Miserable Misery   作:むにゃ枕

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The One Year War
Miserable Misery


 突然だが、私には前世の記憶がある。前世では私はおっさんだった。普通、もしくは平凡というものを絵に描いたような人生だった。だけれども死にざまだけは派手だった。というのも私は雷に打たれて死んだらしいからだ。

 

 今にも雨が降ってきそうなある昼下がり、私は傘を差そうとして何かに襲われて死んだ。死の瞬間は驚きしかなかったが、こうして冷静に考える時間が有ったので考え直してみた結果がそれだった。

 

 私は追われていた。相手は汚い酒臭い息を吐くおっさんだった。重力が低いのを利用して、崩れかけの建物の二階に飛び乗って、追跡を躱す。

 

 私を追うような変態ロリコン野郎だ。きっと下半身中心の思考しかできないに違いない。くすねてきた腐りかけの食い物を食べる。

 

 街は錆付いていて、緩やかに死んで行っている。街が有るのは地球から遠く離れたアステロイドベルト。人間は意地汚なさから、こんなところに街を作ったらしい。

 

 盗みの証拠品を腹の中にしまい終わったので、ビルの隙間から顔を出して、クソストーカー下半身直結ロリコンの姿が無いのを確認する。

 

 重力が低いのには未だに慣れないが、これはこれでいいところもある。ゴミが散らばった裏町の通りは汚い。人間の死体なんかも混じっているから、出来るだけゴミを踏まないように下を向いて歩く。

 

 もう一回くらい、何か頂戴することは出来るだろう。おこぼれにありついて私は生きている。働くなんて言っても12のガキを雇う場所なんて、寂れた鉱山に寄生してぎりぎり生き続けているこの街にはない。

 

 どうしても働きたかったら、娼婦にでもなるくらいしかないのだ。今日はジジイのところに行ってもいいかもしれない。私のようなストリートチルドレンはよく攫われては娼館なりに送られてしまう。

 

 さっき私を追いかけた野郎は、ヤリ目だったのか人攫いだったのか、もしかしたらその両方だったのかもしれない。だから私はジジイのところに最近は行けてなかったのだ。

 

 ジジイは、私のような餓鬼の面倒を見ている爺さんだ。私の母親は娼婦で、私を産んで十年近く、育ててくれたが、無理がたたって死んだ。

 

 それから二年間、私は爺に寄生したり盗みでなんとか生き抜いてきたってわけだ。母親は馬鹿で、客に幸福な名前だと騙されて私にミゼリーなんて名前を付けた。だけれども、私を愛してくれた。

 

「おい、ジジイ生きてるか?」

「ミゼか、なかなか顔を出さなかったもんじゃから、攫われたと思ったんじゃぞ」

「馬鹿言え、誰がそんなドジ踏むかよ」

「儂ももう歳じゃからのう、二年前のようなことは出来ん。だから安心させてほしいのじゃ」

「う、分かってるよジジイ」

「分かればいいのじゃ」

 

 二年前、娼館から逃げ出して、スラムのことを何も知らなかった私はこのジジイに人攫いから救われたのだ。あれは危なかった。今思い出してもひやひやする。

 

「サキは戻ってないのか?」

「さっき戻って、お前さんを探しに行ったよ」

「おいおい勘弁してくれよ」

「まあ直ぐに戻ってくるじゃろ」

「根拠は?」

「爺の勘じゃ」

「当てにならねえ」

 

 サキは私と一緒に娼館から逃げ出した少女だった。彼女は私より年上だがおっとりとしている少女だ。

 

「なあ、ジジイそれなんだよ?」

「ああ、軍の連中が配ってたチラシじゃな」

「おいおい軍だって?こんな警察すら碌に働かない場所に軍がねえ?どういうことだよ」

 

 チラシ、もといパンフレットには入隊希望者の募集について書いてあった。待遇としては中々なものだ。この死んだ街で、将来の見えないまま生きていくことに比べればましかもしれない。そう私は思った。

 

「あ、ミゼ戻ってたんだ。よかった攫われちゃったかと思ったよ」

「私が、攫われるわけないだろ?」

「またまた、ミゼは美人だよ」

「そうじゃねえよ」

「ま、とにかく無事でよかったわ」

 

 この通りサキはのほほんとしており、頭のねじが何本か抜けているのか人とは違った世界が見えているやつだ。

 

「なあジジイ、このジオンってのはどこの軍隊なんだ?」

「ジオンではない!ムンゾじゃ!」

「あ、ご、ごめん……なさい」

「おじいちゃん大人げないよ」

「すまなかったな。ミゼ。ジオンいや、儂の中ではあそこはムンゾなんじゃよ」

 

 ジジイ。私達に頑なに本名を名乗ろうとはしないから何かワケ有りなことは知っていたが、ジジイの地雷はそこだったらしい。

 

