第六話・迫り来る過去の闇
Side~アミティエ=フローリアン
私達の故郷エルトリアは、ゆっくりと死への一途を辿っていた。
原因不明の汚染『死蝕』に蝕まれ、大地は力を失い、作物も育たず、人が住めなくなっていったこの星からは、いつしか数多の人々が逃げだしていった。
残ったのは、エルトリアに生まれ育った、本当にエルトリアを愛している人達のみが僅かに暮らすだけとなった。
私とキリエは、その死蝕地帯の浄化作業の為に作られた作業機械。
最も、『博士』が人格データを作りこみすぎたせいで、人間として育てられる事になってしまったというなんとも本末転倒と言うか、珍妙な結果になってしまったのだけど。
その後、『場違いな遺産』を発見した博士は、それを実用化手前までこぎつけるも、時を越えると言うその性質に危険を感じて使用を禁じた。
けれど…病にかかった博士の死までに復旧の目処を、蘇ったエルトリアの大地を博士に見せてあげられないだろうことを嘆いたキリエは、シミュレート上では唯一エルトリアを救える可能性があるこの時代での、永遠結晶『エグザミア』の入手に全てをかけた。
私は守護者としてキリエの凶行をとめようと追いかけてきたんだけれど…
「結局、彼女の起動を止められませんでした。本当にこの度は不肖の妹が申し訳ありません。」
私は、これまでの経緯を語った所で小さく頭を下げた。
何でも、魔法関係について知っていて、今回の一件に力になれる信頼できる人たちが集まっているらしい。
速人さんの方は、技師のアリシアさんと闇の書と関係があったフレイアさん。
速人さんの妹、なのはさんの所属する『時空管理局』からは、部隊長のはやてさんに、8人の前線メンバー、小さなリインさんに医師のシャマルさん、技師のシャーリーさんと地球に住んでた通信士のエイミィさん。
これだけの人が、屋敷の一室に集まっていた。
未来の事を多くの人に知れないように動くには、情報を保存しておける媒体や連絡が取り易い戦艦や中、大部隊を駆り出すわけには行かなかったらしい。
リライヴさんは、合流する人達の様子を見に離れているから今はいないけど、そう遠くないうちに合流する予定だ。
「クロノ君から内密に話を聞いた時には出所が出所だけに半信半疑やったけど、本当に未来からきたんやなぁ。」
「相変わらず俺の評価酷いなおい…」
この場を仕切っている部隊長のはやてさんのコメントに苦い表情を見せる速人さん。
リライヴさんといたときもそうだったけど、なんだか速人さんの立ち位置がちょっと可哀想になってくるなぁ。
「えー、そんな訳で。管理局員として書類作ってあちこち連絡とってと大騒ぎする事ができん事件になってしもたから、出来うる限りここにいるメンバーだけで今回の一件は解決する事になる。きつい事件やけど、皆力貸して貰えるかな?」
「「「「はいっ!」」」」
はやてさんの言葉に前線メンバーの方々が頼もしい返事を返す。
嬉しいやら妹が起こした騒ぎに巻き込んで申し訳ないやら、少し複雑だ。
「速人君たちは」
「基本いつも通りだ。特に今回は宵の騎士の皆も関係してるからな、とめたって首突っ込ませてもらうぞ。」
「…分かった。ただあの娘の相手は無理にせんように。魔力放出だけで吹っ飛ばされるようじゃ技量でどうこうできる領域を超えとる。」
はやてさんが完全に言い切る前に言い切った速人さんの言葉を聞いて、何処か分かっていたように肩を落とすはやてさん。
速人さんたちは、関わる必要があってもなくても結構事件に首突っ込んでいるみたい。
「それはいいけど、実際あの娘どうする気だ?適当で吹っ飛ばされる出力差だ、俺より強いからってまともに攻撃を防御する事もままなら無いんじゃないのか?」
速人さんの返しを聞いた皆が沈黙する。
魔力波だけで吹き飛ばされていた速人さんだけど、最初の一回以外は攻撃を防御で凌いではいなかった。
当たり前だけど。
彼女の攻撃を防御するなんて、並なことじゃない。恐らくは単体攻撃用だったあの鋏のような刃、私と速人さんで一本ずつ止めたけれど、速人さんの方は受けた二刀にひびが入っていた。まともに受ければ、防御ごと真っ二つになる。
