なのは+『永遠の空』   作:黒影翼

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第二十五話・こんな筈じゃない事ばかりの世界で

 

第二十五話・こんな筈じゃない事ばかりの世界で

 

 

 

Side~スバル=ナカジマ

 

 

「ぶはああぁっ!!!」

 

あたしは殆ど体裁も何も無く、水面から顔を出して大口を開けて息を吸い込んだ。

…い、いくら戦闘機人で魔法が使えるって言ったって、海中に沈んでいった腕を回収してくるのは相当大変だった。

 

キリエさん完全に機械だから人の身体みたいに浮いてくれないし。

 

 

あたしとティアは、戦闘中に折れたキリエさんの腕の捜索をしていた。

あたしは特救行くから、元々水中でも動く必要がある。

ティアは海中サーチと状況をあたしに伝える役。

 

U―D、改めユーリと戦わなかったから消耗がないって言うのもあるけど、何より適任だから任されたわけで、きちっとこなさないといけない。

 

 

うん、ちゃんとそう思って頑張って取ってきたんだよ。本当に。

ただ…もうホントにバテバテだけど…

 

 

息を整えて頭を軽く振ると、近くに止めてあった船の上で魔法を使ってたティアが、魔法を切って肩を落とす。

 

「はあっ…大丈夫スバル?」

「なんとかー…ティアは?」

「あたしの方は水中入った訳じゃないからね。深海でサーチャー扱うってのも、難しかったけど中々いい経験だったわ。」

 

少し疲れた様子ではあるものの、簡単にそう言って見せたティアが本当に頼もしくって、凄く思えた。

深くなると光が届かないし、水圧が上がれば抵抗も上がる。距離もあるしそんなに簡単にいかないと思うけど…でもちゃんとサポートしてくれてたんだよね。

 

「ありがとティア。」

「はいはい、いいから乗りなさい。休むのは屋敷に帰ってからよ。シャーリーさん達に腕を渡さないと。」

「うん。」

 

くたびれた身体を押して船に乗る。

ウイングロードで走ってもいいのだけど、正直座ってたかった。

 

「…これで事件も終わりだね。」

「そうね。管理外世界での魔法事件はいろいろごたごたするし、皆生きててよかったわ。」

「そうだね。」

 

何気なく呟いた言葉に、ティアが答えてくれたのを聞いて、あたしは慌てて頷いた。

本当に、何気なくだったから、思わずだったから…

 

 

『終わってしまう事が寂しい』なんて思ってた。

 

 

事件なんだ、何事も無く、早く終わるのがいいに決まってる。

でも、それが同時に、『六課の終わり』に近づいているようで…

 

「…戻ったらまだしばらくはバテる訓練が続くし、本当に全部終わっても会う機会くらい作ろうと思えば作れるわよ。」

「ティア…」

 

どうやら、ティアは全てお見通しみたいだった。

 

「ありがと。」

 

お礼を言ったけど、いつも通り照れたのかティアは顔を背けてしまった。

いろいろ変わってきてるはずなのに、変わらないものは変わらないんだなって何か安心してしまって、寂しさが抜けていくような気がした。

 

 

 

Side~高町なのは

 

 

 

「…ねぇ。」

「なんだ?」

「兄妹でダメージ状態が同じくらいだからって、男女相部屋ってないと思わない?」

 

同じ部屋のベッドで横になっているお兄ちゃんにそう声をかける。

 

私のダメージは、魔法の無茶な使用によるJS事件の負荷のぶり返し。

速人お兄ちゃんの方は、痛めた足腰の筋、骨、筋肉。

 

意識はあるし動けるけど自由にとはいかないって状態が、揃って似てたから一緒の部屋に押し込められた。

 

「しょうがないだろ?部屋数はともかく、ヒーラーの方に限りがあるんだから。お前シャマル先生一人にどれだけあちこち回らせる気だ?」

「うぅ…珍しくお兄ちゃんがまともなこと言ってるだけに反論できない…」

「珍しくって何だオイ!」

 

納得がいかないらしくお兄ちゃんが少し強めに切り替えしてくる。

 

 

「違うと思ってるなら、今回の件でリライヴちゃんが真っ先にアミタと接触してた理由を教えてくれない?」

 

 

『地球で』現れた反応に『管理世界の』リライヴちゃんが真っ先に気づけた理由。

当然地球にいたからなんだけど…なんで居た?

