第三話・事件の陰で
Side~アミティエ=フローリアン
「ん…ぅ…」
私は霞がかった意識のまま体を起こす。
ベッドに寝かされていて、周囲を見回しても知らない部屋と…
知らない人が居るだけだった。
「お、気が付いたか。」
ベッドの傍の椅子に腰掛けていたその男の人は嬉しそうな笑みを浮かべた。
記憶があいまいだ。えっと…確か私は…
『バイバイ、アミタ。多分もう会わないわ。』
一気に鮮明になった記憶につられるようにベッドから跳ね起きた。
「あ、あのっ!す、すみませんが急を要するのでこれで失礼させていただきますっ!」
ゆっくり眠ってる場合じゃない。急いでキリエをとめないと大変な事になる!
「まぁ待て。何となくそれは分かるがこのまま行かせる訳にもいかないんだ。」
「申し訳ありませんが待てません!」
部屋を出ようとした所で腕を捕まれる。
力任せに振りほどこうと思ったけど、思ったより力が強く、無理をすれば怪我をさせてしまう。
けどキリエを追う方が優先だ。あの子をとめるためにも少し覚悟を決めようとして…
「お前の身体、全部見せてもらった。こう言っても放置していく気か?」
彼の言葉に、私は硬直した。
それは…つまり…
「…な?放置も出来ないだろ?少し話に付き合ってくれればいいからちょっと待って」
「きゃああぁぁぁぁぁっ!!!」
私は思わず盛大に悲鳴を上げていた。
なんて事…気を失っている間面倒を見てくれたと思っていたのに、実は単なる変質者だったなんて!
こんな…ごめんなさい博士…こうなったら!!
「変質者め!そんな脅しでこの私の心の炎を消せると思ったら大間違いです!!」
「はい!?」
つかまれている腕を無理矢理振るう。
振り回せるかと思った男は、無理に私を捕まえ続けず腕を離した。
「このっ!」
「っと。」
蹴り上げた足を捕まれて、私は背中から転ぶ。
と、そこで丁度部屋の扉が開くのが見えた。
仰向けになって首を上げているため、上下が逆さに見えたけど、入ってきたのが白い髪の女の人だと言う事は分かった。
女性は片足を持ち上げられている私と、持ち上げている男の人をそれぞれ少しだけ確認した後、傍にたてかけてあった木の棒を手に取る。
「ま、待てリライヴ。これはごか」
男の人が最後まで言う前に、木の棒は私ですら見切れない程の速度で男の人に吸い込まれた。
顔からベッドに倒れこむ男の人を余所に、折れてしまった木の棒を傍の棚に置いた白い髪の女性は、体を起こした私を見て…
「とりあえず、話を聞かせてもらってもいいかな?」
柔らかい笑みと共に、そう告げた。
「大変申し訳ありませんでした!!!」
名乗ると共に部屋での経緯を交わした後、私は倒れていた男の人…高町速人さんに、全力で謝っていた。
身体を見たと言うのが、私の身体に使われている技術を知っているという意味だったとまるで気付かず、それどころか面倒を見てくれていた人を変質者扱いして襲い掛かってしまったのだ。
勘違いとは言え本当に申し訳なかった。
「気にしなくていいよ、その辺の事大体分かってて叩きのめした訳だし。」
「ええっ!?」
そんな速人さんの横で白い髪の女性…リライヴさんが淡白に告げる。
そのあんまりな内容に、私は思わず驚きの声を上げてしまっていた。
わかってて?生身の方としては結構酷い吹っ飛び方していたけど…
速人さんの方も意外だったのか、苦い表情でリライヴさんを見ていた。
「何だよそりゃ、確信犯か?」
「速人の場合は誤解される事そのものが問題すぎるんだよ。一度や二度じゃないでしょ?」
「うぐ…否定できない…」
リライヴさんの淡々とした指摘に速人さんは押し黙ってしまった。
なんだか力関係がはっきりしてるなぁ…
「えーと…それで、私の身体の話なのですが…」
「ああ、うん。今は席外してるけどアリシアっていう技師がいてね。その娘が貴女の身体を調べたんだ。勿論治療の為だから誤解はしないで欲しいんだけど…」
「あ、はい。」
リライヴさんの説明に、私は素直に頷く。
冷静になってみれば、治療の為に身体を診てくれたのだとは簡単に分かる事だった。
だって、キリエに打ち込まれたウイルスの効果が既になりを顰めているのだ。
誰かが治療してくれなきゃそんな事ありえない。
そして、私の身体を調べたのなら…『技師』に調べさせたと言うのなら…
