提督がブラック鎮守府を変えるだけの話   作:えーぬ

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どーもですー!21話目に入りました!お気に入り350件突破、本当にありがとうございます!今後共この小説をよろしくお願いいたしますー!では21話目です!どうぞ!


失ったはずの物

「ん…んぁ…あーそっか…寝ちゃってたのかあたし…」

 

眩しい光と共に北上はボロボロのベッドから起床した。元々朝に弱いタイプの北上はボケーッとした焦点の定まらない目でしばらくベッドの上で座っていた。

 

「…北上さん!もう!やっと起きたんですね!」

 

聞こえるはずのない懐かしい声が部屋の隅から聞こえる。寝起きで理解が追いついていない北上は反射的にその声に答えた。

 

「んー…ごめん大井っち……え…ええ!?大井っち!?何で!?」

 

突然の出来事に戸惑いを隠せない北上。そこには見覚えのありすぎる茶色いロングヘアーの艦娘、大井が立っていた。

 

「何で!?あの時確かに大井っちは…」

 

「何寝ぼけてるんですか?縁起でもない事言わないで下さい…ほーら!寝癖直して!しゃきっとして下さい!全く…大体北上さんは朝になるといつもいつも……」

 

「大井っち…」

 

記憶にある大井と全く変わらない様子にどこか嬉しく感じてしまう北上がいた。

 

「あは…あははっ大井っちだ!大井っち!大井っち……うぅっ……ひぐっ…うあああああああっ…」

 

感情を抑えきれなくなり、北上は大井に抱きつくようにして泣き始めた。

 

「ちょっと北上さん!?話聞いてました!?…もう!本当に今日はどうしちゃったんですか!?」

 

うろたえる大井の様子を見る事もなくただ無我夢中で泣いていた。それからしばらくして北上はようやく落ち着きを取り戻した。

 

「へへっごめんね大井っち急に取り乱して」

 

「今日の北上さん変ですよ…ってもうこんな時間!?北上さん!早く行きますよ!」

 

「え!?ちょ、ちょっとどこへ行くのさー!」

 

大井は慌てた様子で北上の手を取り走り出した。その表情には焦りと恐怖の色がはっきりと映し出されていた。しばらく大井に引っ張られた後に着いたのは執務室の前だった。その瞬間、北上の全身に悪寒が走る。足がガクガクと震えだし、本能的に危険を感じ取っているようにも見える。

 

「あ…お…大井っち……」

 

「……失礼します」

 

大井はそんな北上の様子を見る事もなく執務室の重たい扉を開く。きしむ音を立てながら空いた扉の先には忘れる事のない憎い顔があった。

 

 

『おせーぞノロマ共。さっさと出撃してこい』

 

 

その顔、その体型、その声、その髪型、その仕草、その喋り方、あらゆる行為が北上の心の奥の物を抉り返す。覚えている。覚えてしまっているのだ。気だるそうに書類を持ちながら目の前に立っている若い男の事を。

 

他の誰でもない。前提督だった。

 

「……!!ねぇ大井っち!?今日って何にt…ゲボォッ」

 

「俺が喋ってる時に喋んじゃねぇよ」

 

腹部に強烈な膝蹴りが入った。あまりの痛さに一瞬呼吸が止まり、倒れ込んでしまう。大井はちらりと北上の方を向き、歯を食いしばりながらも前提督に正対して敬礼をした。

 

「……ッ…提督、重雷装艦大井、出撃します!…ほら、北上さんも」

 

「あぐ…ぐ……嫌…だ……」

 

「あ?」

 

再び鈍い音が響く。脇腹を思い切り蹴られたのだ。北上は声にならない叫びを上げ、再び丸まってしまう。前提督はそんな北上の髪を容赦なく掴み、顔を上げさせる。

 

「よく聞け、これがラストチャンスだ。お前はこれからこいつと二人で遠征に行くんだよ。わかったらさっさと返事をしてこっから出てけ。目障りだ」

 

前提督はそう吐き捨てると、北上から手を離して珈琲を淹れ始めた。その間にも北上は悶え続けていた。

 

「あ゙ぁ…ぐぞぉ…」

 

「お前いつまで寝てんだようっせぇな…おい茶髪!早くそいつ連れて遠征に行けよ!」

 

「はっはい!ただいま!」

 

そう言って大井は北上に肩を貸し、執務室から出ていった。ゆらゆらとおぼつかない足取りで大井と歩いていたその時、ザザッとノイズのような音が北上の脳内を掛け巡った。

 

「……!?」

 

すると先程までの痛みは全くなく、大量のドラム缶と艤装を付けた状態で海上を滑っていた。先程までは体の自由が効いていたのだが、自分の意志に反して体が勝手に動いている不思議な感覚に北上は陥っていた

 

(何……これ…)

 

言葉を口に出す事も出来ない。まるで一人称の映像を見ているようだった。

 

(ここは……どこ?……くそっ動けって…)

 

バタバタともがいているつもりだったが、その状況が変わる事は一切無かった。

 

 

『北上さん、あと2時間ちょっとで母港です。頑張りましょうね!』

 

 

(………!!)

