俺のサーガはセカンド・シーズンから始まるようだ   作:魔女太郎

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第十三話「素晴らしきかな日常」

 呪術の修行が始まって数日、()()()()()の苛烈な。と言うべきかは怪しいが。

 ともかく、自尊心をヤスリで削る様な毎日が続いていた。

 朝起きればとりあえずお姉ちゃんが目の前にいる。

 起こしに来てくれた、というのもあるが主な理由は対呪術抵抗が時間をかけて効き始めていないかの確認。

 

「おはようお姉ちゃん」

「おはようミナトくん」

 

 こんな挨拶が交わされれば前日のが失敗したという判定だ。

 お姉ちゃんをどうにか部屋から追い出し、着替えや準備をするとともに顔を洗う。つまり呪術を行う。

 連日失敗しているが、それを深く考えないというのが呪術に置いて重要なことだそうで。

 

「つまり図太く自分勝手に信じることが重要なの、世界を騙す前に自分を騙すのが呪術の真骨頂と言ってもいいわね」

 

 結果のでないものを信じるというのは、大変難儀なものだと思うのだけれど。

 そもそも不思議なことが起こる世界という前提が俺の中にあったからだろうか。

 食事を終えた後、定例となった『お姉ちゃん』呪い付与の結果は。

 

「どう? ミナトくん」

「成功したよ、()()()()()()

 

 見事成功。

 これでお姉ちゃんと呼ぶ度にセレメアやベルに、やや生暖かい視線を向けられなくて済む。最近はどうも慣れ始めているみたいだが、それはともかく。

 

「あ~あ、お姉ちゃん寂しくなっちゃうなぁ」

「いや、その、気恥ずかしさというものが」

 

 俺の対呪術抵抗、『顔を洗って出直せ(リフレッシュ)』。

 ようやく少しはファンタジーらしいことができた。

 とはいえ、ヴィジュアル的には相手の呪いを防いでいるだけなので、特に変化はないのだが。

 

「これで無防備ということは無くなったけれど、例えるなら全裸から上下揃えた程度の違いよ。重厚な鎧を纏っているわけではないというのは留意してね」

「もちろん、そこら辺は授業で教えられた通り」

「じゃあ次は戦闘用の呪術だけれど。いいのは見つかった?」

「それがどうにも。小さい頃のおまじないとかの記憶はあるけれど、どれも傷つけるなんて物騒なものは……第一、成功している、と思える様な物も無かったわけで」

 

 並行して行われている戦闘用呪術の開発は難航していた。

 記憶を失う以前の呪いは、クルクスさんにとっても未知なもので、どういうものなのか分からなかった。らしい。

 けれど、俺の記憶の中にあるものと言えば、例えば星座占いや、恋のおまじないとか、そういうものだ。

 いずれにしたって規模も小さいもので、攻撃に転用できるものなどあっただろうか。

 過去聞いた怖い話の中にはもしかしたら、そういうものもあるかもしれないが、細部まで覚えているかと言われると微妙だ。

 なんだか不真面目なことしたらバチが当たったとか、輪郭しか覚えていない。

 そもそもお話なんかより、外で遊ぶ方が好きだったし。

 

「一から開発するのも時間がかかるけど可能よ。その場合、ミナトくんは後先考えなければどんな魔物でも剣と身体能力で倒せるハズだから、必要なのは搦手と言うべきか、相手の行動を制限したりするものがいいわね」

 

 とはいえ年単位は必要だけれど。の言葉が続き思わずうなだれる。

 立ち上がることが出来たはいいが、はじめの一歩が踏み出せないような状況。

 そろそろハイハイから脱却したいところなのだが。

 その後も、ああでもない、こうでもないと様々な意見を交わして練習を繰り返し、クルクスさんの授業は終了する。

 

「今日もよく頑張ったわね、ミナトくん」

 

 包帯で顔を撫でつけられるのは、何日経っても慣れない。

 昼を挟んで、次はセレメアによる授業が始まる。

 

「じゃあ、今日は人種について教えていくわよ」

 

 ただし、それは魔術ではなく、普通に一般常識の座学だ。

 新たにセレメアの授業が始まる時は、建前でやれやれ大変だ、覚えきれるのかなあ。なんて言って、本当は心躍らせていた俺はこれに対して疑問を口にした。が。

 

「今後あんたがボロを出さないようにするためには、光ったりするより、こっちのがよっぽど急務でしょ」

 

 先生はあまりにも正しかった。

 なのでおとなしく授業を受ける。

 よくよく考えてみれば、この世界に関して何も知らないのだし。

 ちなみにベルは肩で寝ている、授業が始まるとすぐこれだ。

 まあ、俺以外には当たり前の話なのだろうし、授業で寝たいという気持ちは非常に理解できる。

 

「主に生息域や生活様式、身体的特徴で呼び方が別れているわ」

 

 セレメアはいつの間にか用意した木板を宙に浮かせ、炭で内容を書いていく。

 

