俺のサーガはセカンド・シーズンから始まるようだ   作:魔女太郎

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断片は主人公以外の視点になります


断片「Angry! Aランクは伊達じゃない」

「なんだか、うまく躱されたってかんじだよね~」

 

 暗い洞窟、ダンジョンの中。

 クーガの明かりの魔術によって照らされた仲間──グイーンの発言に、キャーレは先程のやりとりを思い出し眉をひそめた。

 彼ら『比類なき一団』がダンジョンに侵入して十数分経過、現在はキャインドの力で地図を作成している途中で時間があるとはいえ、気を抜いていい時間ではない。

 いや、そんな時間なのに、先程のことに囚われている自分を見かねて、わざわざ話しかけたのかとキャーレは思い直す。

 Aランクまで歩んできた仲間達、その間には確かな絆と信頼、そして実力が備わっているのだ。

 背後を振り向けば『超越の勇士』達は離れた場所でなにやら壁を触り、話し合っている。

 

(調査系の魔術、あるいは呪術の下準備だろうか)

 

 眼を使えばもう少し分かるだろうが、それを感づかれてはまた争いになるかもしれない。こちらに注意を向けていないようだし、と、心を落ち着かせるため、仲間達に応えるため、キャーレはひっそりと話し始める。

 

「メンバーが足りないのは事実ですからね。別段私の言うことが間違いではありません」

「でも挑発させて、実力を見るつもりだったんでしょ」

「ええ……Sランクの中でも『超越の勇士』は特に情報が少ないですから」

 

 Aランクギルド『比類なき一団』は、実力がある。種族に関係なく実力者を見抜き、スカウトするキャーレの方針。それによりクエストの種類に関係なく、常に結果を出せるギルドとして、ランクを上げてきた。

 けれど、そんな彼らでも、Sランクとの差は遠い。

 実力があるだけでは、到底なし得ないような偉業をいくつも重ねて、ようやく到達できるのがSランクギルドなのだ。

 冒険者である以上、無論、ギルドメンバー全員がSランクを目指している、けれど、どうすればいいかが分からない。

 そういった中で舞い込んできた依頼、キャーレはチャンスだと思った。

 けれど、ただ合同でクエストを行うだけならば、向こうがこちらに合わせる可能性すらある。

 だからこそ、メンバーの欠けを指摘し、力を引き出そうとしたのだが。

 

「それで煽り返されちゃ元も子もないっしょ、馬鹿だねキャーレも」

「未熟」

 

 ナベスとペブの二人も小言を投げてくる。いつものやり取り、それに毒気を徐々に抜かれていくキャーレ。

 

(確かに未熟だ、いや幼稚だった)

 

 今やるべきことは、ダンジョンの攻略。

 自分も、そして仲間たちも決して足手まといではないことを証明してみせる。

 キャーレは、自らの心に灯る怒り──熱を高める場所を間違えない。

 

「キャインド」

「もう少しで作り終わる」

 

 キャインドは手にした鎌で手のひらを傷つけ、自らの血を鎖を伝わせ流している。

 下に敷かれた羊皮紙には、揺れる鎖から血が落ち、地図が記されていく。

 祈祷師(シャーマン)である彼女の持つ魔術、『血定版(レッドエディション)』。自らの血液を一定量代償に捧げることで、その場所の地図を作り上げるスキル。

 広さに比例するが、罠の箇所や、次の階に移動できる場所なども正確に記される。

 複雑に道の入り組むことが多い洞窟型のダンジョンでは最適解を導き出せるため特に有効。無論相応の実力がなければ使えないが。

 

「出来た。ペブ、治療お願い」

「コレ塗る間、飲む」

 

 ペブの手の中、瞬時に現れたポーションが渡され、キャインドは薬を塗られながら飲む。

 錬金術、『足りないとこ(インスタント)ろに手を出す(バックヤード)』。

 過去に経験があるアイテム消費に対して、錬金術でそれの作成経験がある、なおかつ一定以下の難度ならば手順を省きその場で瞬時にアイテムを生成出来るスキル。

 幾度ものクエストを乗り越える度、有用性が高まる。

 治療の間に出来上がった地図を中心にナベスとグイーンが話し合う。

 

