「で、その時に金剛の奴がですね…」
「わっはっは!そいつぁ傑作だなぁ!」
「おうおうおう!楽しそうだなーテツさん!」
楽しげに話す二人の間に一人の少女が若干割り込む様な形で話に入ってきた。
「テツさんがこんなに笑ってるのは久々に見たなぁ。ねぇ、その話あたしにも聞かせてくれよ!」
「お、おう!まずな…」
「あっはっは!何だそりゃ!面白いなぁおい!」
豪快に笑う少女に呆気に取られていると少女が提督の方を向いて話しかけてきた。
「自己紹介が遅れたな!私はそこの八百屋の娘のナミってんだ!よろしくな!」
「お、おう!よろしく!」
にぱっとした笑顔で右手を差し出され、若干困惑しながらも提督も右手を差し出した。ナミはふわふわとした黒いロングヘアーに笑った時に見える八重歯が印象的な元気いっぱいな子であった。
「その服…あそこの鎮守府の人だよなぁ?うちに来てみろよ!ちょっとくらいならまけるから…な?」
「えっ…えええ!?」
「兄ちゃん、すっかり懐かれちまったなぁ!」
「テツさんも見てないで助けて下さいよー!」
「ほらほらー早く早く!」
腕を掴まれてナミに引っ張られる提督。突然の出来事に慌てふためいていると、また別の方向から声が聞こえてきた。
「な、ナミちゃん…その人…」
「おーハル!ハルも来いよ!面白いぞーこの人!」
提督の腕を掴みながらぶんぶんと手を振るナミの視線の先にはナミより少し幼いくらいの少女が立っていた。ナミがハルと呼んでいたので名前はハルというのだろう。
「あいつはあたしの幼馴染のハルっていうんだ。あたしの店の隣の…ほら、あそこの魚屋!あそこがハルの店で…」
「ナミちゃん!」
ハルはナミの名前を呼んだ後、ナミの腕を掴んで半ば強引に提督から引き剥がした。
「ふぅ…ありがとうハルちゃん。お陰で助かったよ」
「勘違いしないでください…私はナミが危険だと思っただけです…」
ナミの腕を掴みながら軽く提督の方を睨むハルは、全体的に茶色がかったストレートなロングヘアーで、横に結んだ髪が彼女の可愛らしさを引き立てている。幼馴染だというナミとは真逆な性格の様で、落ち着いた雰囲気を漂わせていた。
「ナミ…あっち行こ?」
「ええっ!?まだあたし話し足りないん」
「いいから」
「わかったから!おいハル引っ張んなって!あぁっ!?……」
ハルは提督から視線を外し、ふいっと背を向けてナミの腕を引っ張ってどこかへ行ってしまった。ふいに見えたハルの横顔にはどこか悲しげな、そして静かな怒りが浮かび上がっていたようにも見えた。
「ハルの奴…どうしちまったんだろうな…普段はナミと一緒に話に入ってくるんだが…兄ちゃんなんかしたか?」
「いや、彼女達とは初対面ですし…」
「だよなぁ…」
「そういえばテツさん、例の八百屋の娘って…」
「おう!ナミの事だぞ!何というかこう…元気を貰える感じがしないか?ハルとナミはこの商店街のアイドルみたいな立ち位置で地元じゃちょっとした有名人なんだぜ!」
「へぇーそうなんですか!」
「ハルも可愛いとは思うんだが俺はやっぱりナミのあのサバサバとした性格がいいよなー何と言ってもあの八重歯が素敵だぜ…笑った時に一瞬だけ見え」
(あっ…謎のスイッチ入っちゃった)
それからテツは留まる事無しにナミについてを提督に熱く語るのであった。それからテツは一通りナミを語り終えると、笑顔で手を降って提督と別れた。
「ありがとなー兄ちゃん!また来てくれよ!」
「はい!その時はまたよろしくお願いします!」
(さてさて…あとは魚と野菜だが…ってやばい!!)
ふと腕時計を見ると店が閉店するまで二十分を切っていた。焦りながらポケットに突っこんでいたメモを取り出そうとするが…
「…!?え!?うっそだろ!?」
ない。確かに入れたはずなのにない。軍服についているポケット全てを裏返しにして確認してみるがやはりない。
(落とした…?とりあえず覚えている物だけでも…!)
