いくらマイペースとはいえ、長く放置しすぎたと猛省しております。改善の兆しが見られるかは、正直自分でも不明瞭なのですが。
私情と上手く折り合いを付けて執筆していこうと思います。
轟音が響く。
紅に染まった巨大なエネルギー弾が放たれ、幾多の尖兵を吹き飛ばしていく。あまりの破壊力に、敵の体躯は次々と灰を撒き散らしながら崩れ落ちていった。
ロードギアと呼ばれたギアシステムで変身した長原は、今まで密かに溜め込んでいたであろう怒りや憎しみ、悲しみを晴らすかのように、両手に抱えられた機関砲・ロードカノンの一撃を放つ。身体が吹っ飛びながら灰になっていくスマートブレインの部隊達を見て、反対派である和也達も動けずにいた。
圧倒的な破壊力。
ギアシステムの力を目の当たりにして、和也達は驚きを隠せずにいた。
スマートブレイン側から奪取した量産ギア・ライオトルーパーとは、やはり比べ物にならない。数では勝る敵も、流石に量産型ではその力に抗えない。タイガーオルフェノクも、ロードギアの力を目にして暫し硬直していた。
これが、ギアシステムの力。
「……全てのギアシステムが、こんなデタラメな破壊力を持っている訳じゃない」
まるで彼らの心中を読んだかのように、千秋は口を開く。
「赤いフォトンブラッドは一番出力が低く、その分他に比べて安定している。あのファイズも、多数のツールを使用する等して、その力を発揮していた」
ライオトルーパーへと変身したスマートブレインの兵士達が、決死の咆哮を上げながら突っ込んでくる。間髪入れず、ロードカノンからフォトンブラッドを凝縮した砲弾が放たれ、ライオトルーパー達を巻き込んでいった。
「しかし、極秘離のギアを開発するにあたって、多数のツールを開発するにはコストが掛かる。その上、スマートブレインが帝王のベルトの件を私に吹っ掛けてくるのも時間の問題だった。そこで私が目を付けたのが、過去のギアシステムの戦闘データだ」
攻撃を逃れたライオトルーパーの一人が、今まさに攻撃を仕掛けんとロードに変身した長原に向かって駆け出す。アクセレイガンと呼ばれるコンバットナイフ型の武器を取り出したライオトルーパーは、その刀身を長原の仮面目掛けて振り上げる。しかし長原は一歩下がってソレを避け、ロードカノンから手放した右拳を、ライオトルーパーの顔面に降り下ろした。銀色の仮面は陥没し、ライオトルーパーは力無く仰向けに倒れる。
「初期段階に開発したデルタギアは、今のようにシステムの機構が練られている訳でなく、有するツールも少なかった。しかし後から調べて、ギアシステムはメインウェポン一つにエネルギーを特化させる事で、より高い戦闘能力を発揮する事が解ったのだ。デルタギアを基に開発されたらしい帝王のベルトには、特にソレが顕著に表れていると私は考えている」
降り下ろした拳を引っ込め、長原は次いでロードカノンの下部に取り付けられたパーツに手を伸ばし、ソレを取り外した後に放り投げた。そしてベルト型変身ツール・ロードドライバーに取り付けられた同じパーツを取り外し、交換するようにロードカノンの下部に取り付ける。
ロードカノンの砲身が、再び低く唸った。
「その機構を初めて取り入れて完成させたのが、このロードギアなのだが……いかんせん初挑戦だったからな。燃費が悪い上に出力が出鱈目で、時期が時期だったから調整する暇も無く」
「あの井溝さん、言っときますけど誰も聞いてませんからね!?」
「む?」
はっ、とした様子で千秋は漸く周囲を見渡す。彼女がいつの間にやら長々と語っていた間に、和也と、長原と共に来ていた三人は既にオルフェノクとしての姿へと変身し、スマートブレインとぶつかっていた。スマートブレインも、ぼけっと長原の様子を見てる自分たちを放っておくつもりは無かったのだろうが、和也だけでなく長原と同行していた三人も相応の実力の持ち主らしく、物量で押し寄せるスマートブレインと引けを取っていない。しかし、やはり多人数との戦闘を維持するのは難しいのだろう。徐々に押されつつある。
間を置いて、背後から再び轟音が響いた。
そんな彼等を少し眺めてから、千秋は長原等が乗ってきたジェットスライガーに歩み寄る。案の定ジェットスライガーには、長原が使用しているロードギアの他にも、幾つか持ち出されたであろうギアシステムがあった。
