俺のサーガはセカンド・シーズンから始まるようだ   作:魔女太郎

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第十一話「さあ、始まるぜ俺のサーガ」

「夢で会った?」

「『ミナト』とな」

「記憶は奪われているはずだけど、確かに名前はギルドの仲間と一致しているわね……どういうことかしら」

「俺の世界だと記臆は脳だけじゃなくて他の身体の部位にもあるなんて説があった」

「それがミナトくんの夢に呼びかけて来たってことね」

「もしくは、ミナトが予め用意していた魔法とか」

「でも要領を得ない情報ですね、世界が破滅する、ですっけ」

「俺の記憶を奪われた理由は、その破滅に関係しているってことなのか。大事(おおごと)になってきたな」

「元々大事よ」

 

 さて、魔人騒動の翌日。クルクスの家。

 たっぷりの睡眠と食事で回復した俺達は奇妙な夢の話を共有し、今後の対策を練っていた。

 

「元々ミナトくんはその世界の破滅について知っていたのかしら」

「まあ、知っていたからこそ記憶を奪われたわけだし」

「じゃあ、何でベル達には教えてくれなかったんですかね」

「私たちの中に裏切り者がいる──」

 

 クルクスさんの発言に、ぎょっと驚く二人。

 部屋に緊張感が走る。

 

「なんて、そんなことあり得ないわね」

「だぁあ! おかしなこと言わないでよ!」

「息止めるかと思っちゃいました!」

 

 まあ、裏切り者がいるなら仲間を頼れとも言わないだろうし。

 

「ミナトくんがどういう意図だったかは分からないけれど。とにかく記憶を奪った者がいることは確か。それが私の予想した通り、『敵』の残党なのかは分からないけれど。問題は、そいつらをどう引っ張り出すかね」

「結局あの魔人は生まれたばかりで『敵』とも関係なかったし……こっちから行動するしかないわね」

「魔人をどんどん倒すとか?」

「だいたいそんな感じよ。ねえベル、あんたミナトの服持ってるでしょ、全部出して」

 

 セレメアの呼びかけにベルが「はい」と身体を揺らすとどこに収納していたのか服、服、服……たまに鎧! 痛い!

 部屋の床が見えなくなるくらいの服が出されて、それはようやく止まる。時折俺の頭を直撃した装備品みたいな物もあるが、ほとんどは様式や素材もバラバラな服。

 他の人は巻き込まれていないかと見回す。セレメアは杖に乗って浮いているし、クルクスさんは包帯が足場の様になって天井近くでお茶を楽しんでいた。

 

「助けてくださいミナトさ〜ん」

 

 最後にこれらをひっくり返した本人、ベルが埋まっているのを見つけて救い出してやる。

 

「何でやった本人が巻き込まれてるんだよ」

「えへへ、これだけ出すのは久しぶりで」

 

 しかし質量保存の法則を無視した様な光景だった。ゲームやらのアイテムボックスの様なものか。

 

「これ全部俺の持ち物?」

「はい、着るもの限定ですけど」

「あ、これお姉ちゃんと会ったときに来てた服よ、懐かしいわね」

 

 いつの間にか床、というか服の上に降りたクルクスさんは早速物色を始めている。

 手に持っているものはどう見ても女物のスカートなのだが、一体全体どういうことだ。

 おい、新たに目覚めてないよな『ミナト』。

 

「さ、とりあえず整理するわよ」

 

 フヨフヨと降りてきたセレメアに聞く。

 

「戦うための装備を探すってこと?」

「いえ、むしろ装備は邪魔、多分着ないわ」

「それならこんなに服を出してどうするつもりさ」

「決まってるでしょ、オシャレよ」

 

 きゃあきゃあとどれを着せるか議論し出したみんなの中心で、俺はまだ理解できずにいた。

 

 さて、数時間後。着せ替え人形の気持ちを存分に味わった理由を、俺は噛み締めていた。

 街の広場には大勢の人が集まっている、その中心にいるのは俺だ。

 俺の感性では王子様が着るような服──金の装飾の入った白いベストにこれまた金の装飾の入った赤いジャケット──に着られて、なるべく精一杯のにこやかな笑顔で、おそらく街の権力者であろう人々からの賛辞や色々な権利やらを受け取る。

 

「Sランク冒険者だけあってこういう場にも慣れていますな。緊張で動けない者も多いですから」

 

 違います。オーバーヒート起こして、されるがままになっているだけです。

 

「しかし、討伐しておき自らは何も望まないとは……清らかな心も持ち合わせていらっしゃる」

 

 違います。欲しい物もわからないんです、知識がないから。

 

「けれど、こうして我々の顔を立てるためにわざと物腰を低くしてくれるとは」

 

 違います。本当に低姿勢なんです、なんなら本来謝るべきだし。

 

「流石だ!」「ミナト様ー!」「ありがとう英雄様!」

 

 時折民衆にも手を振るのを忘れない、だってやれって言われたんだもん。

 感謝の言葉を投げかられたけれども、魔人がこの街に来た経緯を考えれば、あまり素直に喜べない。完全なマッチポンプだし。

 どうしてこんなことを、と言う思いは拭えない。そもそも人前に立つのに慣れていないと言うのに、慣れない言葉と慣れない礼節と慣れない状況はいくら何でもハードルが高すぎないだろうか。こんなことなら、もっと学校で表彰される様なことを経験しておけばよかった。

 

 魔人を討伐し、この街を救った英雄を称えるための式典。

 元々、Sランク冒険者である俺達が討伐した時点でこの式典の開催は決定づけられていた。が、今回はギルドではなく俺個人での討伐ということで、急遽一人で参戦することに。そのため三人はこの場にいない。

 実際にトドメを刺したのはセレメアだというのに、なぜそんなことになったのかというと。

 

「いい、おそらく記憶を奪ったヤツはあんたが万全じゃないと思っている、事実そうなんだけど。そこにもし、あんたの英雄譚が次々と届いたらどう思う?」

「記憶を奪い損ねた、もしくは取り戻したと考える」

「そういうこと、向こうから接触してくる」

「だから、大人しくお着替えしましょうね」

「そうですよミナトさん、次はこっちのを」

「だからってこんなに着替えに時間かけなくても!」

「何言ってるの、カッコイイことは重要よ、目立てば目立つほど、敵の情報網に引っかかるだろうし。ま、まままあ、あんたは何着ても、そのカッコイイと思うけど……念には念よ! 決して、色んなミナトが見たくてやってるんじゃないから。だから、早くその手を退けて」

「息遣いが荒い目が怖い力が強い!」

 

 ……余計なことまで思い出したが。ともかく。

 俺としては第一歩の、けれど『ミナト』としてはセカンド・シーズンの英雄譚が、この街から始まった。

 早めに元の主人公にバトンタッチしてやりたいね。

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