第九話・安らかな夢の終わり
Side~リニス
空に展開される大規模な魔法陣。
恐らく、先程フェイトを縛っていた時に放つつもりだった一撃。
私はそれほど出力が高い訳じゃない。どう考えてもコレに耐え切るのは無理だ。
後は止める方法としては、魔導師が魔法を撃ってしまう前に攻撃で妨害するとかだけど…距離を稼がれた上にフェイトほど速くない私が割り込むのは難しい。
なら…撃ち合う。
「プラズマ…セイバーッ!!!」
広範囲を飲むように落ちてきた雷の中心を割るように、最大火力で魔法を放ち…
轟音が鳴り響いた。
比較にならないと言っても私も最大出力の魔法だし、プレシアも最大級の魔法のはず。
オマケにお互いに雷を使う事もあって、酷い音だった。
普通に撃ち合えば当然勝てるわけも無いけど、プレシアの魔法は広域攻撃。
自分に当たる部分だけを相殺するならどうにかなる。
「はあっ…はぁ…」
凌ぎきれたものの、全力なんて出すものじゃなかった。疲れる…というよりは意識が遠のいている気がする。
残骸の身で大きな力を使いすぎたのかも。でも…
「リニス…貴女は何処までも…」
プレシアの方も疲れが見えていた。
プレシアだって私と同じ闇の欠片なんだから、戦えば戦うだけ、力を使えば使うだけ消耗する。
フェイト、ごめんなさい。やっぱり私はプレシアと一緒に眠りたい。
このまま続ければどうなるかを何となく察しながら、それでも私は引く気になれなくて…
「待って!!」
唐突に私とプレシアの間に割って入ってきたフェイトが、誰にともなく必死な声で制止した。
Side~フェイト=T=ハラオウン
余裕の無い二人の間に、私は全速力で割って入った。
母さんが消えてしまえば全て手遅れになる。それに、リニスは残された全てを『母さんの為に』使いたいって言ってた。
アリシアがもう会う事さえ出来なくなっているならともかく、生きているんだから二人の願いを纏めてかなえてあげられるかもしれないんだ。捨てておけなかった。
「母さん…母さんの願いを聞いてもいいですか?」
「…それは最初に聞くものじゃないのかしら。」
「ご、ごめんなさい…でも、お願いします。」
反論できない指摘に謝りつつ、願いを聞く。
母さんは呆れた様子で小さく息を漏らすと、杖を下げて口を開いてくれた。
「アリシアを幸せにしてあげる事よ。私にはいつだって過去にしか綺麗な物は…」
「やっぱり。」
「聞いておいて随分な反応ね。」
「あぅ…」
考えていた通りだったから思わずやっぱりと漏らしてしまって咎められる。
怒られているのは昔と同じだけど、何処か温かい気がして思わず情けない声を出してしまう。
鞭で叩かれないだけで冷めた反応しか無いのは変わらないはずなのに、何故だか悲しくはならなかったのは、きっと母さんの瞳のせいだ。
いろんな人に触れたから分かる。悲しそうではあるけれど、昔の母さんの瞳にあった怒りや憎しみみたいなものが見えな…
「話した所でどうなるものでも無い筈よ。」
見えなかったんだけれど、それが嬉しくてジロジロと見すぎたからか、普通に怒らせてしまった。
「貴女、管理局員なんでしょう?私が消えるまでの時間を稼ぐ気なら」
「違うんです母さん、聞いてください。」
「話があるなら早くしなさい。」
時間がないと焦る母さん。でもその通りだ。
本物の身体でも無いのにあれだけの力を振り絞って維持できているほうが不思議なんだ。休めば回復すると言うものでも無いだろうし、早く伝えないといけない。
「アリシア…生きてるんです。覚えてませんか?」
私の事は母さんにとってどうでもいいんだって自分で認めるような気がして一瞬躊躇ったけれど、ハラオウンの性を受け取らなかったアリシアに母さんの全てが向くのは仕方ないと諦めて、母さんの望むはずの事実を告げた。
