「…ついに着いてしまったか」
(早いとこ入ってみんなに伝えなきゃな…)
「…あれ?」
第一ホールの威厳のある扉を前にして俺はまだその扉を開けるかどうかを躊躇っていた。いや、”開けられなかった”の方が正しいのかもしれない。頭では扉を開けろと言っているが、体が言う事を聞いてくれない。
「何で入れないんだよ…くそっ」
中では元気な艦娘達の声が聞こえる。きっと俺の事を待っているのだろう。
「どこまで情けねぇんだよ俺は…」
その時、後ろからポンと肩を叩かれた。
「提督、私が提督の背中を押してやろう」
「長門…」
長門はそう言うと第一ホールの扉を開けた。俺は呼吸を乱しながら一歩、また一歩と第一ホールの中へ足を踏み入れる。途端にホール内が静まり返り、艦娘達は一斉に敬礼をした。心臓の鼓動がうるさい。元帥に呼び出された時以上の動揺をしている。自分が一番よくわかる。そうして俺は艦娘達の前に出た。
「本日は提督から重大な発表があります。皆さん、落ち着いて聞いてください。それでは提督、どうぞ」
大淀からマイクを渡される。
「みんなおはよう。えーっと…その…」
艦娘達が不思議そうな目で俺を見る。
『……?』
「突然で本当に申し訳ないんだが…あの…」
『…………???』
俺は言葉がでなかったが、勇気振り絞って話始めた。
「実は…実は俺、明後日から〇〇鎮守府へ異動する事になったんだ…護衛として吹雪と長門、そして明石が同行する事になっている。その間の提督代理及び鎮守府の運営は金剛型四姉妹に任せる。今後は彼女達の言う事を聞くように…」
俺が説明をしていると…
「えっ?」「は?」「嘘…」「聞き間違いか?」「…え?え?」「何で…?」「嫌…嫌だよ…」「そ、そんなぁ…」「俺は認めねぇぞ!」「司令官…いなくなっちゃうの?」「……」
一瞬のうちに混乱の渦に飲み込まれるホール内。大淀もしばらく呆然としていたが、我に返ったように
「せ、静粛に!静粛に!」
とみんなをなだめ始めた。しかしその声は艦娘達に届く事はなかった。もはやホール内は泣き声などが響く阿鼻叫喚の地獄になっていた。ホール内はもはや収拾がつかなくなっていた。
(やっぱりこうなっちゃうか…)
と、収拾を半ば諦めかけていたその時、
パァン!
吹雪が大きく手を叩いた。一瞬で会場が静まり返ったのを確認して吹雪が低い声で話始めた。
「まだ司令官の話の途中ですよ…?誰ですか喋ってるのは…後でお仕置きしちゃいますよ?」
その瞬間その場にいた全員の背筋が凍った。とんでもない圧力だ。こっちまで怯んでしまいそうな何かが伝わってくる。静かになったのを確認して
「さ!司令官!続きを話して下さい!」
と言いながら吹雪が笑顔でこちらを振り向いて来た。
「あ、ありがとう吹雪」
(こ、こえー吹雪だけは絶対に怒らせないようにしよっと)
そんな事を思いながら俺は落ち着いて説明を再開した。
「いいか、異動する。といってもあくまで一時的にだ。俺は〇〇の艦娘達のメンタルケア等を任されているからそれらが片付き次第またこっちに帰って来れると思う。それがいつになるかはわからないが、必ず戻って来る事は約束しよう。」
ふと艦娘達の方を見てみると、下唇を噛み締めている者やすすり泣いている者、下を向いて静かに話を聞いている者など、艦娘達の反応は様々だったが、みんな悲しんでいるのは同じのようだ。
「…以上で俺からの発表を終わる」
「…総員提督に…敬礼!」
大淀の振り絞るかのような掛け声で艦娘達はビシッと綺麗な敬礼をした。
「では提督、執務室に戻って異動手続き等を済ませてしまおう」
「あぁ」
みんなの悲しそうな顔がまぶたに焼き付いて離れないがが、提督としてけじめを付けないといけないので長門はと共にホールから出る事にした。
「ごめん…みんな」
側にいる長門にも聞こえないような声でそう呟いた。
提督が第一ホールから出るのを確認した金剛が
(………よし、長門が上手く帰してくれたネ。異動の書類を今日までという事にしておくのは正解だったようデース。)
待ってましたと言わんばかりに金剛は前に出て大淀からマイクを受け取って話し始めた。
「みなサーン!このままただテートクを見送るだけでいいんデスカー?」
艦娘達はただただぽかーんと金剛を見ていた。
「見ましたカ?ホールから出ていく時のテートクの顔!この世の終わりみたいな顔ネ!テートクには笑顔で〇〇に行って貰いたいデース!みなサンもそう思いませんカー?」
突然の金剛の問いに反射的に頷く艦娘達。金剛がそれを確認すると
