第十話・鏡合わせの戦い
Side~フェイト=T=ハラオウン
母さんとリニスが消えた。
さすがに泣き喚いたりするほど子供じゃないけれど、その光景を目の当たりにして平常心ではいられず、視界が歪んで目を閉じる。
「ちょ!フェイト助けて!」
「え?」
聞こえた悲鳴に目を開くと、丁度目の前でアリシアが落ちて行った。
落ちて?
「う、うわ!」
『ソニックムーブ。』
大変な事態に気付いた私は、慌てて落ちて行くアリシアを抱え込んだ。
空中でアリシアの手を握っていたリニスと母さんが同時に消えたんだ、魔法が使えないアリシアは落ちて当たり前だ。
「あーびっくりしたぁ…ありがと、フェイト。」
少し涙目のアリシアは、それでも笑顔で私を見る。
悲しみの余韻に浸っていた所を一瞬で覚まされた私は、アリシアを見ながら苦笑混じりに息を吐いた。
「…あんな事があった直後なのに余韻に浸る間もない辺りは、速人譲りなのかな?」
「そうかも。」
アリシアと顔を見合わせて笑いあう。
アリシアを連れてこの世界まで来ていたシグナムが、少し遠慮がちに話しかけてきた。
「あれで良かったのか?」
短い一言だけの問いだけど、即答できなかった。
…私は、話したい事一杯ある。
それはきっとアリシアもだろう。
だけど…
「いいんです。だって、消滅させずに消えたって事は、きっと後悔が晴れたって事ですから。」
「…そうだね。」
母さんの笑顔なんて初めて見たし、母さんとリニスの後悔として生まれたなら、むしろそれが晴れてくれた事を喜ぶべきだ。
今も時を歩めている私やアリシアは、これ以上贅沢を言う物じゃないと思う。
「まぁそれでも近況とか話したかったけどなぁ…」
肩を竦めて少し軽めに呟くアリシア。
きっと、悲しみが尾を引くのを終わらせようとしてるんだ。
そんなアリシアの気を察してか、シグナムも小さく笑みを見せる。
「止めておいて正解かも知れんな。母親としては速人やフレアのような男と仲がいいと聞いては落ち着いて眠れんかもしれん。」
「むっ!速人の何が悪いって言うのよ!」
「あ、アリシア、暴れたら危ないって。」
抱え込んでいるだけだって言うのにばたばたと手足を動かしてシグナムに怒るアリシア。
私はそんなアリシアを落とさないように気を使ったから、フレアとの仲を邪推された事に突っ込む事が出来ないままだ。
「悪いといえば山ほどあるが…リライヴを傍らに女性型の宵の騎士達を従者としていながらいまだに覚悟を決めていない所等は、お前としても直して欲しい所ではないのか?」
「うぅ…フェイトぉ、シグナムさんが苛めるー。」
「あはは…」
シグナムに言い返せなかったからか、アリシアが恨めしげに私に視線を送る。
とは言っても私の方もシグナムに口で勝てる気はしないし、アリシアだって言い返せる要素が無いから私に振ってるんだ。
一緒に暮らしてるアリシアが言い返せないのに私が速人のフォローできる訳が無い。
「それより、この後だが…」
「あ、はい。シグナムはアリシアを連れてもど」
「えい。」
「あつっ!!」
シグナムと話している最中に、アリシアが私の脇腹を肘で小突く。
母さんのフォトンバレットを直撃してジャケットに穴が開いた部分。
「お前がアリシアを連れて戻れ、その有様ではどちらが向かえに行くのか分からん。」
「…そうですね、お願いします。」
それなりのダメージを負っているのを見抜かれたのか、シグナムに呆れ気味に諭される。
アリシアにもばれちゃってる位だし、シグナムが分からない訳無いか。
こうして私は、アリシアを抱えたまま地球に戻る事になった。
Side~リライヴ
回復魔法陣が消えた所で、私達は無人世界の地面に降ろしていた腰を上げ、立ち上がった。
「ふぅ…休憩が過ぎたかな?」
「ですが、お陰で全回復できました。」
割と緊急事態のはずだから休憩しすぎたかとも思ったけど、シュテルが問題ないというと少し安心できる。
「ふん、次元移動もままならん奴がよく来たものだな。」
「助けられたのに…相変わらず王様病だなぁ。」
確かにわざわざ来て回復魔法を使っただけだからそんなに大げさな事をしたわけじゃないんだけど、レヴィもシュテルも感謝してくれてるみたいで何よりだ。
ディアーチェはまぁ、いつも通りで安心した…って所かな?
