俺のサーガはセカンド・シーズンから始まるようだ 作:魔女太郎
ダンジョン、正式には『魔王の領域』と呼ばれる現象。土地そのものに最も小さき粒となった魔王が結びついてしまい、変質してしまうことでデタラメな空間が生成される。
外観から推測されるより明らかに大きく広い洞窟や城、なんてことはざらで、海の中に潜ったはずなのに空へ落ちたり、縮尺や重力がめちゃくちゃになったり。
セレメアが言うには生物という本能や意思とはかけ離れた存在になったことによって魔王としての力が暴走した結果らしい。
それだけならば、観光名所になりそうだなと思ったが。どうも現実的には結構致命傷。
土地とは、生態系も自分の一部と認識しているようで、同時に多数の魔物が出現する。
その生態系の変化は無論、隣接する土地にも影響する。その土地の恩恵を受けている人の生活領域が近くにある場合、被害は計り知れない。
特に変化した直後は魔物も多く、魔人の発生につながることもある。
そのため、ダンジョンは発生したら即座に正常化、あるいは魔物を間引いて沈静化することが求められる。
「その沈静化に『超越の勇士』を?」
「はい、現状この街の冒険者は『超越の勇士』様を除くと最高でAランクでして。魔人討伐の実績もありますし、ここはミナト様にお願いしたいのです」
「発生地域が、この前破損した門側ってのが確かに大変ね。万が一、魔物が溢れたら大変だし」
「洞窟型で、内部がどれくらいの規模か脅威値かも分かりにくくてですね、Sランクの皆様に行っていただけると助かるのですが」
「これは、行くべきよねミナト」
「うん」
協会内の部屋の一つで地図を広げながら、急遽決まったダンジョン攻略についてすり合わせを行っていく。
セレメアが職員を落ち着かせるためという名目で、ダンジョンについての基本情報を質問してくれたおかげで知識のない俺も会話に参加できる。
とは言っても、話を振られて「うん」と頷くだけなのだが。
職員は「ギルドリーダーの了解が取れて助かりました」と言っているが、了解も何もよく分かっていない。というかギルドリーダーなのも初めて知ったぞ今。
「でも、それなら指名依頼でも出そうなものだけど、どうしてわざわざ
「うん」
「……領主様を含めた会議の際、『超越の勇士』様の人数の方が問題になりまして」
「フルメンバーじゃないことが問題になった?」
「はい、指名依頼は他の方の参加が原則不可能です。Sランクとはいえフルメンバーではないギルド、三名だけに任せて大丈夫なのかと……もちろん、皆様の実力を疑っているわけではありません。ただ、ダンジョン攻略は御存知の通り、不確定要素も多く危険なもののため、万全を期す必要がありまして」
「なるほど、
「はい、現状『銀鍵の奏者』『比類なき一団』『エイヤと仲間たち』を加えようかと」
「三組はいくらなんでも多すぎるわ……同行するなら一組よね、ミナト」
「うん」
「しかし、」
「Sランクなめんじゃないわよ。三人でさえ、過剰戦力と言ってもいいわ。それに、万が一の場合Aランクが三組も居なくなるのは、次の攻略に影響が出る……って顔してるわねミナト」
「うん」
「分かりました、それでは同行するのは一組に」
「じゃあ次に、取得物に関してだけど」
その後も時折頷いているだけでみるみる話が決まっていく。
頭の上のベルが眠りについて、しばらくの後、話し合いは終わり、ダンジョン突入は三日後ということになった。
「と、いうわけでダンジョン攻略することになったわ」
「あら、じゃあ準備始めておかないと」
夕飯の際、クルクスさんに話を出すと、特になんでも無いように進んでいく。
「ダンジョン攻略って大変じゃないのか?」
「そりゃ、普通はね。ここにいるのは普通じゃないやつばっかなのよ、あんたも含めて」
「そう言われても、自覚が足りないからなぁ」
「どちらかと言えばミナトさんが当日他の冒険者たちにボロが出さないようにする方が大変じゃないですか?」
「そうか、俺がギルドリーダーってことは」
「あんたが代表で色々やらないといけないわね、支持とか挨拶とか」
「明日からちゃんとお姉ちゃんと練習しましょうね」
「今から胃がキリキリする……けど、それだけの価値があるんだよな、ダンジョンには」
「ええ、ダンジョンは魔物がたくさん出るからそれの素材を取れるのは勿論だけれど、ダンジョンを沈静化させたときに発生する超過魔力、それによる強化は見過ごせないわ」
そもそも、どうして俺の肉体がデタラメな力を有しているかという疑問について。
肉体的に、鍛えてはいるだろう。無駄な脂肪はないし、筋肉だってついている。
けれど、いくら鍛えたって、地形を破壊するほどの力は生み出せない。
それをどうにかしているのが、ファンタジー。魔力である。
本能的に人間が願う、優秀な肉体になりたいという願い。
それは無意識下で魔力によって叶えられている。
魔力があればあるほど、その無意識下の願いは叶えられていき、肉体はより強く強く強く。
「それを繰り返してるのがこの身体ってわけか」
「現状、あんたはテクニックを全て失った状態。今後の脅威に備えるため、可能な限り肉体の強化はできるだけやっておいた方がいいわ」
「でも、力加減が余計大変になりそうだな」
「だから、並行して修業も行うわよ」
「テクニックもあるに越したことはないんだからお姉ちゃんとの呪術開発も忘れないようにね」
「明日からベルの眠る時間が増えそうですね」
「力加減はベルも参加だろ、鬼ごっこなんだから」
「鬼ごっこ?」
「追いかけっこ。前から気なっていたけど、これ、翻訳ってどうなってるんだ?」
魔法とか、二重に聞こえたり、まるで文字を目で見ているかのようにイメージできたりするし。
「さあ、妖精のことなので」
「まあ、妖精だしね」
「そう、妖精だものね」
ふわふわしているのは、飛び方だけにしてもらいたいものだ。
「あんたは多言語学ばなくていいから楽よね」
「セレメアには使えないのか?」
「はい、ミナトさんとの契約なので」
「契約ってことは対価があるのか」
「ええ、いつでもミナトさんの頭を寝床にしていい権利です」
「一応許可してやってたことなんだ……」
それはともかく。
「今回のダンジョン攻略、第一目標は沈静化だけど。第二目標は、もちろんあんたの活躍よ」
「名を売るってことか」
「ええ、ダンジョンは魔人にとっても居心地が良く、拠点になる場所でもあるわ。だから魔人はとっても噂に敏感なの」
「俺の記憶を奪った存在が魔人なら、それを聞き逃しはしない」
「そういうこと。そうでなくともダンジョン攻略は偉業の一つ、この前の魔人討伐に続けて、なんて話題性があれば広く流布するわ」
「でも、今回は合同だろ、そううまくいくかな?」
「だから、圧倒的に攻略するのよ、私たちで。具体的には……」
そんな感じで、修行と授業と準備を重ねて三日。
ダンジョン攻略当日がやってきた。