Miserable Misery   作:むにゃ枕

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Rain of the Solomon

 フラナガン機関。ニュータイプの研究をするなどと言って私を虐待した組織だ。最近は痛みを伴わなくなってきたが全身の焼けるような感覚と、左目の幻覚にはまだ慣れない。

 

 ハマーンは相変わらず仮面男にお熱であり、そのおかげで私はそんじょそこらの赤い彗星ファンには負けない程度の知識を持ってしまった。あの派手な仮面男はシャア・アズナブルというらしい。確かに聞いたことが有るはずなのだ。前世の記憶なんかは摩耗して、今の私は大人びた思考が出来る少女というだけだ。

 

 ハマーンの恋バナをいつものように受け流して今日も実験動物扱いされにザクのコクピットに入る。すっかり左目には幻覚が映り込む。彼女がそっと手を私に重ねるとサイコミュシステムが起動したとの表示が現れる。以前よりは軽くなったものの火傷の跡が痛む。

 

「ミゼリー軍曹素晴らしいデータだった。これなら実機での運用も出来るだろう。君には旧ソロモン空域へのハラスメント攻撃に参加してもらいたい」

 

 今の発言を私は流すことは出来なかった。ここ最近の研究員の間では不審な噂が流れていると、親しくなった研究員が教えてくれたのだ。それはジオン公国の誇る宇宙要塞であるソロモンが陥落したとのこと。ソロモンといえば私でも知っている大宇宙要塞である。

 

 旧ソロモン空域。この言い方からしてソロモンは落ちたのだろう。額を冷や汗が伝った。ついこの間まで勝っていたはずなのにソロモンが落ちたのだ。つまり現在は戦況が悪化しているということだ。

 

「……りょ、了解しました」

 

 すごく嫌な予感がするがここでNOと言える立場に私がいないことは確かだった。私は仕方なく了承の意を示した。

 

「君はシャア・アズナブル大佐の部下になる。また君はサイコミュの基礎研究において多大な功績を生み出した。人事部からそれを讃え君は二階級特進だ。おめでとう准尉」

 

 最高に嬉しくない。モルモットとして称賛されることで嬉しい人物がいたら出てきて欲しいものだ。ただ階級が上がって給金が増えたことは嬉しい。ジオンが敗色濃厚な今、このフラナガン機関というのは連邦からしたら宝の山だろう。ニュータイプやらサイコミュだったりの先進的な研究データを得られるのだから。

 

 研究員からこれらの技術が連邦では実現されていないと聞いたので情報の正確性は高い。そしてそれが正しいとすれば二階級特進するほどの私は連邦軍にとって意地でも捕まえたい存在だろう。背筋に寒気が走った。これは不味い。大変な事態だ。

 

「博士私の価値はどれくらいなのですかね?」

「准尉。もしや逃げ出そうとでも考えているのかね?」

「いえ、そんなことは」

 

 少し図星の部分はあった。逃げられるなら逃げたかったからだ。

 

「それならいい。質問の答えだが君が逃げでもしたら私は君を地の果てまで追えと命じることになるだろう」

 

 フラナガン博士は私にかなりの期待を寄せているらしい。私としては止めて欲しい限りだ。

 

 博士がベイで私をとある機体の前まで案内した。その機体はザクのように見えたが一般的なザクとは違っているように見えた。

 

「ここからは私が説明しましょう」

 

 現れた整備士が私に説明する。ひたすら専門用語のオンパレードで私の脳は混乱した。この機体はザクⅡの推力や機動性を強化したR型という機体にサイコミュシステムを組み込み、推力と機動性を大幅に上昇させた機体らしい。更には背面には籠のような何かを背負っているがそれはビットと呼ばれるものだそうだ。

 

 ビットは私の脳波で制御できるらしい。しかしそんな訓練は全く行っていなかったのだ。どうしてこんなに急に私が戦場に赴くことになったのだろうか。

 

 それとなく博士に探りを入れたところ、戦力の不足が原因だそうだ。基礎研究に用いるには素晴らしい素体である私の役目はほぼ終わったようで、応用研究は他の実験体を用いて行うらしい。胸糞な話だが仕方が無い現状だ。

 

 先ほど博士が私に行った地の果てまでも追いかけるという言葉が彼なりのジョークだったのかもしれないと私は気が付いた。それにしたって壊滅的なジョークセンスだ。

 

 改造されたベイ内の格納庫には巨大な緑の塗装をした機体が存在していた。更には見たことのない艦もベイ内にはあった。

 

