後日談・シンネンの先
Side~高町なのは
Js事件の煽りを受けた上に六課の関係で前回ドタバタしていて、年明けを迎える事ができなかった。
ミッドにいては室内を飾る程度が精一杯の大晦日から正月。
折角だから、ヴィヴィオにも体験させてあげたいと地球に下りてきたのだ。
うん、そのはずなのに…
「何でこんな魔法色強いメンバーが…」
「俺が帰省してたら何か悪いのか。」
「なんでもない、諦めた。」
年末だと言うのに掃除に駆り出されている速人お兄ちゃんと、宵の騎士の皆の姿があった。
「やっほーヴィヴィオ!元気だった?」
「うん!やっほーレヴィ!」
明るく挨拶を交わすヴィヴィオとレヴィ。
そんな二人を見ながら苦笑する。
「お姉ちゃんは?」
「道場で兄さんにコテンパンに叩きのめされてから黄昏てるよ。」
「あはは…恭也お兄ちゃん、こっちでも化物なんだ…」
お姉ちゃんはこっちで普通に修行できてるはずなのに、速人お兄ちゃん位しかまともに剣を交える相手がいない恭也お兄ちゃんが何でそんな出鱈目なんだろう。
「失礼なこと言わない!道場の掃除してただけなんだから。」
言いながら、ちょっとだけ不機嫌そうな美由希お姉ちゃんが顔を出した。
「お姉ちゃん。久しぶり。」
「ほらヴィヴィオ、美由希伯母さんだぞー。」
ビクリとお姉ちゃんの肩がはねる。
「こんにちは、美由希おばさん。」
「うぅ…こ、こんにちわヴィヴィオ…」
「お兄ちゃん…」
容赦ない誘導を素直に受け入れたヴィヴィオが笑顔で挨拶するのに抵抗できず、ショックを受けながら返事を返すお姉ちゃん。
そんな様子に私は肩を落とす。
人の子供におかしな知識を植え込むなと怒るべきなのかもしれないけれど、速人お兄ちゃんもおじさんと呼ばれているから注意も出来ない。
それに…言われては無いけど、私だって雫ちゃんから見れば…
「その恭也お兄ちゃんは?」
「姉さんとやり合ってから月村の方に行ったよ、婿入りの身だしな。リライヴもついてってるから心配はいらない。」
「そっか。」
残念は残念だけど、年越しはパーティーって言うのとは少し違う。
それぞれ家族で過ごすのも普通か。
「手伝うよ。」
「分かった。俺はゆっくりと」
「て・つ・だ・う・よ。」
「お、おー…」
片手を上げてどこかへ出ようとするお兄ちゃんの肩をしっかりとつかんでゆっくり繰り返すと、お兄ちゃんは冷や汗を流しながら棒読みで答えた。
「ただいまー。」
しばらくして、お母さん達が帰ってきた。
フレイアさんも一緒だった所を見ると、厨房を手伝っていたのかな。
「なのはも速人も久しぶり!」
「久しぶり。」
明るく声をかけてくるお母さんに返事を返したものの、速人お兄ちゃんの声が聞こえなくて…
「ヴィヴィオ、俺となのはママのママ、桃子おぶぁっ!」
嫌な予感がしたのでとりあえず何か言いかけてたお兄ちゃんに誘導弾を叩き込んだ。
「マ…ママ?魔法…」
「あはははは…ヴィヴィオは真似しちゃ駄目だよ?ついでにあんまり速人おじさんの言う事聞かないの。」
普段から魔法で遊ばないようにって注意してる身でコレでは説得力が無いのは分かっていたので苦笑しか出来ない。
でも、私がお兄ちゃんとめようと思ったらコレくらい…
「ヴィヴィオ、なのはママのママ、桃子おばーちゃんですよー。」
「にゃ!?」
が、当のお母さんがあっさり笑顔でヴィヴィオの頭を撫でなが言い切ってしまった。
「謙虚なものだ。美由希の方は呼称一つで分かりやすい位に肩を落としていたと言うのに。」
「はっはっは、大人の余裕って奴だよ。美由希は未だに結婚の兆しが見えないからなぁ…」
私達の様子を見ながら呆れたように呟くディアーチェちゃんに向かって苦笑しながら声をかけるお父さん。
言われ放題のお姉ちゃんは何も言わずに苦笑していた。
きっと今までも抵抗したんだとなんとなく察する。
だって…
「ところで…そっちはどうなってるのか、勿論色々聞かせてくれるよな?速人、なのは。」
「お、お手柔らかに…」
私も楽しそうなお父さんにまともに返せる話が無いから。
結局その日は、ヴィヴィオやレヴィちゃんがいる事を理由に、どうにか双六とか大晦日の特番に話を逸らして追求を逃れた。
Side~高町速人
翌日の早朝…
「ふぅ…このくらいにしておくか。」
「了解。」
