第十六話・闇より繋がる悪夢
Side~リライヴ
喧々諤々といった感じで専用カートリッジの優先順位を決めようとしている隊長陣。
前線出張りたがる人多いなぁ六課。
「私の封印解いてくれればだいぶ戦力になれると思うんだけど…」
「それはアカン。」
提案してみたものの、はやてに一声で断ち切られる。
ほいほい犯罪者の能力を開放する訳には行かないのは分かるけど、自分の故郷で世界崩壊級の事件になってるって言うのに、それでも一時解除すら許されない位信用無いんだろうか?
「今回の件、アミタとキリエの存在を漏らせん関係で、下手すると事件そのものを報告できん。リライヴちゃんの封印解いちゃうと後がな…」
「あ、そっか。ごめん無理言って。」
申し訳なさそうに告げるはやてに逆に謝る。
局に未来の話が漏れればその時点で未来が変わりかねない。
そうなると最悪アミタやキリエ、エルトリアに害が起こる可能性もあるし、それは私も望む所じゃない。
封印かけなおした所で一回外したのが知れたら大問題だ。何を聞かれても黙ってるって言う手もあるにはあるけど、そんな事すれば今度ははやて達が疑われる。
公務員も大変だな…って、私に犯罪経歴が無ければいいだけの話ではあるんだけど。
「エイミィさん。」
『ほいほい、何かな?』
「闇の欠片についてのデータとか情報とかあったら、イノセントに送って貰えます?」
『ん、了解。』
エイミィさんは言うなり殆どまもなく資料を送ってくれた。
情報処理早いなぁ…さすがにあのクロノに必要にされるだけの事はある。
闇の書に関わっていた魔導士のコピーが欠片という名で出回っている事は知っていたけど、すぐに宵の騎士の皆を迎えに行った私は欠片と戦ってない。
今はフォワードメンバーや速人とキリエが外回りをしているから、今のうちに見られるものは見ておいたほうがいい。
対U―Dの策を練るのは情報整理中の隊長陣に任せて、私は送られてきた資料に目を通し始めた。
Side~エリオ=モンディアル
「でやあぁぁぁっ!!」
「ぐぅっ…」
ストラーダの突進でザフィーラを地面に叩き込む。
勢いよくめり込むような形で動けなくなるザフィーラ。
僕はすぐさま距離を取る。
「キャロ!」
「うん!フリード、ブラストレイ!!」
直後、キャロの指示でフリードが放った火炎がザフィーラの姿を飲み込んだ。
炎が止んだ所でザフィーラの姿が消えていく。
戦闘が終わった。と、それで片付けずに一応周辺を警戒する。
「ふうっ…」
何もない。
そう判断した所で僕は息を吐いて肩を降ろした。
キャロと二人で回っていると言っても、AAA~Sクラスの昔のフェイトさんやシグナム副隊長の偽者が相手だから、劣化してても連戦するには辛い。
そろそろ一旦引き上げようかな?動ける戦力も少ないし、無理を通して負傷でもすれば余計に問題だ。
「エリオ君、また傍で欠片が発生してるみたいだけど…」
「スバルさんとティアナさんもまだ戦ってるみたいだし、それだけ終わらせたら一回戻ろう。」
「うん、分かった。」
キャロのほうも連戦に少し危機感を覚えていたみたいで、笑みを見せてうなずく。
神社裏の森の中、形成されつつあるその人に近づく。
見た事の無い男の人がそこにいた。
僕たちよりは高いけれど、ティアナさんやスバルさんほどでもない身長の男の人。
長めの髪に少し鋭い目。
どんな素材で作ったかもよく分からないような綺麗な服。
左腰に収められた剣と銃。
まったく見た事無い人だ、闇の書事件にも名前は無かったと思うけど…
男の人は、軽く周囲を見渡した後、僕たちを見る。
「…現状を聞いてもいいかな?」
威厳と言うか自身というか、そういったものをこれ以上ないほど感じさせるような仕草で、彼は自信満々にそう僕達に声をかけて来た。
…困った。どの道放置は出来ないんだけど、話の通じる人相手に襲い掛かるのなんてのはありえない。
キャロのほうも僕を見て困惑した表情をする。
「話すらできないのかい?君達は。」
肩を竦めて僕達を見るその人に攻撃を仕掛ける事も出来ず、僕達は結局説明をする事にした。
Side~リライヴ
断片的な情報で作られる偽者で、大抵が悲壮や後悔の念で構成されている。
情報元になる感情がマイナスだからか、目に映るものが大概敵に見えて襲い掛かってくるケースが多い。
ざっと読んだ所、大体の情報はこんな感じだった。
宵の騎士の皆は勿論、U―D…『砕け得ぬ闇』自体も元々人の姿をしている存在じゃない。欠片が出来るのは彼女達のように力を纏めて型を成そうとする性質の余波みたいなものなのだろう。
ただ…纏まった情報の中で、異色を放つデータがあった。
リニスと…プレシア=テスタロッサの欠片?