「階層系のダンジョンか、どれだけ深いか分からないのは厄介かも」

「最短ならこのルート?」

「そうね、ここの罠は私が解除する必要があるから、その手前で待機」

「おっけー」

 

 次の瞬間には、グイーンは駆け出す。

 彼女が持つ武術、『走り出したら関係ない(ランニングマイウェイ)』は走行中の障害物を無視するスキル。

 地形だけに限らず、壁だろうが天井だろうが常に最高の状態で走り続けられる。

 ダンジョンという異質の空間において、パフォーマンスを保つことが最も困難とされている。

 走るという一点に関して、彼女はそれを無視して、結果を出し続ける。

 指定の場所までたどり着けば、合図を送る魔道具を使用。

 少しして、キャーレ達がたどり着く。

 

「じゃあナベス解除お願い」

 

 一歩前に進んだナベスが地面に顔を近づけ、目を凝らした後、耳を当て、トンカチを用いて調査をすすめる。

 技術、『反響の(ハウリング)多い対談(ディスカッション)』。

 物体から跳ね返る細かな音を聞き分けることでその構造一つ一つを解析することが出来るスキル。

 

「あ、そこの壁が崩れて魔物が出現するみたいだね、どうする?」

「……倒しておきましょう。ここなら強力な魔物が出ても逃げることが出来ます、レベルを知るためにも必要ですし。ゲンサ、クーガ行きますよ」

「ああ」

「まっかせてー」

 

 砂利の多い部分へ、ナベスがトンカチを振り下ろすと、壁の一部ががらがら音を立てて崩れ、土煙の中からのっそりと魔物が出てくる。

 亀のような重厚な甲羅に四肢、そしてそこから伸びるいくつもの蛇の頭。

 狭い空間にひしめき合っていたそれらが次々と解き放たれた。

 

「甲羅と四肢を持つ多頭の蛇、バイパー系だろうが……変異してそうだな」

「待ってください、()ます」

 

 キャーレが細めていた眼を見開く、そこには真っ赤な瞳に刻まれた呪術刻印。

 これこそが、彼、キャーレがギルドリーダーとしてAランクまで上り詰めた理由。

 呪術、『真の心眼(マシンガン)』。

 対象の真の姿を見抜くスキル。

 真の姿とはその者が持つ戦力。それを数値化してみることができるのだ。

 

(これであの三人を見抜ければ話は早かったのですが……対呪術抵抗は怠りませんよね)

 

 わりとタッチの差だったことを彼は知らない。

 ともかく、見抜いた情報を前衛の二人に伝える。

 

「少し強化されていますが、メガ・バイパーです。すでに抗体のある毒ですし、噛まれても大事は無いでしょう」

「そもそも心配無用だ」

 

 多頭の蛇による攻撃、噛みつき、締付け、鞭打。そのすべてを大男──ゲンサは受け止め、弾き返していた。

 芸術、『輝く肉体(ビューティマイティ)』。

 美しく鍛え上げることを条件に、その美しさを害するものを寄せ付けないスキル。

 元々、筋力の強さや鱗の堅さに定評のある鱗族(ドラド)が持てば掟破りの力を発揮する。

 攻める手が無くなったメガ・バイパーへ斧が降ろされる。

 両断され動かなくなった同族を見て、逃げ出そうとする個体を、横から伸びた槍がその首を貫き、剣が落とした。

 

「む、クーガに取られたか」

「僕の固有魔法使う程でもなかった。けど、第一階層でこの様子だと深ければ厄介だね」

「いずれ、後ろのSランクの出番もあるかもしれない、ということですね」

 

 後方、やや離れた場所。

 戦闘が終了したのを見て拍手をしている男──ミナトを見てキャーレはそう呟く。

 

(わざとらしい。この程度は驚くまでもない、そんな態度)

 

 底しれぬSランクを前に、キャーレの怒りの熱は増していく。

 

(私達はこの程度じゃない。『比類なき一団』はやがてSランクですら比類なき存在となるギルド。まだまだ隠しているスキルが、作戦が、力が、そして自信がある。後ろで見ていてください、Aランクと油断している相手に、文字通りすでに追い抜かれているのを)

 

 ダンジョン、第一階層攻略。

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