俺のサーガはセカンド・シーズンから始まるようだ 作:魔女太郎
目的は、魔人の無力化。
方法は、肉体再吸収の阻止による弱体。
手段は。
「手だ」
三人に思いつきを説明する。戦いの経験などない俺のそれは、三人によるダメ出しや細部の変更を経て、どうにか作戦と呼べるものに昇華される。
「こうして突拍子もないことを思いつくのは、記憶はないけどあんたらしいわね」
「思いつきとか、思考能力自体は培ってきたものだから、一年で大きく変化しないんじゃないかな」
「死ななければお姉ちゃんが治せるから、無茶しない程度に頑張ってきてね」
「了解」
「じゃあ行きますよ、ミナトさん」
「ああ、頼むぜベル」
そこら辺にある石を足元に半分顔を出すように二つ埋め、準備は完了。
石にそれぞれ足をかけ、構えをとる。
「……なんだ、その妙な構えは」
攻撃を続けるショールゴルグスは目ざとく俺を見つけて、先んじて潰そうとする。対策を取ったとは言え、俺の攻撃が奴の一番の脅威。実際は後ろ二人の方がよほど、なのだが勘違いしたままだ。その二人の魔法と呪術、錬金術で攻撃は全て防がれる。
ふと、重要なことに気づくが、今更どうしようもない。今は作戦を成功させるため、口をしっかりと結んで、四肢に力を込める。
教えてやろう魔人、この構えはクラウチングスタート。元の世界でもたった百年ちょっと前に出来上がった、今でも現役バリバリの走るための戦術。先の追いかけっこで、この世界にまだないというのは確認済みだ。
これは助けに入ったときの速度とは段違いの初速が出る。あの程度で速いと言っていた奴が、はたして対応できるかな?
位置につき。
用意。
ドン!
「!?」
見失っている。この肉体に技術が加われば、そうもなるか。
最初の条件、まずは四本腕の内一つを狙い、その手を掴む。
「わざわざ捕まりに来たか!」
違う、速度を持ったまま、お前の手を掴んだのだ。
さて、記憶を失ったことで俺は力加減が不得意になった。正確に言えば、上限が果てしないため、本当の意味での全力は出せない、そして細かな調整が苦手、思わず地形を破壊してしまう。
が、何も全部という訳ではない。そもそも最弱の力を使おうとしている無意識での行動は当然だが、力を適量込められる動作が数点だけある。その中で最も得意なのは、握手。
三日間の長い追いかけっこで、ずっと意識していたのは、ともかく左手のセレメアだ。壊さないように、という訳ではなく離さない技術、それは力を込めることも緩めることも重要で、力加減において、俺の中で一番得意な行動。
掴んだ手を離さないこと。その一点に関してのみ、俺は記憶を失う前に戻っていると言っていいだろう。
だから。
「なんだ、この力は! 人が魔人に匹敵、いや、それ以上など」
握力勝負で負ける気がしない。
次いで得意なのは走ること。脚力は街を破壊しない程度に込め、ぶくぶくに膨れ上がったその図体を上下左右に引きずり、振り回してやる。
「なるほど、斬撃が通じないなら、このまま叩きつけて衝撃で攻撃するつもりだな! だが、その握手は悪手だ!」
握っているショールゴルグスの手の甲から、別の腕が生え、俺の喉を締めようと伸びる。
「殴るだけが腕じゃない、息の根を止めるこの一手、防げないだろう!」
当然そんなことは予測している。攻撃しても俺にダメージを与えられないショールゴルグスがなぜそれでもその手を休めないのか、それは肉体の堅牢さに関係のない勝ち筋があるからに他ならない。つまり窒息狙い。
対策は万全だ。
俺は迫る手を見据え、閉じていた口を開いた。
「ベットベトですよ!」
「悪かったって。これで、ようやく喋れる、どうだ魔人、打つ手なしだろう?」
追いかけっこ中、全力で掴もうとした俺の手すら弾くベルにとって、この程度の攻撃弾くのは訳ない。
そしてそれを防がれるとなれば当然。
「残念だったな、奥の手がある! 『
弾かれた腕から、俺たちを纏めて覆う程夥しい数の腕が生えて包み込んでくる。
視界が塞がれる瞬間に見えたが、肉体の防御に使っていた分を吸収し、こちらの腕に変換したようだ。
「これは弾けまい! このまま圧殺だ!」
そうだろう、そうするしかない。数本程度ではベルに弾かれる。ならば増やすしかないが、腕の数は現状ギリギリ。俺が叩きつけると思っている魔人は、剣の防御を一度解き、その分の腕を回すはず。ここまで想定内。
これで無効化できる条件は整った。
腕を取って走り、なるべく本体部分と距離を空ける。
攻撃方法を誤認させ、本体部分の腕をこちらに回してもらうこと。
最後に、なるべく俺の周りを覆ってもらうこと。
この最後の部分で怒られ、色々と修正を掛けることになったのだが。
「来い、ベル」
「呑み込まないでくださいね」
ベルは再度俺の口の中に入る。俺は握り潰そうとする腕に抵抗しながら衝撃に備える。
頼むぞ、セレメア。
「『
