Miserable Misery   作:むにゃ枕

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New type

 フラナガン機関。私はその機関についてはよく知らない。私を迎えに来た研究員曰くそこはニュータイプについて研究する施設だそうだ。ニュータイプという言葉は噂程度に聞いたことが有る。ジオン・ズム・ダイクンが唱えた宇宙に出た人類が新しいタイプの人間になるという説だ。

 

 宇宙に出た程度で人類が進化しているのならば、私達の先祖は雨の日には雨を弾ける特殊能力に目覚めたり何を食べてもお腹を壊さなくなっているはずだ。しかし残念ながら私は雨の日に傘を差さずに出たらずぶ濡れになるし、スラム出身といえど腐ったものを食べてお腹を壊したことは何度かある。

 

 最近はお腹を壊すことはなくなった。これはスラム暮らしの数少ない恩恵の一つだろう。

 

 ともかく、私にとってはニュータイプ論なんてものはオカルトそのものである。この前も言った通り私はオカルトの代表的な存在である転生者だが、オカルトなんてものは信じていないのだ。

 

 ともかく私はフラナガン機関へ送られることになったのだ。ある意味部署移動ともいえるだろう。フラナガン機関への移動手段はムサイだった。しかも、二隻のムサイが護衛として付いている。民間からの徴用艦ではないしボロボロのパプアでもなかったのだ。

 

 しかしそれは私に対して丁重な扱いをしたということではなかった。私を乗せたムサイには沢山の少年少女が乗せられていたのだ。私よりも幼いくらいの少年少女を乗せたムサイを見て私は嫌な予感に駆られた。もしやフラナガン機関というのは悪の科学者が人体実験をする類の施設なのだろうか?

 

 私はこれまでジオン軍に対してそれほど悪い印象は持っていなかったのだ。コロニーを地球に落としたことなんて地球在住ではない私にとってはどうでもいいことだし、大量虐殺のうわさについても戦争だから仕方が無いのだろうと思考放棄してきた。そしてそのツケが私に回ってきたということだ。

 

 ジオン軍はヒトラーのナチスドイツのように人体実験を行ったりするのだろうか?だとしたら私は現在自ら実験されに研究所に向かっているのではないか。私の未来に暗い影が差した。

 

 ムサイから逃げようにも、周囲が宇宙空間である以上逃げることは不可能である。格納庫にはザクがあったことは確認しているのでそれを奪って逃げるという手段もあるかもしれない。

 

 しかし、高確率で追手に撃墜されるだろう。もしくは地球連邦軍との不意遭遇戦時に隙をついて逃げ出すことも考えたが、巻き添えで死ぬことが頭に浮かんだ。なんてことだ、もう助からないゾ。そんな思い悩む私に一人の少女が話しかけてきた。

 

 この桃色の髪をした少女はハマーン・カーン、この艦が三隻の護衛を付けられている理由である。彼女はうらわかき少女である。しかし彼女の一挙一動には育ちの上品さが浮かんでいる。ダイクン派関係の争いの被害者だろう。彼女は重要人物の娘であって人質としてフラナガン機関へ連行されている可能性が高い。

 

 彼女の境遇には同情するが私にはどうしようもない。そして私は彼女の桃色の髪にすっかり興味を奪われた。不思議な髪色である。どうして桃色になったのであろうか。そんなことを考えていたら私はパニック状態から立ち直った。

 

 この不思議な髪色をした少女は上流階級のお嬢様だ。彼女と仲良くなれば政変でも起きて人質から解放された直後に仲良くなれるかもしれない。そんな打算をもって私は彼女と仲良くなることを決めた。

 

「ねえ、貴女は軍服を着ているけれど軍人さんなのかしら?」

「あっ、そうよ自己紹介が先だったわね。私はカーン家のハマーン。ハマーン・カーンよ」

 

 少女は可愛らしく私に微笑む。私の実年齢は12だが母親も背が高かったし、成長が早い遺伝子でも混ざっているだろうか。ハマーンはおそらく同年代であろうが、私を年上と思っているようだ。ならばここは年上らしく対応するべきだろう。

 

「はじめましてミスハマーン。私はジオン公国突撃機動軍フラナガン機関に配属されるミゼ・ミゼリー軍曹だ」

 

 実は私は伍長から昇進していたのだ。しかしそれに何の意味があろうか。

 

 少女はきょとんとしていた。私の挨拶がおかしかっただろうか?言葉遣いは丁寧にしたつもりだったのに。 

 

