ひねくれいろは!   作:アイロハ

1 / 9
ひねくれいろは いち!

 

 

私の名前は一色いろは この春から、第一志望であったS大学にストレートで進学する、未来ある女性なのである。

 

S大学は就職率95%、それも全員が名だたる大企業や公務員に羽ばたいていくという、この国でも有数のトップ大学である。

 

なぜ私がココに進学できたのか? それは単純に勉強しまくったからである。

 

総武高校では可もなく不可もなくといった成績だったが、生徒会長を2年間経験し、2年生の後半からは優秀な成績をおさめてきた。 ふっ、私に死角はないのだ…

 

それもこれも、彼の横に立つためだ。

 

彼ーーーー

 

比企谷八幡先輩に!

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

総武高校・卒業式

 

この日は、雪乃先輩、結衣先輩達が卒業する日だ。

 

私は生徒会長として、祝辞やプログラムの最終確認をしている。式が終わって、一段落したら奉仕部でささやかな打ち上げをする予定だ。

 

さて、特に問題もないし、ささっと終えて、あの場所に行こう!

 

ーーー在校生代表、一色いろは

 

はい!

 

 

 

…………

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーー

 

 

ふぅ、終わったー…卒業生代表の挨拶は…ちょっと泣きそうになっちゃった。

 

でも、まだ涙は取っておく。私にとっては、これからが本番なのだ!

 

ふぅー…

 

…いざっ!

 

「入らんのかよ」

 

「うやっ!?…先輩、私の後ろに立たないでくださいよ。先輩みたいな声出たじゃないですか」

 

「入り口で固まってるお前が悪い。というか、俺みたいな声って、あの『うやっ』て声か?普段からそんな声だしてたのか俺…」

 

「せっかくの門出でネガティブな事、あまり言いたくないんですけど、普段はもうちょっと気持ち悪い声だしてますね」

 

「嬉々として言ってるよ…普通は祝うところだろ、何で最後に傷をつけようとするの…」

 

「何ですか俺の事傷つけるのは今じゃなくてもいいということ暗に伝えていつでも会えるよアピールに繋げようとしてるんですか狙いは悪くないのですがタイミングが悪いのでやり直してください、ごめんなさい」

 

「…はいはい、ごめんなさい。入るぞー」

 

「くっ…無視ですか、このせんぱい…」

 

ガラガラガラ…

 

「うっす」

 

「こんにちはー」

 

通い慣れた部室に入ると、お二人はすでに座っていた。

 

「やっはろー!」

 

「こんにちは、一色さん、比企谷君。紅茶、すぐに淹れるわね」

 

「ありがとうございますぅ!」

 

「っす…」

 

「比企谷君、あなた礼の一つもまともに言えないのかしら?普段から誰にも感謝せず生きているのがバレバレよ」

 

「くっ、何故ばれた…だが、待て!俺は人に感謝するシーンがない。誰にも認識されていない俺が、誰かに世話してもらうなどできやしないだろう。つまり、俺ではなく社会が悪い!あー感謝したいのになー…」

 

「あら、ならば今ここで感謝なさい。美少女3人が、あなたと時間を共にするもの」

 

「び、美人て…ゆきのんに言われたら、何か照れるね…」

 

「わぁ結衣先輩顔赤っ!かわいいです!」

 

思わず抱きつこうとするが、結衣先輩に抱きつくとストレス溜まるんだよなー… 私には無い、さぞ立派な脂肪をお持ちだそうで…ケッ

 

…まぁ気持ちいいし、当分会えないから今日は触っておこう。

 

ダキッ!

 

「わっ、いろはちゃん!?びっくりしたー…」

 

「えへへ…ゆーいせーんぱーい♪」

 

ムフー。ちょっと幸せなのです。 さて、先輩の反応は…

 

「あぁ、確かにそれは感謝せんといかんな。この先、お前らみたいな美少女と集まるなんて機会無さそうだし」

 

「「「!!!??」」」

 

せ、先輩が素直に褒めた!?

