なのは+『永遠の空』   作:黒影翼

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第十八話・可能性~心無き刃~

 

 

第十八話・可能性~心無き刃~

 

 

 

Side~キリエ=フローリアン

 

 

 

お姉ちゃんを医療班の人に診せないと。

すぐに逃げよう。

 

 

頭を支配しようとする不吉な考えを無理やり押し殺す。

 

 

クールになるのよキリエ。

こんな時にこそ冷静にならないと。

 

さっき誰に何をされたのか殆ど分からなかった。と言う事はまた殆ど分からない奇襲を受ける可能性が高い。それが取り乱して人を抱えた逃走時なら尚更だ。

 

とりあえず捕捉。すぐに倒せる相手なら倒して、そうでなかったらお姉ちゃんへの負担が怖いけど牽制してアクセラレイターで全力離脱。

 

まだそう遠くにはいってないは…ず?

 

「ちょ、ちょっと…どうなってるの?」

 

音がしない。

熱源感知にも何も引っかからない。

それどころか魔力も無い。

 

何で?

 

お姉ちゃんは間違いなく『誰か』に斬られた。

一瞬で私の探査系全種で捕らえられないほどの距離に移動したなら、それはそれで空気が思いっきり動くだろうし、転移でもしたの?

 

いつまでも固まっていても仕方ない。感知出来ないならすぐにでも帰

 

 

 

背後で、衝撃音がした。

 

 

 

吹き飛ばされた人が住宅の壁にぶつかったような、そんな音。

 

慌てて振り返った先には、壁を背にナイフを交差させている、全身を黒い衣装で覆った男の子と…

 

 

 

「問題を持ってこないでとは言わないけど…たまには普通に帰って来れないのかな、なのはも速人も。」

 

 

 

刀を手にした、黒い三つ編みの女性が立っていた。

 

 

 

Side~高町美由希

 

 

『心』で感じる気配とも違う、何か違う世界。

人がいないとかもそうだけど、世界自体が妙な感じだった。

 

 

魔法の世界…かな?

 

 

シグナムさん達のような、存在するけど生きてない、完成されたモノ。

そんな感覚を感じる。

 

魔法関係だとしたら、いつまでもいて『流れ弾』でも飛んできたら私にはどうしようもない。

慎重に、でも早めに知り合いに会うべく歩き…

 

 

 

「何でこうなるのよぉッ!!」

 

 

 

泣き声に近い悲鳴が聞こえた。

 

さすがにこんな悲しい声を聞いて放置も出来ない。

声のしたほうに向かって様子を見に行く事にする。

 

 

 

悲鳴を相手にしている場合じゃなかった。

 

 

 

近づくと黒い影が視界を横切って悲鳴の方へ飛び込んでいく。

 

 

 

 

神速。

 

 

 

 

誰かを抱えてきょろきょろと首を動かしている少女に向かって行く黒い影。

私はそれに一気に近づいて斬りかかった。

右の刀を横薙ぎに振るうと、接近する私に気づいた影が手にしているナイフで私の剣を受ける。軽いからか簡単に飛んでいって、影は背中から壁に叩きつけられた。

 

その姿を見た瞬間に、また速人達が関わっている事件なんだって悟る。

 

ううん、本当は影の姿を見た時からなんとなく分かっていた。

 

 

だって…視界に入ったのにその影からは『何の気配もしなかった』から。

 

 

 

「問題を持ってこないでとは言わないけど…たまには普通に帰って来れないのかな、なのはも速人も。」

 

 

 

目の前に壁を背に立っていたのは、ナイフを手にしている幼い頃の速人だった。

 

何でいないはずの昔の速人がこうして存在しているのかは知らない。

少しくらい事情を知りたい所だけど、今はそんな事をしている余裕は無かった。

 

『心』の修行のおかげで気配を感じられるせいで、現状がどれだけおかしいのか良く分かる。

目の前には間違いなく少年の姿がある。だと言うのに、何の気配もない。

 

瞬きでもすれば夢のように消えてしまいそうにすら感じる。

ここで決めないと…見失ったら今の私でも奇襲に対応できるかどうか分からない。

 

 

ゆっくりと体勢を変える。

 

私と速人の間は車一台分位の距離。

神速から射抜を放てば反応も出来ないはず。

 

そう思った瞬間、既に手遅れだった。

 

「っ!」

 

五指から振るわれる鋼線。

それも、殺さずになんて配慮がないから鋼線は触れるだけで人を切断可能な私達の『0番』鋼糸位見え辛い細さの糸が、斬れる壁を作る。

私が近づけないうちに、背後の塀に飛び込む速人。

 

しまった…見放した…っ!!

