「ちょ、どこ行くんだよ、長門!?」
「いいから付いて来い!」
長門が腕を引っ張って何処かへ連れて行こうとしている。その表情は嬉しそうだった。広い鎮守府内を歩き回った後、提督は食堂の前に着いた。
「ここは…食堂か?何でこんな所に…」
「さぁ、入るぞ!提督!」
「お、おう?」
ちらりと腕時計を見ると夕飯の時間だった。
(こ、こんなに時間が経っていたのか…なるほど、長門は飯が食いたかったのかな…?)
俺はふと長門の顔を見てある事に気がついた。
「何で長門はそんなにニヤニヤしてるんだ?」
「む、別にニヤニヤなど…」
(な、なんか…いつもと違うな)
どこか楽しそうな長門を若干不思議に思いながらも俺は食堂の中へ入った。
「あら提督。こんばんは」
間宮さんのその言葉に食堂内が少しざわついた。
「こんばんは間宮さん。今晩のオススメは何ですか?」
いつも通りそう言うと間宮さんはぱぁっと笑顔になり、若干興奮気味に言った。
「カレーです!!」
俺は珍しくテンション高めな間宮さんからカレーを受け取って近くの席に着いた。長門は金剛達の方へ向かって行ったのできっと金剛達と食べるのだろう。どこからか視線を感じるような気もするが…
「ま、いいや。いただきまーす……ん?」
(な、なんだ…?この野菜の切り方は…)
そのカレーの中の野菜はかなり不揃いに切られていた。じゃがいもは皮が若干残っているし、人参は大きすぎるくらいだ。玉ねぎに至っては小さすぎて少し溶けてしまっている。
(あの間宮さんがこんな単純なミスをしたのか…?)
どこか引っかかるが、空腹は待ってくれなかった。スプーンでカレーをすくって口に運ぶ。
(なんだこれ…いつものカレーのはずなのにすっげぇうまいぞ!)
その瞬間、周りからぞろぞろと艦娘達が集まって来た。展開が読めないでいると吹雪が突然話しかけてきた。
「司令官!美味しいですか?」
「あ、あぁ。いつものカレーのはずなんだけどなんか今日のはいつも以上に美味しく感じるな」
『『どわぁっ!』』
俺の言葉に周りの艦娘達が一斉に声を上げた。その表情はとっても嬉しそうである。
「ど、どうしたんだよ一体…」
「司令官!実はですね、司令官にみんなで恩返しがしたいと金剛さんが言って下さってですね!みんなでカレーを作ってみたんですよ!私達駆逐艦のほとんどが料理するのが初めてだったんですけど、戦艦や重巡の皆さんに教えて貰いながら頑張って作ったんですよ!」
よく見ると指に所々絆創膏をしている子や火の様子を見ていたであろう煤のついた子などがいた。
(だからあんなに切り方が不揃いだったのか…)
「みんなが…俺の為に…作ってくれたのか…?」
『『はいっ!』』
艦娘達は純粋な返事と笑顔を返してきた。途端に目頭が熱くなる。自分の為に誰かに何かをやってもらうというのは、自分の親以外からでは初めての事だった。
(俺は…こんなにいい艦娘の提督になれてよかった…)
「あー!しれーかん笑ってるー!」
「…えっ?」
提督は自分でも驚いていた。どうやら気が付かないうちに笑っていたようだ。それは出張の時のような作り笑顔ではなく、純粋な心からの笑顔だった。
(提督…いい笑顔だ…胸が熱いな…)
「ヘーイテートクー!みんなからテートクに渡す物があるデース!」
金剛が一つの冊子のような物を持って近付いてきた。
「みなサーン!行きますヨー!セーーノッ!」
『『提督(司令官)!今までお世話になりました!!』』
みんなの言葉と共に金剛から差し出されたそれは一人一人のメッセージカードが束になっている物だった。その中にはありがとうや頑張ってねなどありきたりではあるが気持ちのこもった温かい文字が並べられていた。
「みんな…みんなありがとう!俺すっげぇ嬉しいよ!」
(俺はこんなにもみんなから愛されていたんだな…)
メッセージカードを一枚一枚めくる度に視界がぼやけてくる。
「テ、テートク!?一体どうしたデース!?」
俺は泣いていた。その涙は冷たい涙ではなく、とてもあったかい、心地のいい涙だった。
「みんな…ありがとう…ありがとう…」
(oh…こっちまでもらい泣きしちゃいそうデース…)