私が『人』ではなく『機械』なのは、もう既に周知の事実なのだろう。
これは困ったな…ただの接触ならばともかく、技術情報となるととても残しては帰れない。
何とか未来から来たことは伏せて技術情報を消させてもらうしか…
「あ、情報は貴女が帰る時に消して置くから安心して。未来の技術情報何て残して置けないものね。」
「あ、ありがとうござ…あうぇ!?」
「はは、物凄い驚き方したな。」
伏せようと思っていたのに、既にばれていたらしかった。
驚きを隠せなかった私を見ながら、二人は楽しげな笑みを浮かべている。
なんだか何をしても先手を取られてる気がする。
「まぁアレだ。とにかくそっちが人と接触したくないだろう理由は察してるつもりだから、公的機関にも連絡しないで確保しておいたんだ。捕まって検査を受けたり事情聴取を受ける事そのものが安易に出来ないだろうし。」
速人さんが告げた通り、検査を受ければ私の身体に使われている技術が知れる事になるし、未来からの情報を残す訳には行かない。
そのせいで、早くキリエをとめないと大変な事になるのはわかっているけど、此方の人に何も伝えられないと言うジレンマがあったんだけど…
「それを承知で聞かせて貰うけど、アミタは何をしに来たんだ?」
「私達は公的機関じゃないから、報告も調査も義務は無い。力になれると思う。」
彼等なら大丈夫。
それに、いくら彼等が優しいと言っても、目的も何も話さないで不審者を自由に行動させては置けないだろう。
だから…
「私は妹を…止めに来たんです。」
話すことにした。私が何故時を遡ったのかを。
Side~高町速人
「なるほどね…」
アミタの話によると、未来の故郷『エルトリア』という世界が原因不明の病に見舞われ、オーパーツを使って時を遡る事で解決しようと妹が勝手にこの時代に飛んだらしい。
オーパーツの正体が時間移動と知ってからは使用を禁じていたらしいが、妹はそれを聞き入れずこの時代に飛んだのだと言う。
「確かに時間移動して好き勝手やったらまずいよな。学者が妙な論文出したりもしてるし、何が起こるかわかったものじゃない。」
「妙な論文って、名前とかも知らないのにそんな適当な事を。」
「科学でも微妙なのに時間移動なんてSFは論外だ。」
普通より妙な知識を見につけていたとは言え、毒や物理法則等作戦行動に必要な知識だ。
さすがに専門家を動員するような話についていけるわけが無い。
「そういう訳で、私は妹を探しに出なければ」
「当てはあるのか?」
はやるアミタに問いかけると、予想通りというべきか、口ごもるアミタ。
だがアミタは、その後握り締めた拳を強く振り上げる。
「その辺は気合と根性で!!」
おお、熱血してるなぁ。
結構好みのノリだが、リライヴが指を伸ばしてアミタの額を弾いた。
「あたっ。」
「手がなくなったらそれでもいいけど、治安維持組織の人が調査してるって言ったでしょ?そんな中飛び回ったら貴女の事ばれるじゃない。」
額を抑えてリライヴを見るアミタ。
だがなのは達に見つからないほうがいいのは俺としても賛成だ。
組織行動中じゃ上に報告しなきゃならないだろうが、未来の話ができないと伏せているのに組織中に知れて回れば記憶を消すのも一苦労だ。
「まぁ待ってろって。お前の妹が狙ってる『砕け得ぬ闇』とやら絡みの話なら、合流すれば情報が手に入るかもしれない。」
「合流…ですか?」
俺の話に首を傾げるアミタ。
ああ、そう言えば宵の騎士の話はしてなかったっけ。
「今三人ほど別行動とってるんだが、その三人が闇の書の闇関係のメンバーなんだ。気がかりになるって場所を調べに行ってるから、とりあえず目立たないようにしてろよ。」
「で、でもキリエを長く放っては置けません。」
そりゃ時間越えてってなるとそれなりの大騒動だし、下手を打てば何がどうなるか全く予測がつかない。
それに、まだ小規模とは言えなのは達の偽者が現れるような結界まで展開されている。
キリエと言う妹さんにしろ、この一件にしろ、長く放置できないのはこっちも同じだ。
「正直な話、事件を解決するだけなら貴女を局の知り合いに渡して徹底的に情報を貰ったほうが都合がいいし、妹さんも探し易いんだ。でも、未来の話が知れて、未来が変わったとしたら困るのは貴女達なんだよ?」
「え?」
リライヴの静かな声に首を傾げるアミタ。
