現実世界の歩き方   作:雪宮春夏

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 今月最後の投稿になります、雪宮です。
 この話は一見ではほのぼの日常系。
 内容をよくよく考えるとシリアスかもという、ちょっと振り幅ありそうな話になりました。

 出てくるキャラクターは今の処は、誰一人オリジナルな方はいらっしゃいません。
 それではどうぞご覧下さい。


 22層 森の家にて

 助けて貰ったのには今でも感謝しているけど、あのやり方はなんなんだろうとは……思い出すと今でもたまに思うよ。

 

「……なんだ貴様。じゃああのまま犬死にしたかったのか?」

 今までの怒濤の日々を思いおこして思わず零れた小さな不満に、目の前の傾国もよもやと呼べるほどの絶世の美青年は……そう、美(・)青(・)年(・)は、眉間に三重ほどの皺を寄せて、ギロリとこちらを睨みつけた。

「……それは悪いことをしたな。今更だが謝ってやる。なんならかりそめの命だが、ここでひと思いに潰してやっても良いぞ。しかしやるのは僕では無く、「双黒(そうこく)」の方だが」

「……そこで実行者を「キリト」と選択する当たり、君はやっぱり性格悪いよね。ルーファス」

 ルーファスと呼ばれた青年は、既に言いたいことは言い切ったのか、目の前の円卓、こちらの世界(リアル ワールド)ではテーブルと呼ばれることの多い木造机の上に並べられている甘味に手を伸ばしている。

「選択する相手が「双黒」になるのは当然だろう? ここに多く出入りする相手の中で、お前と一番手加減容赦無用で戦える力量を持つのは奴ぐらいのものだ。サーティや星(・)王(・)妃(・)殿(・)下(・)も力量としては並べられるが、如何せんあいつといいお前といい、女人相手には手を抜こうとする悪癖があるからな。……何より」

 ざくりと、利き手に持っていた銀製のフォークで、目の前の甘味を両断して、ルーファスの鋭い目線がこちらを射貫く。

「お前はあいつと戦うときが一番、己の罪を実感している……違うか? ユージオ・シンセシス・サーティーツー」

 

「パパとユージオさんの決闘(デュエル)、また見られるんですね! 分かりましたっ! パパにはこちらから伝えておきます!!」

 ピリリと、両者の間に走った緊張を、粉々に砕いたのは彼らのいた部屋と滑出(スライド)式の扉一つで繋がっていた厨(キッチン)から飛び込んできた、一人の白い長衣(ワンピース)を纏った少女だった。

「……姫様」

 無邪気な笑みを浮かべるのは、滑らかな長い黒髪に黒曜石のような輝かしい瞳を持つ幼い少女。

「姫様じゃありません! 私は「ユイ」という名前があります!」

 毒気を抜かれたようにルーファスが零した言葉にぷぅと頬を膨らませる姿も愛らしく、思わずユージオも笑ってしまう。

「もう二人とも、喧嘩はダメだよ?」

 おっとりとした声が、背後……ユイの飛び込んできた厨(キッチン)の向こう側から聞こえてきたのはその時だった。

 腰にまで伸びた長い水色の髪に青蒼(アクアブルー)の瞳。水妖精(ウンディーネ)という種族の依り代をこの世界で用いる年若い少女に、まるで叱られた幼子が言い訳をするようにルーファスは、目線を泳がせる。

「別に喧嘩などしていたわけではありません。星王妃殿下なら分かっていらっしゃると」

「ア、ス、ナ、です!……敬語も出来れば止めて欲しいなぁ?」

 ニッコリと笑みすら浮かべながら顔を覗き込まれたルーファスが、やや躊躇うように口元をひくつかせる。

 無言の攻防が続いたのは幾ばくか。

 根負けしたように溜息を零して、「アスナ様」と、ルーファスは言い直した。

「大したことではありません……それに、たとえ言い争いになったところで、刃傷沙汰など起こりようもありません……今の僕には武装権限はありませんから」

 言い含めるような言葉選びに、アスナの眉間にやや皺が寄る。

 次いで僅かに曲げられる口元は、僅かにへの字を描きかけていた。

 こう言ってはなんだが、そうしてみると怒を表す様相はどこか娘と称されるユイに似ている気がした。

「……私としては、そこも物申したい所なんだけどなぁ。……ユージオ君やアリスみたいに、プレイヤーとして、「ALO(アルヴヘイム・オンライン)」で過ごす気は無いの? 戦うだけじゃ無くても、やれることは色々あるんだよ?」

