ドラゴンクエストΩ 〜アルテマこそ至高だ!〜   作:灰猫ジジ

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第三十四話

「はぁ、はぁ……はぁ」

 

 アキラは肩で息をしながら、目の前のモンスターを『ものまね』を使って倒していく。

 しかし、モンスター達は一向に減る気配がなかった。

 

(MPは『ものまね』のお陰でほとんど減ってないけど、このままだと本当にジリ貧だぞ……どうしよう……)

 

 『ものまね』は前に使った特技や呪文、魔法をHPやMPを消費することなく、無詠唱で真似することが出来るアビリティである。

 そして、覚えることが出来るものであれば、自身用の特技や魔法として習得することが出来る。

 もちろんデメリットもあるため、ちゃんと使い分けていく必要はあるが、それでも今の彼には方法を選んでいる余裕はなかった。

 

「『ものまね』、『ものまね』、『ものまね』、『ものまね』」

 

 事前に使っていた『ファイラ』をものまねし続け、モンスターを焼き払っていくアキラ。

 それでも倒しても倒してもデス・アミーゴのところに辿り着くことが出来ず、一度倒したモンスターもすぐに復活するという地獄のマラソンが続いていたのだった。

 

「…………一人で来たの、失敗だったかな?」

 

 ボソッと格好つけた自分に対して、後悔を口にしていた。

 でも来てしまった以上、なんとかしなきゃいけない。その方法を考えていたため、背後から迫るモンスターに気付いていなかった。

 

「ぐあっ!!」

 

 背後から攻撃されたアキラは、そのまま前のめりに倒れる。

 それを好機と思ったのか、モンスター達が一斉にアキラに対して襲いかかってくる。

 

「や、やべっ!」

 

 アキラはすぐに体勢を立て直そうとするが、先程の痛みですぐに動くことが出来なくなっていた。

 もうダメだと思ったその時────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『獣王会心撃』っ!!!」

 

 聞き覚えのある声と特技。そして、目の前に襲いかかってきていたモンスターが次々と吹き飛ばされていく。

 それを呆然と眺めていたアキラだったが、彼のすぐそばに現れたのは一体の()()()()()()()()()だった。

 

(え、え、え……? う、嘘……でしょ?)

 

 信じがたい光景だった。確かに彼は初期で()()()()()()()()()()()はずだ。

 だが、このタイミングで助けに来てくれるはずがないと思っていた。

 

「じゅ……獣王、クロコ……ダイン……?」

「……ん? なぜ俺のことを知っている?」

 

 クロコダインと呼ばれたリザードマンは鎧を着込み、斧を持ち、その存在だけでその場にいるモンスター達とは格が違うということが分かるほどであった。

 アキラが彼を知っていたことに対して不思議そうに見ていた。

 

「い、いや、それよりも僕を、助けてくれたのですか?」

「……ああ。さるお方の願いもあってな。乗り気ではなかったが、手助けに参上したというわけだ」

「さる……お方?」

「ああ、高貴な身分ゆえ名は明かせぬが、心配せずとも良い。俺が来たからにはもう大丈夫だ」

 

 そう言うと、回復魔法(ケアル)を掛け終えたアキラに手を差し伸べ、立ち上がらせる。

 そして、ある方角を指差す。

 

「あっちだ」

「……え?」

「邪悪な親玉はあっちにいる。俺が先程の技で道を切り開く。ここらの雑魚もすべて引き受けよう。お前はその隙にその親玉とやらを倒してこい」

 

 道を切り開くまでが俺の仕事だと言わんばかりに、アキラに命令をするクロコダイン。

 むしろ周りの敵を引き受けてやるのだから、これ以上文句を言うなという威圧さえ感じていた。

 

「準備はいいか?」

「ちょ、ちょっと待ってください! 親玉を倒すのを手伝ってはくれないのですか?」

「ああ。俺が出来るのはフォローまでだ。それ以上に関してはお前の仕事だ」

 

 真剣な目でアキラに話しかけるクロコダイン。

 その本気度を受け取ったアキラは、少し考えたが自分を無理やり納得させて頷く。

 それを見て、クロコダインは先程指を指した方角を向いて、右腕全体に闘気を込めて、手のひらに集中させる。

 

「ぬぅぅぅぅぅ! 行くぞ! 『獣王会心撃』!!」

 

 クロコダインから放たれた闘気の渦。

 その渦は目の前にいた敵を吹き飛ばし続ける。そして、ある地点で上に弾かれていった。

 そこにはデス・アミーゴが左腕を上に上げながら、アキラ達を睨み続けていた。

 

「……あいつか?」

「ええ、そうです」

「相当強いな。俺も戦いたくなってきたぞ」

「ぜひお願いします!!!」

「……いや、やめておこう。我が主はお前のサポートをしろと言っただけだからな」

「なんで!?」

 

 これだけ強いのだから少しは手伝ってほしいと懇願するアキラに、「早く行け」と冷たくあしらうクロコダイン。

 このやり取りをしている間に、デス・アミーゴへの道はモンスター達によって閉ざされ始めようとしていた。

 

「……ちっ。もう一発くらわ──」

「『ものまね』」

 

 クロコダインがもう一発『獣王会心撃』を放とうと準備をしたところで、右手を前に突き出して小さな声で『ものまね』を使うアキラ。

 するとクロコダインほどではないが、たしかにアキラの右手からは闘気の渦が放たれ、先程の『獣王会心撃』と同じく敵を吹き飛ばしていくのだった。

 

「お、お前……一体何者だ……?」

「じゃ、じゃあ行ってくるので、ここらの雑魚は任せますよ!」

 

 アキラは誤魔化すようにデス・アミーゴの方へ走り出す。

 道が塞がれそうになったら、再度『獣王会心撃』をものまねして放ち続ける。

 

(こ、これ、めちゃくちゃ便利じゃん!! 当時、めちゃくちゃ弱い技だと思っててごめんなさい……!)

 

 心の中でクロコダインに謝罪をするアキラ。だが、思っている以上に『獣王会心撃』が便利な技であることが分かったアキラは周囲にも放ち、なるべく自分の身の安全が保たれるようにしながら走り続けていた。

 

 

 

 

 そして、アキラが足を止めたとき、目の前にはデス・アミーゴが待ち構えていたのだった。

 

 

 

     ◇

 

 

 

「そろそろ始まったかな?」

「いや、戦争はもうとっくに始まってるだろ?」

 

 緑髪の青年は紫色のターバンを被った青年にツッコミを入れる。

 だが、彼は動じずに話を続ける。

 

「いや、そうじゃなくて……まぁいいや」

 

 説明をしようとしたのだが、根拠がないことなので説明するのを諦める。

 緑髪の青年は、紫色のターバンを被った青年がこういうときは根拠なく感覚で物事を話しているというのが分かっている。

 だから決して突っ込んで聞いたりはしない。

 

「あとは()が教えてくれるよ。おいでスラリン」

『ピキー!!』

 

 小さなスライムを自らの手のひらに乗せた紫色のターバンを被った青年。

 優しくスライムを撫でると、スライムは気持ちよさそうに目を瞑って寝息を立て始める。

 

「その風とやらは、どっちが勝つって言ってるんだ?」

「それはもちろん────」

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼の言葉は一陣の風の中に消え、戦場へとその舞台を戻していくのだった。

 




遅くなりまして、申し訳ございませんでした。

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