 

 

 

Side~キリエ=フローリアン

 

 

 

魔力もまるでない一般人の乱入。

いきなり起こったとんでも事態に、私の思考は止まってしまう。

 

「…君、飛べるんでしょ?すぐに飛んで。」

「え?」

「いいから、早く!」

 

有無を言わさぬような彼女の鋭い声。

逆らうだけの気力も無かった私は、全身を裂かれたお姉ちゃんの身体を抱えて飛び上がった。

 

空をかける中、速人さんから通信端末を受け取っていた事を思い出して、屋敷の人に繋ぐ。

 

『あれ?キリエさん?』

「ごめんなさい、お姉ちゃんが重傷で。治療準備しておいて貰えないかしら?」

『大変!すぐ技術班の人達に伝えとくね!』

 

重傷と伝えたせいか途端に慌しくなる通信士のおねーさん。

 

「あ、あと魔力の無い一般人のおねーさんがいたんだけど、凄い剣幕で追い返されて。」

『えぇ!一般人!?それはまずいよ!誰かいける人』

『割り込み失礼、高町速人だ。』

 

さすがに重要な問題だと思って報告してると、相変わらず軽い感じの速人さんの声が聞こえてきた。

 

『その一般人の特徴は?』

「え?三つ編みお下げで二本の剣を持った…あれ?」

 

そう言えば、さっき速人って言ってた気が…

 

『後から俺が行くからほっといていい。』

『ちょ、速人君!ほっといてって美由希ちゃんじゃ』

『だからだよ。』

 

やっぱり知り合いみたい。でも通信士さんの慌てように比べて速人さんは酷くあっさりとしていた。

『俺に任せろ!』とか笑って言いそうな人が何で…

 

 

『『戦えば勝つ』んだよ。強いぞ、俺の兄弟子は。』

 

 

そんな、現実にありえない絵空事を自信満々に言い切った。

 

 

 

Side~高町美由希

 

 

 

速人が消えた。

私を避けて他の誰かを殺しにいった、って考えると自然にも思えるけれど…多分違う。

 

 

どうして暗殺者としての速人が再現されているのか理由は分からないけれど、もし暗殺者として再現されているなら、『自分の姿を見た人間』を生かしておくはずが無い。

飛んでいった人達は人間時代の速人には追えないはずだし、きっと私の元にくる。

 

 

私は十字路の中心に立ち、全身の力を抜いて目を見開く。

 

 

普通なら見えない位置にいる相手と戦うなら目を閉じて『心』に集中する。

でも、気配で捉えられない速人相手だと視覚を切らす訳には行かない。

 

 

ゆっくりと周囲をうかがう。

 

 

「っ!」

 

背後から、空気が動いた感じを受けて振り返る。

そしてそのまま、理解が追いつく前に迫ってきていた何かを切り払った。

 

キン、と甲高い金属音と共にナイフが宙を舞うのが見える。

それと共に山形に何かが投げられる。

 

 

あれは…閃光弾!!