道場で訓練用の木刀を使って父さんと打ち合っていたのだが、父さんが止まって腕をおろした為、それで終わりになった。
「にしても、お前本当に目隠ししたまま戦えるんだな…」
「まぁね。」
目隠しを外しながら軽く答えたものの、こっちはこっちで驚いた。
いくら本気の仕合で無かったとはいえ、喫茶店のマスター兼サッカーチームのコーチが板についてきてるおっさんのはずの父さんを詰めきれないとは思わなかった。
「けど、さすがに時間かかるな。一試合できるとは…」
「女性の準備に文句を言うとは、この駄目男め。」
「文句までは言ってないだろ。俺はヒーローだぞ?女性に優…な、何だよ…」
言ってる最中に凄まじいジト目になる父さん。
凄まじく冷めた目に俺は思わず距離をとる。
「お前それはいいけどな…実際どうなんだ?え?」
「どうって…」
言いよどんだ所で頭をわしづかみにされてぐしゃぐしゃとかき乱される。
「しらばっくれるな!あんな美人を何人もはべらせといてこのナンパ男め!」
「ばっ、別にナンパで捕まえたわけじゃねぇっ!」
「よく言う。全く…俺だってボディーガードあちこちやってたけどな、そんな運よく女性をとりこにしたりしてないぞ!」
相変わらず頭を撫で続ける父さんの手を、弧を描くように払ってそのまま切り落ろすように下げる。
はねるように横に転がった父さんは、流れでそのまま立ち上がった。
「いきなり父親を投げるかお前?」
「いつまでも頭掴んでるからだ!」
呆れた様子で俺を見て呟く父さんに悪態一つ吐いて、俺は道場を出る。
「速人…『いつか』はいつまでもないぞ。」
「…分かってる。」
戦いに身を投じ、身内のほぼ全てを一瞬で失い、一度は生死の境すら彷徨った父さんの言葉は重い。
それでなくても、俺だって似たような道にいる身だから分かっている。
望む『道』に全てを費やす求道者は、普通にしていてはついてくることが出来ない為、その道を独りで進む以外にほぼ選択肢が無い。
でも、俺の願いであるヒーローになる為には、共にいようとする人を切り捨てる事も、その人に合わせて歩を緩める事もできない。
『君の目指す先はこんな事を考え、答えを出せずに終わる事が殆どになってしまうだろう。』
かつて、美沙斗さんに私を止めるかと聞かれて、返答できなかった結果返された言葉。
矛盾と戦うとは、つまりそういう事なんだ。
小さく見える自分の掌を少し眺めた俺は、拳を強く握る。
『できるから』望んだ事じゃない。それは初めから知っている。
全部拾える回答が無ければ無理でも作り出してみせる。
Side~高町なのは
「で、なのははどう?恋人の一人くらい作ったの?」
「直球だね。」
「濁したらごまかすでしょ。」
ヴィヴィオに着付けをしながらのお母さんの問いに、私は何もいえなくなった。
着物の着付けまではさすがに習得してる暇が無かった。…折角だからこの機に覚えておこう。
「上手く行ったらさすがに教えてくれるでしょうから、ホントは聞く必要ないけど。」
「ぅ…」
「でも…好きな人、いないの?」
ゆっくりと問いかけられる。
怒鳴ったり叫んだりと言った形で怒る事をしないお母さん。
だからこそ、問いかけられただけなのに妙にプレッシャーを感じてしまう。
「桃子、兄に恋慕していると笑って言えるのは美由希くらいのものですよ。」
「シュテルちゃんもキッツイなぁ…」
自分の着付けを済ませてレヴィちゃんのに手をかけてるシュテルちゃんの言葉に苦笑するお姉ちゃん。
お母さんの言葉に答えるのを躊躇って周囲を見れば、ディアーチェちゃんがユーリの着付けをしている所だった。
ディアーチェちゃんまで出来るんだ、うぅ…仕事一辺倒だったとはいえ、情けない…
「そうなの?」
お母さんからのたった一言の問いかけ。
けどそれだけで、軽口で言ったはずのシュテルちゃんも、他の皆も何も言えなかった。
「…分からないの、お兄ちゃんの事が好きなのは間違いないけど…」
ずっと傍にいて、それが当たり前で、一人で立つ為に鍛えて、管理局員として戦えるようになって、それでも、どうにも出来ない事態に毎回笑って駆けつけてくれて…
「典型的な幼馴染のようですね。結局いい所を他所の女にさらわれるまで自分の気持ちに気付かずに、手遅れ。」
茶化すようなシュテルちゃんの言葉。だけど、今度は真面目に言ってくれたのだとなんとなく感じる。
それだけに、少し心が痛かった。