 

首だけ横に倒して横のベッドに居るお兄ちゃんを睨む。

 

顔を逸らして天井を見つめ続けていたお兄ちゃんは、しばらくそうしていて諦めたのか、小さく息を吐いた。

 

「…シュークリーム。」

「は?」

「翠屋のシュークリーム!!はまったらしくて定期的に食べに行ってたんだよ!」

 

返ってきた答えは、予想の斜め上を突っ走ったものだった。

しかも身内総出で関わってるし…

 

「そ、そんな事…」

「そんな事とは何だそんな事とは!元々手配犯の時は何も気にせず買い溜めして保存してたらしいが、今下手に持ち帰れば密輸になりかねないからって現地で食って帰ってくるって涙ぐましい常連客だぞ!放り出した家業はそんな事か!?ええ!?」

「う…」

 

他だけならそれ以前の問題と言い切ったんだけど…『放り出した家業』って言葉が心底深々と突き刺さって何も言えなかった。

 

今なら想像出来る逆を、ヴィヴィオで想像してみる。

 

休みに魔法戦教えてあげようかとか思ってたら料理教室に出かけて放置される。

義務教育課程済むかすまないか位で『私地球でパティシエになる!!』と言われて見送る。

 

 

 

以降、殆ど休みも無ければそうそう姿を見せない生活…

 

 

 

うわあぁぁすっごい嫌だあっ!!

 

 

「お、おーい…大丈夫か?」

「はっ…う、うん、大丈夫。」

 

気づけば、想像した光景があまりに空恐ろしすぎて頭をぶんぶん振っていたらしい。

軽く咳払いしていろいろと落ち着ける。

…お母さんお父さんへは相当悪い事してるのは置いておくとして、それとリライヴちゃんが出回ってるのとは別だ、うん。

 

だから、ちゃんと言う事は言わないとと思ったんだけど…

 

「大体管理局こそどうなってんだ?すずか達一旦移住させなきゃならないくらいの魔法騒動おきてるのにまだリライヴが平然と渡航できる状態って」

「ごめん、言える状態じゃなかったね…」

「いや、お前の管轄でもないんだろうけどさ。」

 

闇の書事件を思い返せば分かるとおり、蒐集活動をしていた守護騎士さん達の移動を把握できなかったように、世界間移動と言ってもそれなりに腕が立てば見つからずに出来る。出来てしまう。

 

でも、それが引き起こした結果を知ってるから、簡単に頷けなくて…

 

 

 

目を閉じてすずかちゃんが危なかった事件を思い出していると、額を撫でる感触がした。

 

 

 

驚いて目を開くと、私のベッドの横に立って、額に手を当てているお兄ちゃんの姿があって…

 

立って?

 

「お兄ちゃん足…」

「傷ついている妹を支えるのは息をするより自然な行為らしいぞ。」

 

笑顔で言ってのける速人お兄ちゃん。

痛い…じゃすまない筈だ。まともに立ってられない怪我のはずなんだから。

 

 

ああもう、本当にこの人は…

 

 

額を撫でる暖かさに、重たい何かが抜かれていくような感じがして、思わず笑みが漏れる。

 

「っ!」

「お兄ちゃん?」

 

と、突然顔をしかめたお兄ちゃんの体が、私の方へ傾いてくる。そのまま、覆いかぶさるようにして倒れこんだ。

腕を支えに重さがかからないようにしてくれているけど、自力じゃ立てないみたいだ。

 

「まったく…足が危ないのに格好つけるから…」

「面目ない。最悪逆立ちででもベッド戻る。」

「無茶はしないでよ、安心して休めないから。誰か呼ぶから楽にしてていいよ。」

 

念話くらいは普通に使えるから、人を呼ぼうと思った所で、ちょうどノックが響く。

 

