第二話・過去の残影
Side~ティアナ=ランスター
闇の書事件の時の残滓の集合体、『闇の欠片』と仮称される事になったそれとなのはさんの交戦記録を見たあたし達は、その内容に驚かされた。
幼いフェイトさんの姿だったから。
フェイト隊長とヴィータ副隊長の調査と並行して、地球で発生した闇の欠片を消しつつその情報を収集する事となったあたし達は、街中と神社の地上二箇所で闇の欠片の反応を感知した。
闇の欠片との戦闘に慣れる事となのはさんの温存も含めて、あたしとスバルが街中、エリオとキャロが神社、という形でコンビで二箇所に別れて闇の欠片に向かった。
「律儀に結界発動してくれるって言うのも面白いよね。」
スバルが軽い呟きを漏らした通り、欠片の発生箇所には小規模の結界が展開されていた。
暴走していた破壊プログラムの残滓に良心などある訳も無い。
大方普通の人に発見されるのを避けるとか、何か理由があるんだろう。
その辺りは分析が進めば分かるかもしれない。
「馬鹿言ってないで警戒しなさい、入るわよ。」
展開されている結界は、侵入を拒むような機能はないのかすんなり入る事が出来た。
出来るだけの情報を回収しつつ、核となっているらしい人を探す。
「あ…あれだよ。」
何かに気づいたように指さすスバル。その指し示す先で誰かが像を成そうとしていた。
「…本当に報告通りってわけね。」
別に疑ってた訳じゃないけれど、それでも像を結んだ人影に眉をひそめる。
その人影は、どう見ても幼いなのはさんだった。
ぶれていた姿が、ハッキリとした型になる。
古い偽物とは言ってもなのはさん、加減がきく相手じゃない。
「ぅ…助け…ないと…」
「えっと…なのは…さん?」
うわごとの様に何かを呟く幼いなのはさんの偽物に、スバルが無警戒気味に近づいて話しかける。
『ちょっとスバル、アレは偽物なのよ?』
『そうだけど…誰かの変装とかじゃなくて当時の気持ちとかをかたどってるんでしょ?いきなりで乱暴にはしたくないよ。』
偽物と割り切って…いや、消すべき偽物としか思っていなかったあたしと違って、スバルは優しかった。
ったく…らしいと言うかなんと言うか。
「…お姉さんは?」
「あ、スバル。スバル=ナカジマ。」
スバルはなのはさんの欠片相手に、その優しい声のまま話しかける。
「えっと…君は夢を見てるんだ。目が覚めたら終わってるから今は休んでくれないかな?」
夢を見てる。言いえて妙だと思った。
最も、彼女自身が夢の産物といった感じなのだけれど。
幼い姿のなのはさんは、ゆっくりと首を横に振った。
「ごめんなさい…私はまだ、眠ってあげる訳には行かないんだ。」
「え、あ…そっか…」
寂しげな笑みを浮かべたなのはさんは、手にしたデバイスを静かに構える。
『行くわよ。』
『…うん。』
もう話ではどうにもならない。
第一、話した所で勝手に消えてくれる訳でも無い以上、撃たなきゃならないんだ。
話をする為に近づいていたスバル。あの距離はスバルの距離だ。
僅かな間を一瞬で詰めたスバルは、全力で拳を振るう。
そんなスバルの拳を真横に移動して避けるなのはさん。
そのままデバイスをスバルに向けたなのはさんは、3発のシューターを放った。
…幼子相手に二人掛りって言うのもあれだけど、偽者とは言えなのはさん。
遠慮している余裕なんて無いあたしは、クロスファイアを展開する。
攻撃外した直後の誘導弾は回避は難しいだろうけど、スバルならあれくらい防げる。
だからあたしは、照準をなのはさんのみに絞って地上から十発を超える誘導弾を放った。
「クロスファイア…シュート!!」
幾つもの橙色の魔力弾が放たれ、なのはさんに向かっていく。
それで私の姿を見つけたなのはさんは…