 そこにあるのは不快感ではなく、思案の色。

 柔らかい声音はどこまでも優しいものだが、僅かに首を振ったルーファスは小さく自嘲の笑みを浮かべた。

「いえ。これは僕が僕であり続けるために決めたことです。自らの私欲によって剣は握らないと。……それに、僕はここで平穏な一時を過ごせているだけで十分ですから。姫様と一緒も嬉しいですし」

「……ユ、イ、です!」

 何とも聞き覚えのある要求に、僅かに視線を声の方へ向けると、己(・)と(・)同(・)じ(・)白の装束を纏う少女は少し不満げな顔でこちらを見つめている。

「……ユイ様と同じ、ナビゲーションピクシーも嬉しいですし」

 

 ナビゲーションピクシーとしてALOにある彼、ルーファスは、嘗てルーファス・シンセシス・サーティーンと呼ばれていた。

 アリスと同じ整合騎士。その中でも彼は十三の番号を冠し、第四位の位に就いていたと言う。

 神聖術に特化した整合騎士であるが、その剣は決して実践で他者と劣るものでも無く、武装完全支配術及び記憶解放術、そのどちらも高威力を測っていたという。

(そして当時の最高司祭曰く、「外界からの召喚者」……)

 楽しそうに笑うユイと、それに狼狽えるルーファス、そんな彼らを面白そうに眺めるユージオを見つめながら、アスナはキリトから聞かされた……ルーファスの存在を隠さなければならない理由に思いを馳せる。

 あちら側(アンダーワールド)を生み出した「ラース」の持つ、正式なシステムコンソール、「ワールド・エンド・オールター」からこちら側(リアルワールド)に訪れたアリス、ユージオと異なり、ルーファスは何者かからキリトのパソコンに送られてきた極秘回線、そこからアンダーワールドへログインした最初の集団に、アイテムとしてランダムにドロップするように設定されていたのだ。

 そのアイテム名は「SHM-RST」……前半の三文字は未だに意味がよく分からないが、後半の三文字はおそらく、ルーファス自身の名所を英文字としてものだろうと思われる。

 本当ならばそれを発見した直後に菊岡達に相談することが筋だったのだろう。

 しかしキリトは嘗て、最高司祭との戦いにおいて彼女の言を証明するかのような奇跡の力をルーファスが行使する姿を一度見てしまったのだという。

 その話を聞いたアスナでさえ俄に信じられなかったが、その所業によって生き延びることの出来たユージオこそが何よりもの証明であった。

 そして現実世界(リアルワールド)にて調べたある事実が、奇しくもかの最高司祭の言葉を裏付けしてしまったのだ。

(ルーファス君の持つ神器、その元になった木片……もしそれが第二次世界大戦中にナチスに狙われていたというそれと、同じものであるというのなら)

 ユイの話ではあの時、オーシャン・タートルを占拠した相手は、アリスとユージオだけで無く、それを手に入れることも視野に入れていたのでは無いかと推測される。

 最も全ては仮定であり、アスナ達の立ち位置では確かめることなど不可能なのだが。

 

 ルーファスが最高司祭、アドミニストレータから与えられた神器「凍火(とうか)の剣」。その原形となった木片から復元されたと言う大きな木箱の名は「凍土の劫火(とうどのごうか)」。

 嘗て現実世界(リアルワールド)の戦争にすら使われかけたと言われる、破壊に特化した最悪の兵器。

 それが今の彼らの持つ知識の全てだった。

 

 

 

 

 

 

 




 とりあえず、ユイちゃんは緊張感というものを完膚なきまでに破壊できる癒しの権化だと思っています。
 空気を読まないのでは無く、空気を読んだ上で、必要ならば破壊できる人です。

 それではここまで読んで下さり、ありがとうございました。
 またご縁があればよろしくお願いします。(´▽`)ノ

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