暫し物色してから、千秋は一つのギアシステムを身に付ける。そのベルトはファイズのものや帝王のベルト、ロードギアと比較して形状が異なっていた。
「良いだろう、私も協力しよう……変身」
「いや協力しようってアンタ……え?」
『Standing by――Complete』
襲い掛かってきたライオトルーパーを黙らせつつ、ホークオルフェノクへと変身している和也は、多少の余裕を見せつつ千秋へとツッコミを入れた直後に、聞き慣れた電子音声が耳に届いた。
刹那、千秋の身体が白い光に包まれ、その姿を変える。黒いアンダースーツに白いラインが身体中に張り巡らされた、鋭角的なフォルムが目立つ姿へと変身していたのだった。
モノトーンの配色が特徴的な姿の中で唯一映えているオレンジ色の複眼が、いつの間にやら持っていた銃へと視線を向けている。その銃口の延長線上には、当然ながらスマートブレインの集団。
新たなギアシステムの登場に双方が驚き思わず硬直する中、間髪入れずに千秋は引き金を引く。放たれた高濃度のフォトンブラッドは、実に正確にスマートブレインの集団の顔面を撃ち抜いていた。
「……ふむ、性能面は問題無さそうだな」
「アンタが戦うのかよ!」
和也は思わず声を荒らげた。
「なんだ本城、いきなり大声を出して」
「いやアンタ一応護衛対象だからな!? 何で当然のように戦線に出て来んの!?」
「いや、丁度ギアもあるし、性能も一応確認したかったし、君らも苦戦してたようだし……あ、ちなみにコレが先程話してたデルタギアなんだがな」
「いや聞いてねーよ!?」
和也の想像以上に千秋はフリーダムだった。
軽口を叩き合いながらも和也はライオトルーパーを殴って沈黙させる、はたまた千秋は光弾を寸分の狂い無く敵の顔面に撃ち抜いたりと、確実に戦闘をこなしている彼等だが、やはりデルタギアという新たなギアシステムのお陰で少なからず有利に動いている事も事実だった。
スマートブレインの動きが崩れている――そう確信した和也は、今すぐこの場から離れるべきだと瞬時に判断した。いくら有利になったとはいえ、数の上では圧倒的にスマートブレインが上なのだ。均衡がこちら側に傾いている今、その隙を付いて戦線を離脱するのが吉だと思ったのだ。
遠方で戦闘を繰り広げている長原へと視線を向ける。彼も同じ事を考えていたのだろう。近くのオルフェノクを薙ぎ払いながら、早足でこちらへと向かっている。
近くの三人に伝えるべきかと思考する中、和也はオルフェノクとしての超人的な視力でソレを見る。何かが凄まじい脚力で跳躍し、こちら――正確には千秋の方か――へと接近していた。
先程蘇生されていたグラスホッパーオルフェノクだった。
「井溝さん!」
ほぼ反射で和也は叫んでいた。
しかしどうやら千秋は、グラスホッパーの強襲は既に感知していたようだ。銃身の伸びたソレ――デルタムーバーと呼ばれる武装をグラスホッパーへと向けていた。
「Check」
『Exceed Charge』
千秋の宣言に応えるように発声される電子音声。ブライトストリームと呼ばれるエネルギー流動経路を伝って、ベルトからフォトンブラッドがデルタムーバーへと流れていく。
グラスホッパー――殆んど自我は残っていないのか、その顔に表情は無い――は、既に空中で蹴りの体勢に入っている。このまま攻撃が決まれば、例えライダーズギアで変身している千秋でもひとたまりも無いだろう。
千秋の感知が思いの外早かった事と、ソレに対抗しうる手段があったのが、グラスホッパーの運の尽きだった。
デルタムーバーから白い光弾が放たれる。何の変哲も無いそれが、空中にいるグラスホッパーの無防備な身体に当たった刹那、突如光弾は三角錘状に展開し、そのままグラスホッパーの身体を抉りながら拘束する。
グラスホッパーの表情に、驚愕の色が彩られた。
身動きが取れない上にその三角錘状のポインターで勢いも殺されたか、グラスホッパーは重力に従いそのまま落下していく。しかしグラスホッパーが無防備に地を付く前に、千秋もデルタギアで底上げされた脚力で跳躍していた。落下しているグラスホッパーに向けて、そのまま彼女は右足を突き出す。
