一見ほのぼのです……が。
実際はどうだろうと、少し不安にもなります。
実際、五人でワイワイやっているだけなので、まだまだほのぼのだと思っていますが。
それではどうぞご覧下さい。
……そう言えば、お前の性的な趣味嗜好というのが、十歳前後の女児に限定されているというのは本当ですか?
「……はあっ?!」
それは何の前触れも無く、サラリと目の前の少女、整合騎士第三位、アリス・シンセシス・サーティによって落とされた爆弾発言に、たちまちルーファスの目は大きく見開かれ、眉はつり上がる。
一方それに反するかのように、彼らの傍らで今し方まで彼らの寸止めの稽古を眺めていたキリトこと、桐ヶ谷和人が、ビクリと大きく肩をはねさせた。
「……? 違うのですか? 私はキリトからそう聞いたのですが」
追い討ちをかけるように続けられた言葉に、ホログラム越しである筈のルーファスの瞳に剣呑さが増す。
ヒッと掠れた悲鳴を漏らした和人が、慌てた様子で自身がそう考えるに至った経緯を説明しだした。
「い……いや、だっておまえっ! セントラル・カセドラルでまだシンセサイズの秘儀を受ける前のアリスに神聖術の勉強を教えてたって聞いて……!」
「そんなもの! 将来有望な相手に目をかけるのは当然だろう! あの当時から彼女の神聖術の才は突出していたのだからな!!」
憤慨やるから無いと言う様子でこちらを睨みつけるその様子は、下手な不良よりも余程怖い。
「そ、それにお前、あのアドミニストレータに最初に叛意を翻した時の切欠が、カーディナルを庇ってだったから、てっきりそう言う」
「何を馬鹿なことを! 僕は彼女たちに邪な感情を抱いていた訳では無い!! あれは……」
ピタリと、怒濤のように繰り出されていた口擊が止んだ。浮かべていた表情まで止まったかのように見えたキリトは思わず、一瞬ルーファスと交信するために使っていた機器の方が異常を来したのかとそちらに目をやったほどだ。
「……あれは、そのような感情では無い」
再び口を開いたルーファスは、何かを懐かしむように、どことも分からない虚空を見つめていた。
「……謝ったら如何ですか?」
やや間を置いてから、ポツリと呟かれたアリスの言葉に、うぐっと呻き声をあげた和人が心なしか弱った声音で、同意を示す。
悪気を感じていたのだと言う事実に、無意識にアリスは胸をなで下ろした。
仲間内の不和をアリスは好まない。
特にアリスを含む、ユージオ、キリト、ルーファスの四人は、セントラル・カセドラルでの戦いから、東の大門、
結局あの後、ルーファスは怒りの一片を示すことも無く、あの場を去ってしまった。
和人の愛娘であるユイと、同じく、データの塊として電子の世界に存在しているルーファスは、彼女と同じように電子機器を通じてある程度の移動をすることが出来る。
この家には、ユイの為に作られたそのような通路が多くあり、剣道道場にあった機器もその一つだった。
「……だいたい何故私に、あのような低俗な戯れ言を吹き込んだのか、そこから教えて欲しい所なのですが」
そう続けたアリスの目は据わっている。
それ相応の理由が無ければ納得は出来ないと目は語るが、キリトとて、疑惑を抱いたのは故の無い事では無い。
「……だって、アンダーワールドで共に過ごした俺達を除いて、今一番距離が近いの、ユイじゃないか」
そう呟いたキリトの表情は、どこか幼子が拗ねたような、疎外感を覚えたような不満顔で。
「……お前は」
思わず溜息を零したアリスの声音に滲んだのは、間違いなく呆れの色であった。
そう、疑惑を抱いたのは故の無い事では無いのだ……おそらく、だが。
「……つまり、こどもが独立思考が出来る年齢に達したにも関わらず、こども可愛さの故にこどもから離れられない阿呆な親のことだ」
「……それがキリトだって?」
呆れ混じりに聞き直したユージオに、こくりと頷いたルーファスに、怒りの色は無い。ただ、馬鹿馬鹿しいとばかりに呆れるだけだ。
「……そこまで分かっているのに何も言わずに出てきたら、キリトも今頃怒っていると思うんじゃない?」
「……思わせる為にやっているんだ。それでも反省の一つも無いのならば、次は王妃殿下に注進する」
打てば響くように返ってくる言葉に、既にルーファスは幾つかの可能性を平行思考しながら動いているのだと分かる。
「……なんというか、手慣れてるね」
「……あいつの世話係は二百年で十分慣れた」
はぁと、深々と吐き出された溜息に、こちらが知ることの出来ない苦労が感じられて、苦笑と共に羨望を抱く。
ワールド・エンド・オールターからユージオとアリスを脱出させる際、キリトは敵の足止めとしてアンダーワールドに残り、彼の別離を許容できないとアスナもその道行を共にした。
こちら側に生まれた人間である二人が、加速状態のアンダーワールドで生きた二百年の月日は、二人の記憶には残っていない。
詳細は分からないが、この世界で生き続ける為には、抹消しなければならなかったのだという。
ルーファスだけが、その時の記憶を今も保持しているのだ。
それを羨ましいと思う反面、疑問も抱く。
当事者であるキリトとアスナも記憶を保持するならばともかく、アンダーワールド自体にも、既にその当時を知る者がいない状況下で、何故唯一人記憶を保持し続ける道を選んだのだと。
まるで、その記憶がいつか必要となるのだとばかりに。
「……だいたい、怒っていないことと許していることとは、全くの別物だ。謂われのない中傷を受けて黙っているほど、僕は愚かでは無いからな」
フンと、こちらの考えなど知りもしないルーファスが、心なしか鼻息荒くやる気を示すのを眺めながら、ふと、キリトが示した根拠のそもそもの疑問を思い出す。
「……所で結局、君が僕たちに協力した最初の切欠は、なんだったんだい? キリトのその考えが誤りならば、それとは別に何かがあったんだろう? 最高司祭様が強固に刷り込んでいた、君の中の固定概念を打ち壊すだけの何かが」
そう、セルカ・ツーベルクの名前を呟いたアリスの体が、その名前を記憶していたように。
キリトと真剣の打ち合いを交わしたユージオの精神が、十歳の昔に外界の者達によってあけられた空白の記憶を思い出したように。
「……君は、何を思いだしたんだい?」
スルリと喉を通った純粋な疑問。
それはおそらく、整合騎士にされる事の無かったキリトにはない、そんな後ろめたさから彼には打ち明けられない自分たちだけの接点。
だからだろう。
ルーファスも驚く程容易く、それを口にしていたのは。
「「娘」だ」
ただ、あまりにも簡潔な答え。
「アドミニストレータ様が。言っていただろう。カーディナル殿に……。「私の娘」と。それが切欠だった」
淡々と。平静を装おうとする声。
何かを懺悔するように、ルーファスの視線は下を向く。
「だからこそ、許せなかった。……自らの娘と認めながら、その命を詰もうとする所業に」
何かに思いを馳せるように、閉ざされた瞳。
秘密を打ち明けるような所作は、真実それが誰にも打ち明けるつもりの無い、秘密であったからかもしれない。
「僕にも娘がいた……それを思い出してしまったから、許せなかったんだ」
ユージオとルーファスの掛け合いが結構好きです。
この二人は何気にいいコンビです。