第二十一話・パーティープレイ
Side~高町速人
「…壊されたいんですか?」
俺が大見得を切ると、開口一番小馬鹿にしてくるU―D。
…やれやれ、甘く見るのも程々にしておいて貰いたいもんだけどな。
「訳すと、『対抗カートリッジも無くて魔力も低い貴方では、時間稼ぎ役すら務まりませんよ』って所でいいか?」
「……そうなります。」
全部言ってしまったからか、U―Dは少し不満そうに頷く。
うーん、不満があるのはこっちなんだがなぁ…
「『風』でもか?」
「え?」
「お前は風でも壊せるつもりかU―D。」
笑顔で言う俺に対して、まだ不満そうなままで目を伏せるU―D。
「…比喩表現にも程があります、人間が風になれるわけないじゃないですか。」
「さぁどうかな?『風纏う英雄』の全力、見せてやるよ。」
言い切って距離を詰めようとした所で、U―Dは全展防御魔法を展開する。
「お、お…」
俺はその防御魔法に押されるような形で、無理やりに距離を離された。
「…だから無理だって言っているんです。貴方の力じゃ、全方位展開で少し弱めのこの防御すら壊す事がままならない。」
諦めたような口調のU―D。
俺は強度を確かめる位のつもりで軽くノックしてみた。
思ったよりも手が痛かった。…素手、魔力無しで触るもんじゃないなコレは。
尤も…コレだけでヒーローを止めきれると思ってるなら浅はかだが。
「教えてやるって言ってたよな。」
「…何の話ですか?」
「水滴石穿。同じ箇所に落ち続けることで水滴が石にさえ穴をあける。」
いいつつ俺は展開された障壁を連続で斬りつける。
びくともしない…やっぱ普通にやってたんじゃ駄目か…
「障壁は岩じゃありません…時間をかけて回数を重ねたところで破れませんよ。」
U―Dの冷たい反応。
でも、確かに俺の力でいくら攻撃を重ねた所でこの障壁は破れないだろうな。
普通にやってたら。
「意味は、長い時をかけた努力はいつか実る…だ。こんな風になっ!!」
言うと同時に俺はナギハを振り下ろす。
U―Dの全展障壁に衝突すると…
派手な音を立てて障壁をぶち壊した。
「えっ…」
U―Dが障壁を破られた事に驚いたらしく呆けた声を漏らす。
やってみた俺の方も少し驚いていた。
普段徹のような鋭い斬撃や御神の基本斬撃のような引き斬る斬撃しか使ってないから、『力づくでぶっ壊す』感覚は珍しい。
痺れの様なものが手に残っている。
魔力収束刃。
フレアの槍のように、ナギハの刃だけにすさまじい密度の魔力が纏っていた。
Side~八神はやて
広域攻撃による殲滅を避けると同時にすぐ援護に迎える、結界から少し離れた空。
そこから様子を伺っていた私は自分の頬に冷や汗が伝うのを感じていた。
魔力収束刃。
やる事は簡単だ、超高密度の魔力刃を作る、ただそれだけ。
ただ…適正があればともかく、密度が高くなるほど相当に難しい。
シグナムだって剣を扱う以上爆裂効果をつけるよりは斬撃そのものを強化したほうがいいけど、変換資質である炎の『熱を周囲に伝える現象』という特性からは逃れられないから、どうしても密度を上げるのは簡単じゃない。
それは流れ広がる『風』の速人君やって同じ。
風で密度が高いとなると竜巻とかが近いかも知れんけど、それも一定範囲をぐるぐる回っているだけだ。収束刃を維持できるほどのものじゃない。
…いったい、いつからや?
一日二日…いや、一年二年じゃU―Dのそれを破るほどの代物なんて作れん。
いつからやっとったんや?
本来自分向きじゃないものの訓練を、いったいいつから…
「ほんとにあのアホ…諦めるって事知らんらしいな。」
『全てを救う』なんて、宣言したと同時に失敗している不可能事。
それに比べたらこんなものの一つや二つ簡単って事かも知れんな…
適正ない技能の訓練なんて時間の無駄に近いんやけど、やり遂げてしまっとるものを見ると素直に感動して…
『ま、もっともまだ振れるだけで維持したまま戦闘なんて到底出来ないけどな。』
様子を伺う為に展開している通信越しに聞こえたあっけらかんとした速人君の声に一気に力が抜けた。
弱点笑顔でばらすな!あと人の感動返せこのダメヒーロー!
