「えっと…これがマイクで…」
「そうそう、そこのボタンを押して…」
二人は放送室で館内放送の準備を進めていた。
「よっし、これで後はこのボタンを押せば館内放送が出来るぜ!」
「ありがとな、天龍」
「いいっていいって、ほら早く」
提督は早速マイクを手に取り、スイッチを入れる。
「あーあーテステス…よし。初めまして〇〇鎮守府のみんな。俺はこの鎮守府に配属される事になった者だ。突然だが食料を用意したから全員食堂まで来て欲しい。ちゃんと十分な量を確保したから急がずに来るように。以上!」
ブツンという音を立てて館内放送が終わった。
「そういえば天龍、ここの鎮守府の人数ってどれくらいいるんだ?」
「俺は基本的に遠征ばっかりだったから正確な人数はよくわかんねぇけど…あまり大人数ではなかったな」
「そうか…在籍人数はそこまでいな…」
その時、提督の頭の中では明石のある言葉がフラッシュバックしていた。
(駆逐艦響、同雷、同暁、軽巡洋艦川内、同神通、重巡洋艦妙高、同那智、同足柄を現在入渠ドックにて治療をしています)
(……姉妹艦が一人だけ欠けている?明石が見落としたのか…?いや、その可能性はないだろう…轟沈してしまったか…あるいは…)
「……提督!………提督!!」
考えこんでいると突然目の前に天龍の顔が現れた。
「うおっ!?何だ天龍」
「何だじゃねぇよ…どうしたんだ?いきなりボーッとしちまって」
「いや…ちょっと考え事をしていてな…」
「はぁ…とりあえず食堂まで戻ろうぜ。俺も腹減ってきたしな!」
「おう…」
提督はモヤモヤしながらも食堂まで戻る事にした。
「ただいまー」
「遅いぞ、提督」
「お先にいただいてます!」
提督と天龍が食堂に戻ると、そこには長門と明石の姿があった。
「何でお前らの方が早いんだよ…」
「細かい事言わずに提督も一緒にお粥食べましょうよ!」
長門と明石は放送を聞いて真っ先に飛んできたらしい。もう既にお粥をお皿に盛り、食べ始めていた。
「……先に言っておくけど食堂に来た艦娘達にさっきみたいに突然主砲向けるのだけはやめろよ?」
「すみません…あの時は天龍さんみたいな鎮守府の艦娘を説得できるような方もいなかった上に、もし話の通じない艦娘だったらと考えると妥当だったかと…」
「言い訳するな。俺達は信用されるべき立場だろ?天龍と龍田だったから難を逃れた物の、もし勇気を出して接しに来てくれた艦娘だったらどうなっていた」
「それは…その…」
「…まぁ過ぎた事を責めても仕方ない。次からは武力行使は最低限無しだ。わかったな?」
「はい…」
吹雪達に忠告をした後、提督はお粥をよそって席についた。お粥をスプーンですくって口に運ぶ。
「うお…お粥ってこんな美味いのか…」
思わず声に出してしまった。風邪の時にしか食べなかったお粥はあまり味がしなかったが、この三人の作ったお粥はお米の甘さが引き立てられていてとても美味しかった。もう一口、もう一口と手が止まらなくなる。
「司令官…そんなにがっつかなくてもまだまだおかわりありますから…」
「…鳳翔さん、もう一杯貰えますか?」
気がつくと提督はお粥をぺろりと平らげていた。
「うふふっもちろんですよ」
鳳翔が嬉しそうに答える。もう提督を警戒している様な素振りは全く見られなかった。
「提督、すまないが私が先だ」
「いーや、俺の方が早かったね」
「まだおかわりありますからそんなに焦らないで下さい」
「…はい」
提督は結局3杯のお粥を食べてしまった。
「お粥が美味しかったのはいいけど…」
提督が唐突に呟いた。館内放送をかけたので一応この鎮守府の全艦娘に食べ物を用意したという事実は伝わっているはずなのだが、肝心の艦娘達は一向に姿を見せる気配がなかった。
「入渠も時間的には全員終わっているはずですし…ドックにもスピーカーはあったのでちゃんと響ちゃん達も確認していると思いますが…」
「まだ警戒されているという事か…」
「…まぁ最悪俺と龍田で全員分の部屋にお粥を持っていくから大丈夫だぜ」
「そうしてもらおうか…」