Side~プレシア=テスタロッサ
フェイトが告げた言葉の意味が、一瞬分からなかった。
だって生きている筈が無い。
だからこそフェイトを創り、ジュエルシードを集めさせ、それで…
私は虚数空間へ落ち…て…
『死なせるかぁっ!!』
その叫びを…聞いた。
黒い服を着た真紅のマントの少年。
私に縋り付いていた目の前の人形ですらやらなかった、虚数空間への特攻。
「ヒーロー…」
そう、あの馬鹿な子供は確かにそう言っていた。
そして、あの馬鹿な子供の事を思い出すと、記憶が収まるべき形を見つけたかのように降りて来た。
死を知ってる気になるなと説教してきた事。
病で死に瀕している私を見てまだ救うと言い続けた事。
アリシアが…『治った』と言っていた事。
「でまかせ…では無いの?」
「はい。さっき通信を繋いでどうにか来て貰う様に連絡しました。到着するまで待っててくれませんか?」
「そう…」
散々憎んだ人形の言葉。そんなものが今更何故、こうも素直に聞けるのか。
少し疑問に思ったけれど、考えるのは止めた。
アリシアに会える。それが本当なら、それだけで十分なのだから。
「あ、あのー…フェイト?」
それまで会話に混ざる事のなかったリニスが、恐る恐ると言った様子でフェイトに声をかける。
フェイトの方もリニスを放置しておく気はなかったのか、すぐに反応してリニスに向き直る。
「ひょっとして私…戦わなくても良かったんでしょうか?」
ためらい気味のリニスの問いかけに、フェイトの表情が面白いように歪んだ。
使い魔が勘違いで自分のマスターと戦う。
フェイトもアルフと言う使い魔を持っているからその気まずさが何となく分かるんだろう。
「え、えっと…ごめんねリニス。熱くなってて思い出すのが遅れて…」
「い、いえ!あまり相手にしてくれないマスターと珍しく遊べたと思えば悪くなかったですから!ははは…」
フォローになっているのかも微妙な会話をする二人。
…思い返せば、できた時からあんな大人しい笑みと控えめな反応をしていたわね。
アリシアを待つ間、私は少し離れた場所で二人の談笑を眺めていた。
Side~アリシア=テスタロッサ
欠片を分析して少し判明してきた事がある。
今の所の話ではあるけれど、形成された欠片に複数人のイメージが混ざったりしている事はなかった。
本人の情報…想いと記憶から成り立っている。
だから私は、お母さんの欠片がまともに話ができる状態でいるって聞いて、すぐに会いに行く事にした。
当然次元移動なんて出来ないので、シグナムさんに抱えてもらって。
「話したい事は纏めてあるか?」
「え?」
移動中、唐突にシグナムさんに声をかけられて首を傾げる。
「技師のお前にはお節介かもしれんが、闇の欠片はいつまでも保つものでも無いだろう。ついた時に既に消えかけている可能性もある。言いたい事、聞きたい事は決めておいたほうがいい。」
シグナムさんの意外な気遣いに、少し呆けてしまう。
「聞いているのか?」
「えっ、あ、うん。」
驚いていたせいか返事を返し損ねて、シグナムさんに少し強めに声をかけられる。
「シグナムさんに気遣われたのがちょっと意外で。フレアみたいな人かと思ってたから。」
「…アレと一緒にされる程鬼でも薄情でも無い。」
「あはは、ごめんなさい。」
フレアと一緒と言うのが納得行かなかったのか、シグナムさんを少し不機嫌にしてしまった。
話したい事…話す事、いっぱいある。
それこそ、一日話したって話しきれないくらいに。
オマケにぜんぜん纏まってない、纏まらない。
でも、一つだけは決まってる。
フェイトを苛めてた事だけはしっかり怒らないと。お姉ちゃんとして!