Side~高町速人
コレで広域防御で無理やり距離放されても近づく事はできる。
とりあえずそれが出来るだけで今は十分だ。
障壁が払われたのをいい事に一気に接近…
「スピアー!!」
しようとした所で、弾幕が形成される。
シューティングスターさながらの魔力弾の雨、ただで抜けられるほど安い代物じゃないなコレは。
神速。
モノクロの世界で止まって見える弾の雨の隙間をくぐり近づいていく。
一発も当たっていない事に気づいたU―Dが目の色を変えるのが見えた。けどもう遅い。
「雷徹!!」
「く…あつっ!!」
咄嗟に障壁を張ったU―Dだったが、その障壁も多重障壁も何の意味も無く、U―Dの掌が裂けて血が見えた。
しまった、ちょっと強すぎたか?いくら硬いったって貫通するもんな、身体そのものが硬いわけじゃないし。
「くっ!!」
咄嗟に霧から出した爪を大振りするU―D。
範囲が広いから紙一重で避けようにも大きく動かなきゃならないのは相変わらずで、思いっきりバックステップ。
でも、温存も考えてなければ本気で止める気でいる今は少し訳が違う。
神風。
「え?消え…ひゃあぁぁっ!!?」
背後に回りこんで背中を指で軽くなぞると、世界を破壊しかねない忌み嫌われた子とは思えない可愛い反応をしてくれた。
「幻歩法『イリュージョンステップ』…っと。」
技名を告げている真っ最中に思いっきり爪が振るわれる。
さっきよりも恐ろしい風切り音がして、表情と攻撃がシンクロしていた気がする。
…今暴走とかじゃなくて普通にぶっ飛ばす気で振ったな?
ちょっと背中なぞっただけなのにそこまで怒らなくてもいいのに。
何しろ、こっちはそれだけに結構な体力を使ってるんだから。
新技、幻歩法。
と言ってもやる事は単純で、一歩を神風による超加速、二歩目以降を完全気配遮断で行う事で、視界から外れてそのまま見つけられなくすると言うだけのもの。
負担のでかい神風の使用時間が極小で済み、戦闘中にすら死角がいきなりとれるので便利なのだが…やっぱり神風使ってるだけあって負荷はある。
「な、何なんですか…真面目にやってください!」
「怒らせてるのは悪いと思うが、暗いよりは今みたいなほうがいいぞ。可愛いし。」
「かっ…もういいです!」
恥ずかしそうに言葉を詰まらせたU―Dは、何かを振り払うかのように頭を振る。
申し訳ないとは思ったが、その隙に再度接近し…
彼女の左胸に掌を置いた。
「ッッ!?」
声にならない悲鳴のようなものが聞こえた気がしたが、流して集中する。
さっき背中に触れたのは単なる遊びじゃなく、『害を与える攻撃でなければ体を触る事ができるのか』を試す為。
そして、予定通りそれが出来た。
後は、障壁も無いこの完全ゼロ距離から、繰り出すだけ。
『徹』込みの浸透勁。
人体と言う意味ではこれ以上ないほど効果的な活動停止攻撃を叩き込んだ俺は、即座に距離をとった。
『出番だぜ、天使様!!!』
戦闘に巻き込まれない距離で準備中のはずのリライヴに念話を送って下がる。
世界だって救ったんだ、女の子一人救うくらい楽勝だろう。
Side~リライヴ
対抗カートリッジをロードしても、戦闘行動と言う事でU―D以外にも魔力をまわさなきゃいけない他の皆に対して、私の最大魔法バーストセイバーは、纏う魔力の全てを一撃に集めて、刃として狙った対象のみに放つ魔法。
つまり、対抗カートリッジの魔力全てをU―Dになんのロスも無く届けられる。
だから、私が楔の一撃を放つ要因としてシュテルに選ばれたわけだけど…
ああいう攻撃じゃないとどうにかならなかったのかな…全く。
真面目な戦闘中でもノリが軽いからつい誤解しかねないんだよね、速人の事。
『天使でしたね。』
「分かってる。」
イノセントから告げられた一言に、私はしっかりと頷く事で答える。
堕天使じゃなくて天使。
速人が私に声をかけてくれた、その呼び名。
『とりあえず、穢れてなかったぞ。綺麗だった。』
『折角の記念日だし、ピュアな天使様には目一杯楽しんで貰うさ。』