此方からの攻撃を通すと言う点でも、あれだけの出力差では簡単な話じゃない。
「あの娘については対策を考えるまでは捕捉するだけ。とりあえずは地球周辺で発生する闇の欠片への対処と、宵の騎士の偽者…になるんかな?の発見、事情聴取。それから、アミタの妹さんは…」
「丈夫ですから多少無理にでもひっ捕らえちゃってください!」
「あはは…了解や。」
気遣ってくれてるのだろうはやてさんの言葉に握り拳を掲げて返すと、皆さんが揃って苦笑いした。
私達がトラブルを持ち込んだような物だ、堂々と動いてもいいのなら、全力で頑張らないと。
と、決意を改めたその時、違和感が辺りを覆った。
「これは…結界やな。エイミィさん。」
「はい!」
はやてさんの声が飛ぶのとほぼ同時に、エイミィさんが物凄い勢いでキーを叩き始める。
空間に表示されたモニターが、外の様子を映し出した。
「性質は闇の欠片が発生してた時のそれと同じみたいですけど、規模が海上まで含めて海鳴全域を覆うほどで、欠片もいくつか発生してるみたいです。数の特定はちょっと…」
「十分や。」
エイミィさんの話が終わった所ではやてさんは勢いよく立ち上がる。
「早速やけど行動開始や!頼んだよ皆!」
号令の元、皆は一声に動き出した。
そう、『皆は』。
「待機になっちゃったね。」
「そうですね。」
警戒態勢とは言え、出動する事もなくもとの席にいる事になった私となのはさんは顔を見合わせて苦笑した。
理由は二つ。
一つは、展開している結界の範囲に今いる屋敷も含まれてしまっているから。ここに闇の欠片が現れたらバックヤードとしてこの場に居る人たちが危ない。
もう一つは…私となのはさんが戦うのに心細いと言う事情。
なのはさんは、前の戦いのダメージが残った身体+魔力制限何て状態で王様と戦っていた為に消耗が激しいと言う理由で前に出るのを避ける為にはやてさんに止められた。
私は、保有しているエネルギーの関係。
人も近づけない区域で活動する事を想定している為、それなりに溜め込んで動けるとは言え、全力戦闘を何回もすればあっという間にエネルギーが切れてしまう。
そんな事をいい訳に楽するつもりはなかったので黙っていたんだけれど、私の身体を調べたアリシアさんがとっくにエネルギー事情について把握していた為、待機と言う事になった。
「それにしても、危ないから待機するって言うなら速人さんも待機してないとまずいと思うのですが…」
あの高度で戦っていて、水柱をあげる勢いで海中に沈んだんだ。
何処か痛めていると思うんだけど…
「大丈夫だよ。」
「え?」
椅子に背を思いっきり預けて天井を見上げるなのはさん。
「無茶とか危ない事ばっかりするし、管理局としては素直に褒めるには問題ある人なんだけど…」
天井を見上げていた顔を起こして私を見たなのはさんは…
「強いんだ、お兄ちゃん。」
少し困ったような笑顔でそう言った。
Side~高町速人
「ほいっ…と。」
なのはの姿をした闇の欠片の首を、すれ違いざまに軽くナギハでなぞる。
本来ならば出血多量確定の箇所への斬撃。
それを受けて血の一滴も流さない自分の身体を認識した瞬間、なのはの姿がぶれて消えていった。
「い…一瞬…」
「あたし達一対一じゃどう頑張っても一分位はかかるのに…」
同ルートを進んでいたスバルとティアナが驚きの声を漏らすが、俺としては複雑な気分だった。
なのはの想いや魔力の残滓で形成された闇の欠片を斬った事による嫌な気持ち…ではなく、斬ったにも関わらず何の揺れ動きも無い自分の心に苛立ちを感じていたのだ。
人を救って素直に喜べる分まともになってるような気もするけど、妹の姿で思いも本人のものから形成されている相手を斬るのに何の躊躇いも無いようじゃ、やっぱり俺壊れてるよなぁ…
「見た通り欠片相手なら俺が出れば手っ取り早いんだ。あんまり飛ばして後に触るなよ。」
「後…ですか?」
「ああ。あの娘…『U―D』をとめるのは魔導師とかの仕事になると思う。」
俺が戦って傷一つつかなかった金髪の少女。
『アンブレイカブル=ダーク』と言っていた彼女は、とりあえずそれを略して『U―D』と呼ぶことになった。
「あしらう程度や…殺すなら手もあるんだけど、アレを止める出力俺には絶対無いからな。」
