Miserable Misery   作:むにゃ枕

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Dust of the space

 私は今、絶対絶命の危機に瀕していた。地球連邦軍の戦艦だか何だかに撃たれているからだ。サラミスという名のそいつは私の乗った機の直前にいたガトルを吹き飛ばしたのだ。

 

「死にたくない!俺はまだ、何も成し遂げていないんだぞ!」

 

 船内では激昂して叫ぶもの、手を組んで祈るものなどに分かれていた。

 

「ノーマルスーツだ、ノーマルスーツがあったぞ!」

 

 シートベルトを外していた一人の青年が叫んだ。船室の後部でノーマルスーツを見つけたらしい。パニックになった何人かが、そこに群がった。

 

「待て落ち着け!俺たち男が、女より先にノーマルスーツを着ようってのか?おい!俺はそんな人間の屑になった覚えはないぞ」

 

 日に焼けた筋骨隆々の男だった。まだ十代のはずなのに巌のようになった顔は彼が生きるために積み重ねてきた、歳月の重みを語っているようだった。

 

 私とサキにノーマルスーツを数人が着せる。私はこんなものを着るのは初めてだったので、少し手間取った。そうしてサキも何とかノーマルスーツを着終わることが出来た。この船には、私達以外に女はいなかった。

 

 やたら気障ぶった男が私達との距離を縮めようと話しかけてきた。

 

「お嬢様方、お加減は如何で

 

 そうして、それは最後まで言葉にならなかった。船体に突如として穴が開いたからだ。何人かが宇宙に吸い出されていった。船内には怒号やら悲鳴が数秒の間、漂っていたが穴が広がるにつれて、それもなくなった。

 

 私達は宇宙に吸い出されていった。その一瞬の間にサキとは手を繋ぐことはできた。

 

 しかし、このままでは二人仲良く、宇宙の藻屑になってしまう。

 

「ねえ、ミゼ。あそこに誰かいるよ!」

 

 接触回線で聞こえたサキの声、確かに、サキが指さす方には宇宙服姿の誰かが浮かんでいた。

 

「あの人ならどうすればいいか、知っているはずだよ!」

 

 サキの発言を信じ、残骸を蹴ってそちらに向かった。確かにそれは人だった。しかし、それは人とは呼べなかった。

 

 なぜなら、腹部に破片が刺さっており、どう見ても生きているとは思えなかったからだ。吐き出した血反吐で真っ赤になったヘルメットから覗く顔には覚えがあった。

 

 ガトルで私達を送り届けようとしたおっさんだった。

 

 こちらを狙うビームの光跡と、必死にサラミスを沈めようとして爆散するガトルの光は、人が死んでいるのにイルミネーションのように宇宙を照らすだけだった。

 

 一機のガトルが火を噴きながらサラミスに体当たりしたのが見えた。それで打撃を受けたらしく、サラミスは遠ざかっていった。

 

「おい、無事か?」

 

 パプアから出てきた小型ランチが私達を視認したらしい。広域通信でこちらに呼びかけてきた。私が手を振ると向こうもライトを点滅させる。どうやら意思疎通を行うことは出来たらしい。

 

「生き残りはお前らだけか?」

 

 ランチからこちらを迎えに来たのは、声からして中年の男だった。

 

「酷い有様だぜ。輸送機は半分しか返らず、護衛もほとんどやられちまった。お前さんら生きてただけで儲けもんだぜ」

 

 果敢にサラミスに攻撃を仕掛けていたのは、パプアの護衛機だったらしい。

 

「一機、突っ込んでいった」

「あんた、女だったのか。ああそうだ。突っ込んでいったのはケイトの奴だろうな。気の荒い女パイロットだったよ」

「いい奴だったが死んじまっちゃあどうしようもない。生き残った者勝ちだ。全く馬鹿な女だったよ」

 

 本心から言っているようではなかった。なぜなら、その声は震えていたからだ。私達を乗せたランチはそのまま周囲の生存者の回収に向かった。何人かの生存者と遺体を回収し、パプアのガイドビーコンに従って格納庫に入る。

 

 格納庫は、ビームをかすめたようで所々が溶けていた。そこに何機かのガトルが停まっていたが、何れもボロボロで一機たりとも無事な機はなかった。

 

「どうして、左舷格納庫に誘導したんだ?」

「右舷は手ひどくやられた。こっちのほうがましなくらいだ」

「こっちにいたガトル隊は、これだけしか返ってないのか?」

「ああそうだよ」

 

 慌ただしい空気の中、格納庫に降ろされたランチから怪我人が搬送される。そして、その次に私達のような無事に見える人間が降ろされた。そして最後に回収出来た遺体袋に入れられた遺体が降ろされた。

 