「でやあああああッ!!」
普段の彼女なら発する事は無いであろう気迫の叫び。千秋はグラスホッパーを拘束していた三角錘のマーカーに目掛けて、そのまま蹴りを叩き込んだ。
マーカーはドリルのようにグラスホッパーの身体を貫き、また千秋もソレに伴いグラスホッパーの身体へと突っ込む。程なくしてグラスホッパーの背後から姿を現した千秋は、振り返る事無く着地した。
グラスホッパーは断末魔の叫びを上げる事さえ無く、赤い炎――本来オルフェノクが絶命する際には、青い炎が出る――に包まれる。俯いた表情を窺い知る事は出来ず、グラスホッパーは灰と化して、生涯三度目の死を迎えたのだった。
そこに残ったのは、青白い“Δ”の文字と、一塊の灰だけだった。
「全員退避だ! ジェットスライガーに乗れ!」
余韻に浸る暇も無く、スマートブレインからの攻撃をいなしながら長原が叫んだ。既に彼はジェットスライガーの傍らで、スマートブレインを近付けまいとロードカノンを構えている。
直ぐ様、千秋を含めた五人は近くにいるスマートブレインを黙らせ、長原の下へと向かう。三台あるジェットスライガーに、二人ずつ跨がった後――和也は後ろに千秋を乗せ、自ら運転する事とした――追撃させまいと各々が武器を構える。
「……あれ?」
しかし、どういうことか。
先程まで猛攻を仕掛けてきたスマートブレインは攻撃の手を止め、苦々し気にこちらを睨んでいたのだった。誰もが納得しないという様子だったが、だからといってこれ以上動こうともしない。
その波を割くように、奥からタイガーオルフェノクが現れた。
「今回は見逃してやる、井溝千秋。とっととそいつらと一緒にこの場から去れ。ジェットスライガーはくれてやる」
どういう事だ、と和也は声に出そうとして、止めた。人間の姿へと戻ったタイガーの表情にも、納得がいかないという苦々しさが見て取れたのだ。
明らかにこの場にいる者の指示ではない。スマートブレインの上層部が、また何か良からぬ事を考えているのか。
和也の思考も、長原の号令により中断される。程なくして三台のジェットスライガーは一斉に離陸し、一点の方へと目掛けて飛んでいった。
「……どういう事だ」
彼方へと飛んでいくジェットスライガーを目で追いながら、タイガーは不快感を拭う事も無く吐き捨てるように問う。
彼の背後から現れたのは、タイガーよりも若いスーツ姿の青年。スマートレディから指示を仰いでいた、あの青年だった。スマートブレイン本社にいた時の無表情とはうって変わって、解りやすい作り笑顔を顔に貼り付けながら、青年は口を開く。
「上層部のご意向です。次の計画に向けて、反対派を利用します」
「井溝千秋はどうする。あのまま押せば、奴を確保出来たのだがな」
「そうでしょうか? 私には、たかが六人に押されつつあるように見えましたが」
青年の隠そうともしない挑発に、タイガーも隠すことなく殺気をぶつける。その顔には、オルフェノクとしての姿の影が垣間見られた。
「失礼。失言でした」
「……ふん」
気に食わない奴を寄越しやがって、と内心毒づく。青年は相変わらず、表情一つ変えなかった。
気に食わない上に、彼は有能である。彼がそこにいるだけで、タイガーの苛立ちに拍車を掛けていた。
「次の計画には、彼にライダーズギアを渡した上で既に説明しています。何事も無ければ、事は上手く運ぶでしょう」
「何事も無いというのは、まず有り得んだろう」
「何事かあったら、私が動く事になっています」
タイガーは小さく舌打ちする。相変わらず険悪な空気が周囲を包んでいたが、互いに不毛な争いなのだと解っているのか、ほぼ同時に二人は顔を反らした。
ちらりと、タイガーは先程混戦の様相を呈していた公園を――正確には未だ赤い炎で燃えている一塊の灰を見やった。
その目には、少なからず哀愁の色が宿っていた。
――――――――
反対派の秘密基地とも呼べるそこは、市街地から離れた山の梺に位置する。
そもそもその小さな秘密基地も、スマートブレインが有する、製品を流通する際に一時保管する倉庫だったものを、反対派が襲撃し奪ったものである。余談だが、反対派が大々的にスマートブレインに攻撃を仕掛けたのがこの襲撃が初めてで、スマートブレインも反対派の動きを封じるような政策を講じていく事となる。
