Miserable Misery   作:むにゃ枕

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Double double toil and trouble.

 それは地球連邦軍のパトロール艦隊に対しての三度目の攻撃の際に起きた。私と数機のリック・ドムがマゼランに止めを刺そうとした時だ、長距離から放たれたビームが私の僚機を吹き飛ばしたのだ。

 

 断末魔すら残さずに彼は死んだのだ。援軍が来たことでマゼランも勇気付けられたのだろうか火砲が勢いを増し、動揺していた一機のリック・ドムを墜とした。マゼランは邪魔だ。私は艦橋にバズーカを撃ち込みエンジン部にはマシンガンで掃射を食らわせた。

 

 マゼランは組織的な抵抗力を失ったようで火砲が僅かにこちらを撃っているだけだった。その面倒な火砲を潰すとそこには味方のMSは一機しか残っていなかった。その一機も碌な抵抗が出来ずに白いMSに仕留められた。

 

「馬鹿な……」

 

 これはおかしいのだ。彼らはソロモンの生き残りで当然腕が良かった。それにもかかわらず全滅していたのだ。

 

「ぐぅぅぅぅぅぅ!」

 

 MSのスラスターをオーバーヒートさせる勢いで吹かす。躱したはずのビームでザクの片腕が持っていかれた。馬鹿な!有り得ない!

 

「うぁぁぁぁぁ!!ビットォォォ!」

 

 ビットをサキに任せてはおけなかった。必死に敵を足止めしなければならないのだ。高速でビームを躱しながら、ビットで敵を牽制する。牽制できたはずだった。

 

「ビットが……」

 

 瞬く間に二機のビットの操作が利かなくなる。

 

「墜とされたのか?」

 

 恐怖で冷や汗が背中を伝っていくのが分かる。

 

「ミゼ、私に任せて!ミゼは私が守るから!」

 

 サキの声が聞こえた気がした。それに合わせビットのコントロール権が私から無くなった。ビットはいっそ踊っているかのように綺麗に宇宙空間を移動した。白いMSと二機のビットが華麗に舞っている中、私は時折こちらに飛んでくるビームを直撃させないように必死に避けていた。

 

 敵MSはおそらくビーム残量が少なくなったのだろう。銃を捨て丸腰になった。

 

「ははっ。やった私は助かった……」

 

 そう呟いた瞬間残された二機のビットの感覚が消失した。墜とされたのだと気が付くには少しの時間が必要だった。そしてその時間が命取りになった。

 

 目の前に白い悪魔がいたのだ。おそらくビットを斬った近接武器を持って。私は碌に撃ち返せず弾の残ったマシンガンで敵MSの剣を受け止めた。受け止めたはずだった。

 

 しかし、マシンガンが耐えれれたのは一瞬だった。熱いバターをナイフで切るようにマシンガンは一瞬も持たずに切られた。

 

「いやだ……しにたくない……いやだ。たす……けて」

 

 戦意を失っていた私に機体を動かす能力は無かった。それにも関わらず機体はビームサーベルの直撃を受けずに済んだのだ。

 

「言ったでしょ。ミゼは私が守るって」

 

 零れた涙をサキが拭ったような気がした。

 

 白い悪魔は帰還命令でも出たのか、燃料が少なくなっていたのかは分からないが私の下から去って行った。私は見逃されたらしい。

 

「ははっ。は、ははっはっはは」

 

 過呼吸が混じった変な空笑いが私の口から漏れた。今頃恐怖を感じ始めたらしい。しゅいい……という水音がした。股間を中心に下半身が暖かくなった。気付かずに失禁したらしい。

 

 片手と片脚が吹き飛んだ愛機でなんとか母艦であるガガウルまで戻ることが出来た。ぼろぼろの機体を格納庫に不時着させるように着艦した。

 

「あっ、いしきが……」

 

 

 目が覚めるとそこは医務室だった。随分と長い間眠っていたように感じる。

 

「あら、目が覚めたみたいね。あの子をすっかりボロボロにしちゃってさあ。おまけにお漏らしまでしちゃってさあ。誰があなたを綺麗にしたと思っているの?」

 

「……」

「何か言ったらどうかしら?」

「あ、ありがとぅござぃます……」

 

 顔に血が上っているのが分かった。私の顔は今林檎のように真っ赤になっているはずだ。

 

「冗談よ。病人に意地悪なんてしないわ」

 

 今したじゃないかと言ってやりたくなったがそんなことを言って余計にからかわれたら困る。

 

「もう、初心なんだから。かわいいわねミゼ准尉」

 

 嗜虐的な笑いを浮かべている彼女に、私は内心で悪態を吐く。彼女は表情を柔らかいものにすると私の頭を撫でて病室の外に出て行った。頭を撫でられたことに妙に安心した自分がいた。

