「おっおい!落ち着け龍田!とにかく薙刀を仕舞ってくれ!手荒な真似はしたくないんだ!」
「うるさい…!うるさいうるさいうるさい!!」
龍田は完全にパニック状態になっている。大切なたった一人の姉が突然倒れたのだ。無理もないだろう。提督は獣をなだめるかの様にゆっくりと話し始めた。
「いいか龍田、落ち着いて聞いてくれ。天龍はうちの明石が診たらまだ何とかなるかもしれない。本業は装備の改修等だが、実は衛生兵としてもとても優秀なんだ」
「天龍ちゃん……助かるの…?」
龍田が目を見開いた。
「とりあえず状態を診なければ何とも言えません。ですが、診る為にはとりあえずその物騒な物を下ろして下さい。それが条件です。どうですか?私としては天龍さんを救いたいです。」
明石の目は真剣そのものだった。”天龍を救いたい”という気持ちは龍田も明石も同じようだ。
「………分かりました。天龍ちゃんを…お願いします。」
龍田は薙刀を地面に置いて深々と頭を下げた。その言葉を聞いた明石が背中のリュックを下ろして何やらいろんな物を取り出した。
「お任せ下さい!と、提督はあっち向いてて下さい!」
「ん?何で俺が向こうを向く必要が」
「いいからはやく向いて」
「…はい」
俺は言われるがまま後ろを向いた。後ろが凄く気になるが危険を感じたので大人しく待ってる事にした。
「さてと、ちょっと失礼しますよー」
明石は天龍の服を脱がし、体の隅々まで調べ始めた。
「古傷が凄いですね……うーんっと…あーはいはいなるほど」
「天龍ちゃんは…大丈夫なの?」
龍田はまるで子供の心配をする親のようだった。明石は落ち着いた声で話し始める。
「はい。おそらく栄養失調でしょう。命に別状はありません。点滴をして安静にすれば大丈夫ですよ」
明石は手際よく天龍に点滴を始める。
「よかった…」
明石の言葉を聞いた龍田は震えながらそう繰り返し呟いていた。
「ちょっと待て、本当に天龍は栄養失調なのか?そこまで体型に異常は見られなかったが…」
提督は後ろを向いているので若干大きめな声で話す必要があった。
「艦娘は見た目が変化しません。歳を取っても老いる事はありませんし、痩せる、太るという概念もありません。もしあるとしたら赤城さんは間違いなく凄い事になってます」
「確かにそうだな…と、おい明石、天龍が栄養失調ならここの艦娘はほぼ全員天龍と同じ状態じゃないのか?」
「もし天龍さんと同じ様な生活をしていたらその可能性も十分にありえますね。尤も、実際に診てみないとわかりませんが…」
「わかった。長門、取りあえず天龍を運んでくれ。龍田、天龍の部屋を案内してあげてくれるか…?」
「……わかりました〜長門ちゃん…だっけ?こっちよ〜」
「服を戻して…よいしょっ…と、龍田、すまないが点滴を持ってくれないか?」
「お安い御用よ〜」
天龍を背負った長門と龍田が何やら話しながら廊下を歩いていった。
「さて、提督!私は工廠施設と入渠施設の確認に行ってきますね!」
「おう、さっきはありがとな明石!おかげで助かった。それで、俺はもう振り返ってもいいのか?」
「あ、すいません!提督の事すっかり忘れてました!もう大丈夫ですよ!」
「…まぁいいさ、頼んだぞ明石」
「了解です!」
明石はリュックを背負って鎮守府の周辺を歩き始めた。
「司令官!私は何をしたらよいですか?」
「そうだな…吹雪は俺と一緒に町に出て貰おうかな」
「わかりました!でも何で町に行くんですか?」
「みんながみんなが天龍みたいではないと思うが…明らかに栄養状態がいいとは言えない。だから食材を買って俺達で料理を振る舞ってやろうぜ」
「それはいい考えですね!では行きましょう!」
俺と吹雪は買い出しの為に町に向かった。
(天龍と龍田の部屋)
「ここでいいのか?」
「そうよ〜入って入って〜」
天龍を担いだ長門は天龍と龍田の部屋についた。
「失礼す……!?」
(何だここ…部屋……なのか?)