だが、よく分かって無いようなので俺から補足する。
「俺達の場合は変わるのは未来だから、そもそも予測出来るものでも無いし決まってもない。だけど、アミタ達の話が此方で大きく影響を及ぼせば、アミタ達の住む未来がなくなる可能性だってある。例えば…二人や博士とやらが生まれる前にエルトリアが滅ぶとか。」
「それは…」
承知している話だったのだろう。アミタはあまり驚かないが悲しげな表情を浮かべる。
「それを承知の上で動くって言うなら俺は全力でお前を止めるぜ。知らない世界や時代だからって『どうにでもなれ』…なんて、俺には思えないからな。」
「速人さん…」
「だから、ここは待っててくれ。」
少しの沈黙の後…小さく、だけどしっかりとアミタは頷いてくれた。
真っ直ぐな子のようだから、約束したならいてもたってもいられず飛び出すことはあっても、何も無いのに調査に出る事なんて無いだろう。
とは言え、俺達が発生した結界に対処したらなのは達に俺達が地球にいることを知られる以上下手に動けない。
大騒動にでもならない限りはディアーチェ達を待つしかないか。
Side~ディアーチェ
人もおらず、瓦礫の跡すら残っていない世界。
かつてリライヴが、我等を宵の巻物に移す際に使った施設のあった場所。
その場所で…
「むぐむぐ…」
「全く…レヴィ、いつになったらその口の限界まで頬張るような食事法が治るのですか?」
「んぐっ…別にいいじゃないか。ボク達の魔力をちゃんと確保するのに必要な量をちまちま食べてたらいつまで経っても食べきれないよ。」
「それもそうなのですが…最大魔力値が高いと言うのも考え物ですね。」
「その場所でっ…貴様等は何を呑気に弁当広げておるか!!!」
シュテルとレヴィは、大風呂敷を広げて大量の重箱の中身を食していた。
「いいだろ、おいしいんだから。ディアーチェは持ってきてないの?」
「阿呆か貴様ら!我等は遊びに来た訳ではないのだぞ!!」
「わかっていますよ。」
我が怒っているのが馬鹿馬鹿しくなるほど冷静に放つシュテル。
この有様で何が分かって
「少々経過観察の為に留まるのですよね?とは言え、機材を使って何かを調査する訳でもない。であれば、この場に留まっていれば単に棒立ちするより準備をして置くほうが得策です。」
「む…」
…どうやら色々と分かっているようだった。
さすがは理を司る身とでも言うべきだろうか?
「ここまで言えば説明は不要でしょうが…私達は必要分の魔力を確保していなければ身体が維持できません。マスターとも離れている以上、何が起きても良いように空き時間に食事を取っておくのは利点こそあれ、問題などありません。」
話は我でも十二分に理解できる。
緊張感なさげな光景に突っ込んでしまったものの、確かに止める必要はなかったようだ。
ただ…溜息混じりにシュテルが告げると、どうにも馬鹿にされている気がして我慢なら無いが。
「ほらほら、わかったらディアーチェも食べなよ。戦ったらボクより魔力消費大きいんだから、食べておかなきゃもたないぞ。」
「どうせ貴女は持ってきていないと思ったので準備はあります。どうぞ。」
大風呂敷の空いたスペースをバンバンと平手で叩くレヴィに、何処か棘のある言葉を吐きつつそのスペースに新たに重箱を置くシュテル。
我は渋々新たに置かれた重箱の前に座り込んだ。
刹那、轟音と共に一閃の砲撃が辺りを焼き払った。
「あぅ…っ…」
「レヴィ!」
砲撃の正面に割って入ったレヴィがまともに受け止めたのか、我の隣に転がっていた。
思わずそちらに手を伸ばした瞬間…何かが光った。
「ぐっ…」
「な…シュテル!?」
そのほんの僅かの間で、シュテルが膝をついていた。
切り裂かれたバリアジャケットを見る限り、斬撃を受けたのだろう。
殆ど閃光に近いものが見えたその瞬間に。
「はぁーっはっはっはっは!!!」
シュテルとレヴィを見ながら歯噛みしていると、空から聞いたような声の高笑いが聞こえて来た。
この惨状を作った馬鹿か、ただではすまさんぞ…
歯を食いしばり、声の方向に視線を移し…驚愕した。
「な…」
そこにいたのは、我だった。
我と…あくまでも子鴉ではなく我と同じ姿の何かが、同じ杖を手に高笑いをしていた。
その傍らには、何故か『水色』の魔力光を纏ったレヴィと『燃えさかる』魔力を纏ったシュテルがたたずんでいた。
こいつら…何だ?
