後日談・ユーリの宵の主調査
Side~高町速人
鍛錬を終えて家に帰ると、シュテルが静かに近づいてきた。
「お疲れ様です、マスター。」
「サンキューシュテル、いつも悪いな。」
シュテルからスポーツドリンクを受け取って、あおるように飲む。
「皆様もどうぞ。」
「ああ、ありがとうノエルさん。」
「ありがとう。」
「いただきます。」
兄さん達もノエルさんからそれぞれ飲み物を受け取っていた。
「…でもノエルさん、シュテルが速人に給仕するのはいいんだね。」
飲み終えたグラスをノエルさんに返しながら俺とシュテルの方を見るリライヴ。
当のノエルさんは、シュテルを一瞥した後目を伏せた。
「…馬に蹴られるのは私もごめんですので、自力で頑張ってください。」
「何か引っかかる言い方だねそれ…」
こっちを見てくるリライヴとノエルさんから視線を外そうと思った所で、いつもの視線を感じる。
別に見なくても『心』による気配感知で誰か分かるんだけど、一応チラッとだけ様子を見てみた。
視線を向けた先には、物陰からばればれの様子で顔を出しているユーリの姿があった。
困ったような表情をしているユーリ。
うーん…シュテルやレヴィと一緒にいると結構な頻度でこんな表情で俺の方を見てるんだよなぁ。
帰ってきたときもディアーチェを放さない様に掴んでたし、宵の騎士としてとはいえ、ディアーチェ達のマスターやってた俺が素直に受け入れづらいんだろうか?
「目の前の私を放置してユーリを気にされると少し傷つくのですが…」
「あ、悪い。」
「…目の前の女性を放置して別の女性を気にされると傷つくのですが。」
「いや、言い回し変わってるから。」
シュテルの追求から逃れつつ、ユーリとどうにか打ち解けられないか考える。
家の王様がこの手の事に手を貸してくれるなら、もう少しどうにかなるんだが…
なんか考えないとなぁ…
Side~ユーリ=エーベルヴァイン
なんだか日課のようになってしまっている速人の様子見。
…と言っても、アミタ達といた時のようにやるべき事は無いから、今の所はこの時代、この世界に馴染む事だけが仕事なのですが。
外には着いていっていないけれど、家ではアリシアとレヴィと話している事が多い。
アリシアとはナギハの関係で、レヴィとはゲームやヒーロー関係の番組を見るから自然と二人と一緒の機会が多いみたい。
アリシアは…なんだか無理にでも用事を作ってる気がする。
これだけだとよく分わからない。
居間とかだけじゃなく、部屋の様子も伺ったりしてみるべきでしょうか?
少し考えながら部屋に向かう速人を追いかけて…
「なぁユーリ。」
「ひゃ!」
唐突に背後から声をかけられた。
やっぱり少しだけ後ろめたかったからなのか、いきなり声をかけられたことにびっくりして変な声を上げてしまった。
無視も出来なくて振り返ると、そこには速人が…
え?
「そろそろ魔力も調整できるようになったんだろ。出かけたりしてみないか?」
「は、はい…え?え?」
「いいのか?ならよかった。実はもうチケット買っちゃっててさ。いや、考えなしに飛ばすもんじゃないなホント。」
呆然としている私を置いてけぼりにするかのように話を進める速人。
「それじゃ、明日にでも行こうぜ。定番過ぎてアレだが場所は遊園地だ。」
伝える事は伝えたと言った感じでひらひらと手を振りながら部屋に入る速人。
残された私は呆然と閉まった扉を眺め…
恥ずかしくなって駆け出した。
あわてて駆けて、勢い良く扉を開く。
「む、何だ?慌しい。」
「あ、あのっ…私がばれてて遊園地に誘われて」
「ええいパニくるな!一回落ち着け。」
今あった事を、落ち着いてから話す。
ディアーチェはただ黙って話を聞いてくれて…
「今更だな。」
「えっ!?」
一言で片付けられてしまった。
「そもそも奴は周囲の人間の気配など見なくても、魔力を行使しなくても分かる。視認範囲で後をつけるなど不可能だ。」
「そ、そうなんですか…」
なんでもないことのように言い切ってしまったディアーチェ。
そうなると、今日初めてとか最近とかじゃなくて、様子を伺っていたのがずっとばれていた事になる。
「…まぁ、気にする事もあるまい。奴が嫌ならはじめからどうにか捌いていただろう。」
そういう問題だけではないのだけれど、つけられていた速人の方を気にするのは普通当たり前だ。
恥ずかしいとか何とかで私が困るのもおかしい。
「で、遊園地に誘われた…と。」
「ど、どうしましょう?」
「いや、別に慌てる必要もなかろう。」