「それよりも急ごう。もし皆が襲われたそっくりさんが『欠片』じゃないのなら、一つだけ心当たりがある。」
「何だと?どういうことだ。」
「詳しい事は合流してから」
「はっ、させぬわ!」
話に割って入るような大声が、無人の世界に響き渡る。
ディアーチェと同じ声。
声の方向に視線を向けると、予想通り宵の騎士そっくりの姿をした三人がいた。
その傍らに、アミタと色違いの、桃色の服を着た女性が一人。
多分彼女がキリエ…アミタの妹だ。
それにしても…皆して私達の斜め上に浮かんで見下ろしている。
キリエはともかくとして、他の皆は見下ろすの好きなんだろう。
「貴様は…リライヴか!丁度いい、貴様にもこの10年分の」
「王、それも結構ですが、些事とは言え本題をお忘れなきよう…」
「む…そうだったな。」
向こうのディアーチェが、やたらと丁寧な向こうのシュテルの忠告を受けて素直に頷く。
うーん、こっちだと色々と考えられないなぁ、王様病扱いされてる位だし。
「もう逃げられんぞ偽者共、今度こそ貴様等纏めて殲滅し」
「開戦って事でいいんだね。」
「は?」
向こうのディアーチェがオーバーに語っているのを切って止める形で割り込んで、確認にもならない確認のあと、彼女が呆けているのを余所にカートリッジをロードする。
「いや待て待てぇいっ!戦前の口上に割り込んでくる気か礼儀知らずが!」
「生憎私は戦争する気もなければゲームのボスでも無いんだ。ちゃんと非殺傷でやるから話は後で聞いてあげるよ。」
『シューティングスター。』
予想や聞かなきゃならない事、色々あるにはあるけれど、とりあえず負けて宵の騎士の皆を死なせる訳には行かないから、私は全部余所にやって戦闘に集中する事にした。
カートリッジによって増幅させた魔力で放った全開時に近い魔力弾の雨は、空中で大見得を切っていたディアーチェ達を分断させた。
私はばらけた四人のうち、キリエに向かって接近する。
「あら、私の相手でいいのかしら?」
「貴女は放置しておいたら一番危なさそうだから。」
「それ、女の子としては褒められてるのか微妙な所ね…」
私の評に苦笑いするキリエ。
って…勝手に決めてるけど、まだ名前確認して無いんだよね。
もっとも、未来人と同じ服装して同じ事件に関わってる全く関係ない人何ているはず無いけど。
「それで、貴女が今回の馬鹿騒ぎを引き起こしたキリエ=フローリアンさんでいいのかな。」
「あらら、お姉ちゃん色々喋っちゃったのね。」
肩を竦めるキリエ。
まぁキリエの事を知ってるのはアミタくらいしかいないから、バレバレなのはこの際仕方が無い。
「うん、聞いてる。お姉さん困ってたよ?」
「私は出来が悪い妹だから関係ないのよねー。」
とぼけたように両手を頭の後ろにおいて告げるキリエ。
一見して小馬鹿にしているだけのようにしか見えないけれど…
『お姉ちゃん色々喋っちゃったのね。』
彼女はさっきそう言った。
普通なら私とアミタが会っている事の方を驚くはずなのに、話をした事を驚いている。
恐らくは、ウイルス弾打ち込んだ際に変な所に墜ちる可能性とかもあるから様子をうかがってたんだろう。
素直じゃないと言うかなんと言うか…
「何その笑み、なんだか余裕ありますって感じね。」
「一杯一杯なんだけどね。」
軽く眉を顰めるキリエ。
別に余裕がある訳じゃない、対管理局相手で立ち回ってた頃に比べたらマシな事が多いだけだ。
「こう見えても私強いのよ?妹だから。」
「そう、なら退屈しなくてよさそうだね。」
手にする銃を構えるキリエ。
私はそんな彼女を前に、短剣形態にしたイノセントから無色の刃を展開する。
暫く睨み合いが続き…
「ラピッド…ファイア!!」
キリエの連射を皮切りに戦闘が始まった。
Side~ディアーチェ
「ふん…奇策で逃げ延びた程度の力量で我の相手が務まると思うのか?所詮小鴉の写し身に過ぎん貴様が。」
ロクに話もせぬまま奇襲でリライヴが全員をばらした為、我等はそれぞれに別れて自身の偽者と相対する事にした。
そのため今、我の前では我の偽者が両腕を組んで偉そうに反り返っていた。
「では貴様は違うと言うのだな?」
「当然だ。シュテルやレヴィに小馬鹿にされている貴様とは出来が違うわ。」
「ぐ…」
その一点に関しては、大した奴に見えないこの偽者相手に、唯一羨ましい話だった。
ええい、我とこやつとそこまで大きく違う事をしている訳でも無いだろうに何故こうも待遇が違うのだ…既に速人がマスターをやっているからか?
