なつかしいなぁ……確か、あのあとは先輩が罰ゲームして、私たち三人はトテモいい気分で終えたんだっけ。
んー!雪乃先輩と結衣先輩は元気かなぁ?
二人とも、今は恋敵じゃないから安心して先輩を狙いにいけるし…
ま、せっかくS大に入ったんだ。
得れるものは多いに越したことはない。まずはサークルとか、じんみゃ…友人作りから始めていこう。
「ねぇ、そこの君!かわいいねー、どこからきたの?何学部?」
でたー…軽く誉めながら情報引き出してくる『俺、君に興味あるんだ』アピール!
顔は悪くないけど、言い慣れてる様が『どう?他のやつと俺は違うぜ』って言ってる感じがして気持ち悪い。
「………」スタスタ…
「……あ、れ?」
ふふふ…三十六計逃げるに如かず……
どうですか、この戦法!
以前も似たようなことがあって、やんわりと断ったことがありました。そのときは後から女子A~Cにイチャモンを付けられて遺憾を覚えたことがあります。
なら、初めから無かったことにすれば誰も文句は言わないでしょう!つまり私なんぞに話しかけないでくださいという強い意志をもって…
「おい、急に駆け出して…飯行くんだろ?」
「あぁ、すまない八幡。普段、お前が話してくれる子のイメージが似てて…思わず」
ピクリッ
はち、まん…?
それに、このやるせないボイス……
ハッ!
「ん…?おぉ、久しぶりだな、いろ…一色」
先輩だっ!
……じゃなくて!
今、さらっと私の名前言おうとしてなかった?
……確認したいけど、ストレートに質問すると私が意識してるみたいじゃない!それは嫌!
でもそれ以外の方法が……はっ
「お久しぶりです。ていうか、何ですか先輩さらっと名前呼び掛けましたけど知らない間に周囲に名前で呼びたいアピールをした挙げ句本人を目の前にしてテンション上がって口から出ちゃった感じですか、ときめきかけましたけど後3回くらい呼んでから口説いてくださいごめんなさい!!」ハァ…ゼェ…
「お、おぉ…すげぇマシンガン…」
「これはこいつのお家芸だ。というか、いろはは何してるんだ、こんなところで?」
っ!また!また言ったよ!?
しかも今度は包み隠さずストレート!?
「わ、私もS大受かったんで、今日は…下見に…マタナマエ、ヨンデクレタ…」
「へぇ…やるじゃねぇか、いろは」ポンポン
あ!た!ま!
いきなり頭ポンポンしてきましたよ!この人!
デリカシー無さすぎるでしょ!先輩だからいいですけどぉ!
頭の中身ポップコーンかってくらいハジけてますね!
「……うぅ…先輩…あたま…ハズカシィデス……」
「すまん、つい久しぶりに会えて嬉しくてな。何やかんやで、お前が一番かわいかったし」
「かわっ!?」カァァァ
顔あっつ!心臓うるさっ!
この人、本当に比企谷八幡先輩??
違う……なんか、ちがうけど良い!
でも嫌!もう離れたい!
「ーーっ!シツレイシマスマタアシタ!」ダッ
「あ、あぁ…」
なに?
何なのあの素直すぎる先輩、卑怯でしょ……
前までは何処と無く頼りなく、でもいざという時は頼りになる、ひねくれぼっちだった。
でも今はザ・リア充みたい。さして仲良くないのに互いに名前で呼びあい、平日は夜通し飲んでは女の子を持ち帰って、休日は彼女とイチャコラ…して…
はっ!もしかして先輩、彼女いるのでは?
……そう考えたら色々と辻褄が合う。元々リア充な明るく元気な彼女に夜な夜な引きずり回され、半年も色んな経験をつめば、ある程度はリア充になれるだろう。
もう、先輩も色んな人と寝たのかな…リア充だし…
……あーあ…終わったのかなぁ…私の初恋。
これから先、どうしよう……ま、歩きながら考えますか…
私はとりあえず家に帰ろうと一歩ふみだーー
「あぶねぇ!いろは!」グィッギュッ
「くふっ!?」
ブゥゥン…!
目の前を車が横切る。
危なかった、誰かが後ろから引き寄せてくれなければ、次に目が覚めるとしてもベッドの上だっただろう。
「んぅっ!?」
「…いっ、しき…一色…!」ギュウウウウ
ちょ、くるしっー!
何この人、助けてくれたのは嬉しいけど、力強い!しかもお腹から上に力がきてるから、ちょっと胸に当たりそう!実は変態か?