たった一つ、それだけは絶対に決めていたつもりだった。そのつもりでお母さんの元へ出た。
なのに…
「アリ…シア?」
ようやく対面して、呆然と浮かぶお母さんが私の名前を呟くのを聞いた瞬間、全てが出てこなくなった。
…言えない、言える訳が無い。
お母さんが私を蘇らせようとやってきた事は、速人やリライヴがやってる事と同じだって二人自身が言っていた。
不可能事への挑戦。それは、壁に体当たりするような不毛に身を削る行為。
それがいいとか悪いとか、出来るとか出来ないとかは置いておいて、一つだけ分かってる事がある。
分かっているのは…物凄く辛いと言う事。
だから…怒れなかった。
ようやく私にあえて、幸せな思い出に辿り付く事が出来たお母さんを怒るなんて、出来るはずがなかった。
私を抱えたシグナムさんがお母さんに近付いていく。
手の届く距離まで来た所で、私はシグナムさんを離れてお母さんに抱きついた。
「あぁ…アリシア…」
「お母さん…っ!」
ようやく笑えたと言うみたいに涙を流して笑うお母さんに、私は力一杯抱きついた。
何も出てこない、何も言えない。
言いたい事、言わなきゃいけないこと、沢山あったはずなのに…
「あ!」
色々考えてるうちに思い出したフェイトの姿を探すと、フェイトはリニスと並んで少し寂しそうに笑みを浮かべて私達を見ていた。
想像していた訳じゃないけど、その絵がイメージ通りというか、フェイトらしいような気がしたのがおかしかった。
「フェイトもリニスもおいでよ!」
私が二人の名前を呼ぶと、お母さんは少しだけ驚いたように目を開いた。
Side~プレシア=テスタロッサ
生きているアリシアとあう事が出来て感極まっていた私は、アリシアが出した名に冷や水あびたように意識を現実に戻された。
一瞬、アリシアから視線を外して二人を目を細めて見てしまう。
「やっぱり駄目?折角だから家族で輪になってみたいんだけど…」
「アリシアは…本当に優しいわね。」
きっとこの優しさはフェイトとリニスの為。
でも、アリシア自身の望んでいる事には間違いない。
アリシアを幸せにすると決めている、我侭を聞いてあげるって出来る限りをするって決めている私が、それを拒否するわけが無い。
正直に言えば、今フェイトに怨みも嫌悪もなかった。
『アリシアが蘇らなかった事実そのものを見せ付けられるのが嫌。』
かつて私に協力していたリライヴが告げた、私がフェイトに向けていた怒りの真実。
アリシアが傍らにいる今、その事実はすぐに受け入れられた。
ただ…だからこそ、フェイトに近付きたくなかった。
リニスに手を引かれて近付いて来るフェイト。
そしてアリシアは、私の片手を掴んだまま、もう片方の手をリニスに伸ばす。
魔法の使えないアリシアに浮遊魔法をかけつつ、私は空いている手を見た。
アリシアは『輪になりたい』と言った。そうなると、私はフェイトと手を繋ぐ事になる。
そして、それはアリシアの予定通りだ。
屈託の無い笑みも、ちょっと私を困らせる所も本当にアリシアのものだった。
こんな所でも困る事になるなんて。
リニスと手を繋いでいるフェイトは、私を見て手を伸ばすか躊躇っている様子だった。
私は少し躊躇い…フェイトに手を伸ばした。
フェイトは私が手を出したのが意外だったのか、驚きつつ私の手を取った。
「…温かい手。」
フェイトの手は、本当に温かかった。
間違いなく…『人形』じゃない。
『アリシアちゃんは自分の妹を打ち捨てて喜んでくれるんですか?』
フェイトと共に、私を止めに来た白い少女が告げた言葉。
「母さん…泣いて…」
「ごめんなさい、フェイト…」
私が誰を傷つけてきたのか、その手から伝わる暖かさが伝えてくる。
アリシアの妹、私の家族。
私はそれを…傷つけ続けてきたのね…
「お母さん、身体…」
自覚した瞬間、身体が光って散り始めた。
手を取り合い輪になって、まるで家族で食卓を囲むかのような…そんな幸せな情景。
これが最期なら…悪くない。
「…ごめんなさいフェイト、私に許された時間もそろそろ終わりみたいです。」
「リニスも…」
向かい合うリニスも光が散り始める。
「アリシア…ごめんなさい、私は…」
「…いいよ、気にしないで。」
使い魔になる前のリニスの記憶は私が奪った、昔の事を思い出せるわけが…
「よくお母さんと一緒に眠ってたもんね、お休み。」
「え?」
昔の事を覚えているアリシアが告げた言葉に、リニスが目を見開いた。
「そう言えば私は昔も一緒に…」
最期に見たのは、涙を流しながら微笑んだリニスの顔だった。
SIDE OUT
トーマ「トーマ=アヴェニールと」
リリィ「リリィ=シュトロゼックの」
ト&リ「前作解説コーナー!」
『フェイトと共に、私を止めに来た白い少女』
トーマ「リライヴさんとは共闘してて名前を知ってたから、この白い少女って言うのはなのはさんのことだね。」
リリィ「敵だったリライヴさんと戦うのを他の人に任せて、フェイトさんがプレシアさんに会いに、なのはさんがその手伝いにって別れたんだよ。だから、なのはさんとプレシアさんがちょっと口論してるんだ。」
トーマ「気休めにもならないってわかってるけど…」
リリィ「ん?」
トーマ「沢山死んでいくのを見たから、せめて今回の二人みたいに幸せに眠れるといいなって。」
リリィ「トーマ…」
トーマ「殺されてる時点でそんなの無理だって分かってるけどさ…無理でも何でも嫌だろ、あんな地獄はもう沢山だ。」
リリィ「…うん。」
アリシアがきっかけになれば、プレシアはフェイトとも上手くやれたような気がします。