プレシアはもとより、リニスと言う人もフェイトの古い知り合いらしい。
しかも、この二人の欠片だけは特別『濃い』ものだったらしく、二人の欠片は制限がかかった状態ではフェイトでも及ばないくらい強いもので、思念の一部だけで具体化されている出来損ないの欠片と違ってはっきりとした意思があったみたいだ。
でも…何故?
この二人は闇の書に触れてすらいない。
フェイトから情報を引き出したとしても、本人が闇の書と戦ってるなのはや私達より情報量が多い訳が無い。
無限書庫級の情報収集能力があって二人の思念も再生できた?
いや、そんな事が出来るなら、知らない顔がもっと多量に出てくるだろう。無念のある優秀な魔導士なんて山のようにいるだろうし、それがどの次元世界でもかまわないと言うのなら尚更だ。
古代ベルカから引っ張ってくればそれこそなのは達以上の素材すらいるかもしれないし、念の強さが関係するなら…プレシアほど強い人は稀かもなぁ。
でも、ちゃんと成仏できてるリニス以上の人は星の数ほどいる筈。
余程二人に関する情報を多く得る機会があった?
それこそフェイト本人ですら泡沫の夢だと区別できない程―
闇の書…夢…
「はやて、フォワードの皆をこまめに引かせたほうがいいかもしれない。」
「え?無茶せんようには言うてあるけど…どうしてや?」
自分の顔が強張っている気がする。
はやての方も私の様子が少しおかしい事に気づいたからか、真剣な表情で私を見る。
「濃い欠片…まだ残ってるかもしれない。消耗してる時にそんなものに会ったらいくら何でも危ないでしょ?」
「それは確かにな。でも、一回無念を晴らしたからかプレシアさんもリニスさんも普通の欠片ですら出てこんようになったみたいやけど。」
不確定要素に備えるのは必要なことだけど、根拠の一つもないと遊ばせるほどの戦力も無い今そう簡単に楽もさせられない。
「二人だけはっきりと具現化出来た理由は、多分フェイトが闇の書に取り込まれたから。」
そこまで言って分からないほど、はやても鈍くは無かった。
ひょっとすると推論の一つ位には上がっていたのかもしれない。
そう…闇の書に取り込まれたのは、何もフェイトだけじゃない。
私と速人も一度飲まれているんだ。
「あの時の夢は本物さながらで、再現されてる情報が作りものだなんて分かるほど薄っぺらなものじゃなかった。」
「そうだとしても、フェイトちゃん当人やリライヴちゃんの欠片は本物級って事は無かったし、戦力が飛び出す根拠としては薄くないか?」
はやてもそこまでは思いついていたみたいだ。
そして、本人を除けば私と速人は魔導士に絡んでない。AAA以上の戦力が出てくるなんて想定には至らないのは無理も無いか。
「私の世界の連中、魔法こそ使えないけど装備が揃ってたら結構厄介だよ。趣味の方も、あんな悪夢に出る位にね。」
はやてが詳細までは知らないだろう私の世界の装備や兵士。
そして、はやてもよく知ってるだろう奴隷なんてものを当たり前に使ってるような連中。
魔導士は女の子が多いし、そもそも男の子だからって安心と限る訳じゃない。
考えれば考えるほど嫌な想像しか出てこなくなった私はいてもたってもいられずに席を立つ。
「指揮官として不用意に戦力を使えないって言うなら、私が勝手に様子を見に」
『それは待ってください。』
すぐにでも出ようと思ったところで、通信越しにシュテルに止められた。
ついでせわしなくキーを叩くアリシアの姿が映る。
『リライヴはカートリッジ生成手伝ってって!ミッド、ベルカの方はともかく、貴女が使ってる超高出力カートリッジは貴女しか精製法知らないんだから!』
「え、私がU―D戦に出るの?」
資料に集中して話し合いを聞き流してたから現状をよく知らなかった。
さすがにBの魔力値じゃあのU―D相手にそこまで効果的な戦闘できると思えないんだけど。
『貴女には楔の一撃を放って貰う必要があります。相手はあのU―Dです、通常戦闘だけでは誰がやっても事足りませんから。』
「それは確かに…」
シュテルの短い説明だけでなんとなく私にやらせたい事は察しがついたのだけど、疲弊してるはずの前線の皆だけを置いておく気になれなくて…
フェイトとヴィータが席を立った。
「なのはとシグナムが優先してカートリッジを受け取る事になったから、私とヴィータが様子見てくるよ。どの道そろそろ入れ替わらないと皆疲れてると思うし。」