「ンゥ……んぁ……ふっ…く、くるし、で、す」
「…あ、す、すまん……つい…」
つい、で人を抱き潰さないでください!
これ、喉にお餅とか詰まったときにやるやつですよね?
しかも抱きしめるのは解放してくれないし、なにこの変態!
…って、この声…
「へんた………先輩?」ハァ…ハァ…
「おい、今なんで別の言いかけたんだ?」
おっと本音が混じりましたね。
というか本当に先輩なんだ…
「あ、あぅ…ありがとうございます…その、そろそろ離してくれると……」
「…わかった。ただ、今の一色は放っておけん。家まで送るぞ。それが条件だ。」
これは!送り狼!?
わ、私…食べられちゃうのかな!?
そりゃあ先輩ってわかった瞬間にギュッてされてるのは気持ち良…安心したけどさ
でも…でも…順序はしっかりしたいし、何より不特定多数の人と同じは嫌だ。私は本物しか要らない!
「ふぇ!?……せ、せん、ぱい…それって…その…」
だめだ!上手い切り返しができないよぉ…
この1年、女子としか喋ってない弊害がでてる。どうしよう…
…はっ!これだ
「その……彼女さん、とか……心配するんじゃないですか…?」ズキン
言ってて凄い胸が苦しい。でも、どうですか!?この上目遣い!
これなら、彼女の有無によって柔軟に行動できる!断ることもできれば、家に連れ込んで誘惑することもできるのだ!我ながら完璧…
「今はお前が一番大事だろ」ギュッ
「……へ、へ?」カァァァ
コレ、ドッチ!?わかんない!また抱き締めた!
でも何か嬉しい……けど……
優しい先輩だし、私だけじゃないんだろうなぁ…
……何か、素直に信じれない…ひどく疑って、こんなんじゃ本物って呼べない気がする……
「…せんぱい?私は本当に大丈夫ですよ。ちょっと、初日だから緊張してて、疲れてただけです。帰るまで気を引き締めれば全然いけます帰れます、離して、ください…」
「……はぁ、わかったよ」パッ…
「ありがとう、ございます。すみません、わがまま言っちゃって…」
「まったくだ……まぁ、お前がワガママなんてのは、俺がよく知ってる」ポン
「なんですか私の事何でも知ってるし頑張ってるのもわかってるから俺にだけは素直になれよって言いたいんですか?さっきから抱きしめたり頭ポンポンとかスキンシップが激しすぎるのでそういうのはしっかり告白してからにしてください、ごめんなさい!」
「……くくっ、久しぶりだな、それも…ま、悪かったよ」
そう言って頬に手を添えて、先輩が顔を近づけてくる。
「へ、せんぱ…?」
「ま、これからもよろしくな?俺に触られるの慣れてくれ…」小声
「あっ…うぅ…」
耳元……甘く低い声で囁かれて、私の膝が一瞬カクッてなる。
頭がクラクラしてきた、もう、帰らなければやられる!
「ではさよならです!」ダッ!
「あいよ、また明日」
駆け足気味に歩きだす。今度は車が来てないことを確信して…次、引かれそうになったら私はこの人に抱かれる、間違いなく。
そうして、5分ほど歩くと、無事に家にたどり着いたのだった。
ーーーくぅぅぅ!
私の事知ってるって!先輩に言われた!
抱きしめてくれて、囁きも甘くて…
嬉しかったのに!嬉しかったのに!
帰ってきてから、私はベッドの上で1人で悶えていた。
S大から徒歩10分くらいのところにある、1LDKのマンション…そこの最上階に私の家がある。
この大学は県外からも優秀な学生を集めたいのか、住宅補助がある。なんと、家賃の3/4だ。
それゆえに、普通なら手が出せないような賃貸物件を借りることもできるのだ。
オートロックも付いてて、お部屋も広い。部屋もリビングと寝室があるし、シャンプードレッサーや浴室乾燥機まである。文句の付け所が言ない新築物件だ。
しかも、防音もしっかりしている。それ故に呻きながら悶えることもできるのだ。
「んぅぅぅ!私……素直に先輩を信じて送ってきてもらえれば……今頃はここでせんぱいと…」
…はぁ、今日は疲れた。
眠くなってきたし、お風呂入って寝よう。
風呂上がり
何の気なしにスマホを見ると、先輩から着信とメールが一件ずつ入っていた。
一つ、息をついて私はベッドに入った。
明日見よう。
別に頬が熱いとか、舞い上がってる時に見たら勘違いするから起きてからに見るとか、そういうことじゃあない。
私は疲れたの!