「いい返事デース!実は私達金剛型四姉妹がテートクの為に最高のサプラーイズを考えて来たネ!」
急すぎる展開に艦娘全員がまだ困惑の表情を浮かべている。
「え、えっと…金剛さん。具体的にはどういう…」
大淀が若干申し訳無さそうな口調で尋ねた。
「私に任せるデース!比叡!榛名!霧島!」
金剛が三人の名前を呼ぶと三人が【提督サプライズ大作戦】と書かれたホワイトボードを運んで来た。ホール内の艦娘の視線がホワイトボードに注がれる。
『おおー』
感嘆の声を上げる艦娘達
「なる程…これなら…」「いいね!こういうの!」「提督、喜んでくれるかなぁ」「素敵なのです!」「頑張るぞー!」
ホール内はすざまじい団結力で満ちていた。
「みなサーン!大規模作戦発令デース!絶対に成功させますヨー!」
『『オー!!!』』
艦娘達全員の気持ちが提督の為に一つになる瞬間であった。
(執務室)
(金剛達は上手くいったのだろうか…)
長門は金剛達のサプライズを成功させる為の時間稼ぎを頼まれていた。長門自身も提督には悔いを残したままこの鎮守府を離れて欲しく無かったから迷うことなくサプライズに賛同した。
(きっと素敵なサプライズになるな…)
そう思っていた矢先、提督が
「なぁ長門…」
今にも消えてしまいそうな声で提督が話し始めた。
「俺って…提督に向いていないのかな」
その言葉に長門の顔が険しくなる。そんな長門の様子に気がつく事もなく提督は話を続ける。
「みんなの気持ちも考えずに一人で自分勝手に決めちゃってさ…最低な提督だよな…俺って」
「………」
長門は黙って提督の話を聞いていた。
「さっきだってそうだ、長門がいてくれなきゃ俺はホールの扉すら開けられなかった…吹雪がいてくれなかったらみんなを落ち着かせる事も出来なかった…所詮俺は誰かがいなければ動けないような弱い奴なんだよ…」
「………………」
「こんな奴が提督なんて向いているはずがないんだ…!!長門もそう思うだろ!?どうせ〇〇なんて行っても何も出来ない!!……そうだ!!それならいっその事提督を辞めてしm…」
「…………!!」
『パシン!』
乾いた音が執務室に鳴り響いた。長門が提督の頬を叩いたのだ。提督には一瞬何が起こったのか分からなかった。
「言っていい事と悪い事があるぞ提督」
長門の目は怒りと心配が交差しているような目だった。
「長門…」
「急にぶってすまなかった…提督はそこまで思い詰めていたのだな…気がついてやれなかったのも私の注意不足だった…」
「………」
長門は呆然としている俺に突然ハグをして来た。
「なっ…」
「提督…たまには……泣いてもいいのだぞ」
「いや、いいって…」
「………………」
「本当に…大丈夫…だがら…っ」
「……………………………」
「あ…うあ…」
優しく抱きしめてくれる長門に金剛の言っていた言葉がフラッシュバックする。
(ハグすると自分も相手も幸せな気持ちになれるネ…)
俺の心の不安がどんどん消えていくのが分かる。グチャグチャした物が全部溶けていく。俺は長門に抱きしめられたまま心の全てをぶちまけた。
「俺っ…どでも…不安で…グスッ……なざげなぐっでっ…ヒッグ…誰にも゙…ウグゥッ…」
「うん…そうだな…」
長門は俺の気持ちを静かに全て聞いてくれた。俺は時の流れも忘れて長門にずっと泣きついていた。その間も長門はずっと相槌をうちながら俺の話を聞いていた。
「どうだ?提督、少しは落ち着いたか?」
「ありがとう…また長門に助けられちゃったな」
「気にするな、提督の背中を押すと言っただろ?これからも共に歩んでいこうではないか」
「……あぁ」
二人はガッチリとした握手を交した。吹雪とは違う大きな手は見た目以上に更に大きく、頼もしく見えた。と、その時長門に無線が入って来た。声の主は金剛のようだ。
(長門!準備オッケーネ!テートクを食堂まで連れてきて下サーイ!)
「了解だ、今から向かう」
「ん?長門?なんか言ったか?」
「提督!ほら行くぞ!」
「え、えぇ!?」
訳がわからないまま長門に連れられて俺は執務室を出て食堂に向かった。
ここまで読んでくれてありがとうございます!よかったら感想と評価の方もよろしくお願いします!次回もまた妄想に任せて書いていきたいと思いますので応援よろしくお願いします!それではまた次回作で会いましょー!
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