「つー訳だからオメーは使える技術使っとけ。あのイノセントを自力で整備したり改造できるオメーなら外回りより中の手伝いの方がいい。」
「…わかった、そういう事なら。二人も気をつけてね。」
放置されるならともかく、二人が様子を見に行くと言うのなら私が無理して出張る理由は無かった。速人とキリエも外だし、欠片相手なら足りるはずだ。
「全体監視しとらんとあかんけど、最悪私も出るからリライヴちゃんはカートリッジの準備に専念してな。一番の脅威はなんだかんだ言うてもU―Dやから。」
「了解、すぐにやるよ。」
一抹の不安を押し殺して、私はアリシア達がいる筈の作業部屋に向かうため席を立った。
Side~エリオ=モンディアル
「ふぅん、なるほどね。」
話を聞いた男の人は、あっさりと納得して頷いた。
自分が偽者の幻で、消されなきゃならないなんて話を聞いてすぐ頷くなんて。
「あまり驚かないんですね。」
「これでも天才だからね。知らない光景、手持ちの道具、この状況を作り出せる可能性。少し考えれば異常事態だという事位は分かるよ。」
「は、はぁ…」
自分で自分を天才なんて言い切る自信。
なんとなく、この人が過信でもなんでもなくそう告げているのだと感じられて、どう返せばいいのかと思う。
「あの…それで、貴方は…」
「ああ、うん。そうだね。質問に答えてくれた訳だし、話していい事は話すべきだね。」
彼は笑顔で頷く。
そして…
「僕の名前はサイエス。とある世界の王様さ、よろしく。」
にこやかに呟いた彼の姿がぶれたと思った次の瞬間、僕の腕に痛みが走って、意識を失った。
Side~キャロ=ル=ルシエ
「え―」
唐突だった。
静かに話を聞いてくれて、笑顔で応対してくれていた男の人が、名乗ると同時にエリオ君の腕をいつの間にか抜いた剣で貫いて首と頭を強打した。
倒れていくエリオ君に、男の人は懐から取り出した何かを投げてスイッチを押す。
出てきた黒い何かから、弦のようなものが出てきてエリオ君を拘束した。
「っ!」
そこまで見て、私はようやく戦闘態勢になる。
闇の欠片なんだ、気を抜きすぎた。
…ううん、それにしても対応できない位に速かった。
どうしよう…結界内だから念話なんてまともに使えないし、通信器を使ってる暇も…
「何もしないほうがいいかな。これ、結構な量のエネルギー積んでるからさ。」
首だけでエリオ君を取り巻いている黒い球体を示すサイエスさん。
そして、サイエスさんは腕に巻いた妙な機械を見せた。
爆…弾…
気絶密着状態でそんなもの爆発したらエリオ君が…
左手で収めている銃を抜くサイエスさん。
「動かないでね、ちょっと痛いけどたいしたものじゃないから。隣の奇妙な白い子もね。」
そう言ったサイエスさんは、私とフリードを連続で撃った。
「っ…」
首の辺りに軽い衝撃と小さな痛みを感じる。
その後、身体の力が抜けて全身が上手く動かせなくなった。
私の様子を確認した所で、彼はエリオ君の腕の傷を止血し始める。
その後何か薬見たいなものを撃って私に向き直った。
「な、何でこんな事…」
訳が分からない。
サイエスさんは未だに楽しそうにしている。
単に暴れるつもりならエリオ君の手当てをする意味はあんまり無いと思うし、私だって動きを制限する必要は無い。殺してしまえばいいんだから。
「んー…細かい理由は省くとして、単純な所を言うと『好き放題』やってみたいから…かな。」
「そ、そんな…」
まともな理由すらなかった。
自分勝手にも程がある。
でも、闇の欠片とかそんなの関係なくこういう事が出来る人なら自分勝手も何も無いのかもしれない。
「素直に言うこと聞いてくれれば彼には何もしないよ。」
「…分かりました。」
会話直後にいきなりあんな事をする人の事なんて信用できるわけも無いけど、機嫌を損ねたら結局危ない。
闇の欠片が発生してる事に他の人が気づかないはずは無いから、時間を稼ぐ為にも私は素直に頷いた。
サイエスさんは私の返事を聞いて満面の笑みを浮かべ…
「じゃあとりあえず僕の呼び方は『ご主人様』で。」
そんなよく分からない事を言い出した。
Side~キリエ=フローリアン
「はぁ…っ…」
疲れた身体を、近場の壁にもたれさせて落ち着ける。
その辺を飛び回ってみたけど、欠片の発生が多くなってるみたい。
目的のU―Dはちっとも見つからないし、周辺世界でも回った方がいいのかしら?