「シャア・アズナブルだ、ミゼ・ミゼリー准尉」

 

 ぼんやりとしていた私は例の仮面の男に話しかけられた。癪ながら仮面の方が階級が上である。私はすぐさま向き直り敬礼をする。

 

「ミゼ・ミゼリー准尉であります。大佐の御高名はよく伺っています」

「ほう。どういった噂かね?」

「私の友人にハマーンという少女がいまして、彼女は大佐にぞっこんでよく大佐の話をするのです」

「ほう。私のファンだというわけだな。何かサインでもした方が良いかな?」

「戦争が無事に終わったら彼女に会ってあげてください」

「無事にか……そうだな」

 

 仮面で分からなかったが、一瞬剣呑な空気を目の前の男は醸し出した。私の無事にという言葉が悪かったのだろう。

 

「では准尉失礼するよ」

 

 そう言い残して大佐は見たことのない艦へと歩を進めた。整備員に話を聞いたところあのフネはザンジバル級という最新鋭の艦らしい。

 

 私は機体のテストがあるためザンジバルには乗り込めなかった。近くの宙域でテストを行ってからガガウルでザンジバルと合流するらしい。ガガウルに機体が搬入されていくのを私は見ていた。基本操作はザクと変わらないらしいが何分ブランクが生じてしまっている。

 

 マニュアルは一通り目を通したが、専門用語が多すぎて完全に理解できたとは思えなかった。ガガウルが私のザクを搭載し終わったのを確認して私は船に乗り込んだ。テストには実験としての意味もあるため、当然のような顔をして機関の科学者がガガウルに乗り込んでいる。

 

 このガガウル級はフラナガン機関に所属するものであり正式な艦名は文書から削除されている。しかしテスト機を輸送する役目を持つこの船は、簡易的な実験施設を備えておりそれが訛ったのだろうかレボアという愛称で呼ばれている。

 

 艦はベイを出た。私にとっては久しぶりの宇宙で、少し懐かしいような気分になった。

  

 予定されていた訓練空域に到達し、私はノーマルスーツを着てザクに向かった。このノーマルスーツはノーマルと言い張るには特殊な形状をしている。なにやらニュータイプ用のものらしい。

 

 以前着たことのあるノーマルスーツとは違い、ごてごてしていて少し重さを感じる。パイロットスーツと称することが正しいのだろう代物だ。

 

 格納庫では研究員と整備兵がなにやら協議をしていた。情報の共有は重要なことなのでしっかりやってほしい。

 

「准尉、遅かったわね。私が見てあげた機体だから心配しないで乗ってね」

 

 仲のいい研究員の励ましの言葉を受け、私はコクピットに乗り込んだ。いつもの重苦しい空気が全身を包み込む。火傷跡がひりひりと痛み出して、左目にはサキの幻影が映った。

 

「ミゼ・ミゼリー出ます」

 

 格納庫から伸びるガイドビーコンに沿って私はバーニアを吹かし艦を離れる。ガガウルにはカタパルトなんて装備されていない。この船は改良されているがMSが露天駐機ではなく格納庫内に収納される程度の違いしか改造前と変わらない。

 

 宇宙空間でゆっくりと推力を上げる。操作系統にMSー05Bとの相違点がそれほどなくてよかった。ゆるゆるとスピードを出していると通信が入った。

 

「准尉、速度はそのままでサイコミュをオンに」

 

 指示に従いサイコミュを有効にする。軽い頭痛に襲われたが操作性は段違いのものへと変わっていた。速度を上げろとの指示に従ってバーニアを吹かす。

 

 私の乗っていたザクが旧ザクと呼ばれるのも納得してしまいそうな加速力だ。間違いなくサイコミュのもたらした奇跡だろう。それほどのものをこの機体は持っていた。

 

「ビットを放出」

 

 指示に従って意識をビットに移動させる。サキの補助もあってかすんなりとビットは動いた。意識をそらすとすぐにコントロールを失ってしまいそうだ。サキがこちらを見てこくりと頷いた。これは任せろということなのかもしれない。

 

 意識をビットからそらすと、ビットはコントロールを失ったかに見えた。しかし直ぐに制御を取り戻し踊るような動きを見せ始めた。通信を通じて艦のざわめいた様子が伝わってきた。

 