 

 少し話しただけだというのに若干疲れてしまった。それでまた眠ることにした。あの白いMSに殺されかける夢を見て私は飛び起きた。寝汗が気持ち悪い。股間は濡れてはいないのでおねしょはしていない。完全に私の中であのMSはトラウマだ。もう二度と戦いたくはない。

 

 この部隊での旧ソロモン宙域においてのゲリラ戦は私が眠っている内に終わりを迎えたようだ。艦の進路を取っている方向を聞くとア・バオア・クーという宇宙要塞だそうだ。そこで開発されているジオングという機体と私のザクとの間で技術交流を図るらしい。

 

 さらには、ソロモン宙域でゲリラ戦を行っている間にフラナガン機関はサイド6から撤退しア・バオア・クーに設備を移動させたそうだ。ジオングは本土であるサイド3の技術者とフラナガン機関が合同で組上げている機体だそうだ。

 

 もう二度と、あの白い機体とは会いたくない。ア・バオア・クーならば安心できるはずだ。何しろあそこはジオン本国から近いのだ。私が連邦軍の将官なら月面基地であるグラナダを最初に叩くべきであると進言するはずだ。つまりア・バオア・クーはグラナダの次に攻撃されるはずであり、私にはまだ安息に浸れる時間があるのだ。

 

 ザンジバルやその他のゲリラ艦隊と一緒にア・バオア・クーのベイに入った。巨大な宇宙要塞であるア・バオア・クーのベイもまた巨大である。

 

 先にベイに入っていたザンジバルから腕が破損した赤いゲルググが降ろされた。エルメスの姿はどこにも見えなかった。仮面を被ったシャア大佐がこちらにやってくる。仮面邪魔じゃないのだろうか?

 

「やあ准尉。君はあのガンダムに遭遇して生き残ったと聞いたが」

「ガンダム?」

「連邦のあの白いモビルスーツのことだ。あれは私のライバルでね」

 

 そういうシャア大佐の口ぶりは決して明るいものでは無かった。スポーツ選手がライバルに対して抱くようなカラッとした対抗心ではなく、もっとドロドロとして暗いものだったのだ。

 

「大佐……」

「心配をかけてすまなかったな。ここももうじき戦場になるかもしれない。休息は取れる時に取っておくべきものだ」

 

 強がっているが叱られた子犬ような空気を大佐は醸し出していた。自然と何かしてあげた方が良いのではないかという気持ちになった。

 

「あの、大佐……ヒィっ!」

「何かな?」

「い、いえ何でもありません」

「君はおかしな性格をしているな。ふふ」

 

 私の左目が捉えたのはこちらを恐ろしい目で威嚇するララァだった。私の守護霊的なポジションに位置するサキのようなものが大佐にも憑いているようだった。

 

 ララァはこちらをじっと見てくる。正直恐ろしい。その視線から私を守るようにサキが現れてララァに対してシャドーボクシングを始める。それに対してララァ側もシャドーボクシングをして威嚇する。正直カオスな光景だった。前世で読んだジョジョの奇妙な冒険のスタンドを連想してしまう。

 

 大佐が私から離れるとララァも離れていった。他人に見えないからって中指を私に向けて立てている。それにサキがキレたようで凄まじい勢いで口を動かしている。どうやら罵倒しまくっているらしい。忘れているかもしれないがサキもスラム出身だ。スラム仕込みの罵倒はララァの精神を削ったらしく、ララァは半泣きになっていた。

 

 そんなララァに対して中指を突き返すサキ。ドヤ顔をして私に抱き着いてきた。私はされるがままになっていたがサキは私の頬にキスをして見えなくなった。左目が漆黒の世界に戻る。まったく今のは何だったのだろうか。 

 

 フラナガン機関で仕込まれたこの幻覚は厄介だ。しかしまあサキの姿を見ることが出来て内心安心している自分がいた。幻覚でいいからサキには傍にいてほしかったのだから。

 

 私のザクはガガウル艦内の格納庫で既に修理を終えていた。吹き飛んだ片手片脚は予備パーツが回されていた。修理に合わせて更に強化されたらしい。今度乗る時には気を付けるように言われたがそんな機会は来てほしくない。

 

 いっそのことザクの修理が終わらなければよかったのだ。しかし私のザクは、既存のザクをサイコミュで強化しニュータイプの素質あるエースパイロットに宛がうという目的があって作られたものなのだ。つまりは修理がしやすい。整備性も高いらしい。

 

 ニュータイプの素質を持つパイロットは開戦以来のベテランが多いため慣れた機体であるザクを強化することでパフォーマンスを上げることが出来ると考えられているらしい。

 