「速人、なのは、二人ともおとなしくして…」

 

言いながら入ってきたのはリライヴちゃんだった。

 

「いい所に。ちょっと手を」

「あーっ!!」

 

手を借りようと思ったら、後から入ってきたアリシアちゃんが私達を指差して大声を上げる。

いきなり何の騒ぎだと思って注意しようとして…

 

 

「な、何でなのはを襲ってるのよ!」

「「ええっ!?」」

 

 

ついで放たれたアリシアちゃんの言葉に、それ所じゃなくなった。

確かに、私の頭の両脇に肘を突いて起き上がれなくして覆いかぶさっているような今の状態はそう見えるかもしれないけど!

 

「ちょ、ちょっと待て!話を」

「聞くけど、その前に一つだけいいかな。」

 

リライヴちゃんの、透き通るような声。

でも、なんとなく分かった。トーンはあまり変わらないように思えるけど、それでも…なんか無理に我慢してるようなそんな声だって分かっちゃって…

 

 

 

「また『事故』じゃ無いよね?」

 

 

 

笑顔で放たれたリライヴちゃんの言葉を聞いた瞬間、速人お兄ちゃんの表情が凍りついた。

 

リライヴちゃんは、そうそう疑ったり悪意や勘ぐりを前提に考えない人だ。

だから多分、普通に事故だと信じてくれてて…

 

 

 

多分、その事故の回数が多い事に怒ってる、物凄く。

 

 

 

速人お兄ちゃんもそれが分かったんだろう。

しばらく固まっていたお兄ちゃんは、何かを観念するように目を伏せて…

 

「…事故…です。」

 

答えるお兄ちゃんは、何故か敬語だった。

リライヴちゃんは軽く額を抑えると、お兄ちゃんをベッドに戻してくれる。

その対応が優しすぎて怖い。

 

しっかりと戻ったのを確認すると、わざわざ映像通信を繋ぐリライヴちゃん。

 

「あ、シャマルにフィリス先生。」

「いっ!?」

「にゃ!?」

 

追加されたお医者様の名前に、嫌な記憶が蘇る。

 

恭也お兄ちゃんですら避けたがる激痛整体。

 

速人お兄ちゃんはあっさり察したらしく、分かりやすく声を漏らしていた。

 

『どうしました?』

「怪我人がまた無茶してたので、お仕置きもかねてしっかり医療のありがたみを教えてあげてくれませんか?」

『…はぁ…仕方ないですね、二人共。』

『すぐに行きますから、リライヴちゃん見張りお願いね。』

「ええ、それはもう全力で。」

 

会話を終えると、リライヴちゃんは通信を切って、私達が揃って見える壁に背を預けた。

 

「お、お兄ちゃんが変に格好つけようとするから!」

「変とか言うな!心配は心配だったんだよ!いや、無茶したのは悪かったけど!!」

「今更遅いよ馬鹿ぁ!!」

 

逃げる事もできずに口論する中、アリシアちゃんとリライヴちゃんが並んで笑顔で私達を見ていた。それはもう楽しそうに。

 

やがて、部屋の扉が叩かれる音がして……

 

 

 

 

 

 

 

 

誰も居なくなって戸が閉まる音がした後、部屋にはいろいろと終わった感じの私とお兄ちゃんの姿があった。

 

「き、決めた…ヴィヴィオの事もあるし、今後はもう少し無茶は避けよう…」

「の、ノリノリでユーリと戦ったくせに今更何言ってやがる…」

 

それぞれに遺言みたいに呟いた後、いろいろ疲れた私は眠りに落ちた。

 

 

 

Side~キリエ=フローリアン

 

 

「スバルから連絡!腕見つかったって!」

「ホントに!?よかった…こんな格好で博士の所帰るのみっともないものね。」

「何から何までありがとうございます。」

 

シャーリーさん経由で話を聞いた私は胸を撫で下ろし、お姉ちゃんが頭を下げた。

 

事件は終わった。

後は異分子の私達が帰れば、殆ど滞りなく終わった事になる。

 

