第七話・夢の欠片
Side~スバル=ナカジマ
速人さんと別れてすぐ、速人さんの居た方から物凄い魔力を感じた。
大した時間もかからずに収まったから良かったんだけど、後から入った通信で『本物と同等に近いリライヴさんの欠片』が相手だったと聞かされたときには本当にビックリした。
欠片としての力の量の関係でなのか、そんなに長持ちはしなかったみたいだけど、速人さんはそのリライヴさんの闇の欠片を無傷で捌いたらしい。
なのはさんの欠片も急所攻撃とは言え一撃で終わらせちゃうし、本当に凄い人だ。
あたし達も頑張らないと!
改めて意気込んだところで、欠片の発生を感じる。
地上に近い…これはあたし達の相手だ。
「完成前に叩けたら楽だから先行しちゃって。出来上がってたら無茶はしないように。」
「わかった。任せて!」
ティアの声を聞くのと同時に、ウイングロードを伸ばして一気に加速する。
機動って意味だとエリオやフェイトさんに及ぶはずも無いけれど、単純な加速、最高速ならあたしだってかなり早い。
ウイングロードを上手く扱えば身体を横にする事でカーブを床と同じ用に進む事も出来る。
短距離高速移動は無理だけど、目的地への到達速度ってだけならあたしだってエリオやフェイトさんと競える位にはある。
「うおおおぉぉぉぉっ!!!」
道路の真ん中に、出来かけの欠片を見つけて突撃する。
完成には間に合わない。けど、出来た直後で意識が働いていない時なら一撃で終わらせられる!
目を開いた女性の欠片に向かって拳を振りぬいて…
「えぇっ!?」
「うそっ!避けた!?」
慌てた様子ではあったものの、女性は見事にあたしの拳を避けてしまった。
「あ、貴女!いきなり襲いかかるとはどういうつもりですか!!」
「え!あ、いや…その…」
体勢を整えた女性があたしを真っ直ぐに見て告げた言葉に、あたしは自分の顔が引きつるのを感じた。
彼女が言ってる事はまともな事だけに突っ込む事もできないし…
「えぇと、その…ごめんなさい!」
指摘に答えきれず、あたしは再び拳を握って女性に向かっていった。
「言ってる事と…やってる事が違いすぎます!」
「でえぇっ!?」
距離を詰めきったと思った瞬間、下方から魔力攻撃が吹き上げる形で出てきた。
攻撃の発生が見えなかった…上手いっ!
「くっ…」
空中でバク転をするように回りながらウイングロードを展開しなおす。
と、丁度体勢が整った所で女性が手にした杖を振り上げていた。
やば…防がなき
「あたっ!」
タイミング的に危ないかと思っていたんだけど、軽く額を小突かれるだけで終わった。
戦うって空気じゃなくなったので、女性の前で止まって額を抑える。
「人の話はちゃんと聞いてください、いきなり襲い掛かるなんて論外です。」
「は、はい…」
どうなるのかと思っていると、何故か女性は説教を始めてしまった。
あたしは反論できる状況でもなく、頭を下げて話を聞いているしか出来なかった。
「何馬鹿やってんのよアンタは…」
「あ、ティア…えっと、どうしよう?」
追いついたティアが状況を見て呆れたように息を吐く。
うぅ…正直あたしも自分で間抜けな状況だと思う。
追いついたティアに気付いた女性は、小さく咳払いをした後ティアに視線を移す。
「私はリニスと申します。このように、まず名乗るべきですよ?」
リニスさんはティアに向かって丁寧に名乗った後、あたしに向かって小さく笑みを見せた。
Side~リニス
「なるほど…そうなると私がご迷惑をおかけしている事になるんですね。お手数おかけしてすみません。」
「あ、いえ…」
事情を聞いた私は、話をしてくれたティアナさんとスバルさんに頭を下げた。
現状が良く分からないまま襲われたので何事かと思ったけど、私の存在自体が闇の欠片という現象だとはさすがに想定外だった。
人の意思や願いを媒介として再生して引き起こされたこの現象は、大概が無念や心残りから形成される為、被害を出しかねないという事なのだ。
それでは一人一人に説明して回ると言うわけにも行かないだろう。
「それで、私はあとどれ位この身体を維持できるのでしょう?」
「え?」
私の質問に、二人が顔を顰めた。
存在自体が問題なんだ、早く消えたほうがいい。
それが分かっていながら、私はこの問いかけをしなきゃいけない気がした。
まだ…やらなきゃいけない事が残っているような気がして。
「ちょ、ちょっと技術班の人に繋いでみますね。」
「はぁ!?」
スバルさんがキーを叩き始めた所でティアナさんが驚愕の声を漏らす。
やっぱり、私が残っているのは危険なんだろう。少なくとも、得体が知れない上にこの先いい事があるとは思えない。
けれど、とめようとするティアナさんを余所に、スバルさんはすぐに通信を繋いでくれた。
「ご迷惑おかけします。」
「あ…いえ、リニスさんのせいではありませんから。」
私が頭を下げると、ティアナさんは慌てたように首をふってフォローしてくれた。
スバルさんよりは厳しいようだけど、彼女も優しいみたいだ。
『ほいほい、エイミィさんですよ。』
「あの…実は…」
通信を繋いで状況の説明を始めるスバルさん。
それと時を同じくして、見知らぬ男の人がこちらに向かってきた。
「お?見知らぬ欠片の猫さんか。」
「あ、速人さん。」
現れた男の人を知っているようで、ティアナさんは彼の名前を告げた。
それは良かったのだけど…
「どうして私が猫だとわかったのですか?」
これが気になる。
確かに私は猫の使い魔だけど、それはまだ話していないと言うのに何故彼が知っているのだろう?
