

 

って、いつまでもゆっくり見てる場合じゃない。

私はエイミィに通信を繋ぐ。

世界をまたいでいる上に結界の中だから手間はあるけど、時間さえあれば通信出来ないって程じゃない。

 

「あの…今リニスの欠片が私を援護しに現れたんですけど、なんだか欠片っぽくないと言うか、意識がはっきりしてると言うか…何か知ってますか?」

『ホント!?リニスさんそっちに現れたんだ!いやぁ良かった良かった。』

「えぇ!?」

 

当たり前のように協力してくれたとは言え闇の欠片。どうしたものかと思って通信を繋いだのに、何故か当然のように喜ぶエイミィ。

しかも、リニスが現れたのを知っているみたいだ。

 

…無理にでも戦わないとと思ってたのがなんだかちょっと空回りだったみたい。

フレア空尉と一緒に戦って非情になる癖がついたのかな?空尉ほど酷いと人としてどうかと思うけど、私はまだ大丈夫…だよね。

 

『アルフはもう会ってるから一人じめとか気にしなくて大丈夫だよ。』

「はは…」

 

少しずれた心配をされて苦笑する。

ちゃんと話を出来るリニスの欠片が見つかって気遣ってくれてたみたいだ。

私も欠片とは言えやっぱり会えて嬉しかったし、素直に喜んでおこう。

 

『心残りとか後悔とかが現れるのが基本だし、やっぱりフェイトちゃんの事心配だったんだね。』

 

モニター越しに笑顔で頷いているエイミィに苦笑を返す。

リニスの一番の後悔は母さんの事だったみたいだし…

 

 

 

後悔?

 

 

 

『うぅ…全然進まないよぉ…』

 

モニターの端に疲れを隠さない声でふらふらと現れたアリシアの姿。

 

「あ、アリシアだ!!」

『へ?フェイト?』

 

その姿を確認したのと殆ど同時に、私は思わず叫んでしまっていた。

 

プレシア母さんの後悔がそれ以外にある訳が無い。

そして、欠片によくあった記憶の混濁が原因なのか、それ以外に何かあるのかは分からないけれど…

 

 

 

母さんが無茶するのって、アリシアが生きている事を知らないから…だ。

 

 

 

会ってすぐに戦闘を始めてしまったから直接聞いたわけじゃないけど、何となく確信があった。

 

止めないと、と思った次の瞬間…

 

 

 

轟音が鳴り響いた。

 

 

 

SIDE OUT

 

 

 




トーマ「トーマ=アヴェニールと」
リリィ「リリィ=シュトロゼックの」
ト&リ「前作解説コーナー!」

『アリシア救出の件』
トーマ「魔法が使えない虚数空間へ落ちて行ったプレシアさんとアリシアさん。普通に考えれば助けられないはずだったんだけど…」
リリィ「速人さんが虚数空間へ飛び込んで、ポッドに入ったままのアリシアさんとプレシアさんを、愛用の鋼線で絡めとったの。」
トーマ「そのまま、傍に居た皆に引き上げて貰って、ポッドに入っていたアリシアさんを那美さんに治療してもらったんだ。」
リリィ「プレシアさんの方は結局病気で亡くなっちゃったんだけど、その前にアリシアさんの無事を聞いているから、今回の闇の欠片のプレシアさんがそれを知らなかったら記憶が混濁してる事になるんだ。」

トーマ「それにしても、速人さん本当に随分綱渡りな事してるんだな…リリィが俺を助けてくれた時みたいだ。」
リリィ「わ、私の時は普通の空だったから、虚数空間とは訳が違うよ!」
トーマ「ま、本当はそこまで無茶しなくてもちゃんとやれるのが一番いいんだよな。スゥちゃん達はらはらさせるのもあれだし、落ち着いて頑張ろうか。」
リリィ「うん、それがいいよ。…お説教に巻き込まれにくくなりそうだし。」
トーマ「度々ごめん…」


『高位能力者の基本技』って結構熱いと思うのは自分だけでしょうか(汗)
私的には派手な技とは別の味があるように感じます。
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