「って言うより誰にも無いですよあんなの止める魔力なんて。」
苦い表情で告げるティアナの言葉に、内心で『確かに』と思う。
人型サイズの『闇の書の闇』。それが解析班の出した分かり易いU―Dの戦力だった。
多重障壁に無限に戦闘可能なシステム、オーバーSでもその一部分しかまかなえない魔力が起動に必要な化物クラスの代物が、人型サイズの密度で戦闘行動を行う。
転移魔法を行使されたり再構築の事を考えたりするとアルカンシェルで消せるかすら不明なほどで、現状では『打つ手なし』と言って過言じゃない位だ。
魔導師としてはそこまで優秀でも無い俺も分かる位の力だが…
「おいおい、あんまりそういう事言ってくれるなよ管理局員さん。お前等が匙投げたらこの世界の人達は彼女が振るってる力が何なのかすら知らないまま滅ぶ事になるんだから。」
「す、すみません。」
俺としては冗談のノリで言ったのだが、ティアナは普通に謝ってきた。
多少落ち着いて前向きになったって、色々足りてないって悩みはそのままなんだ。持ってるだけで勝てるってくらいの強大な力を前に自信満々でいられないのは無理も無いか。
「俺はこの辺張っててみるから余所任せるな。」
「「はい。」」
スバルとティアナがいつも通りなのか明るい返事を最後に離れるのを見届けた俺は、そのまま上空へと駆け上がる。
「さて…と、そろそろ出来上がりか。」
下からでも少し見えた影が目の前で型を成す。
幼い頃のリライヴの型を。
なのはの欠片同様、闇の欠片としての限界値が決まってて、そこまで戦力が落ちるのなら何の問題もなく方がつく。
が、元となった人物の戦力に近い形で再現されるのなら、リライヴを基にしたこの欠片はなのはが元のそれより一回り強い事になる。
さすがに厳しいだろうし、戦闘に巻き込まれたら無駄に消耗する可能性もあったからスバル達には離れてもらったけど…
さて、どんなもんかな?
「…と……て…」
さすがに何の話もなく切りかかるつもりは無いので声をかけようと近付いてみると、俯いて小さく何かを呟いていた。
そういう暗いのは柄じゃないだろうに、闇の欠片だから根暗に反映されるのか?とか考えながら更に近付いて…
「男なんて…男なんてっ…」
「あ、なるほど。」
怨念を感じさせる呟きに、リライヴの闇の欠片なんだなと改めて実感する。
思わず漏らしてしまった声にようやくリライヴが顔を起こす。
「あー…あのなリライヴ、何の慰めにもならないだろうがお前が巻き込まれた連中はむしろ特殊なほうでだな、まともな男も沢山」
「君が言うなぁっ!!!」
「えぇ!?」
実体化には本人の思いの残滓も関わってるとか言うから、出来るだけ悔いなく成仏させる体で進めようと話しかけたのだが、何故か俺が怒られた。
ちょっと待て、俺リライヴに変な真似したこと無…無いよな?うん、多分きっと。
怒りをそのままに展開した透明な刃の剣を振るってくるリライヴ。
これは話すとか言ってる場合じゃなさそうだな…
出てきて早々の退場になって悪いが、なのは同様貫で終わらせるか。
横薙ぎを後退で回避、続けてきた打ち降ろしを右の刀で横から叩き逸らす。
開いた喉に向かって左で突きを放ち…
首に触れた刀が止まった。
「は?」
思わず呆けた声を漏らす俺。
止まった理由は分かる。フィールド防御だ。
リライヴの身体をうっすらと覆っている膜のような魔力が俺の刀を止めている、それは分かる。
ただ…
「バリアジャケットも無い部分に打ち込んだのに無傷ですむほど硬いってありえないだろ普通に!いつU―Dと入れ替わったお前!!」
「うるさいっ!」
俺の文句に答える事無く、リライヴは周囲に無数の魔力弾を展開する。
零距離でシューティングスター!?無茶苦茶だなおい!!
バックステップで距離を空けて、どうにか全体を見えるようにした。
直後雨のように降り注ぐ魔力弾を、片っ端から斬りつつ避ける。
どうにか凌い…っ!?
「だああぁっ!!」
終わったと思ったらすぐさま砲撃が飛んできた。
バク宙の要領で逆さになった俺は、地面に向かって『跳躍』する。
重力を味方につけて加速したお陰で、どうにか砲撃を避ける事が出来た。
なんだこれ?