「ムンゾは、スペースコロニーの一つじゃ。月の裏側にあるな。そしてこのコロニーでは地球連邦政府からの独立運動が盛んじゃった。独立のリーダージオン・ズム・ダイクンは権力を欲さんとするザビ家に暗殺された。そうしてザビ家が、ザビ家がムンゾを乗っ取り、ジオンと名を変えた。貴様らの手で殺しておき名誉までを奪い取ったのじゃ!」

 

 ジジイがここまで興奮しているのは初めてだった。この話はジジイの過去と深く関わっているらしい。

 

「ザビ家はムンゾを乗っ取った挙句、反対派を粛清した。ザビ家は権力を我が物とせんがために大恩あるダイクンを殺したのだ。これが儂は許せんかった!」

 

 ジジイは勝手にエキサイトしてザビ家とやらの悪口を言っている。サキはにこやかに笑っていてジジイの話をスルーしている。

 

 ジジイの話を簡単に纏めるとこうだ、ジオン軍ってやつはジオン、元はムンゾってとこの軍隊だ。そしてムンゾにはジオンってやつがいて、そいつをザビ家が暗殺して、権力を奪った。そしてジオンの名前だけ利用してジオンって名乗っている、そんなところだろう。

 

「落ち着けよジジイ。私らにそんな話しても分かんねえよ」

「むっ、すまんな。我を忘れておった。子供に話すことではなかったな」

「とりあえず、ジオン軍はムンゾってコロニーの軍隊で、ザビ家っていう悪い奴が牛耳ってんだろ」

「そうじゃな。そうなる」

 

 話を聞いたところ結構ジオン軍ってところはヤバそうだ。しかし、こんな明日も分からない場所より最低な場所ではないだろう。

 

「なあジジイ」

「なんじゃ?」

「私、ジオン軍に入るわ」

「なぜじゃ。軍に入るということは戦争に行くかもしれないということじゃぞ!死ぬかもしれないんじゃぞ!」

「じゃあ、明日生きてられるか分からないこの場所の方がましか?」

「ぐぅ」

 

 ギリギリとジジイが歯を噛みしめる音が聞こえた。

 

「サキ、私はこの明日も見えない場所から抜け出したい!サキはどう思う?」

「私、私はミゼちゃんが心配だから、どこまでも付いていくよ」

「そうか。ありがとうな」

 

「ジジイ聞いたか?私達はここを出ていくぜ。ジジイには世話になった。あんたには返しきれない恩がある。あんただって生活苦しい中、良く私達の面倒を見てくれたもんだ。本当に感謝している」

「待て、行かんでくれ、お前たちに儂は死んでほしくない」

「心配するなって。必ず出世して生きて帰ってくるからな」

「行くな、行かんでくれ!頼む!お願いじゃ!儂はまた誰かを失いたくない!」

「馬鹿、()が一度決めたことなんだ曲げられねえよ」

 

 そう言い残して、私はサキと一緒にジジイの家を出た。向かう先はジオン軍がオフィスを構えている中心街だった。

 

「しっかし、ここも寂れてんな」

 

 中心街と言ってもかつての名残がなんとか残っている状態だった。人通りはまばらで、人々の顔色は暗かった。偶に明るい奴もいたが、そいつは酔っ払いだった。

 

 中心街の大理石で出来た立派なビルディングとは対照的に、私は汚い服を着ていた。ビルディングの扉を開けると、内部は使われていない建物の匂いがした。人の気配がする方へ向かうと、そこには軍の制服であろうものを着たくたびれた中年の男がいた。

 

 この何もかも草臥れた街に似合う、草臥れた男はのっそりと身体をこちらに向ける。

 

「お嬢ちゃんたち、冷やかしはお断りだよ」

 

 こいつ、失礼じゃないのか。

 

「私が冷やかしに見えるのかよ?」

「ああ、見えるとも」

「おいおいおいおい、私は本気だぜ。このごみ溜めで腐っているよりも軍の方がマシだ」

「はあ、あんたらまだガキだろ。戦争ってのは大人がやるもんなんだよ。ガキはママに泣きついてろよ。ガキを守るのが大人の役目なんだよ」

「あんたが言うママがいないとしたら?」

 

 おっさんは黙ってしまった。

 

「はあ、おい勘弁してくれよ。無力感で死にたくなる」

「仕方ないだろ。身体を売って生きていくくらいしか私に道はないんだ」

 

 苦虫を千匹口の中に放り込まれたような顔をおっさんはした。

 

