ドラゴンクエストΩ 〜アルテマこそ至高だ!〜 作:ねここねこねこ
一応今後は他の小説も含めてなるべく更新頻度を上げて行きたいと思っておりますので、お付き合いいただけますと幸いです。
上級者迷宮《試練の洞窟》。
原作では別名ホルストック洗礼の洞窟と呼ばれていた場所はこの世界では上級者迷宮としてその形を留めていた。
一般の冒険者にとっての難易度はもちろん高い──通常であればCランク冒険者が最低五人は必要なレベル──のだが、アキラ達はそれぞれの強みを存分に発揮しながら先に進んでいた。
試練の洞窟という名前のとおり、道中に三つの強敵と戦う試練がある。
一つ目の試練では敵のメダパニダンスにポップが混乱してしまい、敵味方関係なくメラミを連発されるという危機に見舞われたが、アキラが『スリプル』でポップを無効化して時間を稼いでいたカミュと二人でボスを倒す。
二つ目の試練ではボスに常時マホカンタが掛かっていたため、アキラとポップの戦力がダウンしてしまった状態で戦うことになる。
ここでもカミュが持ち前のスピードでボスを翻弄したおかげでやや苦戦したものの倒し切ることに成功していた。
ある意味三つ目の試練は一番難易度が低かったのかもしれない。
常にボスが使ってくる『ルカナン』をアキラの『プロテス』で相殺。
カミュとポップが削り役を担うのだが、たまに使ってくる『マホターン』に対してポップがすぐに『メラ』を唱えて薄く張られた魔法障壁を壊す。
その際に『メラ』が反射されて誰かしらにダメージを受けてしまうのだが、上級者迷宮に来られる者が『メラ』の威力程度で怯むはずもなくそれぞれの役割を丁寧にこなしていく。
稲妻や威力の高い攻撃を受けたときはアキラが即座に回復をして戦況が崩れないようにサポートをする。
これは事前にアキラが上級者迷宮について調べて対策を練っていたため、全員がそこまで慌てることなく対処することが可能となっていた。
結果として、三つ目の試練はほとんど苦戦することなくボスを倒していた。
《なんじ 試練を こえたり》
どこからか聞こえてきた低重音の声が部屋内に響き渡る。
アキラとポップ、カミュはアバンの顔を見て彼が笑顔で頷くのを確認したあとに大きな声を出して喜び合う。
「よっしゃぁぁぁぁ!!!」
何かあればすぐにでも手を出そうと用意していたアバンであったが、その必要が無かったことに安堵しつつ内心驚いてもいた。
(まさか初回で突破してしまうとは……。入念に準備をしていたとはいえ、いやはやあの子達くらいの年齢は成長が早いですねぇ……)
色々な世界が混ざり合ってからというもの、魔族という敵がいるからこそ人類は手を取り合えてきたのだが、子供達の成長はどの世界にいても変わらないものなのだなとアバンは薄く笑いながらまだ喜んでいるアキラ達を眺めていた。
◇
ルイーダの酒場に戻ったアキラ達はいつもの宿屋併設の食堂で祝杯を挙げていた。
「いや〜! もうアンビリーバボウバベー!」
「……ポップ、きちんと飲み込んでから話しなさい」
「む、むぐむぐ……先生、いいじゃないですか! だって今日俺達上級者迷宮を突破したんですよ!?」
話しながら食べて喜ぶを繰り返すポップを嗜めるアバン。
しかし彼にとっては喜びの方が増しており、何を言われても頭に入ってこないようであった。
カミュも笑顔で肉を頬張りながらポップと話しており、アキラは話に入りつつもその様子を一歩後ろで微笑ましく見ていた。
(ま、今日くらいは良いですか……いつまでもこの状況が続くとも限りませんから……)
少し前からアバンは不穏な空気を感じ取っていた。
それは
(《戦争》……か、それに近い争いは起こりそうですね。ですが、レイドックがなぜ……?)