 

 

咄嗟に目を腕で覆う。瞼を閉じただけでは閃光弾の光は目を潰しかねないから。

 

直後、小さく爆発音が聞こえ、暗いはずの視界に肌の色が写る。

隠密行動用らしく、音による聴覚破壊は目的にしてなかったみたいだ。

 

 

「く…っ!!」

 

 

咄嗟に鋼糸を使って空間を潰す。

もし何かが触れる感触があるならそれを手がかりに状況を判断できるから。

 

でも、速人の指鋼線と違って私達は一本の鋼線を専用のリールを使って扱う。

一本で潰せる空間にはさすがに限界があって…

 

「っはぁっ!!!」

 

脇腹に何かが触れると同時に神速に入り体を捌く。

片腕で目元を隠していて、片手にリールを手にしていたため、いると読んだ位置に向かって蹴りを繰り出す。

 

なにかを蹴り飛ばす感触を感じると共に、刀を振えるよう目を覆っていた腕を外して追撃…

 

 

一瞬、首を取り巻くように何かが光った。

 

「く…っ!」

 

光が閉じる前に中空に向かって刀を振るう。

速人の指先から伸びていた鋼線は殆ど何の感触も感じさせずに断ち切れてその力を失った。

けど、鋼線に対応している間に速人は再び身を隠してしまった。

 

 

脇腹の怪我がかすり傷である事を確認した私は、小さく息を整える。

 

首狙いの鋼線といい明らかに殺す気のそれらは、今の速人とは似ても似つかないもので…

 

「…こんな所からヒーロー目指すなんて、ちょっと尊敬するよ。」

 

心底そう思っちゃったからか、意識しないまま呟きが漏れた。

 

でも、いつまでも攻防を繰り返してはいられない。

気配が無いから逃げられても分からない上、奇襲を何回も捌くなんて普通に愚作だ。

 

 

静かに『射抜』の体勢をとる。

 

 

単純に放てば最長射程の突き技。だけど、当然ただ放つだけでなく応用が利く。

前を見ながら左右を視認警戒。こうしておけば、間違いなく背後から来る。

 

音も聞こえず、気配も分からないとなれば本当に触れる寸前までは分からない。

けど、直接戦闘を前提に修練を積んでいないこの速人相手なら、そこからでも間に合うはずだ。

 

 

 

色の違う、死んだような世界。

その中で私は自分を殺そうとする刃を待つ。

 

死に近い所ほど勝機が高いのは剣士の常。

相手をまるで見てない状態と言うのは珍しいけど、紙一重を制するのは変わらない。

 

 

だから…待つ。

 

 

待つ。

 

 

待つ。

 

 

 

待―

 

 

 

首筋に走る冷たい感触。

 

 

刹那、神速の二段掛け。

前足を軸に後ろ足を出し、そのまま反転。

距離ではなく、旋回によって溜めと加速を作る。

 

 

「っはああぁぁぁぁっ!!!」

 

 

背後にてナイフを振りぬいた人影、その中心に向かって全力で突きを放った。

 

生暖かい感触は無く、変わりに固めの細工を貫いたような感触がした。

 

引き抜くと、速人は膝からその場に崩れ落ちた。

 

 

「…殺さ…なきゃ…」

「え?」

「殺さなきゃ…殺…され…」

 

一筋の涙が、幻のはずの速人の頬を伝い、その身体が塵になって消えていく。

私は、血のついていない刀を見た後、鞘に収めた。

 

 

殺さなきゃ殺される。

 

 

理屈や信念を掲げても、結局の所の戦いの真相。

同時に、自然界でも全うな真実。

 

理論に感情論をぶつけてもまるで癇癪を起こした子供のように何の意味も…

 

そこまで思ったところで、首を振って否定した。

 

 

「それでも…嫌だよね。」

 

 

護る剣。

剣道なんかと違って獲物は真剣、それも裏に至っては暗殺技でさえある御神の矛盾。

 

それでも、矛盾があったとしても捨てられないものはある。

私達はどこまで行ったとしても不完全な人間なんだから…

 

 

 

Side~高町速人

 

 

 

闇の欠片を完全気配遮断使って背後から一刺しというなんとも地味な方法でいくつか処理した所で姉さんの下に向かう。

予想通りと言うべきなのか、姉さんは大した怪我も無いままで立っていた。

 

「お疲れ。」

「本物…だよね?」

 

少しだけ警戒した様子で聞いてくる姉さんに、俺は額を押さえて息を吐いた。

 

…予想の範囲の出来事ではあるけど、俺自身の欠片だったらしい。

それも、少しとはいえ傷を負っている所を見ると多分濃い欠片。

 

