後日談・恋色会議
Side~リライヴ
「ありえないっ!!」
いきなりアリシアとシュテルに引っ張ってこられた一室で、アリシアが机を両手で叩いてそんな声を上げる。
きっと聞くまでもなく速人関連の話なんだろうとは思うけれど、それだけを叫ばれてもどうして良いのか全く分からない。
「…それで、今度はどうしたの?」
「そんな毎回恒例みたいな反応しないでよ!」
「アリシア、事実は認めなければ可能性の糸を探れませんよ?」
ちょっと呆れたような反応だったのを感じたのか、アリシアは私に癇癪でも起こしたように抗議してくる。
そこをシュテルにばっさりと切られて、アリシアすねた表情のまま黙りこくってしまった。
「アレ着て速人の部屋に行ったのに…」
「ほ、本気であんなもの着て…っ…」
俯いて溜息混じりに呟くアリシアの言葉に出た『アレ』に心当たりがあり過ぎた私は、頬が熱くなるのを感じていた。
裸をぼかす程度の薄さのネグリジェで、アリシアが『いざとなったらコレ着るしかないかなぁ』とか真っ赤な顔で漏らしていたのを覚えている。
まさか本気で着ていくなんて思いもしなかったけど…
「何を服一つでうろたえているのですか。小学生向けの少女漫画でも肌を重ねるくらいの描写はありますよ?貴女箱入り娘か何かですか。」
「別に慣れたほうがいいと思っても無いけど…シュテルに丁寧に怒られるとちょっと反省する気になるから不思議だね。」
丁寧に小学生以下と指摘されるのはさすがにダメージがある。
…だからってあの服の話題を平気で出せる人になりたくはないけど。
「でも…アレを着ていってもダメだったって事だよね?」
「うろたえるとか、照れるとかしてくれたならまだ良いけど、無言で上着をかけられた…」
「うわ…」
何も言わずにコートや上着を貸してあげる男性ってだけなら褒められた感じだけど、この状況だときっついなぁ…ありえないって叫ぶのも無理ないかも。
と、速人への呆れを混ぜて納得していると、アリシアが再び机を強く掌で叩く。
「だから、アプローチがどうとか言うよりまず速人の矯正が必要だと思うの!!」
「そういう訳で、貴女をつれてきた訳です。」
「う、うん…」
熱の入ってるアリシアと丁寧なシュテルに同じ内容で話されると、どうにも割り入りづらい。
ただ…
「それなら、私が混ざら無いほうが良いんじゃないかな?話の方向性によっては黙って聞いても居られないと思…」
言ってる間に二人からの視線が凄まじく冷めた。
興醒めしたとでも言うのだろうか?
でもだからって色仕掛けを見逃すどころか手伝えなんて私に言われても
「マスターの矯正は、マスターを好きな人にとっての必須事項です。貴女そこまで否定する気ですか?」
「ぅ…」
感情の見えない機械的な問いかけ。
だったはずなのに、最近気持ちが見えるようになったシュテルがそんな声で問い詰めてきた事が余計に激しく怒っているように感じられて、私は言葉に詰まる。
アリシアの方も呆れ混じりに息を吐いた。
「人数が減ってくれる分には良いんだけどね?どうする?」
二人の言い様は冷めていたけど、本当に意地が悪いというのなら、そもそもこんな話に私を連れてこようとしないだろう。
当のアリシアが今言ったばっかりだ、『人数が減ってくれたほうがいい』と。
なのにつれてきてくれたのは…結局の所、二人も抜けがけみたいな真似が好みじゃないからだろう。
「…あんまり無茶苦茶な話には付き合えないからね?」
「分かっていますよ。」
私が小さく息を吐いて答えると、二人は笑みを見せてくれた。
「じゃ、真っ当に協力させてもらうけど、普通に告白した事は?」
「ぅ…いきなり核心を…」
「ありますよ。」
空気が凍った。
二人は二人でやってない事があると指摘するつもりで聞いたのに、シュテルからさらっと完全に予想外の答えが返ってきた。
私とアリシアは、思いもしなかった事実にただ呆然とシュテルを見ている事しかできなかった。
Side~シュテル
明かした事実があまりにも意外だったのか、二人は揃って私を見たまま硬直してしまった。
未だにこんな集まりにいる以上、それほどいい話でもないのですが…ね。
任務でもなければ出回らず、修行するか誰かといるかで二人きりになるのが難しいマスター。戻ってきてからすぐに機会をうかがってはいたものの、それなりに時間がかかってしまった。
「あの…マスター…」
「ん?」
…機会はそうない。
アリシアのように答えを避けても意味は無いし、折角自覚できた自分の気持ちというものを抱えたまま、表に出さずにリライヴのように綺麗ではいられない。
だから…
「わ、私は…マスターが好きです。」
言った。
言い切って、耐え切れずに目を閉じる。
息をするのも忘れ、どれくらいの時間がたったかもわからないような緊張の中…
「うん、俺も好きだよ。」
そんな声が聞こえてきて、頭を撫でられた。
「は?え?」
緊張とかいろいろあって真っ白になっていた頭がはっきりしてきたころには、既にマスターの姿は無かった。