小さいとはいえ最低限の生活が出来る程の設備は揃っており、長原らが今回のような作戦を実行する際には必ずと言って良い程使用していた。
そんな秘密基地の一室にて、長原と同行していた三人と和也がいた。四人は一つの小さなテーブルを囲んでおり、そのテーブルの上にはアタッシュケースが開いた状態で置かれている。そのアタッシュケースには、コンパクトに機械が収まっていた。
和也はその内の一つである、赤い小型のタブレット端末を取り出す。
「和也サン、それ……スマートフォンですよね?」
「どう見てもスマホだなこれ」
四人の中で最も年下である、高校生程の気弱そうな少年の言葉に、和也は端末を眺めながら答える。
最近になって普及し始めたタッチパネル式のタブレット端末の代表とも言える携帯情報端末・スマートフォン。マニュアルに従って電源を付けてみると、画面に“SMART BRAIN”のロゴが踊った。
「ケースの中にはスマホに、よく解らん機械が幾つか……これで全部だな」
「多分それが井溝さんの言ってた、新しいトランスジェネレーターなんじゃない?」
アタッシュケースを漁っていた長原程ではないが同年代にしては一際身体のゴツい青年と、マニュアルに目を通している気の強そうな少女の言葉に頷きながら、和也はスマートフォンをテーブルに置く。青年もソレに倣い、よく解らん機械とやらも続いて置く。青年の言う通りスマートフォン以外のソレらは、彼らから見ても“よく解らん機械”であった。
「えーと、これがドライバー? で、この棒が武器……え、武器なのこれ」
「とにかく、これが井溝さんが言う新型ギア、らしいな」
マニュアルと機械を交互に睨みながら一つ一つ確認する少女を尻目に、和也は半ば面倒臭そうに判断した。
彼らは秘密基地に到着してから、犠牲になった仲間へ黙祷した後、長原たちが奪取した内の一つを和也は千秋から寄越されていた。千秋の細かい話は難しくて大半が理解出来なかったが、とにかく確認して重要な設定をしておいてくれと言われ、千秋は長原と共に部屋に籠ってしまった。人間解放軍と接触していたメンバーから連絡があったらしく、それについての簡単に話した後に、なるべく直ぐに人間解放軍の住居へと向かうという。
少しくらい、特に長原は休むべきだろうと四人は抗議したが、当の本人は普段の調子で突っぱねた。昨日の今日で動きを見せたスマートブレインに対して一抹の不安があるらしく、手早く行動したいと終止四人に伝えていた。
反論の余地も許されず、彼らは渋々と渡された新型ギアを弄っているのである。
「……あ、これかな? “アルファギアにおけるユーザー認証システム”」
「ユーザー認証? そんなの必要なのか」
「今までのギアには無かった機能……ですよね」
三人が口々に言う中、和也もスマートフォンを操作し、彼等の言うユーザー認証とやらの画面を表示する。指紋で認証するらしく、その旨の記載が画面に映し出されていた。
「つー訳で和也、ヨロシク」
「はあ!?」
青年の買い物でも頼むような軽い口調に、和也はすっとんきょうな声を上げた。
「何で俺が、って顔してるけどよ。和也はあの井溝って女のお目付け役だろ?」
「うん、やるなら和也しかいないよね」
「それに、井溝サンがライダーズギアを渡したのは和也サンですし」
「えええそんな」
口々に言う三人に和也は閉口してしまうが、それでは話は進まないので、渋々といった様子で彼はスマートフォンを握った。
画面内の指紋認証を行うであろう枠へと親指を当てる。十秒程経過した後、認証登録が終わったとの旨が表示された。
「……あ、もう終わりましたね。早いなあ」
「技術の進歩だねえ」
「今まであんなゴテゴテとしたケータイ使ってたから、尚更な」
三人が口々にやいのやいの言い合う中、和也は珍しく口数が少なかった。流れに任されるまま、彼はこの新型ギアのユーザーとして登録された訳だが、それは即ち、このギアは和也にしか使えないという事なのではないかと、若干気が滅入りながらも推測していたのだった。
彼は――というよりこの場にいる全員は、当然ながらオルフェノクである。人間ではない異形の力に目覚めてから、当初はその力を忌避し呑み込まれまいと、オルフェノクの姿へと変身するのは否定的だった。