「ディバイン…バスター!!!」
「って嘘!?」
向かって来る誘導弾を消しきれないと判断したのか、問答無用で砲撃魔法を放ってきた。
正面の数発を掻き消した砲撃は、誘導弾を制御している私の元に一直線に向かってきて…
「くっ!!」
さすがにこの状態で足を止めている訳にも行かず、誘導弾の制御を放り出して全力で跳躍する。
どうにか直撃だけは避けられたものの、着弾の余波で吹っ飛ばされた私は地面を転がった。
過去の本物より雑って聞いてたけど、まさかなのはさんがこんな無茶してくるなんて。
教導中ならまずありえない戦法に歯噛みしつつ、私は体勢を整える。
スバルが接近する位の間は出来たかと思って視線を移すと…
なのはさんは、振るったデバイスをスバルに防がれて、スバルに拳を叩きこまれていた。
通常の打撃とは違う、その衝撃音には聞き覚えがあった。
振動破砕。
破壊と言う意味では防御魔法越しですら危険な程の一撃。バリアジャケットこそあるとは言え、直撃して人間が耐えられるものじゃない。
「ごめん…」
スバルの謝る声が聞こえ、なのはさんの姿がぶれていく。
崩れる自分の身体を見たなのはさんは、最後スバルに何かを囁いて消えていった。
なのはさんが打撃でスバルに向かって行くのは無茶が過ぎる。
まして今は教官として必修程度に納めるもの納めてるだろうけど、そもそもなのはさんは格闘系じゃないんだから。
…あたしへの砲撃と言い、昔はここまで無茶してたんだろうか。
解けていく結界に、終わりを感じたあたしは一息ついてスバルの元へ向かう。
「迷惑かけてごめんって謝られちゃった。」
スバルは、苦笑しながらそう言った。
…偽者とは言っても、なのはさんはなのはさんだったって事か。
大方、妙な崩れ方をする身体に自分が本物じゃないって気付いたんだろう。
幼い姿で偽者と判明していたから問題はなかったとは言え、人の身体を再現しているそれに振動拳を叩き込んだ嫌な感触は本物に近い形で味わった筈。
力なく笑うスバルの肩を励ますつもりで軽く叩いて、あたしは通信を繋ぐ。
「…ありがと、ティア。」
「っさい。」
何も言って無いのに意図が伝わってしまったのか、わざわざお礼を言ってくるスバルが照れ臭くて、あたしは顔を逸らして報告に集中する事にした。
Side~エリオ=モンディアル
「あれは…シグナム副隊長?」
二手に分かれた先、神社の結界の中にいたのは、シグナム副隊長だった。
「…子供か。だが、魔導師には変わりはないな。」
僕とキャロの姿を見たシグナム副隊長は、まるで僕達を知らないようにそんな事を告げた。
いや、知らないんだ。闇の書があった頃の…過去の情報で生まれたから。
「あの…シグナムさん。」
キャロが遠慮がちに声をかけた瞬間、ただでさえ鋭かったシグナム副隊長の目が更に鋭くなる。
「私の名を知っている?…何が目的だ。」
『見知らぬ』キャロが名前を知っていた事を警戒しているらしく、返答次第では今すぐにでも斬りかかってきそうな雰囲気を漂わせている。
「貴女を…眠らせに来ました。」
「何だと?」
キャロを庇うように前に出た僕を見据えるシグナム副隊長。
僕もストラーダを強く握る。
「私の目的は魔力だ、どの道お前達の目的が私の命だと言うのなら…やる事は一つだな。」
「…はい。」
レヴァンティンを構えるシグナム副隊長。
僕はそれに応じるように手にしたストラーダを構えた。
「でやあぁっ!!」
「はあぁっ!!」
突進から渾身の一撃を放つ。
シグナム副隊長の振るった剣とせり合う事になって、全力で力を込める。
強い。けど、本当のシグナム副隊長ならせり合うことすらままならないから、それに比べたら問題はない。