そこにはささくれまみれの畳の上にボロボロの布団が二つあるだけの部屋というにはあまりにも殺風景すぎる場所だった。
「こっちが天龍ちゃんの布団よ〜寝かせてあげて〜」
天龍を布団に寝かせた後、長門が真剣な目で龍田に聞いた。
「龍田、もしかしてここ以外の部屋もこんな感じなのか?」
「ここはまだましな方よ〜中には布団すらなくて床で寝ている様な子もいるわ〜それも狭い部屋に似合わない大人数でね〜」
「なっ……酷すぎる…」
長門が衝撃的な鎮守府の実態に唖然としていると、龍田が唐突に話し始めた。
「……長門ちゃん、質問してもいいかしら〜?」
「あっあぁ…答えられる範囲なら私が答えよう」
「あなた達は何でここに来たのかしら〜?」
「……提督がここの鎮守府のみんなを救いたいと言ったから来た」
「そう…じゃあ長門ちゃんにとってあの人の事はどう思ってるのかしら〜?」
龍田がまるで心を読むかのように長門の顔を覗き込む。
(提督の事を…か…)
長門は迷う事なく龍田の目を見て話し始めた。
「提督は一人ではほとんど無力に等しいような奴だが、誰よりも優しい心と行動力、そして信頼を持っている。我々はそんな提督を心から尊敬している。仮に提督が誤った道に進もうものなら我々が必ず止めるし、立場が逆でもきっと提督は体を捨ててでも我々を止めてくれるだろう。それに…側にいるとなぜか妙に安心できるんだ」
「フフッ長門ちゃんは本当にあの人の事が好きなのね〜」
龍田が微笑んだ。それはあの時の不気味な笑顔ではなく、自然な笑顔だった。
「む、別に好きという訳では…」
「あら〜?長門ちゃん〜?さっきより顔が赤いわよ〜?」
「なっ…そそっそんなことは…」
「そんなに焦っちゃって〜図星だったかしら〜?」
「とっととっとにかく!龍田よ!ここの鎮守府の執務室に行きたいから案内してくれないか?」
「あらあら〜長門ちゃんかわいいわ〜執務室ならここを出て右に曲がった突き当りよ〜」
「そっそうか…では失礼する!」
龍田は動揺しまくりながら部屋を出る長門を見送った。
(私も…いつか当たり前にさっきのように笑えるようになれたら…)
そう思っていた矢先、天龍が目を覚ます。
「う……ん…」
「天龍ちゃん!?よかったわ〜急に倒れちゃうんですもの〜」
「ん…?あぁ龍田か、わりぃわりぃ……ってあいつはどうなった!?クソッ絶対に認めねぇからな!」
天龍が空っぽの点滴を外して立ち上がろうとする。
「天龍ちゃん」
「あぁ!?何だよ龍田!!」
「私ね〜あの人を信じてみようと思うのよ〜」
「は…はぁ?何言ってんだ?」
「最初に見たときは人間なんてって思ったけど〜あの人と一緒にいた艦娘と話をして考えが変わったのよ〜」
「いーや!俺は人間なんて…」
「天龍ちゃん!!!」
龍田が天龍を真っ直ぐ見つめる。
「天龍ちゃんも本当は気がついているんでしょ…?今のままじゃ何も変わらないって。確かにここを一緒に守る事には賛成したわ、だけどいつまでも逃げてはいられないの」
「龍田…」
龍田はいつもののんびりとした口調ではなく真剣な口調で天龍に話す。
「彼は天龍ちゃんが倒れた時、真っ先に天龍ちゃんを診る事を提案してくれたの。それに、一緒にいた子たちもみんな提督の事を信頼しきっている様子だったわ。」
「でも…」
「私にはわかる。彼は本当にここの鎮守府を変えようとしてくれているわ。だから…一緒に彼の事、信じてみないかしら?それでまた一緒にこの〇〇鎮守府を作り直しましょ…?」
「………………」
天龍は黙って頷いた。
「ありがと〜天龍ちゃん〜」
「わかった!わかったから抱きつくな!」
龍田はとても楽しそうに笑っていた。天龍の方も口ではやめろと言っているものの、満更でもなさそうな表情だった。二人のその目にはかつての殺意はなく、純粋な光が戻っていた。
(〇〇鎮守府から最寄りの町)
「ふむ、アクセスとしては悪くないかな」
提督と吹雪は鎮守府みんなの食材を持ち帰る為に車で町まで来ていた。鎮守府の近くとはいえ田舎の方なので商店街が主な食料の調達場になりそうだ。
「司令官!今日は何の料理を作るんですか?」
「特には決めていないが…十分に食べれてない事を考えると消化のいい物がよさそうだな」
「なるほど!お粥とかですか?」
「まぁその辺りだな。とりあえず食材を見に行こうか」
「はい!」
俺と吹雪が商店街の中に入ると、急に商店街がざわざわし始めた。あちこちから刺さるような視線とヒソヒソ話が聞こえる。
(な…なんだ!?何が起こってるんだ!?)
提督はこの時知る由もなかった。かつてこの商店街で何が起こったのかを…
第七話!終わりました!お気に入り50件突破、本当に嬉しいです!よかったら感想と評価の方もぜひお願いしますー!ではまた八話で会いましょう!
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