 

やば、ニヤケるのが止まらない…じゃなくて! 今、チャンスじゃないか?言質、いくつとれるかな…

 

「もう、わかってるじゃないですかー!先輩♪ち・な・み・に…この中から未来の奥さんを選ぶとかもアリじゃないですかー?」

 

「一色さん!?」 「いろはちゃん!?」

 

「…それは別の話だろ。第一、俺の理想は高いしな」

 

「へー、せんぱい、今、狙ッテル人、イルンデスカ…?」ハイライトオフ

 

「いない…けど…」

 

「それは朗報ですね、先輩!ちなみに、この中だと誰が第一候補になりそうですかー?」

 

ビシッ! 結衣先輩が綺麗に手をあげる。積極的だなぁ…というかこの人、こんなにあざとかったっけ? いや、考えないでおこう。天然だろうし。 しかも先輩、見てないし。

 

「にゃ、なにを、言ってるのかしら、一色さん…この男に選ばれても、少ししか嬉しくないのだけれど」

 

照れ隠し下手かよ。呼び方も情緒も安定していないな、この隠れポンコツゆきのん。はっきり言ってめちゃくちゃ可愛いです。 綺麗に可愛いって反則ですよ…

 

「…一色、これ解答は強制か?」

 

「いえいえー、そんなことはありません!ただ、この学校で会えるのは今日で最後でしょう。ついうっかり、思い出話をしてしまいそうですねぇ…」

 

「思い出…ハッ!…くそ、一色のやつ姑息だな…」

 

「先輩、聞こえてまーす!で、どうしますか?」

 

「はぁ、わかった言うよ。…そうだな、この中なら一色かな」

 

「「!!!!??」」

 

「…ふぇ!?わ、私ですか!?」

 

才女の雪乃先輩でも、聖女の結衣先輩でもなく!? すぐにでも泣きそうなくらい嬉しいんですけど、この場ではちょっとなぁ…お二人も呆然としてるし

 

「ち、ちなみに理由を…お聞きしても…?」

 

「あぁ、まず雪ノ下は許嫁とか出てきそうだから、第一に候補は外れたな」

 

うわ、また微妙に諦めきれない理由だな… 雪乃先輩も今日一複雑な表情してるし

 

「で、二人が残ったわけだが、そこからは消去法だ。俺の夢は養ってもらうこと。つまり、大企業勤めか公務員が好ましい。大学なら…そうだな、S大生あたりになるのか?この時点で由比ヶ浜はアウトだ」

 

「良かった…頭が悪いっていうだけで好み云々じゃないんだね…なら、まだ挽回はできそう!よしっ」

 

結衣先輩?可愛いんですけど、本人目の前にして、よくできますね。メンタル鋼ですか。

 

「で、残ったのが一色ってわけだ。納得したか?」

 

まさか最後に、嬉しくなる言葉を貰えるとは思っていなかった。これが卒業式マジックというやつなのか… 私、感激です…

 

 

しかし!

 

私は私で一味違いますよ!今日は特別大感謝されたいデーなのです!

 

「ふむ…でも先輩?現実的な部分の考察は良くできていると思いますが、まだ足りない部分もありますよね?」

 

「…と、いうと?」ヒキッ

 

ひき笑い…警戒してますねー。でも一歩、遅いですね。尋ねた時点で終わってます。

 

「先輩の好みとか、先輩との…あ、相性とか…人間的な部分が何も出てきてません!」

 

「…確かに、そうか」

 

「はい、なので現実部門では一位でも、それだけで妻になれるとは限りません。なので先輩の好みを添えて、採点し直しです!」

 

「まじか…」

 

ふふふ…悩んでください。今回はどう転んでも私に得があります!