フェイトと知り合いだと言うのならそれも分かるのだけど…
「帽子の下の耳で。」
彼は私の帽子を指差して、見えないはずの帽子の中を当たり前のように告げる。
透視能力者なのだろうか?
「…速人さん、そういう事を当たり前に出来るのは貴方とか恭也さんだけなんですから当然のように驚く事をしないで下さい。」
「そう言うなって。」
苦い表情で告げたティアナさんに向かって、何でも無いようにひらひらと手を振る速人さん。
見た限り普通の人間のようだけど、ティアナさんの反応を見る限りどうやら彼がこういう特殊な事をするのは日常の事みたいだ。
「お待たせしました。」
説明が終わったスバルさんが声をかけてくれたので、私はそれ以上彼の事に触れるのは止めておいた。
スバルさんの傍らにはモニターが表示されていて、モニターには制服らしきものを来た女性が映し出されていた。
『始めまして、エイミィ=ハラオウンです。えーと…リニスさん。』
「はい。」
『闇の欠片としてどれ位の期間安定した形でいられるのかとかはわかって無いから、どれ位の期間保つのかとかを正確に答えるのは…』
「そうですか…」
無理も無い話だ。
過去の記憶や意識を再生する技術は文献で読んだ事があるものの、無作為に、完成したものの質もばらばら何て出鱈目な『現象』じゃ正確な所を把握するのは難しい。
『それと、完成した欠片がそれっきり形も何も変えずにいるものなのかは分からないから、異常があったら教えてくださいね。』
「分かりました。元々一度は死んだ身です、蘇ろうなどと大それた事は考えていませんので、暴走しそうでしたら消してしまってください。」
エイミィさんを含め、周囲の皆さんが少し苦い表情を見せる。
見送るほうとしては、そんな事を言われて笑顔で頷ける訳も無い…か。
『フェイトちゃんにはあって行きますよね?』
「それは…」
当然あるだろうと思っていた話題に顔を顰める。
フェイトとアルフ、私の大切な教え子達。
会いたいかと言われれば当然だし、フェイト達も会いたいと思ってはくれていると思う。
だけど…
『どうかしたんですか?』
「私は…件の闇の欠片の発生に関わっている闇の書事件に一切関わっていません。勿論地球に来た事も無いです。」
確信に近い気がかりが一つ。
闇の書と…地球と一切かかわりの無い私がこの場で再生されるという事はつまり…
「もしかしたら私は、フェイトやアルフの記憶から再生された都合のいい夢なのかもしれない。そんな状態で『リニス』を名乗って二人の前に顔を出しても」
「いいんじゃないか?会ってけば。」
思いすら本人の物でなく、フェイト達の意思の残骸だとするなら顔を出す事も躊躇われた。
だけど、そんな私の言葉を遮るように口を挟んできたのは、傍らで会話を聞いていた速人さんだった。
「フェイトやアルフの記憶から出来たなら…二人の『夢』だって言うなら、知人の夢を見るくらい普通だろ。」
「二人の夢…ですか。」
そう言われれば納得も出来る。
それに、私だって二人に会いたくない訳じゃないから。
『そうですよ。それに、なんと言ってももう手遅れですし。』
「そういう事だね。全く水臭いじゃないか。」
エイミィさんのイタズラっぽい言葉に続けて聞こえて来た、聞き覚えのある声に視線を移す。
いつの間にか、アルフが傍にきていた。
「アルフ…」
「リニス、久しぶり!」
駆け寄ってきて抱きついてくるアルフ。
私はその小さな身体をそっと抱きしめた。
「随分ちいさいのね。」
「フェイトは執務官として飛び回ってるからね。前線に出るのは止めて、フェイトの負荷を軽減する為にこの姿でいるのさ。」
「執務官?凄い役職についてるのねフェイト…」
全く聞いていなかったフェイトの役職が、まさか管理局の執務官だとは思わなかった。
権限の関係でとても難易度の高い試験を通らないとなる事が出来ないはずなのに、立派に成長しているみたいだ。
「って、あ、あら?」
「ちょ…リニス!?」
見てみたい。そう思った瞬間、私の身体が光っていた。
抱えているアルフが本当に心配そうな表情を見せる。
でも、何となく消滅とは違う気がして……