「君らが新兵で合っているかな?僕が教官となるシェイ・ハーディー少尉だよろしく」

 

 私達が案内された部屋で待っていたのは、眼鏡を掛けた温和な青年だった。新兵の教育係らしい。大変な仕事を押し付けられたものだ。

 

「他の教育係となるはずだった者は、僕たちとこの艦を守って殉職した。人が足りない状態だがよろしく頼むよ」

 

 私達新兵もサラミスの攻撃によって何機もの機が墜とされ人数は減っていた。本来はこの人数の何倍もの人がいたのだろう。しかし今、生き残ったのは十数人だった。

 

「君たちの訓練なんだが、艦がこの酷い状態でこちらの人手も不足している。教本を渡しておくから各自で読んでおいてくれ。基礎的な銃の扱いなどの最低限出来なければならないことについて書かれている」

 

 まずいことになった。私は字が読めるがサキは字が読めない。おっさんの情に訴えたり、書類に嘘を書いたりして軍に紛れ込んだのだ。ここでボロが出たら、宇宙に放り投げられてしまうかもしれない。

 

 部屋に関しては狭くて汚いものだったが、サキとの二人部屋を与えられた。軍の教本は挿絵が多くサキでも何とか理解できるようには書かれていた。

 

 軍服が支給されたので、汚い服から着替えた。下着も何も手荷物は持ってきていないし、持ってきていたとしても宇宙に吸い出されて無くなってしまっていただろう。ポジティブに考えれば皆同じ状況に戻ったのだ。

 

 戦闘に巻き込まれたせいで時間の経過が早く感じられるが、実際は半日もたっていなかった。しかしお腹のほうはそうもいかない。スラムではお腹いっぱい食べられるなんてことは無かったし、サキも私もやたらと背が高いので燃費が悪い。

 

 今のところ身長がもたらしたメリットといえば、軍への入隊を誤魔化せたということくらいしかない。そんなところで軍服に着替えて、食堂に向かう。ジオン軍には女性も多くいるので、食堂の場所を聞いたらエスコートしてもらうことになった。

 

 こうして食堂に来たのだが私達新兵とその他の区別は簡単に出来た。私達は汚いのだ。なにしろ都市全体がスラムのような有り様である。そもそもアステロイドでは水は結構な貴重品だ。だから私が汚いのも仕方が無い。

 

 最低限の清潔さを意識するようにしていたが、やはり軍とスラム都市の元住民の新兵には何やら差が有りそうである。それに新品でピカピカした制服も、古参兵との区別を分かりやすくしている。

 

 私達を食堂まで案内してくれた女性士官が、食堂の利用方法についても教えてくれた。この食堂のシステムは大学や高校の学食のものと同じだった。

 

 券売機で、適当な日替わりセットを選択し受け取り口で食事を受け取る。女性士官によればこの食堂ではお金はかからないらしい。ジオン軍人ならば払わなくていいというのは実に合理的な仕組みだ。

 

 受け取ったのはパンにマッシュポテトと何かのフライ、それにチョコレートバーというカロリーで殺しにきているメニューだった。同席した女性士官によると長距離の航海だと料理が雑になりがちらしい。

 

 そして、今回はアステロイド方面なので補給すらできないから一段と劣悪らしい。前世の私ならまずそうだと思っただろうが、生憎今世の私はスラム育ちである。塩がきいているだけでも御馳走である。

 

 私は貪るように食べた。おそらく他の新兵もそうであろう。アステロイドで美味いものを食べるためにはお金が必要なのだ。私は食べ終わるとお代わりをしに行った。ちゃっかりサキもそうしていた。

 

 食事を終えると部屋に戻った。簡易ながらシャワーが部屋には備え付けられており、そこからはきちんとお湯が出た。シャワーは娼館にもあったが、温度を高くしてもぬるま湯が流れるだけの役立たずであった。

 

 おまけに、使用制限を課され髪も満足に洗えた試しはなかった。私が今世で満足にシャワーを浴びれたのは今が初めてだ。熱いお湯が出て、髪を満足に洗えたことで涙さえ出てきた。

 

 私が風呂から上がるとサキが私の方に駆け寄ってきて、しきりに匂いを嗅いだり髪の毛を触ってきたりした。どうやら私が魔術でも使ったのではないかと疑っているらしい。

 

 疑うサキをシャワールームに押し込む。シャワーを終えた彼女は見間違えるほどだった。確かに魔術を疑いたくなってしまうのも無理がない。

 

 ジオン軍では三食食事をとれるし、熱いシャワーに清潔なベッドやある。更には軍服も支給される。軍というものが、明日も知れないスラムの暮らしよりは遥かにマシなものだと私は確信していたのだ。少なくともこの時は。

 