それに、一人じゃない。
「フリード!ブラストフレア!!」
キャロの声を聞いた瞬間に僕はソニックムーブを使いキャロの隣まで下がる。
直後、フリードが放った火炎がシグナム副隊長に向かっていき…
炎は、シグナム副隊長の剣によって一撃で掻き消された。
そのまま、僕達を見たシグナム副隊長は、剣を鞘に納める。
まずい、あれは…
「飛竜一閃!!」
予想通り、砲撃級の剣閃が放たれた。
僕は傍にいるキャロを抱え、その一撃を回避する。
背後で木々が鈍い音を立てている。
「キャロ、隠れて僕にブーストをかけるのに専念してくれる?」
「え?」
「こう木々が多い所でフリードに全開で炎を撒き散らすのは気が引けるからさ。まさかキャロが単身でシグナム副隊長と当たる訳にも行かないし。」
キャロが少しだけ笑みを見せて頷いてくれた所で、僕は一人でシグナム副隊長の前に出る。
「一人…いや、強化魔法か。」
一目見ただけで様子の違いを察したのか、冷静に僕を見るシグナム副隊長。
それ以上の言葉はなかった。
僕が高速型なのは、僕の事を知らなくても当にわかっている以上、キャロもいないのに先のような大振りはしてくれないだろう。
更に、本物より弱いとは言え、僕が力で押し勝てる相手じゃない。
なら…抜くしかない。
速人さんやフレア空尉ならアッサリと出来るだろう事だ、やってみせる。
レヴァンティンから薬莢が飛び出し、レヴァンティンが炎に包まれる。
「紫電…一閃!!」
素早い踏み込みから振るわれる炎剣。
僕はその一撃を横薙ぎに振るった一撃で逸らす。
そのまま腕を引いて…
「いっ…けえぇぇぇぇっ!!!」
渾身の突きを放つと共に、ブースターを吹かした。
少し前、本当のシグナム副隊長には通じなかった一手、薙ぎ払いから突きに繋ぐ連撃。
僕の放った突きは、シグナム副隊長の胸を穿ちそのまま突き進んでいき、暫く進んだ所で木に激突した。
手応え…あった。
事実、貫いたシグナム副隊長の体がだんだんとぶれていく。
「これは…体が消える?」
「…すみません。」
ゆっくりと消えていくシグナム副隊長を見送り、僕にかかっていた強化魔法が消えていくのを感じて一息吐いた。
「…終わった?」
「うん。」
キャロが様子をうかがうように姿を見せた所で、展開されている結界はゆっくりと消えて、破壊されていた周囲も元の姿を取り戻していった。
Side~高町なのは
報告を聞いた後、戦闘データを見ていた私は小さく溜息を吐いた。
映像に映っていたのはシグナム副隊長と…
幼い私の姿。
さすがに今はやらないような無茶な戦いとか、やたらと意地になってるところとか、それでいて現状に気付いた後すんなりそれを受け入れて消えていく姿とか。
欠片…断片には違いないのだけれど、同時に私であることも間違いないと実感させられた。
「なのは。」
「あ、フェイトちゃん。」
戦闘の映像を繰り返して眺めている私の所に、フェイトちゃんが顔を出す。
「本当になのはとシグナムの欠片だったんだね。確かにこれ位なら今の皆なら大丈夫だね。」
「うん。欠片によって質も違うかもしれないから楽観は出来ないけど、今の皆なら問題ないよ。」
映像を見たフェイトちゃんが少しだけ安心するのに頷く。
フェイトちゃんの言う通り、戦闘を見る限りでは当面戦闘での問題はなさそうだ。
発生する欠片の数にもよるけれど、今すぐ急に危険と言う事も無いだろう。
まぁ…そもそも管理外世界での事件が長く続く事自体ごめんなんだけど。
「でも難しい顔してるね。」
「あー…うん。」
今更フェイトちゃん相手にごまかす事も無いから、痛い指摘だったけど素直に頷く。
そして、画面に映っている私を指差した。
丁度画面では、スバルに何かを囁いて消える所が映っていた。
