(〇〇鎮守府執務室)
「…入るぞ」
長門は無駄に大きな扉を押して執務室の中に入った。誰もいないと分かっていなくても自然とノックをしてしまう辺り、癖として身にしみているのだろう。
(……やはりか)
執務室の中はかなり荒れていた。いや、荒らされていた。窓ガラスは一枚残らず粉々に割れているし、壁や床には何度も殴ったかのような大小の拳の跡があり、ベコベコに凹んでしまっている上、前提督であっただろう壁に飾ってある写真はみな燃えてしまっていて顔の区別がつかなくなっている程である。
「前提督に相当な恨みがあったのだな…」
そう呟くとふと長門に疑問が生じた。
(待てよ…?我々艦娘は比較的人間よりも力が強い…鍛えあげられた軍人ですら楽にねじ伏せられるはずだが……ここの艦娘はなぜ前提督に反抗しなかったんだ…?それに天龍が逃げ出す前にも誰かしら逃げ出せたと思うが…)
しばらくそんな疑問の答えを考えてる時、唐突にドアが開く。
「お、ここで当たりのようですね!」
明石が汗を垂らしながら執務室に入って来た。明石は執務室をぐるっと見回して
「うわぁ…これは何というか…すざまじいですね…」
「…明石、とりあえず一緒に床に散らばっているガラス片等を片付けよう」
明石と長門が執務室の掃除を始めてしばらく経った頃、またもや執務室の扉が開いた。
「いやー大変だったなーはっはっは」
「はっはっはじゃないですよ!司令官どれだけ方向音痴なんですか!?同じ道三回くらい通ってましたよね!?」
提督とお米を担いだ吹雪がにぎやかに入ってきた。
「ごめんごめん…ってこれは……」
吹雪から執務室に目を移した瞬間提督の表情が引き締まる。すると明石が近くまで駆け寄って来た。
「提督、さっき工廠の方を見てきたんですけど…」
明石はさっきまでの出来事を提督に話した。
「…という事がありまして、駆逐艦響、同雷、同暁、軽巡洋艦川内、同神通、重巡洋艦妙高、同那智、同足柄を現在入渠ドックにて治療をしています。いずれも酷い損傷でした…もしもう少し入渠が遅かったら……最悪の結果は避けられなかったでしょう…」
いつになく明石が真剣に話す。その明石に対して提督も真剣な表情になる。
「わかった。明石、よくやったな」
提督が明石に対して労いの言葉をかけていると、執務室の扉からノックの音が聞こえた。その音に長門と吹雪が反射的に動く。
「提督…下がってくれ」
「早く私達の後ろに、明石さんも」
「お、おう…」
吹雪は担いでいた米を執務室の隅に置いた。提督の鎮守府のメンバーは全員執務室に揃っているので、このノックの主は〇〇鎮守府の艦娘という事になる。提督と明石が後ろに来たのを確認して、長門と吹雪が鋭い視線と主砲を扉に向けた。執務室の中にピリピリとした緊張感がほとばしる。
「……入れ」
提督がそう言うとその扉がゆっくりと開かれる。その場の全員が思わず息を呑む。
「失礼す…っておい!タンマタンマ!」
「お邪魔するわよ〜ってあら〜随分熱烈な歓迎ね〜」
ノックの主は天龍と龍田だったようだ。突然の出来事に天龍はとても慌てている様子だったが、龍田は微塵も動揺していない様子だった。
「と、とりあえず俺達も武器は置くから!な!?落ち着け!話し合おう!うん!それがいい!そうしよう!そうしてくれ!」
天龍は動揺しすぎて目をグルグルさせて焦っている。
『ぷっ』
その瞬間天龍以外のみんなが一斉に笑い始めた。
「ちょっ…何笑ってんだよ!おい龍田まで!」
「あはははっ…ごめんねぇ〜焦ってる天龍ちゃんったら本当に可愛いんだもの〜」
龍田は笑いすぎて涙がでてしまっている。そんな龍田を天龍がポカポカ叩いている。二人はまるで本当の姉妹の様にじゃれあっていた。
「…どうやら敵意はないようだな」
「そうみたいですね…」
長門と吹雪が主砲を下げる。それを見た天龍は心底ホッとしたような表情を見せた。
「…で、二人は結局ここまで何しに来たんだ?」
提督が尋ねると天龍は提督の目を見て話し始めた。
「…俺と龍田はあんたらの味方をする事に決めた」
「え?まだ俺達まだここに来てほとんど経ってないけど…」
「私にはわかるのよ〜あなた達はいい人だってね〜それにもし道を外そう物ならそこの長門ちゃんが黙ってないようだしね〜」
「そ、そうなのか?長門」
「当たり前だ…って龍田、ニヤニヤするな」
長門は態度にこそ出ていないが、顔は若干赤くなっていた。
「ま、そういう事だから、」
「私もまだまだ未熟だけど、」
その声と一緒に天龍は右手、龍田は左手を差し出す。