ヴィヴィオの着付けを終えたお母さんが立ち上がって、私の肩に手を置く。
「ただでさえあんまり話してくれないんだから、こういう時くらい…ね。」
「お母さん…」
優しい声。
ひょっとしたら今の私の気持ちにも気付いていたのかもしれないと思うくらい。
「それじゃ、なのはには特別に十二単を」
「あーっ!ずるい!」
「って言うか着ないよそんなの!!」
唐突にとんでもない冗談を言い出すお母さん。
しかも私を特別扱いしたからか、既に着物を着て鏡にポーズを取ったりしていたアリシアちゃんがずれた大騒ぎする。
「ママ…速人おじさんが好きなの?」
「え?あ…」
ヴィヴィオに不思議そうに問いかけられて、どう答えたものか言葉に詰まる。
でも、私の答えの前にヴィヴィオが小さな頬を膨らませて…
「家族で好きなのってキンシンソーカンって言って駄目なんだよ?」
ピシリ。と、音を立てて空気が凍りついた気がした。
何処で覚えたの?なんて聞くに聞けない。情報量としての記憶は私より年数多いくらいかもしれないんだから。
「…純粋無垢とは時に恐ろしい凶器ですね。」
シュテルちゃんの小さな呟きに、誰も答えられなかった。
Side~高町速人
七五三のようなアリシア達を軽く褒めた所で、母さんとなのはが揃って出てきた。
「お…」
桜色の着物を着たなのは。
何処か柔らかい感じの装いで、戦闘用の衣装か局員服、それでなくてもきっちりとした私服でいる所ばかり見ていたので少し驚く。
「どうかな?」
「馬子にも衣装…だな。」
衣装と同じく、少し柔らかい雰囲気のなのはから目を逸らして軽口を叩く。
「速人、なのは『だけ』褒められない理由でもあるのか?」
「…下世話なツッコミが好きだなおっさんってのは。」
「お前こんないい男捕まえておっさん呼ばわりとはいい度胸だな…」
が、現状をしっかり把握してやがった父さんのツッコミで、軽口を叩いた意味も無くなった。
「素直に感想くれないと…速人お兄ちゃんが子供好きだって言いふらしちゃうよ?」
「和装で小悪魔ぶるなよ…似合っててびっくりしたんだよ。」
「…ありがと。」
笑みを見せるなのはを真っ直ぐ見ていられず、視線をさまよわせる。
孫まで出来たと言うのにいちゃいちゃしている父さんと母さんが視界に入った俺は、結局目を閉じる事にした。
「あ…あの…主…どうだろうか…」
唐突に声をかけられた俺は、フレイアをまだ見ていなかったことを思い出して目を開いて…
「ぶっ!!」
吹き出した。
いや、可笑しかったわけじゃないんだけど…
胸が、なんか凄い事になっていた。
「着物に下着は御法度と聞いていたのですが上手く纏まらず…すみません。着方は覚えたつもりでしたが…」
「…いや、そりゃヤバイ。」
結局、フレイアだけ母さんに引き連れられて着直す事になった。
初詣。
神咲さんがいる筈の神社に、皆揃って向かう。
さすがにそれなりに人が…
「あ、速人。」
いきなり声をかけられたと思ったら、巫女服を着たリライヴがいた。
「…一回は断ったんだけどね。忍さんも雫も手伝うみたいだから。」
忍さん達がこっちにいたときから、神咲さんには屋敷のメイドやってもらったりするくらいの仲だ。
折角年始に帰ったのだから手伝おうって事か。
「うぅ…あざとい…」
一緒に来ていたアリシアが、恨みがましい目でリライヴを見る。
…リライヴは過去のせいで引け目があるんだろうが、どっちかと言うと今のリライヴを見てこんな感想が出るアリシアの方がよっぽど巫女できそうにないと思うんだがな。
「あの、クジ引かないのですか?」
「他のは願い事してからなんだよ。」
「逃げないから慌てないでね。」
初体験になるユーリに教えたくて仕方がないらしいレヴィが解説するのが聞こえる。
そんな会話を背に列が進んでいき、祈る。
皆と会える機会が多くありますように…
神様に頼む事は、自力が関わり辛い事の方がいいと思う。
だから、なのは達の休みや俺達の空き時間があわないと叶わない、こんな願い事にした。
俺の方はともかく、局員の空き時間なんて運に近いからな。
「あ、速人君。」
「忍さん、おはよう。似合ってるよ。雫も。」
「ありがと。」
おみくじを売っているらしい雫のコーナーから一つ引かせて貰おうと思った所で、伸ばした手を制される。
「速人君は…あっちでね。」