 翌朝、私は室内に響いたラッパの音で飛び起きた。そしてすぐに脱出できる扉を探した。そして室内の様子を見て、ここがスラムではないことを思い出した。ここは軍艦の中なのだ。

 

 続いてサキが起きてきた。呑気に欠伸をしている分、彼女の方が環境への適応能力が高いのかもしれない。私は汚いボロ服と軍服しか持っていないので軍服で寝ていたので、すぐに移動することが出来た。

 

 放送で指示があったのは、昨日集まった小部屋だった。昨日は私達だけが新兵の生き残りだろうと思っていたが、どうやら他にいたらしい。廊下ではそういった集団とすれ違った。

 

 部屋に入ると少尉が待っていた。彼は明らか昨日と様子が違っていた。焦燥感が顔に現れていたのだ。部屋に私達が入ってきたのを見て彼の顔色が悪くなった。

 

「おはよう」

 

 私達は挨拶を返し適当な席に着いた。そのうちに昨日のメンバーが部屋に入り席に着いたところで話は始まった。昨日は気が付かなかったが、私達の他にもどうやら一人だけ女がいるらしい。

 

 彼女は顔にまで刺青を掘っていた。ああいうタイプは酒場の女に多いというのが私の経験層だ。つまり厄介なのだ。近づかないでおこうという結論が私の中で出された。

 

「全員集まったようだな。今回は君たちの進路についてだ。昨夜上層部から命令が有り、MSパイロットをこの艦の新兵から出すことになった。そして僕が戦闘機畑の人間であることから選ばれた。MSは危険で特殊な兵科だ。君たちのような新兵が就くことは大変難しい。だがこれも命令だ。僕は全身全霊をもって君たちを鍛え上げる。安心してくれ。過酷な分だけ給料はいい」

 

 部屋の中にざわざわとした空気が広がった。モビルスーツ?一体それは何なのだろうか。全く私には想像が出来なかったしサキはもちろん知らないだろう。部屋の中の誰もがその名を知らないことを、ざわめきが表していた。

 

「少尉。質問よろしいかしら?」

「許可しよう。しかし言葉遣いには気を付けたまえ」

「モビルスーツというのは一体どのような物なのかしら?」

「言葉遣いには……いや、無理なら仕方が無い。モビルスーツは我が軍の新型兵器の巨大な人型の機械だな」

「へえ。私なんかでも扱えるのかしら?」

「そうさせるのが、私の役目だ」

 

 質問者の刺青女は納得したらしく引き下がった。

 

「質問は以上かな?それでは各自昼食を摂れ。一時間後にこの部屋に集合だ。以上解散」

 

 私は個人的に質問するべく、サキと一緒に部屋に残った。

 

「どうした?なにか質問か?」

「はい。私の個人的な質問ですが、どうして少尉は私達を見てあんな顔をされたのです?」

「ああ、それは実にいい質問だ。君はダイクン派のことを知っているかな?知らなくても問題ない。要するに僕は左遷されてここに来たんだ。そうして新兵を一流のパイロットに仕上げなければいけない。君たちのようなずぶの素人を戦地へ送らなければならないのだ。戦争は近い。おそらく君たちの訓練は短いものになるだろう。だから憂いてしまったのさ」

 

 私は少尉の話を聞いて絶句してしまった。MSパイロットは、パイロットと名前に着くから何か特殊な技能が必要なエリートが就く職種で、十分な訓練期間が与えられるものだと思っていたのだ。これでは生贄かなにかではないか?

 

「生贄……」

「残念だが、その表現が的確だと言っていいただろう。しかしそうはさせない。そのために僕がいるのだからな」

 

 少尉の発言通り訓練は厳しいものになった。私は前世の知識が有ってそれをもってサキと必死に勉強したのだ。そのおかげでなんとか振り落とされることなく艦での訓練を終えることが出来た。更にダークコロニーでのシミュレーターと実機での訓練を終えた。

 

 結果的には随分と私達の人数は減った。少尉を含めて9人だけになったのだ。何人もがついていくことが出来ずに落第したのだ。それでも最低限の人数は満たしたらしく。私達はシェイ少尉率いるシェイ小隊として、戦場へ赴くことになった。

 

 そこに地獄が待っていると知らずに。

  

 

 

 

 

 

 

 




パプア級ミサイル艦改造空母
艦名ノートリアス
パプア級はミノフスキー粒子の発見によってミサイル艦としての役割を失い、輸送艦に主に改造されたが空母として運用される例も記録されている。本艦はその一例である。主にガトルとジッコを主に搭載するがこの小説では艦載機にガトルしか積んでいなかった。

独自設定。イメージとしてはサンボルのドライドフィッシュ

ここには基本的に独自設定を書き連ねますのご了承ください。
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