 しばらくテストを続けたが、燃料が減ってきたので帰還命令が出た。レボアはガガウル級駆逐艦という小型艦を改造しただけの船なので着艦する時にかなり気を遣う。それでも私は過去にしごかれたことが有ったからか難なく着艦を成功させた。

 

 データ収集の為に機体に整備員や研究員が群がってくる前に私はコクピットから出た。格納庫は既に隔壁を閉じ気密を保っている、私は遠慮せずにヘルメットを外した。途端に抑圧感が無くなり解放された気分になった。閉所や圧迫というものが私は苦手になっていたのだ。

 

「准尉。素晴らしいデータが取れました。あとは大佐と合流し実戦でのデータ取りですね」

 

 私は嬉しそうな顔をしていなかっただろう。それも当然だ。今から戦場へ行くというのをまともな兵士なら恐れはすれども喜びはしないはずだからだ。

 

 艦は連邦軍の艦艇に見つかることも無くシャア大佐のザンジバルと合流した。集合地点の座標はジオン艦艇や連邦艦艇の残骸が散らばっている場所で、レーダーにも探知されにくい。

 

 ザンジバルから、巨大な緑色の何かが発進した。MSの何倍もの体積を持つそれを私は茫然と見ていた。そんな私を見て得意げに研究員である彼女は説明をした。あれはエルメスというモビルアーマーだそうだ。搭乗者はララァ・スン。私は彼女を見かけたことは何度かあったが直接の面識はなかった。

 

「あら、安心していいわ。私の作ったザクはあんなでかぶつには負けないから」

 

 彼女には自信があるらしい。あのエルメスは燃費が悪そうなので、そういう意味では私の愛機の方が優れているかもしれない。それに愛機は安価なのだ。ザクⅡをベースにするためにコストがかからないと彼女は力説していてた。

 

 とはいえ味方同士であるので、一対一で戦うなんてことは考える必要はないだろう。結局のところ数が多い方が勝つのだ。

 

 流石に旧ソロモン宙域でゲリラ戦を展開するにはザンジバル一隻では足りないようで他の艦もそこには存在していた。聞いたところではソロモンの生き残りを集めて組織された艦隊らしい。このゲリラ戦が上手く行っているのも彼らがソロモン宙域を熟知しているからかもしれない。

 

 リック・ドム一機が私を先導した。どうやらこの機と私は組むらしい。大佐の合図に従い、エルメスが動き出した。エルメスの後を追うように私達は機体を駆った。

 

 エルメスはMSが敵を有効射程距離に確認できない地点でビットを放った。敵艦隊はこちらの位置を把握していないようでビームは飛んでこない。

 

 エルメスのビットが敵艦を沈めたようだ。敵は慌てふためき、やみくもにビームをばらまき始めた。自然と私達も戦闘に巻き込まれることになった。ビットではないエルメス本体も大口径砲を装備しているだけあって攻撃力は高い。

 

「これじゃあ、俺たちはいらなかったんじゃないか?」

「そうだと良いんですけどね」

「いや、そうも言ってられねえな。敵さんのお出ましだぜ」

 

 見るとそこには作業機械に砲を括り付けた機体が存在していた。サキがビットを動かしたのが感覚的に分かり、次の瞬間には哀れな作業機械は爆散した。

 

「うわ、えげつねえの。ボールが吹き飛んだぜ」

 

 どうやらあの作業機械もどきはボールというらしい。なんとも安直なネーミングだ。連邦もMSを開発していたようで、私は上から肉薄してヒートソードのようなものでこちらを貫こうとする敵を見た。

 

 リック・ドムは気がついていないようであらぬ方向を向いている。敵MSはそちらを攻撃するようにしたようだ。銃も盾も攻撃の余波で失ったようだが敵MSの攻撃の意思は健在だった。

 

 しかし意志だけではどうにもならない。ビットがMSの中央部に砲火を集中し、結果として敵MSは真っ二つにへし折れるように爆散した。

 

「注意がおろそかになっているのでは?」

 

「おいおい嬢ちゃんこそ、そうじゃないか?」

 

 私の後方にはボールが一機いた。ビットのビームがボールを貫くと同時に、リック・ドムのバズーカがボールを吹き飛ばした。

 

 旧ソロモン宙域におけるゲリラ戦は私達に有利に進んでいるように思えた。そう、あの白い悪魔が戦場に姿を現すまでは。 




ガガウル級駆逐艦改造艦

ガガウル級駆逐艦に格納庫と実験設備や各種計測装置を取り付けたもの。フラナガン機関で使用された。
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