レイドックの南には魔王ムドーの居城がある。
これまでムドーの軍勢とは小競り合いを繰り返していたが、レイドックの北にあるムーンブルク、その更に北西と北東にあるサマルトリアとローレシアが援助を惜しまなかったためムドーとしても強い攻勢には出られなかったのだ。
しかし、最近のレイドックの様子は明らかにおかしい。もうすぐ大きな戦があるような動きを見せているのに
それどころか
(ふむ、ちょっと探ってみますか……)
こうして上級者迷宮《試練の洞窟》を突破したアキラ達の夜が更けていく。
「じゃあまたな」
「俺もそろそろ行くよ」
「うん、また一緒にパーティを組もう」
次の日。ポップ、カミュ、アキラの三人はお互いに握手を交わして別れた。
ポップはアバンと修行の旅の続き。カミュは何か思い詰めたような表情をしていたが、「ちょっと疲れただけ」と言ったためそれ以上追及することはできず。
アキラはルイーダの酒場経由でムーンブルク王国からの特別依頼があり、レイドックから出ることになった。
(今回はかなり良かったな。ポップとカミュに会って一緒にパーティを組めるとは思っていなかった)
今まで出会った人達の成長度合いも高かったが、この二人も例外ではなかった。
自身がこれからついていけるかがかなり心配になっていたが、それは杞憂である。
アキラがポップ達に思ったことと同じことを彼らがアキラに感じていたからである。
そしてそれはアバンが思っていた以上にポップやカミュに良い刺激を与えていた。
ポップはアキラと出会う前と後で明らかに修行に対しての集中度が変わっていた。
集中力が足りないと散々伝えてきたのに、あまり変わることがなかったポップ。
しかし同年代のアキラと出会い、良い意味での影響を受けることとなる。
カミュもそんなアキラとポップを見て、同年代の誰にも負けていないという自信を崩され、良き仲間・良きライバルとして切磋琢磨出来る環境がとても心地よいと思っていた。
こんな日々がずっと続けば良かったのに──
◇
時は少し遡る。
レイドック王国から南にある魔王ムドー城。
そこにある二人の冒険者が侵入していた。
「テリー、ちょっと待って」
「ああ、この先に敵がいるな。俺が速攻で倒すからミレーユ姉さんは倒しそこねたやつにトドメを刺してくれ」
「ええ、分かったわ」
テリーと呼ばれた銀髪に紫色の瞳を持つ青少年。
青い服を身に纏っていることから、《青い閃光》と呼ばれる彼は魔法剣士である。
廊下の角から先の様子を伺い、躊躇することなくそのまま突っ込む。
炎を纏った斬撃とまわしげりを合わせてモンスターに強襲を仕掛ける。
三体いたうちの二体はテリーによって倒され、もう一体も虫の息状態だったがテリーの後ろから飛んできた呪文によって燃え尽くされてしまい危なげなく戦闘が終了する。
「姉さん」
「さすがテリーね。油断しないでこのまま行きましょう」
「ああ」
ミレーユと呼ばれた女性は笑顔でテリーを見る。
腰まで届く長い金髪に、涼し気な緑色の瞳。
彼女の容姿は道を歩けば誰もが振り向くほどの美しさがあり、それは弟のテリーも同じである。
髪の色も瞳の色も違う姉弟だが、仲の良い人物曰く「二人は目元が似ている」とのことだ。
この二人がなぜムドー城に潜入しているのか。
それは
『義妹のターニアがムドーに攫われてしまった。どうにかして助けてほしい』
初めは難易度の高さにミレーユが難色を示していたが、妹が攫われたということにテリーが自身の姉を投影してしまったのだろう。
彼の強い勧めもあり、今回の依頼を受けることにしたのだった。
そして上手く潜入出来たところまでは良かったのだが、問題はターニアが閉じ込められているであろう牢屋の手前で起こった。
「おや、ようやく来ましたか?」
「……ちっ、バレたか」
「ほっほっほ。あなた達のことはこの城に侵入したときから分かっていましたよ」
テリーとミレーユは戦闘態勢を取る。
後ろを向いていた赤紫色のローブを纏った魔道士は振り返ると二人を見て嬉しそうに笑う。
「この先に用事があるようですね」
「…………っ!」
テリーは剣を抜いて突撃しようとするが、魔道士の威圧感に身動きが取れなくなっていた。
それはミレーユも同じだった。