 森族(エルフ)、森と会話できる一族。長い耳が特徴。

 石族(ドワーフ)、石を用いて何かを造るのが得意な一族。小さい身長が特徴。

 牙族(ナガン)、牙や爪を用いた狩りを行う一族。体毛や発達した耳が特徴。

 鱗族(ドラド)、鱗により暑い環境での生活が可能な一族。発達した体躯が特徴。

 甲族(ゼクト)、甲殻による堅牢な守りを持つ一族。多腕や多足が特徴。

 海族(マーメ)、海と会話できる一族。ヒレやエラが特徴。

 液族(スライム)、液状の身体を持つ不定形の一族。透けたり軟体の身体が特徴。

 血族(ペムト)、血を交わらせ伝え反映し繁栄する一族。他と交われるのが特徴。

 

 エルフにドワーフと、それに記述を見る限り人魚や獣人もいるのか。人その言い方はこの世界だと適切ではないのだろうけれど。

 

「本当はあと一種存在するんだけれど、常識の範囲である言葉ではない上忘れられて久しいから省くわ。ともかく、この世界にはこの八種が人間として繁栄している、ここまでいい?」

「質問、じゃあベルは石族(ドワーフ)ってことか?」

「残念、ベルは妖精、分類上は人間じゃないの。身体的差がありすぎて、人間の法律そのまま適応してたら不備が多いの。だから妖精は妖精として別で保護されているわ」

「なるほど」

「因みに私は、血族(ペムト)ね。とはいっても今や、どこも混血が進んでほとんどの人は血族(ペムト)の血があるから、どんな種族間でも子供はできる状態よ。だから、身体的特徴がどれも当てはまらないと血族(ペムト)ってことになるわ」

「じゃあ、俺も血族(ペムト)?」

「あんたは他の世界から来てるから、厳密に言えば違うのだろうけど。もし聞かれたらそう言っておいたほうがいいわ」

 

 場所や国によっては特定の種族だけ出入りが不可能となっていることもあるらしい。

 

「単純にめちゃくちゃ暑い地域とかは、鱗族(ドラド)以外生きるのが不可能だからね。とはいえ、私達はSランクだから装備さえ整えればそういった場所への許可証も発行してもらえるけど」

「逆にSランクなら当たり前のことだから、知っておかないとトラブルになると」

「そういうこと」

 

 その後は、外にでかけ街行く人々を観察しながらテスト。

 クルクスさんに見送られながら三人で出かける。午後は錬金呪術師としての仕事があるらしい。

 

この街(ジャナー)鱗族(ドラド)と 牙族(ナガン)が多いんだっけ」

「そうよ、あくまで比較的だけどね」

「今の人耳が長かったような、森族(エルフ)かな」

「ね、結構色んな人がいるのよ、これだけ大きい街だと」

「でも、ベルと同じ妖精はやっぱりなかなかいませんねぇ」

「珍しいのか?」

「うーん、大きな街だと極稀にすれ違うぐらいですかね」

「魔法使いとかの店だと契約してる整理妖精なんかいるけど、あんま外には出ないわね」

「ああいう店とか?」

「そうね、少し覗いてみようかしら」

 

 店の中では様々な不思議アイテムを解説してもらい。

 その後も見かけた冒険者の装備について色々教えてもらったり。

 軽食を買って、金銭感覚をすり合わせてみたり。

 授業にこう言っては不真面目かも知れないが、ちょっとしたデート気分だ。

 

「両手に花というか、片手と頭だけど」

「何か言いましたかミナトさん?」

 

 いやあ、何も。どうぞ頭の上の特等席で寛いでいてくれ。

 

「ついでに冒険者管理協会で魔人の目撃情報がないか見ていきましょう、今日はまだ確認してなかったから」

「クエスト手続きはまだ早いかな」

「まあちょうどいいクエストがあったらやってもらおうかしら。とはいってもSクラスにちょうどいいものがあるのかどうか」

「平和はいいことですけどね」

「ドラゴンとかってよっぽど珍しいんだな」

「本来はね、まあ魔人が発生するくらいだし、この地域は少し強い魔物が出やすくはなっているはずよ」

 

 この記憶では二回目の冒険者管理協会。

 街の大きさに比例してだろうか、以前見たものより少し豪華だと感じる。

 けれど、そう大きく変わることはないだろう。

 ギィと扉を開ければそこには依頼の記された掲示板や、窓口そして。

 

「ようやく来てくれました、助けてください『超越の勇士』様!」

 

 突如泣きついてくる協会職員。

 なんでだよ。

 

「ちょっといきなり何するの、離れなさいよ!」

「お二人共頭振らないでくださいベル落ちちゃいます!」

 

 あまりにも必死な様子の職員を、とりあえず三人で宥めようとすると。

 

「新たに()()()()()が発生したんです!」

「ミナト、すぐ受けるわよ」

「ミナトさん、はやく話を聞きましょう」

 

 力関係は瞬時に逆転。

 両腕と頭を引っ張られる俺は、食虫植物に捕まった餌のようだ。

 それにしても『ダンジョン』は、まだ習っていないぞ。

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