「消えるとき、スバルに謝って消えて行ったんだって。所々足りなかったりする部分もあるけど、そういう所を聞くとやっぱり昔の私なんだなぁって。」
「本当だ。笑顔で消えてるね。」
終わると言うのに無理をしているのか微笑んで消えていく私の欠片。
そんな姿を眺めながら、私は少し肩を落とす。
「スバル達に地上を任せるってなると、こんな昔の私…それも闇の欠片の特性からちょっと思いつめてる所とか見せる事になるのかなって。」
「あ…そっか…」
フェイトちゃんもそこまで言うと察したみたいで、少し困ったような顔を見せた。
昔の日記…所じゃなく、ほとんどそのまま昔の自分を見られるって言うのは、さすがにちょっと恥ずかしいものがある。
「フェイトちゃん達の方は?」
「…これと言ってまだなにも。周辺の世界で戦闘見たいな派手な動きをしている形跡はなかった。安心…してる場合じゃないけど、騒ぎはまだ無いよ。」
「そっか。」
調査となると地道にやるしかない。
周辺世界でこの件に関わっている人を見つけるのは期待できそうに無い以上、後はこっちでやってる闇の欠片の情報解析が主になる。
「なのは、駄目だよ?少なくとも地上は皆に任せないと。」
「分かってる。」
思わず行きたくなった所でフェイトちゃんに釘を刺されてしまう。
ヴィヴィオを引き取った事も理由の一つだけど、これだけ皆に心配をかけてる事を知って、無茶はするものじゃないなぁ…と、前線に出られない歯がゆさを噛み締めながら改めて思った。
SIDE OUT
トーマ「トーマ=アヴェニールと」
リリィ「リリィ=シュトロゼックの」
ト&リ「前作解説コーナー!」
『フレア空尉』
トーマ「フレア=ライト空尉。階級は一尉で、クロノ=ハラオウン提督達と同期の槍使い。フェイトさんと同じで槍を扱って近接戦を主としているといっても、ベルカ式では無いんだ。」
リリィ「元々強い人だったんだけど、P・T事件で速人さんにあってから、地球の『業』に惹かれて修行を始めてからは、近接戦で勝てる人は局内にいない位に強くなったの。凄いよね。」
トーマ「リライヴの逮捕と言う名目で機動六課に協力してたけど、それが終わったから今のところは機動六課と特に関わってる件は無いんだ。だからここにも来て無いんだね。…俺達と違って未来人じゃないのに、出番なくていいのかな?」
フレア「不要だ。」
トーマ「ってフレア空尉!?」
フレア「部隊は地球の一件のみだが、事件の方はそうも行かない。彼女達だけで解決できるならば私が出る必要は無いだろう。」
リリィ「落ち着いてますね。」
トーマ「本当に。話に出られないんじゃいても空気だって言うのに、全然焦ったりしてる様子が無いや。出番無いのが寂しかった俺とは大違いだ。」
フレア「私は一般的では無いから局の鼻つまみ者なんだ、違って構わないだろう。」
フレア「それよりトーマ。」
トーマ「はい?」
フレア「空気と言えば、未だに地球入りできていない部隊長も含まれそうだがいいのか?確かお前は彼女をやたらと」
トーマ「リ、リリィ。逃げよう!今すぐに!」
はやて「あかんなぁ、解説が仕事なんやし、ちゃんと最後までやってかんと。」
リリィ「…トーマ、遅かったみたい。」
はやて「それより二人とも、これからちょっと模擬戦付き合ってくれん?私もシグナムも『空気』やから時間が空いててなぁ。」
トーマ「だ、誰か…助け…」
フレア「上級者との戦闘はいい訓練だ、機会があるなら積極的にやっておけ。」
はやて「それなら今日の解説はここまで。さ、いこかトーマ。何やったらフレア空尉も混ざってきます?」
ト&リ(い、嫌過ぎる!!)
闇の欠片って、黒歴史の強制公開みたいですね(汗)