「ええい、知った事か!それより貴様に確認しておきたい事がある。」
「我は貴様のような出来損ないの小者と話す事など無いわ!!」
叫ぶなり黒い球体を降らせる偽者。
見覚えの無い魔法だが、レヴィやシュテルが違っていた以上、我の偽者も違って当然ではある。
それにしても…
「誰が出来損ないの小者だ!貴様こそリライヴに礼儀知らずとか言っておいて開幕直後にこれか!?」
「礼はそれなりの相手との対話に必要な物だ、粗悪なコピーには不要なものよ。」
真っ当な事を言っているつもりなのだがどうやら向こうは完全に相手にする気が無いようだった。
…もういい、止めだ。説得や対話なんてものは速人のような能天気に任せておけばよい。
話を聞く前に黙らせてやる。
我はとりあえず会話を諦め、デバイスを振り上げた。
Side~シュテル
「不愉快です。」
距離を取ってそれぞれの偽者と向かい合う事になって早々、炎を纏った私の偽者が不機嫌を隠さずにそう告げた。
理を司るはずなのに、こうも感情が見え易くてもよいのだろうか?
「何が不愉快なのですか?」
「自分で考える事すらしませんか、全く…愚かですね。」
あくまで見下している体で話す偽者の態度にさすがに苛立ちが沸いてくるが、挑発にしろそうでないにしろ、そんなものに乗せられて揺れ動くのは私の領分ではない。
それに、もし彼女の不愉快の原因が『偽者が幅を利かせている事』だとするのなら…
私達の存在を友と呼ぶなのはや、クローンのフェイトを妹と呼ぶアリシアと違い、器が知れると言うものだ。
「…何がおかしいのですか?」
思わず鼻で笑ってしまったのがカンに触ってしまったようで、彼女は歯軋りでもしそうなほど睨んできた。
「教えるのは構いませんが…貴女は先程考えないのは愚かだと告げたばかりですよ?」
自分で告げたばかりの事をしてしまっている現状は良くないのではないかと思い伝えてみたが、デバイスを握る手に力が入るのを見る限り、更に怒らせてしまったようだ。
「つくづく人の神経を逆撫でするのが得意なのですね…もう結構です、全力で焼却処分する事にいたします。」
偽者は宣言するなりデバイスを構え、砲撃態勢に入る。
受けに回っても仕方ないと判断した私は合わせて構え…
互いに放った砲撃が空中で炸裂した。
Side~レヴィ
「「光翼斬!!」」
偽者が放ったのはボクと同じ円状の刃を飛ばす魔法。
ボクが横に放ったのに対して、偽者は縦回転で刃を放つ。
ボクと偽者が放った刃は回転しながらぶつかって消滅した。
「お!君はオリジナルと違ってちゃんと戦えるんだな!」
「オリジナル?ってうわ!」
楽しそうに何か喋りだしたと思ったら聞き返す前に距離を詰められた。
この…話すか戦うかどっちかにしろ!