堕ちたなんて、速人はぜんぜん言わなかった。
スカリエッティに協力する形になっちゃってた時は少し怒ってたけど、それでも。
救われなかった者を救う事。
ルールによって落とされた地獄から願っても祈っても助けられず、ルールによって管理局にも見捨てられた私が、イノセントと出会ってから決めた事。
結局大衆に逆らって罪状を重ねている事は自覚しているから、『堕天使』と呼ばれる事は受け入れていた。
でも、速人はそれを堕ちたなんて言わなくて、止めたけど結局助けに来てくれて…
私を助けると言う危険と被害に対する責任を負うって契約までしてしまって…
「…だから、助けるよU―D。」
人間の寿命程度じゃ及びもつかない絶望を抱えているんだろうけれど、それでも…ううん、だからこそ救うと決めている。
全てを救えるヒーローになりたい速人の助けになる為に。
届かない願いを叶えるという私自身の意思の為に。
そして…
珍しく頼みごとを口にした、不器用で優しい家族の為に。
「バースト…セイバーッ!!!!」
対抗カートリッジが持つ全魔力を乗せた刃は、遠くで動けなくなっているU―Dに直撃して炸裂した。
Side~高町速人
少しは離れておいたとはいえ、あっさりとU―Dの多重展開された障壁を断ち切って着弾と同時に炸裂した、その出鱈目な威力のエネルギーの奔流を傍で受けた俺はさすがにこらえるのがしんどかった。
それに…正直限界と言うのもあるし。
U―Dに浸透勁を叩き込んだ時にも接近に神風を使っていて、正直体も頭もどうにかなりそうだった。
まぁ、それでも余裕ぶるのがヒーローの務めな訳ですが。
とはいえ…
「あ、ああぁぁぁぁっ!!!」
そんな余裕の無い状態で、U―Dが空に吼えてその色彩を変化させたのには正直顔が引きつったような感じがした。
白から赤へ、いつか見たタトゥーのようなものが浮かび上がった状態になっている。
…ここで第二形態?マジかよ…ピンチのときの変身ってヒーローの特権…でもないか。
確かにラスボスはよくやってくる。
『あ、あかん!速人君逃げて!』
はやてが焦ったような声を漏らす。フェイトもいないし高速で移動してきて割り込めるような奴がいない。
さて、まだ神風機能すればいいが…
「っち!」
爪と同じ赤紫、でも半実体のエネルギーのような何かを伸ばしてくるU―D。
俺はそれをどうにか二、三回避するが…
足にはしる妙な感覚。
筋力的な限界か?欠片相手にもあちこち回ってたしな…やっぱ神速やら神風の多用は禁物か。
避けられないタイミングで迫ってきた一本の刃を眺め…
何かに抱きかかえられた。
「…こういうのはヒーローの特権だぞ、レヴィ。」
「マスターはいっつも頑張ってるもん、今日はボクが代わる。U―Dは紫天の書絡みだしね。」
「私とレヴィ、二人でならマスターかリライヴ一人の代わりくらいにはなるでしょう。」
俺を抱えていたのは、超高速で割り込んできたレヴィだった。
離脱先にいたシュテルと揃って、くたびれた俺を前に笑みを見せる。
「今日はボクたちがヒーローだよ!!」
「今日はわれわれがヒーローです。」
二人は、少し離れた場所で苦しむU―Dを見ながら揃ってそう言った。
SIDE OUT
トーマ「トーマ=アヴェニールと」
リリィ「リリィ=シュトロゼックの」
ト&リ「前作解説コーナー!」
『リライヴを助ける契約』
リリィ「元々罪人のリライヴさんは、いくら人助けを主体に動いていたと言っても無条件では許されなかったんだ。」
トーマ「管理局に救われなかったからって理由で局の言う事を素直に聞き入れる事もよしとしなくて危なかった所を、リライヴさんが出した損害の全てを速人さんが賠償するって契約で、解放を許可して貰ったんだ。まぁ、裏事は色々あったみたいだけどね…」
トーマ「うーん…」
リリィ「トーマ?」
トーマ「同じ方法でフッケバインの皆を許して貰う…訳には行かないよなぁ…」
リリィ「そ、それは…」
トーマ「いや、許されないのは分かってるんだけど、どうしても…ね。」