ドラゴンクエストΩ 〜アルテマこそ至高だ!〜   作:灰猫ジジ

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第二十一話

 模擬戦を終えたアキラ達は応接室にて休みつつも、待機をしていた。

 キーファとレオナのお見合いを待ちながら、テーブルの上に並べられたフルーツやお菓子に手を伸ばしていた。

 

「キーファったら、大丈夫かしらね?」

「んぐんぐ……大丈夫じゃない? なんだかんだでキーファってやる時はしっかりやるし」

 

 セブンはキーファよりも目の前のお菓子が気になるようで、口の中に頬張ってはリスのようにもぐもぐさせていた。

 その様子を見たマリベルは「ガキねぇ〜」とセブンに呆れていたが、先程からお菓子へ伸ばす手が止まっていないところからすると、マリベルも甘いものに目がないようであった。

 

 ふと思い出したかのように、手についたクッキーの粉を舐めながらマリベルがアキラへ先程の模擬戦についての質問をする。

 

「そういえばさ、さっきの模擬戦でのアキラの呪文っておかしくなかった?」

「…………え? そ、そうだっけ?」

「『バギ』を使ったときに、威力調整みたいなのをしていた気がしたんだけど……」

 

 マリベルが聞きたかったのは、アキラが使った『バギ』──正確には『エアロ』だが──を殺傷力のない威力で発動したことに疑問を持ったようであった。

 『エアロ』と小声で唱えていたのが聞こえてしまっていたのかとアキラは動揺したが、どうやらそのことではなかったので安心して返事をする。

 

「ああ、あれね。魔力を調整すると誰でも出来るよ」

()()()調()()?」

「うん。練習は必要なんだけど、呪文に込める魔力を少なくして威力を減らしたり、あとは特定の部分だけ発動させたりね。

そうすれば無駄にMPを消費しなくて済むから、僕らみたいな魔法使い系統の職業は継戦能力が上がるんだよ」

 

 アキラは心の中で()()()()()()()()()()()()()()()()とも思っていたが、発言後の身の危険を考えて口に出すことはしなかった。

 そんなことを彼が思っているとは知らずにマリベルは感心したような声を出し、あとでアキラに教えてもらおうとその場で勝手に決めてしまう。

 マリベルのその発言に、先程までお菓子に夢中になっていたセブンが口を挟む。

 

「マリベル、それって()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

「うっ…………い、いいじゃない! 私達だってパーティーなんだから!」

「一時的なパーティー、でしょ? これが終わったらアキラにもやることあるんだろうし、冒険者にとって自分の飯の種を簡単に人に教えるってどうなのさ?」

「ううっ……ア、アキラぁ〜」

 

 的確な指摘をされたマリベルは助けを求めるようにアキラを上目遣いで見る。

 

 セブンの言うとおり、冒険者にとって自身の技術は命と同じくらい大切である。

 その技術で飯が食えていると言っても過言ではないためだ。しかし、アキラはドラクエ(ここ)の世界の住人ではないため、そのことに対しての意識は薄かった。

 実際にベロニカやセーニャにも同じようにその技術を教えていたというのもあり、これくらいであれば問題はないという軽い認識であった。

 決してマリベルの上目遣いにドキッとしてしまったからではないとアキラは心に言い聞かせて返事をする。

 

「ん……んー、まぁこれくらいなら大丈夫だよ。少し前までパーティーを組んでいた人たちにも教えていたし。

……それか交換条件でマリベルの使える呪文を僕に教えてもらうってのはどう?」

「私の呪文?」

「うん。僕も色々と呪文を覚えたいんだけど、事前に見ておくだけでもかなり違ってくるからさ」

「そ、そのくらいでいいなら私は全然構わないんだけど……」

 

 そう言いながらセブンをちらりと見るマリベル。セブンはため息をついて、「アキラがそれでいいなら大丈夫じゃない?」と言うと、彼女は嬉しそうな顔をしていた。

 

(まったく……マリベルはいつも強引なんだよね。まぁアキラも嫌そうな顔をしてないし、これからマリベルが強くなるっていうなら僕としても反対はないんだけど)

 

「あれ? 他人事みたいな顔してるけど、セブンも一緒に訓練しようよ」

「……え? 僕にも教えてもらえるの?」

「もちろん! セブンも簡単な呪文なら使えるんでしょ? それなら覚えておくと楽になるよ」

 