攻められて下がるなんてボクの…力の名が廃る。
だからボクは、接近してきてデバイスを振るってきた偽者に合わせて、デバイスを振り下ろした。
甲高い音が響く中で、ボク達は揃って力を込める。
互いに思いっきり振りぬいて、衝撃で弾かれた。
「「電刃衝!!」」
すぐに魔力弾を放ったけど、偽者の方も同じタイミングで水色の魔力弾を放っていたから、互いに衝突して弾けとんだ。
「へへ…今回実体化して思いっきり暴れられるの初めてだからさ、実は今結構楽しい。シュテるんと王様には内緒だぞ。」
「そっか、君達今の今まで実体化してなかったんだ。」
偽者が笑顔で言った事をボクなりに考えてみる。
動けなくて何にも見れなくて一緒にご飯食べたりも出来なくて…
一つ一つ考えてたらもの凄く寂しくなった。
「そっかー…よし!じゃあ今日はとことんやろう!」
「いいの?ボクは君を壊すつもりなんだけど。」
「やれるもんならやってみろ!」
胸を叩いて言い切ると、偽者は満面の笑みを浮かべた。
「よーし、とことんやるぞ!スプライトフォーム!!」
水色の羽を手足につけた形態に変化する偽者。
ずっと留守番させられてたような感じなんだよな…今日は思いっきり遊ばせてあげよう。
Side~リライヴ
両手の銃からマシンガンのようにエネルギー弾を連射してくるキリエ。
私はそれをどうにか剣で斬りつつ回避していた。
近づければ少しはやりようもあるけど、それに感づいているからなのか遠巻きに射撃を扱う以外の事は殆どやってこない。
「あら、お手上げ?飛び道具もあるんでしょ?」
「射砲撃ばら撒くのは魔力消費がね。」
ニヤつきながら話しかけてきたキリエに、こっちの事情を伏せる必要がないことを悟った私は、隠すでもなくそのままを告げる。
それが意外だったのか、彼女は目を大きく開いて驚いた。
「あらら…自白します?普通。」
「普通はしないのかもね。でも、黙ってても分かってたんでしょ。」
「さぁ、どうでしょう。」
すっとぼける彼女。
掴みどころがないというかなんと言うか…
「でも、他の皆が心配なら急いだほうがいいわよ。」
急かして消耗させようっていう目的なんだろうけれど…
「他の皆って、シュテル達の事だよね。別に負けると思って無いんだけど。」
「お仲間を信じてるってことかしら?かっこいい事で。」
キリエの方も自分の仲間が勝つと思っているみたいだ。
それも、私を焦らせようとする為にこの話題を振るって事は、信用するのに具体的な理由があるって事だ。
「王様達は新たに能力を得ているの。貴女のお仲間さんはいわば『旧型』、それで勝てる要素は無いわ。時間を稼ぐのが精一杯のはずだから助けに行ったほうがいいんじゃない?」
自信満々に告げるキリエ。
あぁ…なるほど。そういえば彼女もアミタの『妹』何だっけ。
「って、ちょっとちょっと!?何その超冷めた目!」
「あ、うん。何かごめん。」
「謝られたッ!?」
私の反応が予想外だったのか、ショックを受けているみたいだ。
「キリエの言う通り新機能を持ってても…ううん、例え基本性能そのものが少しくらい高い相手が敵に回っても、シュテル達は負けないよ。」
「…意味が分からないわね、根性論なんて戦闘に入る余地は無いわよ。」
キリエの言っている事はあっている部分はある。あるにはあるけれど…
アミタみたいな娘を姉に持ちながら分かって無いな、キリエは。
「すぐに分かるよ、このまま君が逃げ手に回るなら皆の方が早く終わるはずだからさ。」
断言するような私の口調に、キリエは少しだけ目を細めた。
SIDE OUT
トーマ「トーマ=アヴェニールと」
リリィ「リリィ=シュトロゼックの」
ト&リ「前作解説コーナー!」
トーマ「なんだけど、今回特に説明する事無いんだってさ。」
リリィ「魔法とか技とか使ってたり、知らない人が出てないと説明する事も無いから、しょうがないよね。」
トーマ「こっちの説明の為に無理矢理説明が必要な物を入れるのも変な話だしね。ただ…」
リリィ「ただ?」
トーマ「説明が無い事に関する話を今回済ませたって事は、次回以降もし変わった事なかったら…俺達お払い箱なのか?」
リリィ「そ、それはちょっと悲しいかも…」
魔法持ちの人は平気で飛び降りしますけど、普通相当怖いでしょうね(汗)
アリシア、良く普通に喋れるなぁ…