「ふむ、来ないのですか? 私もあまり時間があるわけではないのですがね。それではこの先にいる人質を先に殺してしまいましょうか……」
「くっ……! 姉さん! 俺がここでヤツを足止めするから、姉さんは先に行ってターニア王女を助けてきてくれ!」
「テリー!? あなた……」
「頼んだぞ!」
テリーはターニアを殺そうと動き始めた魔道士に対して足止めをすると言い突撃をする。
彼の最速の剣技の一つ『しっぷう突き』を放つ。
しかしながらそれは魔道士のバリアによって阻まれてしまう。
「……『フリーズブレード』!」
テリーにも『しっぷう突き』が阻まれてしまうのは分かっていたようで、氷を放つ剣技で追撃をして目眩ましとともにミレーユを奥に行かせようとしていた。
ミレーユもそれを察してすぐに走り出す。
「ぐっ!」
「……テリー!!?」
だがその作戦は上手くいかず、テリーは吹き飛ばされてしまっていた。
壁に叩きつけられたテリーのところに走っていったミレーユは『ベホイミ』を掛ける。
「ね、姉さん……先に、行って……」
「……そんなこと出来ないわ。このままではあなたが死んでしまう!」
傷付いていたテリーはミレーユにターニアを助けるように言うが、たった一人の弟を見捨てることなど出来る訳がない。
「ほっほっほ。どうやらここまでのようですね」
「……くっ! テリーはやらせないわ!」
「姉さん!」
テリーを庇うように両手を広げて魔道士の前に立つミレーユ。
そんなミレーユを見て、何かを考えた魔道士はおぞましい笑顔を見せる。
「ほっほっほっほ。子を想う親の気持ちはいつ見ても良いものですが、弟を想う姉の気持ちというのも悪くはないものですね。おかげで良いことを思い付きました」
魔道士はそう言うと、ミレーユの前に手をかざして何かの呪文を唱え始める。
「きゃぁぁぁあああ!」
「姉さん!!」
黒く光りだしたミレーユにテリーが起き上がろうとするが、先程のダメージが回復していないのか身体が動かない。
そして黒い光が止むと、倒れたミレーユの手が黒く染まり始めていた。
テリーは這いずるようにミレーユのところまで行き、彼女を抱き起こす。
「き、貴様! 姉さんに何をした!?」
「ほっほっほ。今度は姉を想う弟の気持ちを見させていただきましょうか。あなたの姉に呪いを掛けました。
今は手の先が黒い程度ですが、時間が経つにつれて全身が黒くなっていきます。
もし全身が黒くなってしまった場合、あなたの姉は二度とこの世に戻ってくることはないでしょう」
「くそっ! 姉さんを元に戻せ!」
叫び続けるテリーに魔道士は歪んだ表情で笑い続ける。
「…………テリー」
「姉さん!」
「わ、私は良いから逃げなさい……仲間を集めて王女を救って……」
振り絞るように声を出して気絶するミレーユ。
──この男はそんな彼女のことを見捨てることなど出来ない
魔道士はそれが分かっていて、テリーが口を開くまで静かに様子を伺っていた。
「…………何をすれば良い?」
「……ほう?」
「……何をすれば姉さんの呪いを解いてくれるのかと聞いている」
魔道士は自身の思惑通りに物事が運んだことに歓喜の笑みを浮かべる。
「そうですね。あなたにやってもらいたいことは一つだけです」
「……なんだ?」
「レイドック王子と共にムーンブルク王国、サマルトリア王国、ローレシア王国、そしてレイドック王国を滅ぼすことです。そうすれば──」
「そうすれば姉さんの呪いを解くんだな?」
「────! ええ! ええ! そうすれば呪いを解いて差し上げますとも! その後は姉弟仲良くこの城で暮らすことも許可しましょう!!」
テリーには魔道士の後半の言葉など耳に入っていなかった。
彼の瞳が濁っていくのをゲマは嬉しそうに観察する。
「ではあなたのお姉さんは私が丁重に預かっておきましょう。もちろん手を出すことなどはしませんのでごあんし──ッ!」
テリーの眼光に余計な一言を言ってしまったと悟る魔道士。
今は自身が楽しみつつ、目的を達成できればそれで良いと思い直してミレーユを受け取る。
「ああ、自己紹介が遅れましたね。私の名前はゲマ。以後お見知りおきを」
ゲマの言葉など気にも留めずにテリーはムドー城を出ていく。