「落ち着き無さすぎよ!これからあんたはこういった理不尽な状況に何度も直面するの!上に立つべき人間がこんなでどうするのよ!?……ハッキリ言って司令官としてはクズね」
「なっ…」
霞から思わぬ叱責を受けてしまった。確かに少し落ち着きが無かったとは思うがクズ呼ばわりされてしまっては提督も黙ってはいない。
「は…初めての場所なんだ!多少なりとも気持ちの整理が出来ていなくてもいいだろ!」
「何開き直ってんのよ。ほんと馬鹿みたいね」
霞が冷ややかな眼差しを提督へと向ける。もはや呆れているのであろう。それ以上は何も言わなかった。
(どうやらハズレのようね…)
ふぅと一度だけため息をつき、その足を執務室の扉に向けた。
『待って!』
半歩踏み出した所で提督が呼び止めた。
「何?私これから行く所があるんだけど」
唐突に呼び止められた霞は反射的に振り向いてしまう。
「その…さっきは取り乱してすまなかった。俺自身少し浮かれていた部分もあった。頼りない奴かもしれないけど精一杯努力して一日でも早く一人前になれるようになるよ。霞、よろしくな」
提督が少しだけ目をそらしながらそう言うと霞は一瞬驚いた様な顔をしてから優しい表情になった。
「そういう大事な事は目を見て言いなさいな」
その時の霞の顔は一生忘れられない。まるで写真のように頭の中に鮮明に残っていった。
「厳しくいくわよ…ついてこれるかしら?」
「言っただろ?男に二言は無い。ついていくさ」
霞と提督は力強くがっちりと握手を交わした。
……これが俺と霞の出会いだった。
それから日々は流れるように過ぎ、霞の宣言どおりとても厳しい毎日ではあったが、とても充実していた。そのかいあってか鎮守府としてうまく軌道に乗り、規模もそこそこなものになってきていた。そんなある日、霞が今日の分の演習と遠征の資料を見ながらボソッと呟いた。
「今日は私が遠征当番なのね…」
少し寂しげに言い放った霞のその言葉に提督は書類を忙しく捌きながら返事をした。
「そういえばそうだったな。今日もよろしく頼むぞ」
「えっ…それだけなの?」
霞が少し驚いたような怒ったような顔をしながら提督の方を向く。
「えっと……最近冷えてきたから体調崩すなよ」
「そういう事じゃないわよ!」
なにやら霞を怒らせてしまったらしい。そっぽを向いてツカツカと執務室を出ていってしまった。
(な…何だったんだ一体……)
あまりに突然すぎる出来事に少し固まってしまった提督ではあったが、ちらりと目に映ったカレンダーによってその原因を知ることになる。
(なるほど、今日でここに来て丁度1年か…早いものだな)
提督は窓の外の水平線を見ながらしみじみとたそがれていた。霞が遠征から帰ってきたら甘いものでもごちそうしようと考えながら提督は少しぬるくなったブラックコーヒーを啜った。
時間はあっという間に過ぎていき、今日の業務が終わろうかというタイミングで突然、提督に切羽詰まった無線が飛ぶ。
「…司令官!!こちら遠征部t……きゃあぁっ」
霞からの無線の合間合間に聞こえる悲鳴と重い砲撃音の数々。襲撃されているのは報告を聞かなくても明らかだった。
「未知の深海棲艦と遭遇したわ…!索敵した限り単体だけど砲撃も装甲もレベルが違いすぎる!私達じゃ太刀打ち出来ない!」
一刻を争う事態だった。提督は酷く動揺しつつも深呼吸をし、冷静に指示を出した。
「遠征で手に入れた資材は捨てても構わない!1人も轟沈しないように最善を尽くして鎮守府まで帰港しろ!応援も今すぐに向かわせる!だからがんb…」
ブツンと音を立てて無線が切れる。提督は焦らずにすぐに主力艦隊を編成し、艦娘達の位置情報を頼りに応援に向かわせた。
(頼むから全員無事でいてくれ……)
提督はもう、祈ることしか出来なかった。
それからとても長い時間が経ったように感じた。日は既に沈んでおり、辺りはすっかり暗くなっている。提督は不安な気持ちをぐっと堪えながら執務室の窓とにらめっこをしていた。側にはいつ連絡が入ってきてもいいように無線が待機している。
そんな状態の中、報告は突然に、そして一瞬で行われた。
「提督、報告いたします。我が艦隊は遠征部隊と合流完了。敵艦隊の撤退を確認。これより帰港します」