軽く頭を振った後、壁から身体を離す。
大丈夫、この程度で止まったりしない。
お姉ちゃんだって止まらない、ましてや私は妹なんだから。
お姉ちゃんにできる事が出来ない筈が無い。
あてもあるし、すぐにでも動こうとして…
「まったく、素直じゃないのに真面目ないい子だから困ったものです。」
背後から聞こえてきた声に振り返ると、苦笑いを浮かべたアミタが私を見ていた。
「一旦帰って休みなさい。私の方も話は終わりましたし、一回身体を診て貰ったほうがいいです。」
「ほっといて。アミタには関係ないでしょ。」
悪態で返したものの、アミタはまったく表情を変えない。
しょうがない子供を見るような目だ。
「本格的にピンチじゃないですか。普段はもっと余裕あるフリできてますよ。」
「っ!だからウルサいって」
自分でも薄々自覚していた指摘を受けた私は、取り繕う事もできなくて怒鳴り返す。
でも、私の言葉は最後まで続かなかった。
アミタの周りに、あるかないかもはっきりしないような光のような…線のようなものが見えて…
アミタの全身、至る所に線が走ると、線からバチバチと光が迸った。
漏電。
全身を一瞬で切られたんだ。それも、漏電を起こす程度に深く。
ブラックアウトでもしたかのように崩れ落ちるアミタ。
私は咄嗟に崩れ落ちるお姉ちゃんに駆け寄り、倒れる前に抱きとめた。
全身に走る深い傷跡、かろうじて分断されてる箇所こそ無いものの、私達ギアーズでも酷い怪我だ。
「何…でよ…」
何で…お姉ちゃんが大怪我してるのよ…
私達の世界を救える可能性、そして、博士が悲しいまま死んだりしない為の可能性…
でも、悪い事だって知ってた。私はそれを知った上で時を越えた。
どれだけ責められても、傷ついても、覚悟してた。自業自得だもの。
なのに…
何で…お姉ちゃんが大怪我してるのよッ!
「何でこうなるのよぉッ!!」
私の叫びは、結界で色褪せた世界に虚しく響き渡った。
SIDE OUT
トーマ「トーマ=アヴェニールと」
リリィ「リリィ=シュトロゼックの」
ト&リ「前作解説コーナー!」
『闇の書に取り込まれたリライヴ及び速人』
トーマ「フェイトさんが取り込まれそうになったとき、リライヴさんが止めに入って失敗したんだ。」
リリィ「その時闇の書に取り込まれて、助けようとした速人さんも巻き込まれたんだよね。直接リライヴさんを掴んだから速人さんはリライヴさんの夢の中に一緒に入る事になったんだ。」
トーマ「本来は幸せな夢の中で眠るはずだったんだけど、デバイスを見つける手立てが無かったから本当の過去を見る事でデバイスを手に入れた時を写しだしたんだ。」
リリィ「えっと…それでその過去が…え?」
トーマ「……」ビリビリビリッ
リリィ「トーマ!カンニングペーパー破いちゃったら説明」
トーマ「しなくていいから。とりあえず…キャロちゃんホントに逃げてくれ!!」
リリィ(どっちかって言うとキリエさんとアミタさんの方が危ないと思うんだけど…)
ダメージ的にはアミタの方がはるかに危険なのですが…キャロちゃんマジ逃げて(汗)