けどおかしな話だ。

俺自身の濃い欠片が出たとしても、魔法で精製された偽者じゃ『貫』すら再現できないはずだし、神速に至っては作り物所か真人間ですら修行したからって出来る代物じゃない。

そんな出来損ない相手なら姉さんが手傷を負う訳が…

 

「…子供の頃の…ね、速人と戦ったんだ。使ってたのがナイフで、まるで気配が無かったから、きっと…」

「そういう事…ね。」

 

少し寂しそうな姉さんの声。

はっきりとは言わなかったけど、それだけで十分だった。

 

 

美沙斗さんに救われる前…あるいは救われずに完成してしまった俺と戦ったんだ。

 

 

心の再現率は、フェイトが本物として話せるくらいにリニスとプレシアを再現していた。

だったら、生体反応の操作と心を殺す事で出来る完全気配遮断なら再現できたかもしれない。

 

 

…しかし、だとするとよく勝ったな。

自分で言うのもなんだが、完全気配遮断の真っ最中は視認してないと感すら働かないっていうのに。

 

「とりあえずどうする?なのは達が結界に巻き込まれた経緯とか聞きたいかもしれないけど、それ自体は後でもいいからな。家に帰るなら結界の外に」

「ついてくよ。屋内の人の護衛なら私も出来るし、外歩いてていきなり結界に巻き込まれたんじゃ家にいても安心できないし。」

 

さっさと帰りたいかとも思ったんだが、外で結界に巻き込まれて孤立するほうが問題と言う話は納得だった。

そういう事ならと、屋敷に先導しようとして…

 

「あーっはっはっはっはっ!!!」

 

高笑いしながら電撃鞭、『静かなる蛇』を振るい、同型機を連れた自動人形イレインが闇の欠片として現れた。

 

俺も取り込まれたけど、リライヴの世界にオマケとしてだったから、まさかイレインまで再現されるとは思わなかったな…確かに当時は兄さんでもてこずる相手だっただけに多少冷や汗ものの相手だったけど、悪夢って言うならもっと強い相手は山ほどいるんだが…

 

正直、身体強化可能な上向こうは出来の悪い欠片の筈だから数に差があっても負ける要素はない。

 

「あー…姉さん、2体位いい?」

「速人、兄弟子馬鹿にしちゃだめだよ。魔法は使えないけどちゃんと鍛えてるんだから。」

 

とはいえ囲まれると手間な面はある為、少し引きつけて貰おうと思ったんだけど、あろう事か姉さんの方が前に進み出てしまった。

 

俺は慌て気味で姉さんと肩を並べてナギハを構える。

 

「速人や恭ちゃんがどんな修行して、どれくらい強くなってるのか気にはなってたんだ。折角だから見せて貰うね。」

「それじゃ魔法なしでやってみるか。あ、本物の話だけどあの静かなる蛇は昔の兄さんでも匙投げた一品だから気をつけて。」

「それは危ないね、了解。」

 

まったく危機感を感じさせない返事。

それを確認すると共に、俺と姉さんはぞろぞろと並んでいるイレイン達に斬りかかった。

 

 

 

SIDE OUT

 

 




トーマ「トーマ=アヴェニールと」
リリィ「リリィ=シュトロゼックの」
ト&リ「前作解説コーナー!」

『救われた速人』
トーマ「昔の速人さんは…番号で呼ばれるような所で子供同士で殺し合いを続けるような施設で育てられてたんだ。」
リリィ「っ…」
トーマ「施設内で一番優秀だった子供何だけど、美沙斗さんが施設を潰した時に殺されずに拾われたんだ。美沙斗さんは全うな生き方をしてなかったから、士郎さんに預けたんだ。」

リリィ「施設の私と…同じ…」
トーマ「…そうだね。よくあること…なんて、言いたくないけど…」
リリィ「私はトーマが助けてくれた。どれだけの事ができるかなんてわからないけど…」
トーマ「『助けて』って言ってる人の力になれたらいいね。」
リリィ「…うん。」
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