しかし、自身が異形の怪物となってしまったのは紛れもない事実である。年月を重ね、和也はホークオルフェノクの力を引き出す為の抵抗も薄れていった。反対派の数少ない飛べるオルフェノクとして、幾度も変身していたというのも切っ掛けの一つだろう。
逆に言うと、彼はホークオルフェノクの力に依存しつつあった。
ホークオルフェノクとしての戦闘と、ギアシステムを用いた戦闘では、そのスタイルは大きく異なるだろう。もしギアシステムを使うような状況となった時、上手く使いこなす事が出来るのか。
尤も、それを使うような状況に遭遇したくないというのが、何よりの本音であるのだが。
「……ああ、ここにいたか本城。そろそろ出るぞ」
ガチャガチャと音を立てながらも新型ギアのツールをしまう最中、唐突に扉が開かれてはすぐに閉められた。簡潔に用件だけを伝えに来たであろう千秋の顔が一瞬だけ見えたが、返事する間もなく姿を消してしまったのだ。
怪訝な顔をする和也だが、はたと思い出す。そういえば俺はアイツの監視役だったっけ、と。
要するに着いてこい、という事か。
ギアシステム入りのアタッシュケースとかかさ張るなあと顔をしかめながらも、和也はいそいそと準備を進める。
「なあ、本城」
今まさに出ようとした所で、青年に声を掛けられた。
「長原さんの事、頼むぜ」
「……おう、解ってる」
青年だけではない、三人の不安の募った視線が和也の身体に突き刺さる。当然の事ながら、長原への懸念だった。
リーダー自らがスマートブレインの本拠地に赴き、その後はギアシステムで変身して一戦を終え、更に然程身体を休める事なく人間解放軍の下へと向かう。一日の内にこれだけ行動するのだ、溜まる疲労は相当なものだろう。リーダーであるとはいえ、いくら何でも無茶が過ぎる。焦っているようにも見えた。
千秋の監視より、長原が無茶しないように監視するような流れになっていた。
三人に軽く手を振って、部屋から、そして秘密基地から飛び出す。入り口の前には、灰色のワゴンがエンジンを掛けたまま待機していた。どう見ても和也待ちだった。
「遅くなってすみません」
運転席には反対派のメンバーである一人の女性、助手席には何処と無く疲れを滲ませている長原、そして後ろの席には既に千秋が、タブレット端末を弄りながらそこにいた。
運転手は和也が乗り込んだのを確認し、アクセルを踏む。ワゴンは辛うじて舗装された道路を走る。
「……なあ、長原さん」
程なくして、和也は口を開いた。
「解ってる」
そんな和也の出鼻を挫くように、長原は和也の言葉を遮る。
「俺の身体は俺が一番解っている……心配するな」
静かな、それでいて有無を言わさない気迫。言葉に出さずとも牽制され――他のメンバーにもうるさい程言われていたから、嫌でも察したのだろう――思わず和也は言葉を詰まらせた。和也はこの長原の気迫を苦手としている。というより、反対派のメンバーの中でも得意とする人はそうそういない。付き合いの長い人か、ただの空気の読めないバカだけだ。
そもそもワゴンに乗ってここまで来てしまえば後戻りのしようもないのは解っているが、長原は実質上リーダーなのだ。彼個人の事も心配だが、もし肝心な時に倒れてしまったら、統率の不安定な反対派も危うくなる。時々、長原はリーダーという役目に縛られ焦っているような節があるが、今がまさにソレだった。スマートブレイン本社で犠牲を出してしまったから、尚更かもしれない。それでも。
「ああ本城、そのギアを貸してくれないか」
今まさに口を開こうとした瞬間に、和也の沈黙を違う受け取り方をしたらしい千秋が、唐突に口を挟んだ。
何で重要な所で邪魔しやがるんだ、と言わんばかりに睨む和也だが、千秋の意識は和也の持つ新型ギアに向けられており、彼の熱烈な視線に気付いている様子は無い。若干頭に血が上っている和也からすれば、こちらの訴えをスルーされているようで余計に腹が立った。
こういう奴を空気の読めないバカというんだ。和也は内心毒づきながら、新型ギアが収まったケースをぞんざいに渡す。特に気にした様子も無く千秋はケースから赤いスマートフォンを取り出し、予め出しておいた彼女のタブレット端末とケーブルを介して繋いだ。その後は黙々と端末を操作していく。
