(工廠)
「はぁー!鳳翔さんのお粥美味しかったー!」
お腹をさすり、満足気な表情を浮かべて明石が工廠に戻ってきた。そこから明石は例の大きなリュックから大きな瓶を取り出した。
「それはそうと…みんなー!ご飯ですよー!」
そう言ってパンパンと手を叩いた瞬間、どこからともなく妖精達がわらわらと出てきた。そこにはすっかり馴染んだであろう○○鎮守府妖精の姿もあった。きっちりと一列に並んで目を輝かせている。
「お!もうすっかり仲良しじゃないですか!…っと、はい、今日もお疲れ様でした。また明日もよろしくお願いしますね!」
妖精達一人一人に声をかけながら金平糖を渡していき、ついに最後の一人にも渡し終わった。
「ゆっくり食べてくださいねー!ってそういえばあの子はどこに…?」
きょろきょろと辺りを見渡しながら探しているのはあの喋れる妖精だった。だがいくら探しても姿が見えない。
「どこ行っちゃったんでしょうか…」
「こ、ここですよー!」
「え?ど、どこですか?」
声は聞こえるがやはりその姿を確認する事が出来ない。
「ぷはっ…ずっといたんですけど…」
明石の髪の毛の間からスルッとその妖精が出てきた。
「……流石にわかりませんよそこは……はい!今日はおつ…」
「どうかしました?」
金平糖を渡そうとしてフリーズした明石を妖精が不思議そうな表情を浮かべてじっと見つめる。
「唐突ですが名前を付けたいなと思いまして……うーん…話せる妖精さんだから”はな”とかどうですか?」
「はな……??はな…ふふふっはな!!」
どこか照れ臭そうに、そして嬉しそうにぴょんぴょんと飛び跳ねる。どうやらはなという名前が気に入ったらしい。
「これからもよろしくお願いしますね、はな」
「こちらこそです!」
そんな会話があった後、はなは金平糖を受け取って食べ始めたかと思ったら、思い出したかの様に明石に話しかけた。
「あ、そういえばあかしさん」
「んー?どうしたのはな」
明石ははなに背を向けてリュックの中から取り出したハンモックを抱えながら、きょろきょろと設置出来そうな場所を探していた。
「……わたしのかんちがいかもしれないですが、あのていとくさんからよわいしんかいのにおいがしまして…」
「…え?それって…どういうこと?」
明石はピタッと止まってはなの方を振り返った。その表情は真剣その物だった。
「そのまんまのいみです…どこかでついたのでしょうか…あるいは…その……ていとくさんが…」
「……やめてください」
「でも…」
「悪い冗談は嫌いですよ」
「あかしさん……」
「…提督が?そんな訳ないじゃないですか。いや、あるはずがありません」
自分に言い聞かせるように言った。妖精の目に嘘はない。きっと事実なのだろう。頭ではわかっているが、心が”そんな訳ない”と拒絶してしまう。
(…そうですよね?提督)
(執務室)
「ん…んー……ハッ!あっぶねー…」
「提督…もう休んだらどうだ?」
響との会話を終えた提督は再び執務室に戻り、長門と一緒に大量の執務に追われていた。時刻は0100、今日一日で色んな出来事があり、提督が心身共に少なからず疲労している事は誰が見ても明らかであった。そんな中睡魔に襲われるのは当然の事である。
「いんや…長門だけに…任せた…ら……悪いって…」
「…提督は充分やってくれたぞ。それに私は昼に一度寝てしまっているからな。あまり眠くない。残りは私が片付けておくから提督はもう寝るんだ」
「あーそっか…悪い、じゃあお言葉に甘えて…寝させて貰うよ。おやすみ長門…寝袋は…あぁここか」
「あぁ、おやすみ提督」
眠い目を擦りながら鎮守府から持ってきた寝袋を抱えて執務室から出ていく提督を見送った後、長門は少しながめの伸びをした。
「ふぅーっ…さて、もう一頑張りしてから寝るとしよう。それと…」
その言葉と共に長門はキッと天井を睨む。
