俺のサーガはセカンド・シーズンから始まるようだ   作:魔女太郎

9 / 16
第九話「見参、魔人」

 外へ出てみると、同じように辺りを気にしている住民が目に入る。

 中にはすぐさま移動を始めている住民も、避難場所があるのだろう。

 

「この鐘なら、驚異は北門側にあるみたいね」

「さっさと行くわよ」

 

 二人が屋根の上を駆けていくのに慌てて続く。

 感覚としてはできなそうなことが、やってみればできてしまうというのがなんだか恐ろしい。

 

「あ、ミナトさん今屋根踏み壊しましたよ」

「う、力みすぎた」

 

 肩に止まるベルに指導をもらいつつ、北門にたどり着く。俺たちが入ってきた場所。

 門は破壊され、衛兵たちの戦闘の跡が生々しく残る。

 生きているのか死んでいるのかも分からないが、人の身体が辺りに数人、横たわっていた。

 その中心に立つのが、おそらく魔人。二足歩行の、人間のような身体つきに際立つ違和感、四本の腕と顔の真ん中にある大きな単眼。

 正直、ファンタジー世界の住民と言われれば区別がつかないけれど。

 近くこちらに気づいたのか、その眼がギョロリと動く。

 

「止めるわ、二人で回収して。『孤独の天蓋(キャノピーキャノン)』!」

 

 セレメアの声と共に、杖から魔法が放たれる。驚くべき速さで魔人の元に到達したそれは、光の牢獄を展開、動きを封じた。

 

「『痺れて傷んで(ダウンダウン)そのままで(ショーダウン)』『気流は上々(エアーハイハイ)』、『冷結(ゼロゼロ)』、『拗れ潜む力持ち(ギーガーメイカー)』」

 

 驚く暇もなく、次々と多種多様な魔法、素人の俺では見分けられない数を身動きできない魔人に放っている。

 その間に俺は突っ走る。一人回収、二人回収……呼吸はしているみたいだ。

 続いて回収しようとすると。

 

「もう回収したわ、その二人も貸して」

 

 クルクスさんが身体中から伸びる包帯をまるで無数の触手の如く操りながら、怪我人をミイラのようにパッケージして運んで、なにやら怪しげに光っている。治療しているのだろうか?

 手渡すと、魔人に動きが出る。

 べキリベキリと、その体を囲う牢を四本の腕で無理やり、力任せに破壊していく。

 セレメアは苦い顔をしながら呟く。

 

「駄目ね、難しいわ」

「あら、珍しい」

 

 セレメアの魔法が効かない。相当な実力者ってことか。

 魔人は牢獄を砕き切り、光の塵へと変える。

 そのまま向かって来るか、と身構えるが、こちらを見て佇むだけ。

 そして、響くような重低音、笑い声だ。

 

「は、は、は、歯ごたえがない。弱すぎる、弱すぎる、弱すぎる、撫でただけでこの程度だ。しかし、次の三体はなかなか遊べそうではないか。俺を砕くには些か出力が足りないが、それでも無詠唱とは──冒険者というやつか。我が肉体のどれかが覚えている、お前らのような奴らに最も小さき粒へ戻されたと」

「お褒め頂きありがとう、それに免じて大人しくしてくれないかしら」

「そいつは……無理だ、お前ら人間を減らすのが魔王になるため必要不可欠。特に、驚異足り得る存在は見過ごすわけにはいかん」

 

 そうして話し合いは終わったとばかりに、魔人が姿勢を低く構える。

 突っ込んでくる気だ。

 

「我が名は、多腕の魔人、ショーゴルグス。最も小さき粒が、一手でも多く選択肢を増やしたもの」

 

 名乗りとともに、()両腕というべき、四つの腕を突き出して走る。

 

「ミナトさん!」

 

 狙いは、()だ。

 

「お前は速い、そして剣士だ。攻撃の要を潰すのは定石」

 

 生憎、この中で戦力は一番ドベだ。

 殴ってくる腕を避ける、避ける、避ける、避ける。この程度の速度、ベルより何倍も遅い。

 

「だが、()()は避けれまい」

 

 ずぶり、と、俺の腹に違和感が。殴られた? けれど、四本の腕は全て避けたはず。

 見ると、ヤツの腹から五本目の腕が生えている。

 そんなんズルだろ!

