「ん……んー?えっと……ごめんね。もう一回お願い出来るかな?」
明石は妖精のジェスチャーに苦戦し続けていた。前から一緒にいる妖精のジェスチャーは何となくわかるのだが、〇〇鎮守府の妖精のジェスチャーはさっぱりだった。
「片手……?上下…んーっと………あ!」
突然声を上げる明石。どうやら妖精達のジェスチャーの意味が分かったようだ。
「分かりましたよー!開発がしたいんですね!!」
その言葉に妖精達はぱあぁっと笑顔になる。どうやら当たりのようだ。
「そうですねー…あ、ならこれお願いします!」
明石がちょうど近くにあった設計図を妖精達に渡す。妖精達は久々にまともな開発が出来て心底嬉しそうな表情だった。
「さぁ、やりますよ!」
「うでがなります!」
「がんばるぞー!」
思い思いの意気込みを口にする妖精達。明石にはその言葉こそ聞こえないが、やる気があるという事はしっかりと伝わっているようだった。
「はじめますよー!!!」
「おおおおおおおおお!!」
数人程度しかいなかった〇〇鎮守府側の妖精達が一斉に作業に取り掛かる。作業の中盤までは何の問題もなく順調に進んでいた。しかし一人の妖精にとある異変が起きた。
「ここをこうして…よしです」
『…またゴミを作ってんのか無能が』
「……!?」
その時突然前提督の声が聞こえた。辺りをキョロキョロと見回しても当然前提督の姿はない。明石や他の妖精達にも声が聞こえているような素振りはない。それでもなお、その声が止むことはなかった。
『おいおい、クソみてぇな装備だな』
「…うるさいです」
一人でぼそっと呟く。
『ほら、お前等のゴミ装備よりこの煙草の吸い殻の方がよっぽど役にたつぜ』
「……うるさい」
さっきよりもやや大きい声で言った。周りの機械音が大きいせいで、その言葉が他の妖精達に聞かれることは無かった。更に声が続く。
『まじで無能なんじゃねぇの?逆にどうやったらそんなゴミが「…ゔる゙さあ゙あ゙あ゙あ゙い゙!!」
その妖精は半ば発狂に近い感じで叫んだ。その叫び声を聞いた周囲の妖精達がその妖精に群がる。
「どうしました!?」
「だいじょうぶですか?」
「ぐすっ…ひっく……」
とうとう妖精は泣きだしてしまった。誇りを持って仕事に取り組んでいた妖精にとって、その仕事を侮辱されるという行為は何よりも辛いものであった。
「うえぇ!?一体どうしちゃったんですか!?」
妖精達が一箇所に集まっている事に気がついた明石は泣いている妖精を見て戸惑いを隠せないでいた。
「どこか怪我しちゃいましたか…?外傷は特には見当たらないようですけど……ん?」
明石は妖精の横にある作業中の装備が目に入った。
「おお…これは……」
「……!!」
妖精はビクッとして明石の方を見た。明石がまじまじと妖精の作った装備品を見ている。この人にも何か暴言を吐かれるのか?やっぱり自分は仕事は向いていないのか?何も出来ない自分になんか存在価値がないのか?妖精はそんな疑問ばかりが頭の中でぐるぐると回っていた。しかし明石が発した言葉は妖精の予想とは全く異なる物だった。
「へー…よく出来てますねこれ!」
「……へ?」
褒められた?毎回毎回頑張って作ってもゴミだと罵られ、鉄屑の様に捨てられていた装備を?唖然としている妖精を気にする様子もなく、明石は更に言葉を続ける。
「うん……すごく上手です!いい腕してますね!」
明石はそう言って妖精に笑いかけた。
「……!!!」
その瞬間妖精は胸の奥から何やら温かい物が溢れ出て来た。それは妖精にとって初めての感情だった。
「……うれしい…です……とっても………!!」
にっこりと笑いながら嬉しそうな表情をする妖精を見て周りの妖精達もつられて嬉しそうにはにかんだ。やがてその妖精は気がついたかのようにハッとしてから元気な声で呼びかけた。
「さぁ!もうひとがんばりです!」
「おう!おれたちでもできることをみせつけてやろうぜ!」
「やるぞー!」
「きあいじゅうぶんです!」