「いつまでそこにいるつもりだ?まさか気がついてないとでも思っているのか?」
「あちゃー…隠密行動には結構自信あったのになぁ…」
そう聞こえたかと思うとガタンと天井の一部が落ちてきた。もうもうとホコリが立ち込める。その中から一人の少女のシルエットが浮かび上がった。
「君すごいねー!今までほんの数人しか、それも姉妹じゃないとバレる事なんてなかったのに!ねぇねぇ!名前!教えてよ!」
周囲のホコリが落ちついてきた頃、ようやくその少女の姿がはっきりと見えてきた。短めのツインテに弾けるような笑顔、そして忍者を連想させるようなその服装はかなり特徴的であった。
「…私は戦艦長門だ。して、なぜこの時間帯…そして天井裏にいた?返答次第ではこのまま帰す訳にはいかないぞ」
「そっかー!長門って言うんだ!私は軽巡川内。そんな怖い顔しないでよって…うーんとね…これこれ、これを渡しに来たんだ」
そう言うと川内はポケットから折りたたまれた一枚の紙を取り出した。その表情は先程とは打って変わって真剣である。
「この手紙、あの提督に届けてくれるかな?文字を書くのは少し苦手だからちゃんと伝わるか自信ないけど…聞いて欲しい事を書いたから」
「…なるほど、事情はわかった。だがそれなら昼に、それに口頭でもよかったはずだ」
「確かにそうだけど…これにはちょっと深い事情があってね…」
川内は困ったように頬をかきながらはにかんだ。
「私には妹の神通…そして那珂がいる。私は全然大丈夫なんだけど神通が”提督”に対して強烈なトラウマを持っているからか提督に会わせてくれなくてね…神通が寝静まった深夜にこっそりこの手紙を執務室に置いときたかったの。この時間だから提督が起きているかも分からなかったし万が一神通に気が付かれてもいなかった時間が短かったらトイレに行ってたとか言い訳できるしね。だから私は手紙という方法を取ったの。それに天井裏なら誰かと鉢合わせて面倒事ってことにもならないからさ」
「……いろいろ大変なのだな。よしわかった。手紙はこの長門が責任を持って明日提督へ届けよう」
「ありがとう長門!はいこれ。…ところで、夜は好き?」
長門は手紙を渡された後の唐突な質問に戸惑っていた。そんな長門の様子を見て川内は何かを想うような視線を窓の外にうつした。
「私は好きだよ…この静かな空気が。何も見えないような闇の中の優しい月の光が。何というか…すごく落ち着くんだ」
「ふむ、わかるぞ。私も昼よりも夜の方が静かで集中出来るような気がするからな。昼よりかは夜の方が好きだ」
「あ、やっぱり?そうだよねー!やっぱり夜だよねー!ってやば!そろそろ戻らないと…じゃあね!長門!また!」
そう言って手を振ったかと思うと、慣れた手つきで天井裏に戻り、あっという間に部屋へ戻っていってしまった。
(……軽巡川内か…あの艤装と雰囲気…もしや改二か?それに…)
その時ふっと渡された手紙の事を思い出した。ポケットから取り出したその紙には『提督へ』とだけ書かれていた。
「これだけか…?ん、あぁ。折りたたまれているのか…」
折り目が強かったせいで気が付かなかったが、その中にはぎこちない文字がずらっと並んでいた。
「これは”提督宛”の手紙だから私が読んでしまうのは違うな。うーむ…とりあえず提督用のファイルに挟んでおこう」
長門は山のように積まれたファイルの中から一つを取り出し、大事そうにしまった。
「さて、私もいい時間だし寝るとしよう。寝袋を持ってきたのは正解だったな」
長門も少し疲労が溜まっていたのか、割とすんなりと寝る事が出来た。静かな執務室にはスースーと長門の寝息だけが響いていた。
はい!20話目が終わりました!モチベが上がるので良かったら感想と評価の方もぜひぜひよろしくお願いしますー!ではまた次回でお会いしましょう!
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