目蓋を貫くほどの圧倒的輝きが襲う。脳の中で小さな爆発が何度も起こっているかのようで、思考が行ったり来たりと落ち着かない。もし、痛みや熱さを感じていても、きっと正確には受け取れていないだろう。
魔法について詳しくはないが、おそらく今、セレメアによって熱か何かで俺もろとも攻撃されている。
最後の最後、再生させないために、本体から遠ざけた腕をまとめて圧倒的火力で消滅させる。
問題は、俺に魔法の知識がないため対魔法抵抗というのができない。つまり肉体的には優れていても、魔法に関しては無防備ということだ。
けれどここで手を抜くわけにはいかない、次は警戒されて使えない一度きりの作戦なのだ。だから、なるべく強い魔法をお願いしたのだ。
それにしてもまだ続くのだろうか、いや、俺の時間の感じ方がもうおかしくなっているだけなのか。
死ななければといってもらえたが、無茶しすぎたかもしれない。
なんだか、眠く、なってきた。
「おい寝ぼけてるんじゃねーぞ、さっさと起きろ」
「寝かせてくれよ、寝不足なんだ、お前は知らないだろうけど」
「は、自分のことを知らない奴がどこにいるよ、俺はお前、お前は俺なんだぜ」
「勘違いしてない? 俺はミナトだけど」
「お生憎様、俺もミナトだ」
「だったらお前が起きてればいいだろ、俺は寝る」
「そういうわけにはいかないんだよ、起きれないんだ俺は」
「どうしてさ」
「自分のことを聞くバカが、そして答えるアホがいるかよ」
「なんだか口が悪くないか、俺のくせに」
「当たり前だろ、同じだけど違うんだ、俺は一年俺の先輩だ」
「ならあんたが『ミナト』か」
「だから言ってるだろう。お前が頑張らないと世界が破滅する、だから頑張れ」
「なんで俺がそんなこと」
「何度も言うぜ、自分のことを」
「分かったよ、もう聞かない」
「安心しろ、俺が通った道だ」
「なんかお助けとかないの?」
「いくらでもあるぜベルも、セレメアも、クルクスも、ゼットも、クガナも、他にもたくさん助けてくれるさ」
「待ってくれ、知らない名前があるんだけど」
「相棒だって、魔法だって、ギルドだってある、できないことはないぜ」
「使えないんだけど」
「そこは頑張れよ。恵まれてるぜ、ゼロからやった俺よりは。セカンド・シーズンなだけある」
「頭が痛いよ」
「そろそろ目覚める兆しだな」
「当て付けなんだけど」
「分かってる」
「ミナトさん、気づいたみたいです」
「ほら、起きなさい寝坊助」
「お姉ちゃんとしてはもう少しこのままでもいいんだけど」
目を覚ますと仰向けの俺を覗き込むように三つの顔が、いや、クルクスさんの顔は諸事情で見えない。膝枕されているな、これは。
「どんくらい寝てた?」
「私があの魔人捕まえてボコボコにしてる間くらいだから……数十分よ」
と、言うことは作戦がうまくいったみたいだ。
起き上がろうとするが、クルクスさんに止められる。
「いくらお姉ちゃんの『
「きちんと全力出した中で手加減したわ!」
作戦の中でダメ出しをされ、変更した部分。それはクルクスさんの錬金呪術アイテムを用いて、セレメアの魔法に耐えれるようにすること。
走り出す前、服の下にこっそり巻いてもらったのがどうやらきちんと作用したみたいだ。
少し目線を隣に逸らせば、おそらく魔人の腕を消滅させた場所、そこには大きな穴が。煙とぐつぐつと言う音が漂ってくる。
あれを受けて少しの気絶だけで済んでよかった。目覚めは悪いものの、身体に痛みはない。
「それでね、ミナト。魔人を問いただしたんだけど」
その先の答えは、おそらく危惧した通りだろう。作戦開始前に気づいた重要なこと。
「魔人は、あんたの記憶については何にも知らないみたいだった」
「やっぱりそうか」
俺の記憶を奪ったにしては、弱いというのは勿論だが、情報を知らなすぎた。それはセレメアの本来の魔法のスタイルや、何より俺について。魔人はわざわざ記憶を奪ったにしては戦い方がその場その場で対応するだけ。作戦がないのだ、記憶を奪ったなら事前の俺を知っているはずなのに。
気づいたのは直前だったし、万が一もあり得るのでそのまま作戦は決行して、生け捕りにしたが。
「あれ、そう言えばその魔人は」
「もうぶっ消しちゃったわ、魔人は素材として活用できる部分も少ないし」
ちなみに怪我人達は全員無事とのこと。それはよかった。
「本当に無関係に発生した魔人だったみたい……弱かったから出来立てっていうのは納得できるけど」
「偶然って怖いですねぇ、ミナトさんの近くで魔人が発生するなんて」
本当に迷惑だ、おかげでやらなくてもいい綱渡りを……まあ補助輪付きみたいなものだが。
「案外、誰かがドラゴンとかの死体を放置したりしてそれに魔物が群がったとかありそうよね。まあ、ドラゴンをそんな風にするなんて、よっぽど何か、戦闘の際に吹き飛ばしたりしないと有り得ないけれど」
「……」「……」「……あの、ミナトさんこれって」
まったく迷惑な奴らだ。