ひねくれいろは!   作:アイロハ

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ひねくれいろは ろく!

 

 

 

 

 

侵し掠めること火の如し

 

かの有名な孫子兵法の一つだ。

風林火山と称されるそれは、恋愛においても活用できる。

 

 

最近、先輩にはやられてばっかりなので、このあたりでギャフンと言わせなければいけない。

 

私にも矜持がある。

男を手玉にとり、ちょうど良い距離感を保つことに定評があった。だが、その自信が揺らぎ始めているのだ。

 

こうなれば、戦争しかない。

孫子兵法と私の頭脳で先輩を陥落させ、

私を取り戻す!

 

 

 

「ふふ、ふふふ…見ててくださいね、先輩ぃ…!後悔させてあげますよぉ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ママ、いろはが……」

 

「だめよパパ。乙女は強くあるべきなの」

 

「……あ、あぁ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

疾きこと風の如し

 

思い立ったが吉日だねっ!

あれ?違う?

 

まぁいいや。

とにかく、先輩の確保は迅速にしないと、他の人に取られてしまう。

 

 

 

 

先輩陥落作戦…コードSKSを開始します!

 

作戦1『五感を奪う』

 

視覚、嗅覚、触覚、聴覚をいろは色に染めれば、防御力は下がるはず!そして、そのまま主導権を握れば戦局はこちらに傾くでしょう。

 

…流石に味覚は私そのものは無理かな。舐められるとか、まだ早い。その内、ね。

 

しかし、嗅覚かぁ。これは恥ずかしいな。

今日は午前中にテニスしたし、不安が凄い。

 

 

………!

ターゲットA確認、自宅に戻る模様。

コンタクト!まずは、先手をとる!

 

 

 

「せーん、ぱい!」ニコッ

 

「おぉ、いろは。元気そうだな。どした?」

 

「いえ、たまたま見かけたので…ふぅ」パタパタ

 

着ているテニスウェアのボタンを1つ外し、襟をつかんで胸元に風を送るようにする。

ちょっと疲れたふりして前屈みに…

 

「……」ゴクリ

 

 

 

 

ふふ…今、喉が鳴りましたね。

視覚はこれで奪えたかな?

 

「…今日、テニスしてたんですよねー。みなさん上手くて、熱中しちゃいました」

 

「謳歌してんだな…良いと思うぞ」

 

…お?若干嫉妬してる?

声が低くなったし……

 

 

 

 

うん、楽しくなってきた!

 

「こうみえて、ある程度動けますからね!そう言えば先輩、テニス部でお知り合いの方いましたよね?」

 

「あぁ、彩加だな」

 

「ですです、可愛らしい方でしたよね。テニス教えて欲しいんですけど、連絡先とか知りません?」

 

さらっと名前で呼んでることは置いといて…

これは単純にテニスを上達させたいからだ。楽しかったし、少しだけ本気でやってみたい。

 

「…あるにはあるが……」

 

「??」

 

歯切れ悪いですね。最近の先輩じゃないみたい。

 

「…その、二人で、やるのか?」

 

 

 

…ふむ……

 

 

 

うわぁぁぁ!デレたぁぁ!

拗ねてぇる!先輩拗ねてぇるぅ!

捨てられた子犬みたいな表情だし、保護欲だか母性がくすぐられますねぇ……

 

「……あ、先輩が嫌なら、やめときます。その代わり練習相手、先輩がしてくれませんか?」

 

「別に、嫌とは言ってない。その、彩加も近くに住んでるみたいだし……ただまぁ、呼び出すのもアレだし、俺でよければ相手になる。素人よりは上手いぞ?」

 

珍しく饒舌だなぁ…隠しきれてませんよっ!

 

「……では、お願いしますね。今からとかでも大丈夫です?」

 

「体力あるな…いいぞ」

 

 

 

ふふふ……図らずもチャンス到来ですね。

デートに誘って、ボディタッチしながら意識を私色に染め上げる予定でしたが、こういうのも悪くありません。

 

それに、私も漫画読んでますし、知識はばっちりです!

 

先輩の五感、奪いますねっ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

………結論、負けました。

 

6ー2

 

とりあえず、タイブレーク形式で試合をして、どの程度できるか見てもらった。

その結果がこれだ。おかしい。

 

私は今、両膝をついて口で息を整えている。

 

午前で疲れたっていうのもありますけど、先輩のテクニックが凄かった。ほぼ経験者のそれに近い動きをしてましたし…

 

片足でスプリットステップしてるし、サーブも回転がかかってて跳ね方が普通じゃない。

 

あと……私の嫌なところを突いてくるというか、

絶妙に届く所に打ってきて、私を走らせてくるんですよね。かと思えば、ドロップショットでギリギリ届かない所に落としてきますし…

 

極めつけは、最初の2点ですっ!この間、先輩は私を観察しながらプレイしていたとしか思えません!