 

 

 

そう、私はこの卒業式を利用して、先輩方を応援しようと企んでいる。 この奉仕部から、私は感謝しきれないくらいの贈り物を貰いました。 生徒会長の件、恋愛相談、勉強、プライベート…何の輝きもなかった学生生活に色をつけてくれた。そんな先輩方に、最後だけでもお礼がしたかった。

 

私は…私の熱は、ひっそりと胸にしまおう。 大好きな先輩達が輝くように、そう覚悟を決めて準備をしてきた。

 

お二人に有利となる情報を、先輩から聞き出す!今日の目標と覚悟をしっかり確認して、ようやく待った先輩の言葉はーーー

 

「ふむ、それでも一色かな」

 

 

青色。私の世界は凍りついた。

 

 

…待って言葉が、出ない……

 

代わりに目から涙が溢れそうだ。

 

 

 

チガウ……チガウ……

 

私が求めた言葉じゃない! ここで喜んでは、駄目!

 

「…意外に高い評価で驚きです、先輩。ちなみに理由を聞いても?」

 

「…あくまで、俺だけの基準だぞ…。ここにいる三人は等しく『人としての』評価が高い」

 

そこまで言うと先輩は深呼吸をして続けた。

 

「由比ヶ浜は自分を汚いと言っていた。だが、普段から周囲を意識し、繋ぎ、気遣う姿を見ていると、決して汚くはない。人は、自分の幸せだけを願うのが普通だが、由比ヶ浜は周りの幸せも願える。可愛くて優しいやつだ」

 

「雪ノ下は自分が正しいと思える姿を体現しようとしている。毅然とし、清く正しく生きる様は傲慢に見えるが、俺にはとても気高く美しく見える。負けず嫌いが過ぎるのも、自分と自分が大切にしているものさえ失わなければ…別に良いんじゃないか?」

 

うわ、うわぁ… 顔暑い!普段の先輩からは考えられないほどドストレートな称賛の嵐!

 

今のところ関係なかったから顔が暑いだけで済んでるけど… はっ、そうだ!二人は無事か……?

 

「気高く…美しい…そんな…照れるわ…」ウットリ

 

「かわっ…!ひ、ひっきぃ、そんなこと思ってくれてたんだ…エヘ、エヘヘヘヘへ…」プシュー…

 

駄目だ、完全にトリップしてますね。直撃は危険だ。私の覚悟が揺らげば、この作戦はできなくなる…

 

先輩たちへの恩義、自分の欲望… これを天秤にかければ、普通は自分に傾く。

 

当然だ、私も欲しいものは、欲しいから。 それでも『この三人』となると話は別だ。 だって、私の人生を変えるきっかけをくれた人たちだから… 自分の欲望は、いずれ別の形で満たせるだろう。でも、このお三方に恩を返せるのは今日だけかもしれない!

 

だから必死に、涙も苦悩も押し殺してきたのに それなのに…

 

「一色は…」

 

くっ、ついに来たかっ…! 聞きたいけど聴きたくない… 乙女かよ!

 

「一色は…そうだな、人一倍努力できる強い人間だ。妬むやつはいるかもしれないが、自分を良く見せることも、周りを使うことも、一色の努力の賜物だと俺は思う。」

 

「ぁひ、ありがとう… ございまう…」カァァァ

 

恥っずかし!嬉し!何これ、やだ本当… ぐうぅぅ…悔しいけど、捻デレはやっぱり最高ですね。

 

これも今日で最後かぁ… うん、覚悟は、まだ、解けてないかな。

 

どう誘導していくべきかなぁ… 人間的な部分は一律で、現実的な部分で競りかったってことかな? なら、難しいな…えーっと、じゃあ…

 

「それに、一色の事は甘やかしたくなる。普段は見せないようにしてるが、責任感が強すぎてな、それも可愛いんだが」

 

…!追撃!?

 

やばい、何か嫌な予感がしてr…

 

「だから、大変な事とか、大事な部分に関しては、自分で抱えてしまうことになるんだろうな。だからもし身近な人になれたら…支えてあげたいかな…」

 

あぁ、あぁ… 焦燥感が生まれる。見透かされている事がわかる度、徐々に覚悟が揺らいでいく。私は、強くないから。

 

今の先輩の言葉は、きっと、明確に私の覚悟を優しく解こうとしている。

 

だめ、それだけはーー!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「我慢しなくていい、俺には、ぶつかってこいって」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

欲望を押さえつけていた覚悟という鎖が 容易く、音をたてて壊れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。