「……何してんスか?」
「新型ギアのデータをイーグルサットに送信してる」
やり場の無い怒りを少しずつ鎮めながら、とりとめの無い疑問をぶつける。返ってきたのは、やはり和也にはよく解らない単語だったのだが。
ちらり、と千秋の視線が和也に向けられる。訝しげな視線に応えるでもなく、千秋は脈絡も無く質問を投げ掛けた。
「ライダーズギアの強化スーツは、どこから転送されていると思う?」
問われ、和也は暫し思考する。つい数時間前、長原がロードギアを、千秋がデルタギアを用いて変身していたが、その際に光るラインが身体を走り、その後強く輝いたら、いつの間にやら強化スーツに包まれていた。
「……やっぱり、ベルトから放出されてるんじゃ? いやでも、転送?」
「違う。ドライバーからはフォトンストリームを生成してはいるが、スーツデータは無い」
言って、千秋は人差し指を上へと向ける。釣られて上を向くも、視界にはワゴンの天井しか映らない。
「宇宙だ」
当然のように言う千秋の言葉に、和也は暫く思考回路が働かなかった。
「……いや、だから宇宙だ。スマートブレインの保有する衛星・イーグルサットから、変身コードを送信したトランスジェネレーターを目印に、スーツデータが転送されるのさ」
やはり話の大半はぼんやりとしか理解できなかったが、何やらスマートブレインは人工衛星まで持っているという告白には、呆然を通り越して笑うしかなかった。オルフェノクという要素さえ無ければ、本当に優秀な企業だったろうと和也は自嘲する。
「つまり、スーツデータが無ければ、ライダーズギアもただのガラクタという事だ。故に、完成間もない新型ギアの設定をしている訳で」
「はあ、そうですか」
反対派には各地に意外にも多くのメンバーが存在するが、スマートブレインを恐れ、彼らのように表立って行動するメンバーは数少ない。活動的なメンバーは身体能力に優れた者が主で、千秋のような技術面に秀でた者は少ない。
和也も所謂“脳筋タイプ”であり、専門的な話は理解出来ないどころか、彼の性格上――自分から訊いてきながら非常に失礼な話だが――然程興味さえ示さない。流れ行く景色を、いつの間にかボーッと眺めていた。
「待て井溝。イーグルサットはスマートブレインが保有していると言ったが、スマートブレインを抜けたお前が何故アクセス出来る?」
「大した事ではない。イーグルサットに、私専用のサーバーをこっそり仕掛けていただけだ」
大した事じゃねえのそれ。何気無い事のようにさらっと流す千秋に、嫌でも耳に届いていた和也は顔をしかめた。なんだかんだで相当な変人ではある彼女だが、腐ってもライダーズギアを開発する上での最高責任者だったのだ。その恐ろしい技術力は、和也の想像を軽く越えている。
しかしながら、反対派において彼女は微妙な立場にある。元々スマートブレインの重要な立場にあった彼女が、脈絡も無く反対派の下へと現れたのだ。長原は監視・護衛を付ける事を条件に彼女を受け入れたが、やはり反対派の多くは、彼女自身がスマートブレインの罠ではないかと警戒していた。和也もその一人だったが、今朝の独白以来それも少し和らいでいる――ものの、彼女の人間性には反りが合わないと彼は思っていたりする。
――何で長原さんは、俺なんかに監視を頼んだのかね……。
何なら今ここで訊くべきなのだろうが、車窓から臨める光景に思考は中断された。
街中とは一変し、さながら廃墟のように古びた一帯が広がる。一角には遊園地でもあったのか、かつてのアトラクションの数々が動くことも無く不気味に沈黙している。居住区にあたるらしい場所では、遠目でちらほらと人影が見えるが、まるで生気が無く、昼間だというのに静かだ。
幾度も話には聞いていたが、和也は此処に来るのは初めてだ。
――ここが、人間解放軍の隠れ家なのか。
和也達を乗せたワゴンは真っ直ぐ、そこへ走っていった。
ただでさえ長々と放置しているのに、未だに書き上がらないのは流石にマズイと思った結果、話の展開上必要無さそうな箇所は色々と削る事にしました。
そしたらグラスホッパーが、復活してすぐにやられるという、不遇な立場になってしまいました。どうしてこうなった。