慌てている私に対して、ディアーチェはあくまで静かな反応をする。
「家か近隣、後はなのは達との模擬戦に行った程度しかまともに外に出ていないだろう?慣れるつもりで楽しんでくれば良い。」
いきなりすぎて戸惑ったけど、淡々と話すディアーチェの言葉を聞いていると、慌てる必要もない気がしてきた。
「とはいえ、服や荷物も多少準備せねばなるまい。手伝うからさっさと片付けてしまうか。」
「はい、ありがとうございますディアーチェ。」
此方の世界に不慣れなままで軽く不安を抱えたまま、ディアーチェが力を貸してくれたおかげでどうにか準備を済ませる事ができた。
アリシアやレヴィにだけは見つからないようにと言う事で、割とお忍びみたいな感じで家を出る。
それなりに家を離れた所で、少し気になっていた事を聞いてみた。
「あのっ…なんで二人で何ですか?」
出てしまってから聞くことでもない気がするけれど、気が動転していた時は思い付かなかったから今になって聞いてみる。
「俺とユーリが仲良くなるためなんだから当然だろ?」
「それはそうですけど…」
「ディアーチェ達と一緒にいるときはユーリはよく見てるし、新鮮な方がいいだろ。」
他意は無いはずだけれど、覗き見していたことをとがめられているきがして恥ずかしくて俯いてしまう。
と、頭をそっと撫でられる感触がして顔を上げた。
「ま、せっかくなんだし楽しもうぜ。な?」
「は、はい…」
頭から伝わってくる暖かさになんだかむずがゆいような気持ちを感じた。
コレが、ディアーチェ達が好きだった家族の感覚なのでしょうか…
戸惑いが抜けて、少しだけ緊張が緩んだ。
と、思ったけど…
「ひ、人…多い…ですね…」
緊張どころか、あまりになれない空間に振り回されて、昼にもならないうちに疲れ果ててしまった。
大きな乗り物からは少しだけ離れたベンチに並んで座って休む。
少しだけ遠くに明るい悲鳴と乗り物の動き回る音が響く。
「エルトリアにはそう何人もうろついてなかったんだよな。急だったか?」
「すみません…折角つれてきて貰ったのに…」
身体こそ子供だけれど、エグザミアを扱うこの身体がそんな簡単に体力切れになるわけが無い。
なれない事に変な疲れ方をしたみたいだ。
少しずつでも慣れながら、楽しめるようになろうと顔をあげて…
「ぁ…」
少し離れた所に見える、袋に包まれた食品類。
服装を見てると、きっと廃棄回収か何かをしている人なのだろう。
…分かってる。
期限が切れたものを、施設で扱うわけには行かない。
でも…
そもそも、汚染された大地でまともに飲料や食料を集める事もままならなかったエルトリアを見ている私は、なんだか少し悲しくなって…
「んー…ちょっと待っててくれ。」
「え?」
速人は唐突に立ち上がって、袋を持っている人のところまで行って…
一言二言交わすと、袋を持った人と一緒に物陰に行って見えなくなってしまった。
その後、しばらくして少し青ざめた顔をした速人が戻ってきた。
「あの…」
「そろそろ大丈夫か?」
「私はもう大丈夫です、でも」
「それじゃ、行こうぜ。」
私の手を取った速人は、そのまま次の乗り物へと向かっていった。
私の事を気遣ってなのか、コーヒーカップやメリーゴーランドみたいに、乗ってしまったら他の人とは同席しなくてすむ、ゆったりした乗り物を巡った。
なんだか、噂程度に聞いているデートみたいで…
「っ…」
ぶんぶんと、首を横に振る。
速人を取ったらシュテルにもアリシアにも悪いし、私は…
「どうした?」
「あ、い、いえ…」
観覧車で向かい合っているからその変な様子は丸分かりで、いきなり首を振った私に心配そうに声をかける速人。
見つめ合うのも下を向くのも躊躇った私は、とりあえず外の景色に目を向けた。
生きた町並み。見える人たちは皆とても楽しそうで…
「こんな世界に…私のいる場所はあるんでしょうか?」
思わず漏れた呟き。
エルトリアにいた時は…あった。
私の力が…エグザミアが必要で、凶暴な生物なんかも出てくるから力も必要で…
「さぁ?」
「うぇっ!?」
速人に問いかけても明るい返事しかかえって来ないと思っていた私は、投げっぱなしなそっけない答えに驚いて妙な声を上げてしまった。
…自分で暗い呟きをもらしておいて、甘え…ですね。
「そりゃ俺はユーリに楽しく…それでなくても安らげる場所であって欲しいけどさ。俺達の家が。ユーリが居たい場所かは…どう?」
「えっ、それは…」
内心でだけ反省しようとしてたら、逆に問いかけを返されて言葉に詰まる。
私が…ここに居たいのか?
