俺のサーガはセカンド・シーズンから始まるようだ 作:魔女太郎
さて、無事に式典が終わったものの、やることは多い。
まずは手に入れた権利関係の確認。一応あんたも把握しておきなさいということで、セレメアの横で唸り頷き、長い書類を見ていく。
これに関してはこの街に関する優遇が殆どで、優秀なSランクである俺を引き止め、可能なら繋ぎ止める目的もあるとか。
中には土地と屋敷なんていうのもあり、「これで一国一城の主だな」なんて言ってたら、どうも島や領地とかも持っていることが判明。それ、誰が今管理しているのと聞けば代理で優秀な人を雇っているとのこと。冒険してたしそりゃそうか。
続いて、魔人の被害に対してこちらから復興支援金を出すことに。
負傷した衛兵への見舞金と、破壊された門と抉れたというか消滅した土地の修理代金。
魔人の被害としては極小の被害と言ってもいいらしく、特にクルクスさんのおかげで死者も重傷者もいなかったのが幸いだ。
これに関しては俺のポケットマネーから出すことにした。顔を売る目的もあるが、魔人の発生した経緯を考えると……。因みに記憶のない間に俺は様々な方法で稼いでいるらしい、「もし桁を一つ間違えても余裕ですね」とは管理しているベルの発言。間違えないでくれよ?
そうして、一通りのドタバタが片付き。ようやく一息。
「今から呪術の授業を始めるわね」
つけなかった。
どこから取り出したのかメガネをかけたクルクスさんが、教鞭(と思ったら巻いて鞭状にした包帯だ)を持ち、こちらを見下ろしている。息を呑むほどの美人だね。
俺は少し疲れたのですが、と目で訴える。別に身体は疲れちゃいないが、色々訳のわからない文字列を見させられて気疲れしている。休息が必要だと思います。
クルクスさんはうんうんと頷くと、身体からさらに包帯を伸ばして、それを四角い平面になるように空中に固定していく。なんで包帯が減ってるはずなのに、体に巻きつけている面積が変わっていないんだ。
もしや毛布の代わりでも作ってくれたのだろうか。記憶は失ったけれど仲間、息が合う。
クルクスさんは出来上がったそれを指でなぞる。するとその部分が、紫色に光り、「ミナトくん強化プログラム」の文字を形作る。
ああ、ホワイトボードみたいなものね。
意気消沈、これは休めないな、と気持ちを切り替え臨む。
強化プログラム。これからの俺の課題というべきか、宿題というべきか。
先の戦いについて話し合ったところ、やはり俺の使える手札が少なすぎるのはこれから必ず問題になるという結論に。
なにせ今の俺は筋力で地形ごと破壊するか、よく斬れる剣で斬るか、というような具合である。
この前は、それでもベル、セレメア、クルクスさんと三人分の手札があったからどうにか捕縛できた。が、もし三人がいなければ地形ごと破壊してやるしかなかっただろう。近くでやれば俺すら無事かは分からない破壊力なのだ、できれば使いたくない。
今後、一人で戦う状況が無いとも限らないのだ。
ならば、私達が教えよう。と、今回はクルクスさん編ということだ。
「まず、ミナトくんが元々どういう戦い方をしていたか──剣術も魔術も呪術も錬金術も武術も妖術も奇術も召喚術も降霊術も……その他、戦術と呼べるものはほとんど修めてた。万能型って言うべきかしらね」
戦闘スタイルというやつか。
「ちなみにクルクスさんは?」
体力回復や防御の呪術を見たのでサポートだろうか。
「お姉ちゃんは、戦わずして勝つ、始まる前に終わらせる型ね。呪術も錬金術も事前準備が大事だから、戦うことは殆どないわよ」
戦わずして勝つというのは、今の俺からするとかなり魅力的だ。ぜひとも教えていただきたい。
「では、今回ミナトくんに教えるのは呪術よ。本当は錬金術も教えたいんだけれど……」
ドン、とまたもやどこからか取り出したのか、分厚い本が机の上に落ちてくる。辞書を一回り大きくしたようなサイズ、革張りで使い込まれているのか、修復の跡がところどころに見受けられる。
「錬金術の基礎、というか始まりの部分でコレなの。一朝一夕でどうこうとはいかないのよ」
「助かっ」
「これはお姉ちゃんのだけど、ミナトくんも同じ本持ってるはずだから暇な時間に自分で読み込んでおいてね」
「てなかった」
そういえば、錬金術については同門、弟弟子らしいからな。同じような教本を持っているのも当然か。
「さて、それでは呪術の基礎を教えるね。呪術の始まりは、天に向かって他者の死を願い、
「たまたま?」
「そう、そのときは
なるほど。入力は正しくないけれど、結果がその都度観測されると、正しくない入力で望む結果を出力できる。
それが呪術。
ジンクスみたいなものだ。
「って、さっきの話からすると俺も天に願われたら死ぬの?」
「いいえ、そもそも昔話というか、本に書かれた物語のようなもので信憑性はないもの。その後『天に願っても人は死なない』という呪術が生まれて、前者の呪術は消え去ったとか、本当ならもっと厳しい条件だったけど、失伝したとか色々な説があるわ」
そりゃ、願っているだけで人が死ぬような世の中ではいられないか。
「この前ミナトくんが使っていた
「物や、動作に関連付けれるなら汎用性が高そうだね」
「けど、呪いを自分で作るのは難しいの。繰り返すことで強度が増すから、子供の頃からの経験とか、故郷の言い伝えを組み込まないといけない上、場合によっては、そういう
「経験なあ」
丁度いいジンクスとかあっただろうか。
「で、重要なことがもう一つ、対呪術抵抗を学ぶこと。そのまま、呪術に対する防御行為ね。これを知っておかないと簡単に呪われちゃって、知らぬ間に操られてるなんてこともあるの」
「さっきの話で言うところの『天に願っても人は死なない』とか?」
「正確に言えばそれは対抗呪術。対呪術抵抗は自分に呪術をかけるのよ、『自分は呪いにかからない』って呪術を。これで、その強度にもよるけどある程度防ぐことが出来るわ」
「なんかシステムのバグをついたみたいな挙動だけど大丈夫!?」
「これは健康なときの自分の行動を関連付けるのがセオリーなの。ミナトくんがいつもやっていること、何かある?」
「ううん、毎日やっていることかぁ……顔洗い歯磨き身だしなみ整える……」
「じゃあ『顔を洗う』が条件で、『その際に手の動きを一定にする』とかで設定してみましょう。名前も重要よ、考えておいてね」
するとクルクスさんは指で床に模様を書き始める。
複雑に絡み合うそれは俺を中心に取り囲んでいるようだ。
「あの、これは何を」
「対呪術抵抗ができるかの確認よ、はいこれが桶と水」
「つまり、今から俺は呪われるってこと?」
「そういうこと、頑張ってねミナトくん」
文様が強い光を放つ、足が動かない!
「足が動けば成功、ちなみに一時間そのままだと『クルクスさん』が『お姉ちゃん』になるおまけ付きよ」
「なんでそんなおまけを!?」
「だってお姉ちゃんだけさん付けで寂しいんだもの。ほらほら、きちんと力を込めて洗って、呪いはくり返し願いを込めることが重要よ」
一時間後、各種書類を提出してきたセレメアとベルに、顔を濡らした俺は