「ミゼって言うのね。かしこまっちゃって面白いわ」

「じゃあこっちの方が良いっていうのかハマーンの嬢ちゃんよ。オレはスラム上がりだから言葉が汚いんだ」

「あら、そっちの方が私は好きよ。私の周りなんてみんなかしこまってばっかりだもの」

 

 この少女は大した胆力をしているらしい。私が少しふざけてスラムの汚い言葉で話してもお構いなしだ。

 

「ああ、今のはまあカマを掛けたというかなんというか。普通に話せるんだ。すまない」

「そう、私にからかわれたから怒っちゃったのね」

「まあそんなところ」

「ふうん。ミゼって変わっているのね」

 

 少女は嫌味で言ったつもりではないのだろうが、その言葉は私の深い所にある何かを刺激した。私は転生者というイレギュラーであって、どうにも周囲の人間との間に感じていた隔たりというものを再認識させるものだった。

 

「ねえミゼ?怒っちゃったのかしら?」

「いや、そんなことは……」

「じゃあどうして?」

「それはハマーンの魅力に中てられてね……」

 

 酒場の酔っ払いのような言葉を吐いて、私はこの少女の追撃を躱した。彼女は人の心に入り込んでくるのが非常に上手い。それに我がままとは違う、リーダーシップのようなものを感じさせた。

 

 つまりはスラム出身で周囲を疑って生きてきた私には、相性が非常に悪い相手だということだ。彼女は眩しすぎるし、立ち止まっているところを無理やり引き摺って起こすようなところがあると感じさせた。

 

「ねえ、ミゼって私のこと苦手って思ったでしょ?」

「……」

「ほら、怒らないから正直に言ってよ」

「私は……正直、君が苦手だ」

 

 私の正直な意見にハマーンは嬉しそうな顔をした。

 

「面と向かって私が苦手っていう子は初めてよ。私、あなたが気になるわ。お友達になりましょう?ミゼ?」

「分かりました……」

「さっきみたいに話していいんだからね」

 

 なかなかやりにくい性格を彼女はしている……

 

 艦は幸いにして連邦軍とは遭遇することは無かった。無事にフラナガン機関のあるサイド6の空域に入る。サイド6の空域は中立で有り、地球連邦軍の艦艇が何隻か見えた。大方この宙域から出られなくなってしまった船だろう。もしくは諜報活動の為にわざと残っているのかもしれない。

 

 そんな空域にフラナガン機関が存在しているのはどうかと思うが、これも考え有ってのことなのだろう。なかったら困る。

 

 船はコロニーのベイに入った。護衛艦が先導し、その次に私の乗った艦が入る。連邦からしたらこのコロニーにジオンの何かが有ることは確定してしまっているだろう。制宙権を握っているからこそ堂々と入港したのだ。

 

 もし仮に地球連邦の密偵がここが怪しいと通報したとしても連邦の艦隊は来ないのだ。これは戦局が有利ではなくなったら真っ先に狙われるのではないだろうか?一抹の不安が脳裏によぎった。杞憂に終わるとよいのだが。

 

 艦長がハマーンを連れて艦から下りた。その光景は罪人の引き渡しのようにも見えなくはなかった。ハマーンに監視役が付き彼女を軍用エレカに乗せた。

 

 私が次に艦長に呼ばれた。私を舐めまわすように見ている髭の男は偉いらしい。左右に若い男を従えている。

 

「彼女が、ミゼ・ミゼリー軍曹だ」

「ほう……」

 

 視線が一段と強くなった。これはもう視姦レベルである。

 

「私が、このフラナガン機関の最高責任者であるフラナガン・ロムだ。君には期待しているよ」

 

 非常に気持ちが悪い。この目は視姦ではなく実験動物を見る目だ。スラムの人攫いがこんな目で値踏みをしていたのを私は思い出した。

 

 私にも監視役を付けられた。そしてエレカに乗せられ、何処へか連れていかれた。

 

 連れていかれた場所は清潔感のある場所だった。研究所らしいので清潔感があって問題はないだろう。むしろ不潔な研究所は問題である。

 

 最低限の着替えなどは軍から支給されたので鞄に詰め込んだのだが、それらは後で部屋に送られるらしい。私の貴重な持ち物である。

 

 部屋は広く、綺麗なものだった。薄れてきた前世の記憶に頼ると高級ホテル並みといった感じである。どうやら今日はゆっくりしていていいらしい。本くらい持ってくればよかったのだが、教本は生憎鞄の中である。この研究所にはパプアに有ったような船員の共同本棚のようなものは当然存在しない。