 アキラはセブンが『ホイミ』などの簡単な呪文を使えるのを事前に聞いていたため、それならば一緒に覚えてもらおうと思っていた。

 魔力コントロールの技術は『ホイミ』などの呪文であっても、習熟度や本人の魔力、費やすMP量によっては、『ベホイミ』以上の効力が出る場合もある。

 もちろんMP効率でいうと『ベホイミ』の方が良いのだが、『ホイミ』しか使えない者がそれ以上の回復力を持つというだけで万が一の保険にも繋がる。

 

 実はこの技術は、本当であればこの世界の大魔道士や大賢者と呼ばれるレベルの者が極めたその先で発見する(たぐい)のものであった。

 そんな技術をなぜアキラが使えるようになったか、それは彼の()()()()()()()()が作用している。

 こういったものは知っているか、想像できるか、そしてそれを可能だと思えるかで実行した際の結果も変わる。

 

 大魔道士や大賢者は自身の力を極めた先に更なる効率を求め、想像し、時間を掛けて試行錯誤続けた末に修得する。

 そういった人達は同時に呪文を使うことが出来たり、呪文の合体すら可能になる。

 

 アキラは元の世界で威力を調整する漫画やゲームなども見ていたので、知識として頭の中にあった。

 可能ではないかと思えるのであれば、あとは知っている知識を使ってやり方を試していくだけだった。

 結果として、アキラは短期間で習得ができ、ベロニカ達に教えると彼女達も簡単なレベルであればすぐに習得できたため、そこまで難易度が高い技術ではないと勘違いしていた。

 

(これを教えるくらいで、セブンやマリベルから呪文を教えてもらえるなら安いもんだよ。僕も強くなるし、セブン達も強くなればこれから一緒に行く中級者迷宮の攻略も楽になるだろうからね)

 

 その場で出来る簡単なやり方をセブン達に教えながら、キーファが戻ってくるのを待つのであった。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 数時間後に戻ってきたキーファの顔を見て、全員がお見合いが大変であったということを察した。

 苦笑いをしたセブンがキーファに声を掛ける。

 

「キーファ、お疲れ様。……その様子だと、相当大変だったみたいだね」

「……本当だよ。あの王女、この見合いを初めから潰す気だったんじゃないかと思ったし」

 

 キーファがレオナを初めて見たとき、一国の王女というだけの気品や美しさを持ち合わせているという印象を持った。

 噂が嘘だったのではと思えるほどだったため、王族として丁寧に挨拶をしたのだが、彼女からの第一声は「その服装、ダサいわね」だった。

 周りにいた国王や大臣もその発言に血の気を引いていたが、構わずにレオナはキーファへフランクに話し続けた。

 

 その態度は昼食や2人で庭を歩いているときも同じだったようで、彼女は終始大臣などへの愚痴をしていた。

 最後には「王族の洗礼が終わるまでの間だけど、よろしくね」とあっけらかんとした態度で言ったため、一瞬で周りの空気が凍っていたとキーファはセブン達に話した。

 

「そ、それはさすがにヤバいわね……」

「あはは。噂に違わぬ破天荒さだね」

「キーファ、よく耐えられたね……」

 

 マリベル、セブン、アキラは口々に感想を述べる。

 キーファも「怒りを通り越して、何も言えなくなったわ!」と言いつつ、目の前にあった果実にかぶりつく。

 その空気を変えるため、セブンがキーファに別の話を振る。

 

「そういえばさ、”王族の洗礼”はいつやることになったの?」

「ああ、一応向こうの準備もあるから、一週間後ってことになったよ」

「じゃあそれまでは私達フリーでいいの?」

「構わないよ。こっちはもう探索の準備は終えているし、なんだったら肩慣らしで初級者迷宮を探索してもいいかもな」

 

 全員で今後の予定を話し合った結果、アキラ達はパプニカ王国の初級者迷宮を探索することとなった。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 パプニカ王国大臣テムジンの執務室。

 そこにはテムジンと他に呼び出された数名の人間がいた。

 

「バロン、()()の調整はどうなっている?」

「はっ。ほぼ完了しています」

「よし。レオドールはどうだ」

「はっ。こちらも準備は終えています。いつでも包囲可能です」

「分かった。動くのはもう少ししてからだ。まずはレオナ王女を中級者迷宮内で()()する。同時に()()()()()して一気に制圧するぞ」

 

 テムジン達は反乱を企て、その機を伺っていた。

 反乱は周囲にバレないように行うのが当たり前のことである。そのためテムジンは慎重を期して物事に当たっていた。

 同じ思想を持ちつつも自身を裏切らない仲間を集め、王族側にスパイを送り込み情報を収集する。

 