目覚めたユーリを救う為に局員や王様達が頑張って…そんな、私達がいなかった場合の世界が続く。

 

記憶封鎖もしなきゃいけないし、帰る必要もあるけど、それくらいならまぁ何とかなるでしょう。

 

またお姉ちゃんが寿命削るような無茶をしなくてもいいように、帰ったら私はこの体と心で頑張って、エルトリアに緑の大地を復活させよう。

 

どれだけ時間がかかっても…必ず…

 

 

「随分おとなしくなったな桃色、姉が死に掛けて反省でもしたか?」

「王様…」

 

休んだだけで回復したのか、王様とシュテルとレヴィが揃って私達の元へ顔を出した。

王様の言い様にアミタが何か言いたげにするのを止めて、私は肩を竦めた。

 

「そうね、こんな筈じゃなかったから。エグザミアを持って帰るだけのはずが、いろいろ迷惑かけちゃったし…わがまま言わずに帰ろうって。」

「此方の世界の事は気にしなくてもかまいませんよ。ディアーチェやレヴィの方がわがままと言う意味ではわがままですから慣れています。」

「どういう意味だ貴様!」

「シュテル!それボクもなの!?」

 

シュテルのちょっぴり毒の混じった慰めに続いて王様とレヴィが怒る。

それをそ知らぬ顔で流すシュテル。

 

…ユーリも、目が覚めたらこの日常に加わるんだ。

 

エグザミアが欲しいなんて…言えないわね、ホント。

 

「『世界はいつだって、こんな筈じゃない事ばっかりだ。』」

「え?」

「知り合いの名言で…私達のマスターの『希望』です。」

 

シュテルの話に訳が分からず、私はお姉ちゃんと揃って首を傾げる。

と、王様が腰に手を当てて胸を張って、これ以上無いくらい自信たっぷりに…

 

 

 

 

「ユーリからの伝言だ、『壊すだけだった力が救いの為に使えるのなら、私にも是非協力させて欲しい』…とな。」

 

 

 

 

そんな、思ってもみない事を告げてくれた。

 

理解が追いつかない。

あまりにも振って沸いた幸福に、素直に喜ぶ事もできずに固まる事しかできない。

 

「こんな筈じゃない事…予定外の事というのは、予定にそって行動する事が前提である為、起これば不幸と思う人が多いでしょう。ですが…」

 

言葉を区切ったシュテルは、小さな笑みを見せて…

 

 

 

「予定されている不幸を薙ぎ払う突然の幸福と言うのも、中々新鮮で楽しいでしょう?」

 

 

 

胸に刺さる、暖かいもの。

思わず泣きそうになった私はうつむく事で顔を隠す。

 

「…りがと…」

「なんだよー、ユーリが頑張って言ってくれたんだからそんばっ!?」

「静かにしておきなさいレヴィ。感動でむせび泣きそうなのを人前だからと必死でこらえているのですから。まったく、空気の読めない人ばかりで」

「貴様も読んでおるならいちいち口に出すなこの馬鹿者が!」

 

口をシュテルに押さえられているレヴィに、静かに人の心中を暴露してくれるシュテル。

そんなシュテルの事をよく知ってるのか、止めに入る王様。

 

 

 

あぁホント…世界はこんな筈じゃない事ばっかりだ。

 

 

 

ありがとう。

声が震えるのが怖くて言い切れなかったお礼を、内心で刻み込むように繰り返した。

 

 

 

 

 

何を犠牲に振って沸いた幸福なのかにすら気づかずに。

 

 

 

 

 

SIDE OUT

 

 




トーマ「トーマ=アヴェニールと」
リリィ「リリィ=シュトロゼックの」
ト&リ「前作解説コーナー!」

『激痛整体』
トーマ「しっかり受けると後から調子はちゃんと良くなるんだけど…」
リリィ「身内から人外扱いされてるあの恭也さんが痛みに避ける整体なんだよね…」

トーマ「基本的に無茶はよくないって教訓かな?はは…」
リリィ「でも…」
トーマ「ん?」
リリィ「無茶してない人って…六課にいるのかな?」
トーマ「…ノーコメント。」
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