 俺はそのまま、その場で蹲る。

 

「は、は、は、まず一人!」

「『光速の拘束(キラシール)』!」

 

 セレメアが先程よりも大きな光を放つ。

 煌めきは幾数もの網となり、ショーゴルグスを捕らえようとする。

 

「ちぃっ、無駄だと言っている! そのような魔法で俺を止めることなどできん! 次はお前の番だ!」

「分かってるわよ、けど、あんた分かってないわね」

「は、は、は……は?」

「まだ生きてるわ」

 

 そう、あの攻撃には違和感と驚きこそあったものの、それだけだ。

 痛いとか、苦しいだとか、ましてそんなことも感じないダメージなどは、一切負っていない。

 プレイスキルは低いけれど、ステータスはカンストなんだ。

 わざわざ蹲ったのは。

 

「肩を屈めて、抜くんだよな」

 

 背中の剣を、取り出すため。

 体をひねり、下から思いっきり斬りあげる。

 

「ぐぁああぁあぁあ!」

 

 するりと、それは何の抵抗もなく。

 魔人を開きにするかのように、正中線をぶった切った。

 

「これ、あまりにも手応えがないんだけど」

「流石ねミナトくん、初めての魔人を一太刀なんて」

 

 距離を取り、怪我人の手当てをするクルクスさんの近くへ行き、撫でてもらう。

 包帯で。

 あの魔人よりよっぽど多腕だ。

 

「当然よ、あんな雑魚。それにしても、生け捕り用にもう少し拘束系の呪文は開発しておくべきだったわね」

「セレメアちゃんも苦手なことあるのね」

「今までの戦闘は格上ばっかだったでしょ、火力のが重要なのよ……おかげで生け捕りしたいけど、できそうにないわ」

 

 そこにセレメアも加わる。

 なるほど、俺の記憶のことについて聞き出したいから生け捕りしたかったのか。

 

「思わず斬ったけど、不味かったか?」

「ああ、気にしないでいいわよ。あれじゃまだ死んでないから」

 

 見ると、ショーゴルグスは、傷口近くから細かい腕をいくつも生やし、それらを絡ませることでどんどん開いた部分を塞いでいる。

 前言撤回、多腕を名乗るだけある。

 

「『船動多くして船空に上(アームストロング)る』、我が力は手数を増やす、すなわちそれだけ選択肢が増える。攻撃だけではない、応用力こそ真骨頂」

 

 胸元や腰回りから別の腕を生やす、その腕からさらに別の腕を、繰り返し、どんどん腕が絡み合い膨張し、無数の腕に埋もれたかのような姿になる。

 

「は、は、は、なるほどよく斬れる剣だ。ならば斬らせる肉を増やすだけ、それが致命に届かなければ、いくらでも治せる。名付けて『腕利きの鎧(アーマーアーム)』!」

 

 考えたな、並み程度の斬り傷なら、先程と同じように回復できる。

 本体への攻撃を届きにくく、尚且つ一刀両断を防ぐため、肉襦袢のようにして本体を守っているのか。

 その場から動かなくなったショールゴルグスは、次々に腕を伸ばして攻撃してくる。

 斬ろうとする前に、クルクスさんの身体から伸びる包帯が弾き、セレメアの魔法が次々と消炭にしていく。

 やることがない。 

 

「ああ、もう焦れったいわね! 魔人は低級の魔法だと効かないし、かと言って腕に効果のあるこれを本体に直撃したら死ぬわよアイツ……出力を死なない程度に弱めるなんてやったことないし、どうすりゃいいのよ」

「私の包帯で動きを止めた方がいいかしら?」

「万が一、怪我人の治療に障ったらいけないわ。やっぱり、ミナトに頑張ってもらうしかないんだけど……」

 

 どうすれば。

 俺ができる攻撃、後は地形破壊ぐらいなんだけど。

 やはり力加減をもう少しものにできていれば。日常生活程度に弱くするのはできるのだが、中間の力加減がまだまだなのだ。

 

「は、は、は、手も足もでまい!」

「うっさいわね、本来なら瞬殺よあんたなんて!」

 

 腕は千切っても、燃やしても、それらをすぐに回収、吸収され次の腕の素材にされている。

 無尽蔵に見えるが、おそらく一度に出せる量が決まっているはず。一度に行われる攻撃の回数も変わらないし、何より無尽蔵なら、それだけで魔王の復活が可能になってしまう。

 

「だが実際に防戦一方ではないか」

「あああ、腹立つわね! こうなったら今から魔法開発してやるわ!」

 

 つまり腕を再吸収させなければいつか尽きるはず。

 でも、どうやって?

 

「あ」

「ちょ、ちょっとこんな時に何?」

 

 セレメアの手を取る。

 

「これだ」

 

 この手があった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。