 その反面、彼自身は大臣としての職務をきちんと全うすることで、信頼を得る。

 そして、時にはテムジンにとって邪魔になるであろう者を陰で排除する。暗殺、証拠をでっち上げての追放など使える手はなんでも行っていた。

 ここで彼が大切だと考えていたことは、()()()()()()()()()()()()()()である。そうすることで万が一バレそうになったとしても、言い逃れ出来るようにするためだ。

 

「ここまでの準備で5年という年月を費やした。決して楽な道のりではなかったかもしれん。だがようやく我々の悲願が達成できるときが来たのだ」

 

 テムジンは喜びに打ち震えつつも、すぐに気を引き締める。

 全てが終わるまでは油断してはいけないと作戦の最終確認をするのであった。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 パプニカ王国初級者迷宮。

 ここではキーファ達4人が腕試しがてら探索を行っていた。

 

「はぁぁぁ! 『かえん斬り』!!」

 

 キーファの『かえん斬り』によって、くさった死体が切り裂かれると同時に傷口ごと燃える。

 ある程度燃えきったところで、くさった死体はゴールドとどくけしそうに変わるのであった。

 

「……ふう。話には聞いていたけど、ここはゾンビ系のモンスターばかり出てくるな」

「そうだね。呪文以外に、キーファの『かえん斬り』が効果的だったのが助かったね」

「本当ね。さっきのくさった死体なんて、無駄にタフだから厄介なのよね……(くさ)いし」

 

 パプニカの初級者迷宮は全5階層。彼らは現在地下3階層を探索していた。

 迷宮には土地や国ごとの特色があるようで、パプニカの迷宮はゾンビ系のモンスターが中心に出現する。

 そして、この迷宮はゾンビ系のモンスターのせいで、難易度がそこまで高くない割に冒険者にとって人気がない。

 

 くさった死体などのせいで、とにかく(くさ)いのだ。

 (にお)いが服に染み付くことはないため、迷宮の外に出れば大丈夫なのだが、それでも迷宮内はどこにいても(にお)う。

 人気がないため、国が専属で雇っている冒険者以外でほとんど迷宮探索をしている者はいなかった。

 

「これは早めに攻略したほうがいいかもね……」

「そうだな。だが、これだけは言っておく。アキラの探索ペースはおかしいぞ」

「ええ、確かにおかしいわね」

「うん、絶対に変だよ」

 

 アキラが早めに攻略をしようと提案するも、ベロニカ達に続いてキーファ達にもアキラの攻略ペースが異常だと言われてしまう。

 2日目の途中で地下3階層に到達するといったことは冒険者の常識ではありえないからである。

 

「……ほ、ほら! でも安全に探索出来てはいるでしょ?」

「そうなんだけどなぁ。実際にアキラの言うとおりに戦うと楽だし」

「確かにそれには私も驚いたわね。MPの消費もいつも探索するよりも少ないし」

 

 アキラはモンスターの弱点や立ち回りなどをキーファ達に伝えていた。

 そのお陰もあり、全員の連携を確認した後からは戦闘効率が格段に上がったという評価を貰っていた。

 だが、それでも探索ペースが早いことに関してはまだ受け止めきれないようであった。

 

 結局この日は地下4階層に到達したところで探索を終えた。

 ルイーダの酒場に戻ってきたアキラ達は夕方になる前だったため、王都の外で魔力コントロールの訓練をすることにした。

 

「そうそう! いい感じに集中できているから、あとは呪文に込める魔力を調整するだけだよ」

「むむむ…………『メラ』!!」

 

 マリベルが『メラ』を唱えると、指先からは通常の『メラ』よりも一回り大きい火の玉が現れ、岩に当たる。

 

「出来た! 今の出来てたわよね!?」

「うん、ちゃんとコントロール出来てたよ。あとは訓練を重ねていけば、形を変えたりも出来るから頑張ろう」

 

 マリベルは初めての成功を喜び、はしゃいでいた。

 呪文にそこまで詳しくないキーファは、これがどれだけ凄いのかをいまいちピンときていないようであったが、マリベルが喜んでいることとパーティーの戦力が上がるであろうということは理解できていたので、周囲を警戒しつつも微笑ましく見ていた。

 初級者迷宮を攻略した後にはなったが、セブンも魔力の基礎コントロールを出来るようになり、これで”王族の洗礼”に挑むための準備は整った。

 

 

 

 

 

 

 そして”王族の洗礼”の当日を迎えるのであった。

 




ドラクエΩ以外の私の作品も読んでくださっている方に向けて、活動報告にて今後の更新について載せています。

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