偽者と言い切ればそれもいいが、何故かそれは躊躇われた。
予感ではなく実感として、我等と奴等には何かがあると感じ…
「偽者風情が我等の姿を真似ようなど身の程知れい!!」
「そうだそうだ!」
「全くですね…速やかに焼却処分する事にしましょう。」
空の三人から聞こえて来た言葉に、プツリと頭の中から何かが切れる音が聞こえて来た。
此方は怒りを避けて冷静に内より来る感覚に身を委ねて奇妙な感覚の正体を考えようとしているというのに…
前言撤回だ、こんな出来損ない共との関わりなど我の知った事ではない。
「ディアーチェ、ここは引いてください。時間は私が稼ぎます。」
「ボクもやるぞシュテル!」
と、我の傍らで動けなくなっていた筈のシュテルとレヴィが、我を庇うように一歩前に進み出る。
それを見た空の三人が目を細めた。
「塵芥共がやかましいわ…もとより逃がすつもりなど無い。」
「ここで処分します。」
「弱っちい偽者なんかボク達がズバッとぶっ壊してやる!!」
三者三様に構えを取る空の偽者達に、傷ついた身体を押して前に出るシュテルとレヴィ。
他に人も無い無人の世界で、我一人が何処までも置き去りで…
「……舐めるのも大概にせんかこの馬鹿共がああぁぁぁっ!!!」
声を大にして叫んだ後、シュテルとレヴィを押しのけ前に出た。
「はっ…臣下に二度も庇われ何も出来ずにいた我の出来損ないを舐めるなと言うほうが無理と言うものよ。うつけは貴様の方ぞ。」
我の偽者が他者を見下すような視線を我に向けてくる。
レヴィの偽者はともかく、シュテルの偽者の方も大体同じような冷めた視線で我等を見ていた。
全く…つくづくレベルが低い。
「貴様等が何なのか、我等を偽者と言う根拠は等、色々と聞く事もあったのだが…最早それもどうでもいい。」
我は言いつつ、周囲に人形をばら撒いた。
あいも変わらず呆れ顔の偽者軍団の周囲に散った人形。
我はそれら全てに魔力を込める。
予感からかシュテルの偽者が動いて人形を破壊しだすが、一体に誘導弾数発を当てる必要があっては全ては消しきれない。
「子鴉から生まれた癖にこの時点で危機感も抱かんか?人をうつけ呼ばわりしておいて粗末なものだ。」
「何…ぃ!?」
周囲に残る人形を見渡した後、我の偽者は目を見開いた。
「ま、待たんか貴様!あんな大魔法をこの数撃って貴様とて無事では」
「怖いか偽者?」
光る人形。
表情をゆがめる偽者達。
「ふ、ふざけるな!この程度我の力で相殺して」
「デアボリックエミッション・ドールズシフト!消し飛べ塵芥!!!」
背後から手を引かれる感触を感じた直後、空間を食いつぶす闇が辺りを一気に飲み込んだ。
SIDE OUT
トーマ「トーマ=アヴェニールと…」
リリィ「リリィ=シュトロゼックの…」
ト&リ「前作解説コーナー…」
リリィ「…フレア空尉も八神部隊長も…容赦なかったね…」
トーマ「ははは…そうだね…」
『デアボリックエミッション・ドールズシフト』
リリィ「多量の魔力と適正が高い訳じゃないゴーレム操作を利用したディアーチェさんの大魔法だね。」
トーマ「自分を起点にする超広域攻撃、デアボリックエミッションを、『人型』を起点にするという風に調整して、多量の人形から一気に広域空間を埋め尽くす凶悪な魔法だけど、消費が激しすぎて、魔力が尽きて消えかけた事もある危険な魔法なんだ。」
リリィ「会話できる程度の距離でこんな物使って皆大丈夫なのかな…」
トーマ「少し心配だけど、そこは皆を信じよう。」
トーマ「今日はこれだけかな。」
リリィ「それじゃ、また今度だね。」
お祭り話という事で主人公固定でもないので速人にもSide~がついてます。