「おう!よろしくな!天龍!龍田!」
俺も右手を差し出す。三人の手が重なる。
『よろしく(ね)(な)!”提督”!』
二人はくしゃっとした眩しい笑顔でそう言った。それからしばらく経って吹雪が思い出したかのように話し始めた。
「あ、そうだ司令官!早くお粥作っちゃいましょう!」
「それもそうだな…っと悪いけど二人共、ここの食堂に案内してくれないか?まだ不慣れでな…」
「おう!まかせとけ!」
「ありがとう。明石は引き続き工廠の方をよろしく。長門は執務室の片付けを頼む。吹雪はお米を持って俺と一緒に食堂まで来てくれ。いいな?」
『了解!』
「食堂はこっちよ〜」
天龍と龍田に連れられて、提督と吹雪は食堂に向かった。しばらく歩いた後、古めかしい雰囲気の場所に辿り着く。
「着いたぜ!ここだ!」
「おぉ…ここか…」
そこには食堂と縦に大きく書かれた看板があり、その横にある入り口の扉は大きく外れてしまっている。
「ほしょさーん!いるかー?」
天龍が食堂の中に入り、大声で誰かを呼んだ。すると袴を履いた艦娘が厨房と思わしき場所から出てきた。
「はいはいいますよ……ってどちら様ですか?」
その艦娘は提督の顔を見て若干後ずさりしながらそう尋ねた。それでも提督はなるべく刺激しない様に優しく話しかける。
「鳳翔さん…ですね?俺はここの鎮守府で提督をやらせてもらうようになった者です。今日は用事があって来ました」
「用事…ですか…?それに提督…?ごめんなさい。私はあなたの話を聞くつもりはありません」
鳳翔がきっぱりとそう言った。よっぽど提督を警戒しているようだ。そんな様子を見かねた天龍が鳳翔に話しかける。
「なぁほしょさん、この人はいい人だぜ。せめて話だけでも聞いてあげてくれ…」
「天龍さん……わかりました。とりあえず話だけ聞きましょう。……聞くだけですからね」
「ありがとうございます。実はここの艦娘達にお粥を振る舞いたくてですね…」
提督は自分のやろうとしている事を全て鳳翔に話した。すると鳳翔は眉をひそめて非常に悩んでいる素振りを見せた。
「なる程……それは嬉しいですけど…」
「鳳翔さん!お願いします!」
「俺からも頼むぜ…ほしょさん」
その場の全員が鳳翔に頭を下げる。すると鳳翔は呆れたようにため息をついた。
「わかりました。そこまで言うなら認めましょう。ただし、私も手伝いますからね」
「ありがとうございます。助かります」
こうしてみんなでお粥作りを始めるのだが…??
「司令官!お米洗いすぎです!これだとみんな擦り切れてなくなっちゃいますよ!」
「何でそこで強火なんですか!?焦げちゃいますって!!あなたお粥も作れないんですか!?」
「……天龍ちゃ〜ん?何を入れようとしているのかしら〜?」
最初の方はみんなでお粥を作っていたはずなのだが、いつの間にか鳳翔と吹雪と龍田の三人でお粥を作っていた。
「…なぁ提督、俺達料理に向いてねぇのかもな……」
「…大人しくお皿でも出そうぜ」
「…そうすっか」
提督と天龍がお皿をちょうど運び終えた頃、お粥の方も作り終わったようだ。
「うん!おいしい!この温度だと火傷の心配もないわ!」
「すごい!お粥って薄味であんまり美味しくないイメージでしたけど…これはとっても美味しいです!」
三人はわいわいとお粥作りに夢中になっていたようだ。鳳翔も自然体になって笑っている。その様子を見て天龍が寂しそうな表情で話し始めた。
「なぁ提督、ほしょさんって最近ほとんど笑わなかったんだぜ。いつもみんなの為に食べられる野草とかを探したりして何とか俺達を食いつないでくれたんだ…この鎮守府の給仕担当としては本当に辛かっただろうな…」
提督は黙って天龍の話を聞いていた。それから天龍は笑顔になって話を続けた。
「でも…そんなほしょさんも今こうやって笑っている。その事実だけでも俺は嬉しいぜ!」
「天龍…」
そんな会話をしていた頃、厨房の方から声が聞こえた。
「司令官ー!お粥出来ましたよー!館内放送でみんなをここに集めてくださーい!!」
「あいよー!行ってくるー!…天龍も来るか?」
「おう!ついていくぜ!」
こうして二人は館内放送をすべく放送室へ向かった。
大台(?)の十話目が終わりました!いきあたりばったりですが感想と評価の方もよろしくお願いしますー!ダメ出し等も大歓迎なので気軽に書いて下さいね!ではまた次回の十一話でお会いしましょう!では!
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