二人の艦娘は俺達に向かって躊躇うことなく刃を突きつけてきた。片方は大きな剣のような形で左目に眼帯をつけている。もう片方は薙刀のような形で不気味な笑顔を浮かべていた。突然の出来事に驚いていると、眼帯を付けた艦娘が低い声で話し始めた。
「おい人間共、俺達の気が変わらないうちにとっとと失せろ」
「君達は…天龍に龍田か。もしかして俺達がここに来る事を知らなかったか…?」
「あら〜聞こえなかったかしら〜?さっさと消え失せてちょ〜だい?ここにあなた達の居場所はないわよ〜?」
「…悪いが帰る訳にはいかない。俺はこの鎮守府を変える為に来た」
「変える…だと?ハハハッ前に来たあいつも同じ様な事を言ってたなぁ…」
(前…だと?ここに来ていたのは俺達だけじゃなかったと言う事か…?)
「前?俺達よりも前に誰かがここを尋ねてきたのか?」
その瞬間天龍の目が変わった。剣を持つ手が更に強く握られる。
「そうだ…!前来たあいつも最初はお前等みたいに鎮守府を変えるだの幸せに暮らそうだの綺麗事ばかり吐きやがった!最初は優しかったあいつは次第に俺の仲間を…みんなを襲いやがった!」
天龍が吐き捨てるように怒鳴る。
「その時俺は確信した!人間なんか一切当てにならねぇって…クズばっかりだって!」
「司令官は…そんな人じゃありません!」
「黙れ!俺達はもう同じ過ちを繰り返すのはごめんなんだよ!俺と龍田で〇〇鎮守府を守るって決めたんだ!」
「先に言っておくけど、私は天龍ちゃんのサポートをしてるだけよ〜?」
(まずいな…完全にヒートアップしてしている。このままだといつ手を出して来るかわからんぞ…)
ここでふと提督にある疑問が浮かんだ。
「なぁ天龍…お前達はなぜそこまでしてこの鎮守府を守ろうとしてるんだ…?」
その言葉に天龍が一瞬で静まり返る。そして恨みのこもったかすれた声でゆっくりと語り始めた。天龍が握っている拳からは力を込めすぎたのかうっすら血が滲んでいた。
「…俺と龍田は一昔前にここ、〇〇鎮守府で建造艦として生まれた」
(かつての〇〇鎮守府)
(ここは…)
天龍は小さな建造ドックの中で建造された。まだ意識が朦朧としているが、目の前に人影が見える。艦娘としての本能のせいか挨拶をする。
「俺の名は天龍…」
「チッ軽巡かよ…使えねぇな…」
天龍に向かってあからさまに嫌な顔を向けたこの男はここの鎮守府の提督である。
「おい妖精共!戦艦を作れってあれ程言っただろうが!軽巡なんて作りやがって!この無能が!」
提督が妖精達に怒鳴りつける。数人程度しかいない妖精達は酷く怯えている様子だった。
「何だ…この鎮守府は…」
ようやく意識がはっきりしてきた頃、天龍は恐ろしい物を目にして背筋が凍った。
「なっ…」
何とそこには【解体】と書かれた札を付けられた大破した艦娘達が沢山寝転んでいた。いや、転がっていたという方が表現的には正しいだろう。そのほとんどが軽巡洋艦か駆逐艦で、みんな衰弱しきっている様子だった。天龍はその現場を見て察した。察しざるを得なかったのだ。
「異常だ…ここ…」
力のない声で呟きながら呆然見つめていると、一人の駆逐艦が口を動かしている事に気がついた。必死に何かを伝えようとしている。
「………て…」
「……?」
その駆逐艦は狂ったように何度も同じ言葉を話していたが、天龍にその声が届かなかった。唇の動きを読んでようやくその駆逐艦が何を言っているのか分かった。
「に……げ…て………」
「…………!!」
天龍は工廠を飛び出して一目散に走り出した。行く宛などない。ただこの異常な鎮守府を一刻も早く抜け出したい。その一心だけで無我夢中に走った。幸いにも追手は来なかったようだ。
「ちくしょう…何なんだよあそこは…」
「君は…艦娘かい?こんな所で一体どうしたんだというんだ?」
(誰だ…?)
走り回って足が動かなくなっている時にとある男に声をかけられる。
「この辺りだと〇〇鎮守府の艦娘か?迷子ならば送らなければ…」
(またあの鎮守府に戻る…?冗談じゃねぇ!!)