ほっとしたのもつかの間、次の報告で提督は絶望に落とされることになる。
「……なお、駆逐艦霞が轟沈。他の子の被害も甚大です。報告は以上になります」
その報告を聴き終わった後、提督は絵に書いたように膝から崩れ落ちた。頭が真っ白になって何も考えられないまま呆然としている。しばらくして窓の外の水平線からわずかな光が見えた。何かの間違いかもしれない。報告を聞き間違えたかもしれない。そんな一縷の望みを持って執務室の外へと飛び出した。机の上にある高級なケーキを残したまま。
しかし現実は無情だった。
提督が目にしたのは慌ただしく担架でドックへ運ばれる遠征部隊の艦娘達。そこに霞の姿は無い。受け入れなければいけないが頭がそれを拒絶していた。その時、大破した艦娘が提督を呼んでいると聞き、その場所へと向かった。そこには霞と一緒に遠征に行っていた吹雪がいた。出血が酷く、意識は朦朧としている様に見える。
「しれ…かん……これ…を……」
担架の上で瀕死になりながらも右手でしっかりと握りしめた吹雪の小さな手の中にはボロボロの布切れがあった。
「霞さん…が……これだけ…しか………ゲホッ」
内臓に相当なダメージがあるのか、激しく吐血をしている。そんな中で力を振り絞るかのように提督に布切れを渡す。その布切れには見覚えがあった。毎日のように見ていた淡い青色のリボン。間違いなく霞が頭につけていたお気に入りのリボンだった。
「あ…ああ……ああぁ………」
提督は吹雪からリボンを受け取った瞬間、一気に現実を叩きつけられたような気がした。クラクラとする視界の中で霞との記憶が脳裏に蘇っていた。その後の事はよく覚えていない。気がつけば執務室に戻って残りの業務を淡々とこなしていた。何も考えず、何事も無かったかのように落ち着いている。夜はさらに更け、本来はまだやるべきでは無い業務にですら死んだ目で取り掛かっている。ふと静かな執務室にコンコンとノックの音が響き渡る。
「司令官…今お時間よろしいですか……?」
ガチャリと音を立てて吹雪が執務室に入ってきた。全身包帯だらけで松葉杖をついているが、治療のおかげかかなり回復しているように見えた。
「吹雪か……大丈夫…ではなさそうだな」
その言葉に吹雪はふぅとため息をつく。
「司令官の方は思ったよりも大丈夫そうですね。もっと悲しんでいるものかと思ってました」
霞の事を何とも思ってなさそうという提督に冷ややかな視線を送る吹雪。そんな吹雪に対して提督は珍しく声を荒らげた。
「霞が轟沈するその瞬間を見てすらいないのに……受け入れられる訳がないだろ!!」
「私がこの目で見ました!霞さんは……私を庇って………うぁ…」
吹雪は目に涙をうかべながら当時の記憶を思い出してしまった。
(遠征もあと半分くらいで終わりですね!)
吹雪はもう少しで遠征が終わると思い、少し浮き足立っていた。そんな吹雪を霞は見逃さなかった。
「ほらそこ!気を抜かない!何があるか分からないんだから!」
「すっ…すみません!」
「しゃんとしなさいな!帰ったら甘いもの用意してあるからもう少し頑張りなさい!」
「ほんとですか!?やった〜!!」
「気を抜かないったらーー!!」
ぴょんぴょんと飛び跳ねながら嬉しそうな仕草をする吹雪と、怒りながらも喜んでもらえて満更でもなさそうな表情の霞。そんな2人の様子をクスクスと笑いながら他の艦娘達は暖かく見守っていた。この一時は大きな爆発音と同時に終わりを迎えてしまった。爆発音の数秒後、部隊の周りに巨大な水柱が数本上がった。
(奇襲!?電探には何も……)
霞はふるふると首を横に振る電探の妖精を見た後に、爆発音の鳴った方向をキッと睨みつけた。霞が電探の索敵範囲外から襲撃されていると気がづくのに時間はいらなかった。通常ではありえない、規格外な深海棲艦が遠征部隊を狙っていたのだ。
「ミーツケタ……タノシイジカンガハジマルナァ!!」
ニヤリと口角を上げながらその深海棲艦はゆっくりと照準を合わせた。
次回作も頑張って書きます!というか書いてる途中です!楽しみに待っててくださいね〜!応援コメントとかあったら泣いて喜ぶのでぜひ!!
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