考えた事もなかった。
やっと助けてくれたディアーチェ達と離れたくなくて、そんな皆が望んだ速人のようになれば、離れずに済むと思って、ただそれだけで…
「ユーリにしてみれば目的をぶつ切りにされた感じだろうから戸惑うのも当然だよな。」
良いながら立ち上がった速人は、私の頭に手を置いてゆっくりと撫でる。
「無理しないで色々手をつけてけば良いさ、やりたい事が出来た時にでも教えてくれ。」
「…はいっ。」
いる場所は…いたい場所。だから、私が決めなきゃいけない。
速人やリライヴ達とはまだ短いから、良くは分かっていないけれど…
「ディアーチェ達とは一緒に居たいから、皆が居たい速人の傍が今の私の居たい場所です。」
顔を見て言うのが恥ずかしくて、俯いてそう言った。
まだこれだけしか言えないのは少し自分の意思が弱いかもしれないけれど、少なくとも離れたいとは思ってない。
ここまでしてくれた速人にそれだけでも伝えたくて…
速人から何の返事も返ってこない事に気がついた。
「あの…速人?」
不安になって様子を伺うと…
「ちょ…っとまっ…う…」
「え…えぇっ!?大丈夫ですか!?速人!?」
口元を両手で押さえたまま、速人は観覧車の中で膝をついた。
「…大地自体が死滅しつつあったエルトリアから越してきたユーリを前に食料廃棄を見せるのが忍びなかったから、数十人分は軽い袋詰めの、しかも短期間とはいえ期限の過ぎた食料を、調理器具も無いままかろうじて熱消毒だけしてろくな調理も無いまま胃に押し込んで、それを堪えながらユーリと乗り物めぐりをしてた…と。」
皆が食卓につく中、少し離れた位置にあるソファに横たわった速人を横目に、シュテルが淡々と事情を復唱する。
「馬鹿者が。」
「ひ…人の事を一言で片付け…うぐ…っ…」
「いや、馬鹿よねぇ。」
「同感。」
恭也に忍に雫に畳み掛けるように言われて、息絶え絶えの速人の反論は言い切ることも出来ずに断ち切られる。
「ご、ごめんユーリ…最後の最後までもたなくて…」
「…謝るなら…そっちより、無茶した事にしてください…」
「無駄だユーリ、そ奴の構成要素は無茶4割と馬鹿4割と女難の相2割だからな。」
「否定したいがゆっくり喋ってる余裕が…っ…」
苦しげな速人の声に、皆を心配させているかと思った私の言葉は、あっさりとしたディアーチェの言葉によって一蹴された。
「人が多い遊園地向きじゃないだろうとは思ってたから…実は明日から別荘の予約してあるんだ…自然観光のつもりで…」
「その有様でいけるわけ無いでしょ?大体明日って祝日だから店に人はいるし、シュテルも私も依頼入って…」
速人の言葉を聞いて肩をすくめたリライヴが、順々に予定を並べていって…
唐突に言葉を止めて、ディアーチェを見た。
「…む?な、何だ?」
ディアーチェは、王としての自己鍛錬や家族からの頼まれごとくらいでしか動かない。
だから、特に予定が無いのは今ディアーチェくらいで…
「ディアーチェ…折角だから行ってこないか?ユーリと一緒に。」
「そっか、ディアーチェ割と暇だもんね!」
「やかましいわ!!暇とはなんだ暇とは!!!」
楽しそうに酷い事を言うレヴィに向かって怒鳴るディアーチェ。
居る場所は…居たい場所。
今日も出かけたばかりで、遠慮知らずと思われるかもしれないとか、色々不安はあるけれど…
「あの…ディアーチェ…」
「む、何だ?」
「良かったら…連れて行ってくれませんか?」
「む、ぐっ…」
居たい場所に…ディアーチェの隣に居られるように、勇気を出して言ってみる。
私の頼みを聞いたディアーチェは、軽く目を見開いて周囲を見回す。
皆が皆ディアーチェを見ていて…
「…まぁ良かろう、予約まで入れてあるのでは無駄にするのも癪だ。」
「ありがとうございます、ディアーチェ。」
お礼を言うと、ディアーチェはそれには答えずに食事に手をつけ始めた。
Side~リライヴ
食後、大した馬鹿をやった速人を部屋に運んで寝かせる。
「…で、何処まで予定通りなのかな?速人。」