その後はいろんな艦娘達と話して回った。消灯時間はとっくに過ぎているが、今日ばかりは誰も注意する者はいなかった。
「では提督、明日も早いからそろそろ寝るとするか」
「あぁ、すごく素敵な時間だった。みんなもありがとう!」
『『提督(司令官)!おやすみなさい!』』
「うん、おやすみ!」
そうして俺は自室に戻り、いつものように歯磨きを済ませ、布団に入った。まだ心がぽかぽかしているような気がした。
(今日はよく眠れそうだな…)
いろいろと疲れた事もあってその日はすぐに眠れた。
(次の日)
「司令官!こっちです!」
遠くの駐車スペースで吹雪がこちらに手を振ってきた。側には長門と明石の姿もある。
「おーう!今行くぞー!」
大きなスーツケースを持ちながら俺も駐車スペースへ向かった。中身は衣類等なので見た目より少し軽いくらいだ。
『提督(司令官!)』
後ろで艦娘達の声が聞こえた。思わず振り返る。
『〇〇でもお元気で!私達はいつまでも帰りを待ってますから!』
「ばっか大袈裟なんだよまったく…」
口ではそう言っていても内心はとても嬉しかった。俺が艦娘達に手を振ると艦娘達も一斉に手を振り返してくれた。
「提督!早くカギ開けちゃって下さい!」
「あぁ今から…っておい明石まさかその妖精さん達全員連れて行くのか!?」
遠くからはあまり見えなかったが明石の周りには二十人ちょっとの妖精がふよふよ浮いていた。
「これでも最低限まで減らしたんですよ?中には泣きついて来る子とかもいて大変だったんですから!」
「まぁいい。いいよ。百歩譲って妖精さんはいいとしよう。でもその後ろのバカでかいリュックはもう少し何とかならなかったのか?」
「こっこれも全部必要なんです!私使い慣れた工具じゃないといまいち調子出ないといいますか…とにかく絶対にいるんです!」
「わかった、わかったから!」
俺は全員分の荷物をなんとか車の中に詰め込み終わった…明石の分は自分でやってもらったけど
(しゃ、車体が傾いている…どんだけ重いんだよあれ…てかあれを軽々と背負う明石って…考えないようにしよう)
そんなこんなで俺は明石と長門と吹雪の三人と共に〇〇鎮守府へ出発した。運転はかなり久しぶりだったがまだなんとか車は動いてくれるようだった。
「所で提督、〇〇へはあとどれくらいで着くんだ?」
「こっから反対側の日本海の辺りだがアクセスはまぁまぁいいから5〜6時間くらいで着くかな」
「な、長いですね…提督、安全運転でお願いします」
「……三人共途中でトイレ行きたくなったら言えよ?」
「司令官その発言はちょっと…」
「え?今の言葉どっかまずかったか?」
「提督…少しはデリカシー持って下さい…」
そんな他愛のない話を続けながら俺達はやっと〇〇鎮守府に着いたのだが…?
「おい提督、本当にここで合っているのか?我々は肝試しをしに来たのでは無いんだぞ」
「いや長門、間違いなくここが〇〇鎮守府だ」
「鎮守府って…これが…」
俺達は絶句した。かつて写真で見たような立派な門は錆がひどく、門として機能していないかったし、外の雑草は伸び放題で手入れされている様子が一切なく、肝心の建物に至っては外壁がボロボロになっており、いつ崩れてもおかしくないような状態だった。
「と、とにかく入るぞ!話はそれからだ!」
俺達は生い茂る雑草に足を取られながらも何とか入り口のような所に辿り着いた。
「よし、ここから中に入れそうだ…」
鎮守府内に足を踏み入れようとしたその瞬間
「…今更人間が何しに来やがった?」
「遠くからわざわざ来てもらって悪いけど、ここから先には入らせないわ〜」
中から二人の艦娘が姿を見せた。その目には明確な殺意が浮かんでいた。
さてさて、五話目も無事書き終わりました!主の諸事象により若干投稿頻度が落ちますが変わらずに応援して下さると嬉しいです!モチベが上がりますので感想と評価の方もよろしくお願いしますー!ではまた六話でお会いしましょー!
続き
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