Side~フェイト=T=ハラオウン
「はぁっ!!」
「がっ…ち、きしょう…」
高速移動から一閃。
振りぬいた鎌形態のバルディッシュの一撃を受けたヴィータの欠片が、粉のように消えていった。
事件が動いたのに何も知らないリライヴ達を迎えに行くべきという事になって、世界を移動するなら執務官の私の方が都合がいいという事で私が迎えに出た。
さすがに一気には移動できず、休憩に出た世界でいきなり闇の欠片に遭遇する事になった。
かつて広域次元犯罪者だったリライヴは、さまざまな世界に避難所のような物資の隠し場所や隠れ家のような物を用意しておいて、消耗する度身を隠すと言う手段を取っていた。
その一つを利用して、速人と共に処分されかけていたシュテル達を宵の巻物に移し変えた。
そして、デバイスに異変を感じたディアーチェはかつてその作業を行った場所に向かったのだけど…
その『場所』に驚かされた。
次元世界には当然、それぞれの世界に名前や主要惑星がある。
リライヴはその盲点とでも言うべきなのか、『管理世界の無人惑星』を使っていたのだ。
地球に魔導師が現れた、ジュエルシードが散らばったと騒ぎになっても気付く事が出来ないのだ、人のいない場所を使うとなれば、管理外世界や無人世界を使うだろうと思いがちになるが、そんな事までされては仮にやっている事が分かった所で調査が追いつくわけが無い。
本当、色々考えてたんだな…
犯罪者だった時の話なんだから感心していい話じゃ無いんだけど、それでも驚かされる。
それにしても、欠片が地球以外でも出るなんて。
余計な時間をかけてる暇は無い、早く合流しないと…
「っ…また欠片?」
放っても置けず、新たに発生した結界に向かって翔ける。
完成前に叩く!
デバイスを振り上げ一気に接近して…
凍りついた。
「母…さん?」
出来上がった欠片の姿は、プレシア母さんだった。
何で…母さんは闇の書に関わってる訳じゃないのに…
「…フェイト?」
「っ!」
名前を呼ばれる。ただそれだけの事なのに胸を打たれたような衝撃が走る。
…違う、これは幻なんだ。
もう夢に振り回されるほど子供じゃない!!
「私は…本物じゃ…無いわね。貴女はそれで私を消しに来たのかしら?」
「…はい。」
バルディッシュを構える私に、平坦な声で問いかける母さんの欠片。
ひょっとして、正気なんだろうか?だとしたら…
「けど、それもどうでもいい事だわ。私は貴女に用は無いの、邪魔をするなら…」
母さんは手にした杖を振り上げる。
闇の欠片を放置できないし、母さんの願いだってきっと放置できる物じゃない。
「…行きます。」
私は覚悟を決めて母さんの欠片と戦う事にした。
皆も戦いたくない過去の自分や知人と戦ってるんだ、私だけ…逃げる訳には行かない。
SIDE OUT
トーマ「トーマ=アヴェニールと」
リリィ「リリィ=シュトロゼックの」
ト&リ「前作解説コーナー!」
『透視能力者?』
トーマ「速人さんが見えないはずのリニスさんの帽子の中身を当てた理由だね。『心』って言う御神の奥義で、見えないところの敵を音や気配で探る技術なんだって。」
リリィ「速人さんと恭也さんは、この奥義を使って目を閉じても戦えるようになってるんだ。」
トーマ「御神流が元々暗殺剣だった事もあって、明かりの少ない昔は暗所でも戦えた筈だって言うのが、二人がそこまで心を鍛えた理由だそうだよ。」
リリィ「…これ、凄いよね?」
トーマ「かなりね。魔法戦でも凄いって言うのに、二人の戦闘って生身で剣を振る訳だから、魔力で攻撃位置を探ってる訳でも無いだろうし…これがあったらエクリプス発症してても皆の事区別できたのかな?」
リリィ「それは無理だと思う。色々な感覚がおかしくなる訳だし、それに…」
トーマ「それに?」
リリィ「…身につけるほうも。恭也さんとかもう30年位御神の修行だけしててここまで来たのに、そんな真似そうそうできないよ。」
トーマ「はは…さすがに贅沢か。地球の『極める』って領域は本当大変だなぁ。」
覚悟してプレシアの欠片と対峙するフェイト。一方地球ではリニスの欠片と談笑中。…フェイトさん頑張れー(苦笑)