フィールド防御だけで突きを防いだ事も、攻撃の激しさも下手をすると当時の本物を上回る。
本物を上回るって…残滓から形成されているならまずありえない。
第一目の前で生まれた時そこまで桁外れの力は感じなかっ…
「あ、そういう事か。」
「っ…何で笑うの?」
思いついた理由に手を叩くと、剣を振り上げて迫っていたリライヴは少しの距離を置いて止まった。
理由に気付いてしまえば簡単な事だった。
「後のことまで考えて戦ったほうがいいんじゃないのか?」
指摘が的中したのか、リライヴは歯噛みして俯いてしまった。
よくよく考えれば、いくら魔力量が多いからといっても、ずっと一人で戦ってきたリライヴがそうそう高出力で魔法を扱えるわけが無い。
つまり…俺やなのはを相手にしてた時も『節約』してたって事か。
つくづくデタラメだなアイツは…
「大体なんでそんな怒るんだよ。俺何かした?」
俺の問いに目を逸らすリライヴ。
何か言い辛い事が原因なんだろうか?
「君なら変な目で見たりしないと思っていたのに、だから過去を話したのに、何であんな姿をみて『綺麗だった』なんて…」
「え…あぁ。」
リライヴと一緒に闇の書の中に取り込まれて、デバイス探す為にリライヴの過去を覗く事になった時、確かにそんな事言ってたな。
「普通に本音なんだけど…お前的にはそれも駄目だったんだな。」
「君が初めてまともに話したいと思った男の子だったから、ショックだったんだよ。」
本物のリライヴも褒めた時に怒ってた事を思い出すと、真意を語ってくれた。
本人が言わずに飲み込んだような本音も喋っちゃうんだな、闇の欠片だけあって。
これ以上下手な会話してるとあれこれと話したくない事まで知りそうだ。
無理にでも倒しにかかったほうがいいかと考えていると、リライヴは唐突に目を閉じた。
デバイスも降ろし、完全に力を抜いている。
…あぁ、そっか。
俺が大人になってるくらいだもんな、自分の異常に気付いたのか。
「目が覚めたら幸せに暮らせてるから、今はゆっくり眠ってくれ。」
「…うん。」
完全に抵抗を止めたリライヴは、バリアジャケットにすら防御能力を持たせる事を止めたようで、振るった刀がまるで幻を斬るかのように通り過ぎ…
リライヴの姿は、光になって解けていった。
『ハーレムを築いて結婚もして無い男性と暮らしている状況ってリライヴさんにとって幸せなんでしょうか?』
「お前な…折角綺麗に終わったのに水を差すな水を…」
終わったと思った矢先に放たれたデバイスの一言に、俺は大きく息を吐いて肩を落とした。
それにしても…今回のリライヴの欠片は、後先考えずに全力を振り絞っていたのだとしても、やっぱりなのは達の欠片より力の総量が多かったように思う。
具現する人によってか密度によってかはわからないが、少なくとも欠片の強さに違いが出るのは間違いないようだ。
報告だけはしておこうかと思った矢先、通信モニターが開く。
『あ、速人君。』
「エイミィさん。」
丁度いいタイミングだから用件を聞いたら伝えることを伝えておこうと思い…
『エリキャロコンビが速人君の欠片に会ったみたいだけど、物凄く弱かったみたいで。欠片によって強さに違いが出るって事は強い欠片が発生する可能性もあるから気をつけて…って連絡だよ。』
「…さいですか。」
伝えられた連絡の内容に、いろんな意味で落ち込んだ。
SIDE OUT
トーマ「トーマ=アヴェニールと」
リリィ「リリィ=シュトロゼックの」
ト&リ「前作解説コーナー!」
『シューティングスター』
リリィ「リライヴさんの主力魔法の一つだね。物凄い数の魔力弾を放つ魔法だよ。」
トーマ「クロノ提督のスティンガーブレイド・エクスキューションシフトと相殺した事もある。速人さんよくそんなもの至近距離で凌げるなぁ…」
リリィ「銀十字の殲滅射撃も皆凌いでたし、上手い人だと結構当たり前なのかも…」
トーマ「…俺も頑張らないとな。」
リリィ「ところでトーマ、『ハーレム』って?」
トーマ「…リリィは知らなくていいよ、うん。」
はやて「正直に言うたらトーマが大変やもんなぁ…寮のカーテン外そうか?」
トーマ「それは本気で勘弁してください!!」
リリィ「?」
殺す気でやれると速人は本気で最強近いです。
気配なし、急所攻撃超高精度、『貫』『徹』による防御無視…やりすぎですね(汗)