 

 研究室にはあるのだろうが部外者の私が見ても分からないだろうし、手続きが煩瑣そうに思えたので筋トレをして疲れたので寝た。

 

 次の日はメディカルチェックが有った。結果について医師たちは特に何も言わなかったので問題はないのだろう。朝食が存在しなかったので、昼食はお腹に沢山入った。私が元は大食いというのも有っただろうが。

 

 午後にはまた検査があった。単純な物だろうと考えていたがそれは違った。私はザクのコクピットを再現したものに乗せられた。その瞬間にあの日の悪夢がよみがえってきた。綺麗に消えたはずの火傷が全身を焼き尽くすように思えた。

 

「やめろ、やめろ!やめろぉぉぉ!!やめてくれ!いやだ、いやだ。いや……い……や。やだ。や……だ」

 

「ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい」

 

 失ったはずの左目にはサキの姿が浮かんだ……

 

「サキ……ごめんね……ごめん、ごめんなさい……うぇっ。うぇぇぇぇ」

 

 コクピットの扉が開くと科学者の興奮した声がした。

 

 最悪の気分だ。左目にはまだサキの幻覚が見えている。ひどく気持ちが悪かった。

 

「ミゼリー軍曹。実験は成功だ。君は素晴らしいデータをもたらしたよ。ララァ・スンは赤い彗星という邪魔ものがいるし、クスコ・アルは壊れてしまった。君は彼女たちに勝るとも及ばないデータを引き出してくれたよ」

 

 サキの幻覚はフラナガン博士にアッパーをかましたり、飛び蹴りをしたりハイキックを喰らわせていた。私への仕打ちに怒っているようだ。

 

 こんな実験がずっと続いた。偶に会う子供たちも初めはキラキラした目をしていたのだが、一人、また一人と消えて行き、残った子供たちからも笑顔は消えた。

 

 私には拷問まがいなことが繰り返された。研究員はそれが私のニュータイプ能力を引き出す際の鍵になるらしい。鍵のコントロールを覚えることが痛みが減ることに繋がるそうだ。その研究員はサキの幻覚に殴られまくっていたが当人にダメージはなさそうだった。

 

 私は毎日痛め付けられ、心をすり減らしていった。それでも耐えられたのは一度死んだ転生者だからかもしれない。ある日、痛めつけられる日々のストレスから私はサキの幻覚に話しかけた。幻覚は私が話しかけたことを喜んでいた。都合のいい妄想かもしれないが、彼女に話しかけることが私にとっての日々の癒しになった。

 

 紙に幻影は文字を書き始めた。いや文字かと思ったら絵だった。サキは文字を読めない代わりに絵を描くことに優れていた。私はこれほど上手な絵を描けないので本当に幻影が絵を描いたのかもしれない。実際はそんなことはないのだろうけどそう思ってしまうくらいには精神状態が不味いことになっていたのだ。

 

 私の精神状況がおかしくなる度に科学者は、サイコミュの精度が上がった!などと嬉しそうにするのは本当に頂けない。彼らが欲しているニュータイプとは精神状況が不安定なものでなくてはいけないのだろうか。

 

 ハマーンといえば、彼女はすっかりこの研究所の陰気な空気にやられて大人しくなってしまっている。彼女の快活さが失われてしまったことは本当に悲しいことだ。私の前では空元気で威張っているところなどは見ていられないほど悲惨なものだ。

 

 それでもハマーンには笑顔が戻り始めた。それは赤い彗星とかいう異名を持つ顔を仮面で隠した男が研究所に頻繁に来るようになった時期からだった。赤い彗星、私は何となくこの名前に聞き覚えがあるしあの仮面にも既視感が有るのだが、どうも思い出せない。間違いなく前世の記憶がらみの何かなのだが思い出せないのだ。

 

 その例の仮面にハマーンは一目ぼれしたらしい。私のような拷問を受けていないせいか彼女は一目惚れによってすっかり元気になった。正直うっとおしいが、いくらか私の支えになっている部分は存在している。だから邪険にしたりはしていない。していない……はずだ。

 

 ハマーンのうっとおしい恋バナがますます盛んになった頃に私への拷問はすっかりと影を潜めた。サイコミュとやらが理論上はコントロール可能になったらしい。しかも私の場合は機器による制御は不要だし非常に精神的に安定しているそうだ。

 

 だからどうしたって話である。痛いことが無くなったのはよいが、私はまだこの研究所からは解放されそうにない。







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