「なあ、おっさんの昔話に付き合ってくれねえか?」

「私にメリットがないぜ」

「書類、作ってやるよ」

「じゃあ、それで」

「俺は、貧民街の出身でな。生きていくのにお前らみたいに必死だった。だからその現状がおかしいと思ったんだよ。ジオン・ズム・ダイクンってやつがいてな。そいつが俺たちの現状を変えてくれるらしいって話を聞いたんだ。それで俺は軍に入ったんだ。偉くなって現状を変えるためにな」

「だがよ、現実はどうだ。俺はかつての俺がいた場所と同じところで、かつての俺みたいなガキを戦争に巻き込もうとしている。この無力感が嫌になるんだ。まあどこにでもいるおじさんの愚痴さ」

「書類を作るからな、さっさと書いてくれ」

 

 そうして私達に書類が渡された、サキは自分の名前くらいしか字が読めないので、私がサキの分も書類を書いた。

 

「ちょうど時間だ。このまま俺についてこい」

 

 おっさんの後ろに私達は付いていく。裏手にあった軍用のエレカにおっさんが乗り込み、私達が乗り込む。

 

「おっさん、これどこに行くんだ?」

「宇宙港だよ。俺がお前らをパプアまで送ってやるんだ」

 

 宇宙港なんてものは初めて聞く。そんなものが有ったなんて全く知らなかった。ドームの外に写る星々は見えていたが、ここが宇宙だという事実は知っていたが、実感はなかった。

 

 エレカが隔壁の検問に着く。おっさんは検問の警官に身分証を見せ隔壁が開き、エレカは先へと進んだ。

 

「着いたぞ。ミゼにサキだったか、やめるなら今の内だぞ」

「御忠告どうも。だが私がそんなものでやめるとでも?」

「嫌になるね、全く」

「心配ありがとう」

「はあ、最低だぜ。ファック」

 

 おっさんが歩いて行く先には、赤く塗られた宇宙船があった。

 

「ガトルだ。俺が飛ばす。お前らは後ろだ」

 

 おっさんが指さしたところには扉があった。中には私より少し年上の青年たちがいた。彼らは私達に軽口を言ってきたが、軽いセクハラをしてくるくらいで、特に重大な事態は発生しなかった。

 

「おい、シートベルトはしたか?出るぞ」

 

 ガトルのエンジンに火が入る。誘導灯に従って機体はゆっくりと向きを変えた。ディスプレイから見える宇宙港の壁はやはり年季の入ったものだ。

 

 宇宙港の隔壁が開き、機体は宇宙へと乗り出していった。

 

「特別サービスだ。お前らの故郷を回ってやるよ」

 

 ガトルのモニターからはドームに包まれた採掘都市が見えた。私が生まれた都市は宇宙から見たら本当に小さかった。私には大きな都市だったのだ。それがこんなに小さいとは思わなかった。

 

 ガトルは方向を変え進路を街から離した。モニターには真っ暗な宇宙が映し出されていた。私は街が見えなくなって初めて、同乗していた何人かの青年が声を殺してそれでも嗚咽を漏らしていることを知った。

 

 そして何人かは、青年たちは一様に燃え滾るような熱気を放っていた。きっと故郷を後にし、そういった思いがこみ上げてくるのだろうと私は思った。

 

「ファック、連邦のフネだサラミスだ。どこから来やがった。木星船団からのはぐれかよ!?」

「行き掛けの駄賃に喰おうっていう訳だ揺れるぞ!」

 

 ガトルは激しく旋回しスピードを上げた。身体がふわりと浮かぼうとするのをシートベルトが食い止める。それを何回か繰り返して、ガトルは元のスピードへと戻った。

 

 私が見た限りこのガトルには小型の機銃しかついていなかったから、敵の戦艦だかを沈めたということは有り得ない。きっとスピードを出すことで逃げ切ったのだろう。

 

 やがて、ゆるゆるとガトルはスピードを落とす。モニターに映ったのは、緑色の双胴船のような形をした奇妙な船だった。

 

「パプアだ。おんぼろ貨物船だ」

 

 どうやら私達はあの船に乗り移り、ジオンとやらに送られるらしい。モニターには私達の乗った機以外にも何機かのガトルが映っていた。

 

 きっとそこにも私達のお仲間が乗っているのだろう。私の乗ったガトルはゆっくりと近づき、パプアに収納されようとしていたその時だった。

 

 一条の煌めきがモニターに映ったと思うと、私達の機の前にいたガトルが吹き飛んだ。

 

「サラミスっ!付けてきやがったのか!があクソっ、俺は大間抜けだ!」

 

 爆発と共に宇宙に人間がばら撒かれて、赤い華が宇宙空間に咲いた。それはきっと人間だったはずのものだ……悪寒が止まらなくなった。それはきっと死が近づいている予兆だったのだろう……




ガトル長距離輸送特化型
武装を最低限にし、輸送に特化したガトル
イメージはサンボルのガトルの改修版
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