「頼む!それだけはやめてくれ!俺はもう二度と〇〇には戻りたくねぇんだ!」
必死で訴える天龍の異常さを感じ取ったのか、男は一度考える素振りをしてから再び話し始めた。
「ふむ…実は僕、これから大本営に提督になる為の最終試験を受けに行くんだ。何か言えないような事情があるならそこで話を聞いて貰うといい。どうだ?一緒に来ないか?」
「…あぁ!勿論だ!」
そして天龍はその男と一緒に大本営まで向かった。途中の交通費はその男が全て負担してくれた。
「ほら、もうすぐ着くぞ」
「サンキューな!お前には感謝してるぜ!」
「いいんだ、また縁があったら会おうな!」
「おう!」
そこで天龍は元帥に自分が見た事を全て詳細に伝えた。元々〇〇鎮守府は報告書と実際の艦娘の数が合わなかった事かなどから目をつけられていたらしい。訴えが通るのはすぐだった。数日経って〇〇の提督が捕まったという報告が耳に入った。と、同時に新しい提督と共に〇〇へ戻るように命令された。
「…もしかしてあの時の艦娘か?」
「お!新しい提督ってお前の事だったのか!よかったな!提督になれて!」
真新しい真っ白な軍服を身にまといながら少し恥ずかしそうに話す男はまぎれもなくあの時一緒に来てくれた男だった。
「大変だったんだな天龍…でも大丈夫だ。俺が〇〇鎮守府を変えてやるさ」
それからの毎日はとても楽しかった。戦闘は少なくはなかったがそれなりにやりがいを持てた。妹である龍田もそれからすぐに着任した。
(このままずっとこいつと一緒にいれたらな…)
そう思っていた矢先、鎮守府内でとある事件が起こる。
「あーあー!何やってんだよクソが!」
鈍い音が執務室に響く。もろにお腹にグーを食らった艦娘はあまりの痛みに倒れ込む。
「お前が大破さえしなかったら俺は大将になれたんだよ!お前それわかってんのか!?」
更にうずくまる艦娘にむかって容赦なく蹴りを入れる。
「ゲボッ…ごめんなさい……ごめんなさい……」
「チッ使えねぇなまじで」
この時から提督は変わっていった。変わってしまった。最初は大破した艦娘を殴る事から始まり、経費削減と言う建前で鎮守府の工事等を放棄して最低限の補給しかしなかったり、挙げ句の果てには建造した艦娘を襲ってすぐに解体するという狂気の沙汰としか思えない行為まで行った。まともに数えればきりがない。
「なぁ龍田…この地獄はどうやったら終わるんだろうな…俺はもう仲間が傷つきながら泣く所をみるのはうんざりだ…」
「そうね〜私もいい加減嫌気がさしてきたわ〜天龍ちゃんの気持ちもわかるわよ〜」
「龍田…一緒に終わらせようぜ。この地獄をよ…」
「わかったわ〜一番手っ取り早いのは彼を…殺す事ね」
龍田が不気味な笑みを浮かべながら薙刀の刃の部分を撫でる。
「思い立ったが吉日、早速実行しましょ〜?」
天龍達はその日の夜、音も立てずに提督の自室の中に侵入した。提督はその様子に気がつく様子もなくいびきをかいていた。
「あばよ提督、もう会う事はねぇな」
龍田が体を抑え込み、天龍が首を絞める。あっという間だった。提督の心臓の鼓動は聞こえなくなり、その亡骸は海に捨てられた。次の日の朝、提督がいなくなった事は鎮守府内にすぐに広まった。誰一人として悲しむ者はなく、みんな笑顔で満ち満ちていた。だがそんな日は長くは続かなかった。提督からの定期通信が無くなった事を不審に思った元帥が提督の安否を確認しに来たのだ。何とか失踪という形にごまかせたが、しばらくしてまた新しい提督が着任する事になった。
「龍田…どうせ次の提督、いや、人間もろくな奴じゃねぇ…俺と一緒にこの〇〇鎮守府を…みんなを守ろうぜ」
「私もみんなの辛そうな顔はもう見たくないしね〜いいわよ〜」
…そうして現在に至る
「だから!もう人間なんかいらねぇ!ここは…みんなの思い出の場所だか……」
ドサッ
「………!!」
再び興奮気味になっていた天龍が突然地面に倒れた。
「おい!天龍!大丈夫か!?」
俺達が天龍の方に駆け寄る。
「天龍ちゃんに…触るなああああ!!!!!」
龍田が手に持っていた薙刀を提督に向ける。そこにはさっきまでの不気味な笑顔は消え、醜く歪んだ顔の龍田がいた。
さてさて、六話目も終わりました!ここまで読んで頂いてありがとうございます!これからも頑張るのでよかったら感想と評価の方もよろしくお願いします!ではまた七話で会いましょう!
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