 さらには最も製造機数の多いザクを改修するために新規パーツの数が少なくて済む。おまけに予備パーツもふんだんに存在しているため、経済的だそうだ。

 

 機体性能に関してだが、私を人柱にしたことでジオンのサイコミュに関しての研究は飛躍的に進んだそうだ。しかしながら私を研究対象としたチームは若手だったために研究所内部の争いでその結果を握りつぶされそうになったらしい。

 

 研究所内部の内ゲバでデータが消滅していたなら、なんのために私はあの辛い日々を過ごしていたのだろうか。研究員の彼女がデータを守り、そのデータを惜しみなく活用し作られたのが私の機体である。

 

 データが消去されそうになったのはジオンの研究者に対する待遇に原因があるだろう、軍事的に転用可能な優れた研究を成し遂げた研究者は名誉、金、地位を得られる。

 

 そのため、研究者は争うようにして心血を注ぎ研究を行っているのだ。この制度を採用したとたん自称研究者の詐欺師が相当数現れたそうだ。彼らの中にはなんとか軍に採用され水中用のイカれたコンセプトのMSを作ったものもいたらしい。

 

 どんな制度であれ完璧なものは存在しないが、ジオンの技術開発を促進するためのプログラムは功より罪の方が大きかったように私には思える。

 

 ともかく、研究員の仲間と共に彼女がデータを守り抜きこの機体を作り上げたのは確かだった。私からとったデータを応用したこの機体は戦況を変える力を持っているかもしれないらしい。

 

「もっとも、もうこの子が活躍するには全てが遅すぎたかもしれないわね」

 

 自身の子供を見るような目で私のザクのことを話していた彼女が、ふと漏らしたこの言葉は私にジオンの戦況の悪さを感じさせるものだった。

 

 私が修理された機体のテストの為に宇宙に出るとそこには大量の艦が存在していた。パプアやムサイ、ガガウルに巨大な空母だと聞いたドロス級。更には赤い船体が特徴的な、ザビ家の象徴としての戦艦であるグワジン級までがこのア・バオア・クー宙域に存在していた。

 

「これは……」

 

 私はその数に圧倒された。戦況が悪化していると聞くがまだこれだけの数の船がジオンには残っていたのだ。この数をもってしても倒せない連邦は何なのだろうと、疑問が湧いた。

 

 スラム生まれの私には地球連邦なんてものに対して全く親しみを感じていない。それどころか政府の存在がアステロイドでは全く認識できなかった。それなのにこの数の艦隊で打ち倒せない。戦争をするならもっと私達を助ければよかったのだ。しかしこんなことをモビルスーツという戦闘機械に乗りながら思うのはおかしなことだろう。

 

「准尉調子は?」

「問題ないです」

「そう。それは良かったわ」

 

 これで戦闘が出来てしまうという証明がなされてしまった。誰もが本音では戦いなどしたくないだろう。それを思い出させないための教育を軍人は受けているのだ。嫌なことだ。私だってジオン本国で椅子に座って安穏としていたい。しかしそうはいかないのだ。

 

 不謹慎だが、連邦の目が月面にあるグラナダへ向き、ア・バオア・クーが攻撃されないことを祈るくらいは許されてもいいのではないだろうか。しかし、その小さな願いさえもどうしてか叶わなかった。

 

 ア・バオア・クーもといジオンでは基本的に一日を基本的に八時間ずつ三つに区切っている。私はパイロットしかしていないので後方勤務については分からない。また、MSパイロットはあらかじめ敵との接触の可能性が高い宙域までに寝ておくものなのだ。

 

 この話はそこまでにしておこう。私が三交代制の為に起きた時に例の研究員が話しかけてきたのだ。

 

「悪い話といい話があるけどどっちを聞きたいかしら?」

「順序だてて両方を話して欲しいです」

「そう、つまらないわね」

 

 彼女のいういい話とは、地球連邦軍の艦隊がジオンの新兵器であるコロニーレーザーにより半分以下になったこと。そして悪い話とはその地球連邦軍艦隊はここア・バオア・クーを目指しているということだ。

 

 私は全くついていない。シャア大佐が率いる部隊はSフィールドを担当するそうだ。味方は多いがその分敵も多くなると予想される。神に祈ってもどうしようもないだろう。

 

 これからここが戦場になるという奇妙な高揚感の中、私は格納庫に向かった。




MS-06ⅡREXP
主人公が犠牲となってジオンのサイコミュに関しての基礎研究にブレイクスルーをもたらしたことで生まれた機体。
背部には四機のビットを装備している。他の武装はザクマシンガンの流用だったりバズーカの流用。近接武器としてはヒートナイフを装備。
フラナガン機関内部の権力抗争によって存在が抹消されそうになった。完成した実機は一機でジオン内部のMSデータベースにも登録されていない。 
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