全てを語り終え、溜息を吐く。
話を聞いていた二人の表情は、引きつった笑みになっていた。
「これ…どうにかしようあるのかな?」
「貴女がそれを言わないで下さい。私はアリシアよりは貴女の方が手管を尽くしていないだろうと思っているのですから。」
「それ、何気に私じゃどうしようもないって言ってるよね?」
私達は揃って疲れたような顔で肩を落とした。
「黙ってても進まないし、状況を整理しようか。」
「…そうだね。」
リライヴの提案に頷くアリシア。
そうして、私達は速人の心をどう動かすかについての情報整理を漸く開始した。
真正面から告白しても流された。
誘惑にもかからなかった。
当然、マスター側からの動きは無い。
「…まさか、男好き…って事は無いよね?」
「さすがにそれは無いと思うよ?一応女の子は好きみたいだし。」
難しい顔でとんでもないことを呟くアリシアに、リライヴが苦笑しながら訂正する。
しかし、リライヴのその発言に私は引っかかるものを感じていた。
「女の…子…」
「ん?」
「女性…ではないのですか?」
言いながら、私は自分の胸元に手を当てる。
瞬間、その場に居た皆の動きが止まった。
9歳時のなのはを基にした私の身体は勿論、ポッドで長い時を眠ることになったせいかバランスの狂っているアリシアも、中学生と間違われそうなスタイル。
一方でリライヴも、子供の域は外れているものの、幼少期にろくでもない調整を受けたせいか、なのはやフェイトのような大人の女性のスタイルまでは至っていない。
それぞれに俯いて自分の胸元辺りを見て、揃って動かなくなるリライヴとアリシア。
私はそんな二人を他所に小さく息を吐いて…
「…どうやら、これが結論という事になりそうですね。」
割と絶望的な宣告をすることになった。
何しろもう成長期も当に終わっている、これでスタイルが原因となればもうどうしようもない。
「うぅ…スタイルのことなんて身体弄くりまわさないとどうにもできないし、多分そういうのは速人好きじゃないだろうしなぁ…」
「そうだね、身体の改造なんて無駄に負荷をかけるだろうし、心配させるだけだよ。」
落ち込むアリシアをいさめるように声をかけるリライヴ。
リライヴにしても、姿見を弄る魔法こそあるものの、それも魔法発動中のみの話だ。
身体そのものが変わるわけじゃない。
「さて…そうと決まれば…」
私は席を立つ。
すべき事は決まりました、後は実行するだけですね。
「どうしたの?シュテル。」
「いえ、長い間子供の姿のままでしたし、そろそろ大人モードでも用意しようかと。」
「うわっ!ずるい!!」
机を掌で叩きながら勢いよく立ち上がるアリシア。
正直にやる事を答えたのですが…ずるいんでしょうか?
「まぁまぁ…シュテルが上手くいけば、流れで一緒になれるかもしれないし、協力してあげたら?」
「うぅ…この膠着状態をどうにかするほうが先になるのかなぁ…」
誘惑は好みの手じゃないはずなのだが、リライヴが助け舟を出してくれる。
アリシアの協力なしとなると少し手間取ると思っていたので、もし手を貸してくれるならありがたい。
私達は、三人揃って部屋を出る。向かう先は、アリシアと忍が使っている研究室。
「しかし、貴女が誘惑系の行為に協力するとは…」
私の問いに、リライヴは小さく笑って肩を竦める。
「シュテルが折角勇気出してもまともな回答じゃなくてアレじゃあね…それに、アリシアみたいに白昼堂々恥ずかしい真似するならともかく、単に大人っぽくするだけだから。」
「私そんなことしてないよ!夜速人相手だけに…あの、分かったから無言ですっごい冷めた目で見るのはやめて。」
色事関係に関してはリライヴからの評価が最低ラインらしいアリシアが、無言で見られて抗議を諦める。
二人に協力されるとなると少し申し訳ない気もしますが、マスターが今より女性関係に緩くなってくれれば二人も巻き込めるかもしれませんし、一人を選んで結婚だ何だというのは…家の状況を考えれば今更です。
あの普段厳格で硬派にしか見えない恭也でさえ、メイドの筈のノエルさんと忍さん二人と一緒になっているようですし。
そんなことを考えながら、研究室に向かっていると…
「いっ!?」
広間に差し掛かった所で、勢いよく椅子から立ち上がるマスターの姿を見ることになった。
周囲の気配に気づけるマスターだから、見えない段階で反応して立ち上がるのはおかしな事ではないのだけれど…
「あの…マスター?どうしてそんなに慌てるのですか?」
「え?いや、そんなことナイヨー?」
何処か上の空といった様子ですっとぼけるマスター。
私とリライヴが真意を測ろうとマスターの目を見つめる中、アリシアがマスターの傍に近づいて、マスターが座っていた辺りを覗き込んで、椅子の下に隠されていた一冊の雑誌を手に取る。
表紙に凄まじく面積の狭い水着を着た女性の映っている雑誌。
…やはり、それなりのサイズの胸ですね。
フェイトほどではないにしろ、丁度なのは位の…ん?