「えーっと確か…あれと…それと……」
ぶつぶつと独り言を呟きながら必死に思い出そうとしていると誰かに背中をトントンと叩かれた。振り返るとそこには一枚の紙切れを持ったナミが立っていた。
「探してるのはこれか?」
「そうそれ…ってどうしてナミちゃんが…?」
「ハルに引っ張られたはずみで落としちゃってな…何とか紙は無くさずにいられたけどハルがなかなか放してくれなくてねぇ…時間かかっちゃってごめんな…」
「そっか…大丈夫、正直に言ってくれてありがとね」
紙を受け取ろうとして手を差し伸べると、ナミが少し俯きながら話してきた。
「…なぁ、あたしもその買い物手伝うよ!もう閉店まで時間ないだろ?それにあたしのせいみたいな所もあるからさ…」
少し俯きながら話すナミを見て提督は優しく答える。
「ありがとう。それじゃあ俺は野菜を買ってくるからナミちゃんは魚をお願い。俺は買う物覚えたからこの紙はナミちゃんが持ってて」
「…!!あぁ!任せろって!!」
胸をドンと叩いて八重歯を光らせるナミは提督からはとても眩しく見えた。
「それと…はいお金、買ったらまたここに集合ね」
「おう!また後でな!」
ナミと提督はささっと買い物を済ませて、何とか閉店時間ギリギリに買う事が出来た。そして二人は合流する。
「危なかったー…在庫も丁度残ってたからよかったよ…」
「ナミちゃんがいなかったら間に合わなかったな…本当に助かった…」
「いや、元はといえば私が悪いんだからな…」
『提督ー!』
ふいに横の方向から声が聞こえた。声のする方を向くと鳳翔が片手に大きなビニール袋を持って手を振りながらこちらに向かってきていた。
「お待たせして申し訳ありません…ってその子は…?」
「あたしはそこの八百屋の娘のナミ、よろしくな!」
「ナミちゃん…?よろしくね!」
その言葉の後、鳳翔とナミが握手を交わす。二人は温かい笑みを浮かべていた。
「それじゃああたしはそろそろご飯だから帰るよ!またうちの店にも来てくれよな!」
「うん!今日はありがとう!」
ぶんぶんと手を振りながら元気よく駆け足で去っていくナミに、提督と鳳翔も手を振り返した。
「さて提督…そろそろ帰りましょ…あっ」
「どうしました?鳳翔さん」
「お米…どうやって運びましょうか」
「あっ」
完全に盲点であった。あの時自信満々に”荷物は俺が持ちますよ!”と言っていた自分は何だったのか。提督は野菜と魚で完全に両手がふさがっており、鳳翔は片手なら空いているが、いくら艦娘でもこの量の米俵を片手で持つのは厳しかった。
「どうしようか…」
途方に暮れていたその時、一人の大柄の女性が近づいてきた。
「ふっ提督、この長門の出番のようだな」
そう、車で睡眠を取っていた長門だ。
「長門!ナイスタイミングだ!あれ吹雪は…?」
「吹雪には車の番をしてもらっている。盗まれたりしたら洒落にならないからな」
「あぁなるほど。じゃあ長門、早速で悪いけどこれ車まで運んでくれないか?」
「お安い御用だ」
長門は大きな米俵をひょいっと担ぐと、涼しい顔をして歩き始めた。
「それで鳳翔さん、今夜は何を作るんですか?」
「今夜もまだお粥ですね。でもちょっと具だくさんにするのできっとお昼のよりも美味しいと思いますよ!」
「何?これは絶対美味しいぞ提督!」
「わかったからちゃんと前を向いて歩け長門」
3人が楽しそうに笑いながら歩いていく様子をナミは店の影から眺めていた。
(うん!思った通りいい人そうじゃんか!やっぱり軍の奴全員が悪い奴じゃなさそうだなぁ…あたしがまだ小さい時には軍の奴にいろいろ悪さされてたらしいから近づくなって言われてたけど…)
「もう少しだけ……」
……ゾクッ…
『…!?』
(何だろ…?この感じ…物凄く嫌な予感がする…?)
その時ナミは感じた事もない不快感に襲われた。この不快感の正体が何なのか、この時のナミは知る由もなかった。
はい!17話目が終わりましたー!いやーやっぱり小説を書くのは楽しいですね!よかったら感想と評価の方もよろしくお願いしますー!ではまた次回でお会いしましょう!
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