 

実際、0ー2の時点で私は「先輩チョロい」って思ってましたもん。素人にしては確かに上手いくらいにしか感じなかったのに…

 

「そろそろいくか」みたいなことを言ってからは別人のようになって、私の身体を弄び始めやがりましたからね!

 

ぐうぅぅぅ…くやしい、しんどい、足痛い…

 

 

 

「いろは、大丈夫か?」

 

「………だれの、せい、です、か……」ハァ…ハァ…

 

喋りたくないくらい、息を切らしてる人に質問するとか、先輩鬼畜ですか?

 

「…くふぅー……もう、たてま、あっ」グラッ

 

「おいっ?」ダキッ

 

「んむっ!?」

 

 

 

わ、わわわわ!

足がもつれて、地面との接吻を覚悟してたら先輩の首にキスしてしまった!

 

「!!!???」

 

「…しばらく支えてやるから、息整えろ」

 

無理です!現在進行形で息が乱れてます!

先輩に抱かれてる…あ、やばい興奮してきた。

 

先輩も汗かいてるけど、いいにおいだなぁ…

安心するのじゃなくて、ドキドキする感じ…

 

「…ふぇんはひ……」

 

首にも力が入らないから、先輩の首に唇があたったままだ。変な声しか出ない。

 

「っ……どうした、いろは」クイッ

 

あ、支えてくれた。でも、また顎クイかぁ…

よし、顎クイは慣れてきた

 

「ありがとうございます。先輩すみません、私、汗かいてるのに身体貸していただいて…」

 

「俺は気にせん。だが、すまんな、俺も汗かいてるのに…いろはが気にするなら体位変えるが?」

 

体位って、言い方別にしてください。変態ですか?想像させないでください!

 

「私も、先輩なら気にしません。ただ…」

 

そう言って私は先輩に顔を近づけて…

 

「こっちのが、楽です」

 

 

 

顔の横に顔を置き、先輩の肩に埋める形で抱きつく。

 

ふふふ…焦ってますねぇ先輩。私も焦ってますよっ!

 

何故なら私たちは五感の大半を共有してるに近いから。

 

抱きついてるから…触覚が

耳元で呟きあってるから、聴覚も…

そして、嗅覚はお互いのにおいで包まれて…

視界はお互いしか写っていない。

 

 

 

 

 

…テニスコートの中で何やってるんだろう?

 

 

 

まぁ、心地良いし、気持ちいいから

気にしなくていっかぁ……

 

 

 

 

 

はっ!

これが、動かざること山の如し?

 

 

 

「…いろは、そろそろ歩けるか?」

 

ぶち壊すなよ、おい。

ぐぬぬ…だけど、今回は敗者ってこともあるし、譲ろう。目的は果たした。

 

 

「…いけそうです」

 

「……よし、なら水分補給しつつ、片付けて帰るか。練習は次からだな」

 

「はい、よろしくお願いしますね」

 

 

ゆっくりと離れ、片付けを始める。

 

とは言っても、片付けるものも少ないので、あっという間に帰路につくことができた。

 

 

 

 

「……」

 

 

 

先輩、妙に静かだな……

 

ま、いっか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

テクテク…

 

 

 

 

あれから飲み物を奢ってもらい、帰り道…

特に話すこともなく、私の家につく。

今日はお礼も兼ねて、先輩に手料理を振る舞いたいので家に連れてきたのだ。

 

「…本当に良いのか?どっちかというと、今日は遊んだだけだが」

 

「これから教わることになりますし、先輩もお腹すいてますよね?私、料理も上達させたいので、ついでに協力してください」

 

 

 

嘘である。料理は死ぬほど練習した。

受験勉強をしながらも、晩御飯は自炊し、家族にも評価してもらっていた。確かな腕前になってから、小町ちゃんにも手伝ってもらい、先輩の好みをレクチャーしてもらっているのだ!

 

私に死角はない。これで味覚も私で満たす!

胃袋はいただきますっ!

 

 

 

ガチャ

 

「どうぞ先輩」

 

「あぁ、お邪魔します」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ふふ……家に入りましたね?

今日は帰しませんよ…!

 

 

 

 

 

 

 

徐かなる事、林の如く

 

 

 

 

先輩、私に染められてくださいね?

気づかないまま……

 

 

 

 

ゆっくり………

 

 

 

 

 

 

 

 


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