「…確かに、何回も引くもんじゃないな、ありがとう。」
俺を止めた忍さんがリライヴの方を指差した事で察する。
アイツも確かおみくじを扱ってる筈だ。
雫が扱ってる子供向けというかカラフルなくじではなく、質素な白いくじの番をするリライヴにお金を払って、くじの箱に手を入れる。
「ま、ヒーローたる俺が引けば当然大吉確定だ…ろっ!!」
宣言と共に引きながら開いたくじを、机に置いて…
大凶。
「っておい!こんなもの何で入ってんだよ!!」
最近は凶が最下の筈のくじで何でこんなもの…
「ごまかしたら大吉とか引いても嘘になりそうだからってことで。でもある意味すごい確率だよ。」
「嬉しくない…」
楽しげに言うリライヴ。
とはいえ、そんなものをたまたま引いても喜べない。
「折角だから私も速人の後に…っと。」
「私もこっちかな。」
後をついてきていたアリシアとなのはが俺がくじを引いた箱に手を伸ばす。
「あ、大吉!」
「私もだ。」
「はぁ!?」
あんまりな結果に思わず二人に詰め寄ると、二人は揃って大吉と書かれた紙を見せて笑う。
「損な役を引き受けて皆を幸せに…速人らしい結果だよ。」
「そう言われると文句も言い辛いな。」
「堕天使は口も旨いんだ…って、巫女装束に天使はあわないか。」
おどけてみせるリライヴ。
ったく…悪い気がしないあたりはあてられてるのかな。
「何故我だけ凶なのだ!納得行かん!!」
唐突に聞こえてきた声に視線を移すと、雫が売っていたくじの場所でディアーチェが叫んでいた。
「…紫天の王様と同類じゃ、役得と思うしかないか。」
肩をすくめて俺がそう言うと、皆が顔を見合わせて小さく笑った。
Side~高町なのは
ヴィヴィオの正月体験といったつもりだった今回の里帰り。
でも、アリサちゃんたちから誘われ、ドンちゃん騒ぎの様相になってからは殆どただの宴会みたいになってしまって、そうこうしているうちにミッドに戻る事になってしまった。
あっという間に感じたのは、そんな形でも楽しかったからだと思う。
「ん?」
テーブルに突っ伏して眠ってしまっているヴィヴィオの姿を見つけた私は、ベッドに行かせようと起こしに近づいて…
脇にある日記に気付いた。
「あれ?コレ…」
四人が仲良く手を繋いでいる絵が描いてあった。
亜麻色のサイドポニー、金の長髪は私とフェイトちゃんだと思う。
でも後二人は…
「っ!」
思わず噴出しそうになるのを必死で堪える。
絵の下の文章に答えが書いてあったから。
『なのはママが速人おじさんを好きだとよくないと言ったらなんだかみんながへんな顔をしていた。ママとけっこんする人がパパになるから、どうせならフェイトママと速人おじさんが、ユーノさんとなのはママがけっこんしたらみんないっしょにいられて楽しそう。でも、ふつうはりょーしんって二人しかいないから、私ひとりだとぜいたくかな?』
「い、色々間違ってる…」
記憶が蘇ってもそのままに子供のヴィヴィオらしい気もする素直すぎる文章に私は苦笑いのままで額を抑えた。
ユーノ君とはヴィヴィオが本を好きなのもあってよく会うから、名前が出たんだろうけど…
「コレくらい素直になれたらいいんだけど…ね。」
一緒にいたいからって理由で速人お兄ちゃん達とも家を一緒にして、困った時に助けてもらって困ってる時に助けてあげて…
そんな、子供の頃からの、胸の奥に安らぎを覚える光景を首を振って払った。
いつまでも変わらないままではいられないから。
でも…きっと何があっても、昔と変わらず駆けつけてくれるだろうお兄ちゃんの姿が眼を閉じるだけで浮かんでしまう。
私だけ変わっているような気がして寂しいのかな…
「お兄ちゃんの馬鹿。」
ちょっとずるいけど、変わらないまま立っている速人お兄ちゃんのせいにして胸のもやを振り払った。きっと直接言っても許して貰えるのを分かってて。
SIDE OUT
という訳で年越し話でした。シンネンがカタカナなのは仕様です(笑)
どうにか1月中に間に合った…月一冊出の雑誌なんかならまだセーフの時期…だといいなぁ(汗)
そして、とりあえずココで『永遠の空』の後日談、IFを締めたいと思います。
4期…とか言う前に、必須事項があった事に今更気付いたので(汗)
4期案のが先に出てたため、纏めるのに少し時間がかかるかも分かりませんが、頑張りたいと思います!ありがとうございました!