妖精達は再び作業に取り掛かる。その目はやる気に満ち満ちていた。どの妖精も楽しそうに、そして真剣に作業に取り組んでいる。それからしばらくして作業は終わりを迎えた。
「これで…さいごです!」
最後のネジをはめ終わったその時、何とも言えない高揚感に全身が包まれた。〇〇鎮守府妖精全員で作った物を明石の所まで持っていく。その目はきらきらとしており、非常に充実している様子だった。
「お!完成しましたか?どれどれ……」
息を呑む妖精達。明石はしばらくいろいろなチェックを手際よく済ませ、妖精達の前に立った。
「……うん!丁寧でいい仕事してますね!お疲れ様でした!…よかったらこれからも一緒に手伝ってくれませんか?」
妖精達は全員で顔を見合わせた後、明石に向かってペコリとお辞儀をした。
「よろしくおねがいします!」
「うん!どうやら肯定的なようですね!これからよろしくお願いします!」
明石も妖精達もお互いの目を見ながら朗らかに笑っていた。それから程なくして、明石の妖精達が〇〇鎮守府の妖精達に群がる。
「しんいりさんですね!よろしくおねがいします!」
「よろしくねー!」
「だれかしゅほうにくわしいかたいますかー?」
「しゅほうならおれにまかせろー!」
わいわいと楽しそうに工廠の奥に消えていく妖精達を見て明石はほっとしていた。
(どうやら仲良くやっていけそうですね…)
「さて、そろそろ私もお仕事に戻らなきゃ…」
軽く伸びをして、ふと下を向いてみると、栗色の髪の毛をした妖精が細かく震えながら明石のスカートに顔を埋めるようにぎゅっと抱きついていた。その服装はお世辞にも綺麗とは言えない。きっと〇〇鎮守府側の妖精なのだろう。そんな妖精を見かねた明石が話しかける。
「ん?あなたはあの子達と一緒に行かないんですか?」
その妖精は小さく首を縦に振った。明石にしがみついたまま、離れようとしない。
「うーん…どうしましょうか……」
「いっしょに…いさせて……ください………」
「…え?」
明石はゆっくりと視線を妖精に移した。
「わたし……さみしいです………」
「…えーっと……今話してるのはあなた…ですよね?」
「そうですけど……ってわたしのこえがきこえるんですか?」
「よ、よ、妖精さんって喋れたんですかぁ!?」
「い、いえ!なんというかわたし…なぜかほかのようせいさんとおしゃべりができないんです……だからいままでずっとひとりでいたんですよ……ってきいてます?」
「…あ!はい!もちろんです!それでそれで?」
明石にとって喋れる妖精というものはイレギュラーそのものだった。普段はあまり動じない性格の明石も、今回の件に関しては流石に動揺を隠しきれなかった。
「もう…ちゃんときいていてください」
「ごめんなさい…」
この後もしばらくこの妖精と話し合ったが、どうやら妖精相手だとろくにコミュニケーションが取れないが、明石とはコミュニケーションが取れる様だった。最初はどこか緊張していたような表情で話していた妖精だったが、明石と話していくうちに、少しだけだが笑顔を見せるようにまでなった。
(執務室)
「よーし、こんなもんでいいだろ」
長門と吹雪と提督は執務室の掃除の続きをしていた。執務室はなかなかの広さがあった為に思ってたよりも時間がかかってしまっていた。
「提督、この辺の壁はこのままでいいのか?」
長門が凹んだ壁をさすりながら聞いてきた。
「んー…取り敢えずもう少し時間経ってからかな。壁よりも先に優先すべきものがあるしね」
そんな会話をしていると、執務室の扉からノックの音がした。
「……提督、後ろに」
「…おう」
長門達は今度は艤装は出さず、提督の前に立ちふさがるようにして守っている。一呼吸あってから提督が言葉を発した。
「……入ってくれ」
その言葉の後、ゆっくりと執務室の扉が開いた。
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