 

忘れない。忘れる事なく耳に残り続けていた大井からの無線。この時、北上は確信した。

 

(やっぱり…”今日”だったんだ……!ならこの後!!)

 

そう思った瞬間、目の前を航行している大井の周りに突如として大きな水柱が上がった。この自分の身長の何倍もある水柱に、北上は強烈なデジャヴを感じていた。

 

『北上さん!南西の方向に未知の深海棲艦を発見!』

 

突然大井が無線越しに叫んだ。

 

(あいつ…あの時の……!!)

 

ふいっと振り向いた南西の方向にはフードを被ったような人型の禍々しい深海棲艦がニヤつきながらこちらを見ていた。北上は分かっていた。こいつがどれ程凶悪な奴なのかを。そしてこの後何が起こるかも全て…

 

『一隻…北上さんと私の魚雷を叩き込めば中破には持っていけそうですね…持っていけなかったら隙をついて全力で逃げましょう』

 

(駄目だよ大井っち!早く…早く逃げなきゃ!!!)

 

そんな声も虚しく、大井と一緒にどんどんとその個体に距離をつめていく。最悪の記憶が脳裏をよぎる。

 

「ハハッ…イイネェ…タノシマセテクレヨォ…?」

 

未知の個体はその見た目とは裏腹に物凄いスピードで航行を始めた。こちらの様子を伺っているのかニヤニヤしたまま滑っていて攻撃して来る気配が全く感じられなかった。

 

「中々すばしっこいわね…そこよ!!」

 

大井は進路を読んで大量の魚雷を放った。北上もそれに続くように魚雷を放つ。その魚雷は一直線に未知個体まで白線を引いていき、直撃した…直撃したのだ。普通なら中破はおろか大破まで持っていけるような手応えであったが、その未知個体はキョトンとした顔で何事もなかったかの様に海上を滑っていた。

 

「…アレ?モウオワリ?ナンダァ…ツマンナイナ……」

 

先程からのニヤニヤから一転、明らかに残念そうな顔をした後に、後ろについている尻尾のような物が唸りを上げ、砲弾が飛ばされた。

 

「モウキミタチイラナイヤ!バイバイ!」

 

ケラケラと笑いながらポンポンと重たい砲撃を放ってくる。大井と北上はそれを避けるのに必死だった。

 

「ハハハッ…オドレヨォ…ホラ…モットオドレェッ!!」

 

必死に避けている様を見るのが面白いのか、わざと少し外れた位置を狙っているようにも感じる。

 

(くそっ…あいつ……ぎやっ!?)

 

一発の重い砲弾が北上の左腕に命中した。バキンと骨の折れる音が自分でもよく分かった。左腕はダランと垂れ下がり、動かす事すらできなくなってしまった。

 

『北上さん!大丈夫…きゃああっ』

 

北上の方を振り向いて無線を飛ばしてきた大井が突如として爆発し、メラメラと燃え盛る炎の中にのみこまれていった。かろうじて沈んではいないものの大破は確実。たったの一撃で大井はそんなダメージを負ってしまった。

 

「ア、アタッチャッタカ…マァイイヤ。アイツハジキニシズム…ツギハオマエダ。コンドハジックリト…アソンデアゲナキャネェ!!」

 

尻尾の主砲が北上の方へと向く。その未知個体の目はハイライトを失い、口角だけがつり上がっているという何とも不気味な物だった。そんな未知個体を前にしても尚、北上は心の灯を燃やし続けていた。

 

(今度は…今度こそ…)

 

 

「今度こそ!!大井っちと二人で生き抜いてやる!!こんなクソッタレな結末なんてあたしが…あたしがねじ曲げてやる!!!」

 

 

全力で叫んだ。まるで糸が切れたかの様に北上の体に自由が戻る。フルスピードで水面を滑って未知個体の砲撃を回避しながらタイミングを見計らい、渾身の魚雷を放った。

 

「……ここだ!!くたばれ…”戦艦レ級”!!!」

 




はい!21話目が終わりましたー!”レ級は喋る”という設定なので把握よろしくお願いします!ではまた次回22話でお会いしましょう!

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