「何の話だ?」
「とぼけるんだ、別にいいけどさ。」
別に決まった日程とか組んで仕事についているわけじゃないし、ユーリにいたっては基本暇だ。
なのに、祝日やその一個前をわざわざ選んで、それも、他の人が予定を組みかえられないように前日にいきなり決行する。
遊園地での行動も、ユーリの押しの弱さなら速人が先導すれば乗り物誘導する事くらい簡単だろうし、休憩にしたってユーリがたとえ疲れなくても、『とりあえず休もう』とか言う事もできる。
皆が忙しくて、暇があるのが丁度ディアーチェだけなのも…
「ユーリが自分からディアーチェにわがまま言う事なんてめったに無いだろうし、ディアーチェもディアーチェで気遣うって言ってもそこまでベタベタしたがる感じじゃないし。二人きりで出かけられるなら、まだ慣れてないユーリが落ち着けるもんね。」
「家に居たらほぼ絶対騒がしいからな、ユーリも中々運がいいな。」
「はいはい。」
多分相当に手を尽くしたんだろうに全くそれを明かす気のない速人に乗ってあげる。
速人にしてみれば、別に誰が何をしたとかは気にしてないんだろう。
「…でもさ、コレは予想できなかったの?」
私は言いつつ、居間の様子をイノセントを使って映し出す。
『アリシア、何なのですか?その肌の色が見えそうな薄さのネグリジェは。』
『何…って、『寝に』いくのよ。速人体調悪い事になってるし、無茶は出来ないでしょ?既成事実作るなら今しかないじゃない。』
『まったく…分かりやすい事を。』
『何よ!?そっちだって今から出かける訳でもないのにゴシックドレスなんて着こんで!』
『貴女が出鱈目やっているので、どちらかというと綺麗にしていくほうが良いかと思いまして。品が無いですよ?それに、私は貴女と違ってその気になれば大人モードも用意できますし。』
『む、胸に手を当てて言うなーっ!絶対そんなの作ってあげないんだからーっ!!』
モニターを見ていた速人が静かに目を閉じた。
「スミマセンデシタ…」
冷や汗をだらだら流しながら謝る速人。
きっとこの冷や汗の原因は腹痛じゃないんだろうな…
「見張っててあげるから安心して休んでよ。私がその手の事しないのは信用してくれるでしょ?」
「…悪い。」
家族のためにと奔走した速人が眠るのを眺めながら、私は騒がしいモニターを閉じた。
Side~ユーリ=エーベルヴァイン
翌日、宿泊先の別荘でディアーチェと相部屋だった事で、全てを悟った。
いくら速人だって、女の子と外で止まるのにベッド一つの部屋なんてとる訳がない。
だったら…速人は元々来る予定じゃなくて…
「速人って…馬鹿なんですね。」
私は思いついたままに呟いていた。
同じ主のはずなのに、力は私の方が強いのに、決してまともな事をしているわけではないのに…
なのに、何もかも負けているような気がして…
「…お前は、宵の騎士の主ではない。」
ディアーチェがそう言いながら、私の頭に手を置く。
「我等と一つで成る、紫天の盟主、ユーリ=エーベルヴァインなのだ。速人の真似をする必要も、目指す必要も無い。…あんなのが二人も三人も居ても、心労がかさむだけよ。」
「ディアーチェ…」
ディアーチェに励まされるとは思ってなかったから、びっくりした。
「でも…」
「む?」
「…ディアーチェも心配してるんですね。」
心労がかさむと言っていたから、ディアーチェも速人の事を心配しているんだ。
「貴様まで人をからかおうとするな、馬鹿者。」
「すみません。」
「楽しそうに言いおって…」
言葉では怒っているものの、どう聞いても照れ隠しにしか聞こえないディアーチェの言葉に私は小さく笑みを浮かべて目を閉じた。
私は私のまま、少しでも紫天の主として胸をはれるように、少しずつ頑張っていこう。
SIDE OUT
という訳で、後日談その一になります。
ユーリの話は無いとダメだろう!と、思って真っ先に。
尚、今までは2、3日間隔でしたが、ここからは見直しでなくなるため、1~2週間くらいになると思います。