そう言いかけた時、食堂に誰かが入って来た。見た目からして駆逐艦だろうか…小学生くらいの艦娘が元気よく入って来た。
「こんにちは!ご飯ありますか?」
その艦娘はにぱっとした眩しい笑顔を向けて入ってきた。
「えっと…君は…?」
「申し遅れました!陽炎型駆逐艦8番艦の雪風です!」
「あら雪風ちゃん!こちらの提督さんがお米を用意して下さったの。美味しく出来たから食べてってね」
「ありがとうございます!鳳翔さん!あなたが新しいしれぇですね!お米ありがとうございます!これからよろしくお願いします!」
「おう!よろしく!」
雪風はビシッと敬礼をして鳳翔さんの方へ走って行った。
「提督…」
「あぁ、分かっている」
長門が声を潜めて何かを言おうとしていたが、提督には何と言おうとしているのかがすぐに分かった。
(何だあの笑顔…物凄くドス黒い物を感じる…龍田の笑顔も不気味だったがそれ以上に不気味…いや、言葉では言い表せない何かがあるみたいだ…)
「わぁ〜美味しいですね!このお粥!」
雪風はよっぽどお腹を空かせていたのか、ガツガツとお粥を食べていた。そう…文字通りガツガツと…
「…………おかわりください!………………おかわりです!……………もう一杯お願いします!」
(お、おい…どれだけ食べるんだ…?)
最初の方はよく食べるなと思いながら見ていた提督も雪風を心配そうな目で見つめる。それは鳳翔達も同じのようだ。
「………………おかわりです」
何杯目かわからなくなった程の量を雪風が平らげた時、ついに鳳翔が口を開く。
「ゆ、雪風ちゃん?もうそれくらいにしないと…」
「大丈夫…です……まだ…食べられます……」
雪風は明らかに苦しそうにしていた。それでもなお、お粥を食べようとしている。
「おっおい雪風…?」
「大丈夫でs………ヴッ」
『ヴォエエエ……ゲホッゲホッ…ヴォエッ……』
雪風は食べたお粥を全て床に吐きだしてしまった。
「ちょっと雪風ちゃん大丈夫!?」
鳳翔が雪風に近寄り、背中を優しくさする。
「ハァ…ハァ…まだ…食べられます…ヴッ」
それでもまだ雪風はお粥を食べようとしている。誰が見ても思う。完全に異常だ。
「雪風、もうよそうぜ、な?」
「天龍さん…駄目です…雪風は…みんなの分も…」
息を切らしながらも必死にお粥を食べようとする雪風に対して提督が優しい口調で尋ねる。
「…なぁ雪風、どうしてお前はそこまでして食べようとしているんだ?確か雪風は奇跡の駆逐艦として…」
「奇跡なんか…ないです!!!」
提督のその言葉に雪風が突然声を張り上げた。
「奇跡なんかありません…!雪風が幸運なんか持ってるせいで…みんなが…みんなが……」
「ゆ、雪風?とりあえず落ち着いて話せ」
それから雪風は膝まずき、肩を震えさせながらすすり泣きはじめた。その間も鳳翔はずっと何も言わず、優しく雪風の背中を撫で続けていた。それからしばらくして雪風が泣き止むと、雪風はゆっくりと自分の身に何があったのかを語り始めた。
「…雪風はずっと前のしれぇの時からここの鎮守府の水雷戦隊の一員でした」
(かつての〇〇鎮守府)
「まーだキス島沖を攻略できないのか!?あ゙!?」
前提督が旗艦の軽巡洋艦に怒鳴りつける。
「何で撤退なんかしてんだよ!!あと少しで敵主力と交戦出来ただろうがこの無能が!!」
「ですが大破した艦娘が多く、撤退しざるを得ない状況でした…あのままただ闇雲に進撃したら轟沈艦が出てしまいます…せめて練度だけでも上げさせて下さい…」
「知るか!!いいか?次回の出撃で必ず勝て。損害が出ようが関係ない。もし失敗したら…わかってるな?」
「はい…」
こうして無謀とも言える出撃が決まってしまった。
はい!11話目が終わりました!結構長い間待たせてしまいました…これからも応援してくれたら嬉しいですー!感想と評価の方もモチベが上がりますのでよろしくお願いしますー!ではまた次回でお会いしましょう!
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