表紙の女性は、二つ結びの栗色の髪だった。
当然、なのはがこんな所に出るはずは無い。
だから、これは広告塔のようななのはのコスプレという事になる。
さすがにコスプレ程度は法律で禁じられていない。
いないのですが…
「…いくら私達に胸ないからって…妹のコスプレしてるグラビア眺めて悦に浸る普通!?」
「え!?」
「…速人、さすがに今回は私もちょっと怒るよ?」
「や!ちょ!いつもなら話くらい聞」
マスターの抗議は、丸めた雑誌を握るアリシアとイノセントを起動させたリライヴの連続攻撃に飲まれた。
私は、さすがに室内で炎関係を打つのは躊躇われたので、ルシフェリオンを一回振りぬいて叩き込むだけで済ませておいた。
良いでしょう、そこまで言うなら私がマスターの願い事を叶えて見せましょう、ええ。
Side~月村忍
「あーあ、いつも通りだけどボコボコだね。」
「いつも通り言わないで…なんか悲しくなる。」
椅子にぼろ雑巾のようにかけられている速人君の姿に呆れて声をかけると、呻く様に答えながら速人君は椅子に座りなおした。
「なのはちゃん関係のゴシップに、妙な事書かれたり、変な写真載ってたりしないか調べてただけなんでしょ?はじめから正直に言えばいいのに。」
「俺が勝手にやってる事だしな、手伝わせるのも悪い。」
ぐしゃぐしゃになった雑誌を開きなおした速人君の頭を軽くはたく。
「悪いって言うなら、皆に何も答えずにこんなの読み漁ってるほうが悪いよ。」
ぴたりと止まった速人君は開いていた雑誌を静かに閉じる。
何も答えずに。
それが、雑誌を読む理由なんかじゃない事は速人君も分かってるんだろう。
「決心つかない?」
「まぁ…ね。単に俺と皆の問題ってだけじゃすまないしさ。」
速人君はそう言うと、何か考えるように目を閉じた。
誰か一人を選ぶのか、選ばないのか。
選ばないにしてもシュテルだけ子供が出来ない上に一人だけ未来に取り残される事になる。
その子供にしたって、速人君達はまともな生活送ってない上、多重婚なんて出来ないからある意味片親より悪い風評を受ける事になる。
誰か一人を選ぶなら、このまま選ばなかった皆と一緒に暮らせるのか…
こんな感じで、色々と考える事が多いみたい。
「…ちなみに、速人君は誰が好きなの?」
「皆。」
「あらら、即答。」
私としては、一番重要なことを聞いたつもりだったけど一瞬の間も無く即答された。
男らしさとしてそれはどうなのかと注意しておこうかと思って…
「大切な人を一人選べるなら、俺はヒーローなんて目指してないよ。」
小さく呟いた速人君に、私は何も言えなくなった。
…そうだった、それで戦って戦って、滅茶苦茶やって異世界まできたんだ。
管理局に勤めているなのはちゃん達と違って、求められたわけでもないままで、異界まで来て戦って。
これは…一人で速人君の気を引くのは難しいかも。
後日、ロングツインテールで白を基調とした防護服に変えたシュテル用の大人モードを3人が試作して、『頼むからそれだけはやめてくれ』と速人君に懇願されていた。
前途多難だなぁ…色々。
SIDE OUT
進展していないような、していないような(苦笑)
速人がヒーローやめない限り、ハーレムか独り身かの二択になる気がします。
チキン票増えそうだなぁ(汗)